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EX6 ミゼリア・ウォーレット(2)前編

 ミゼリア




「初めまして、魔導士協会所属のレノンと申します」


「ご丁寧にどうも、ご存知かとは思いますがミゼリア・ウォーレットです。

 貴方がこれを調べてくださるという事で良いのかしら?」


「はい、微力ながら尽力させていただきます」



 装着していた試作魔導武具を外し目の前の…かなり若く見える男性に手渡す。


 私としてはもっと試してみたかったのだが、あんなもの見せられて…まあやったのは自分なのだが、やってしまえば周囲の意見を無視する事も出来なかった。


 あれって…私がやったのよね…?


 私の視線の先では訓練用の標的……だった、今ではただの黒い塊と化してしまった物体が未だに煙をあげていた。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「へー、これが私の魔導武具なんだ、結構良いデザインしてるじゃない!」



 今日はララから魔導武具の試作品が出来たという連絡があったので訓練終わりに彼のお店まで来ていた。

 お店の方はもう閉める時間らしく看板等を取り込んで閉店の準備していたが、上得意様だと言う事で特別に店にあげて貰う事になったのだ。



「まだ試作段階ですけどね、ただデザインについては僕が考えたものではなく以前助けて下さった方が付けていた魔導武具を参考にしたものですよ」


「そうなの?」 



 目の前の試作品だと言われた魔導武具はそれぞれの手に装着する形状をしており、手首と三指の計4箇所で手に嵌められるようになっている。

 指と手首の部分がそれぞれリング状になっており、その周囲に複数の核が配置されたそれは武具というよりはアクセサリーのようなきらめきを放っていた。



「ええ、最初はこう…布状の腕に巻き付ける感じの物を作ろうとしたんですよね、妹に止められましたけど」



 ……誰かは知らないけれど、そのモデルを見せてくれた人と妹さんに感謝しないといけないわね。


 何度か店に通った事で分かってきたのだがやはりこの男、技術はあってもセンスが皆無なようだ。

 置いてある魔道具もデザインという言葉に喧嘩を売っているような無骨な形状をしており、服装もどこかちぐはぐな印象を受ける。

 そして依頼した魔導武具も腕に巻き付けるだけという実物を見なくてもダサい事が容易に想像出来る物を作ろうとするのだ。


 天は二物を与えずって事なのかしらね?



「それで、性能の方はどうなの? 私の要望通りの物にはなっているのかしら?」


「そうですね、まだ試作段階なので要望通り…とまではいかないかもしれませんが、機能としては周囲から魔力を吸収してミゼリア様の魔法をサポートする形となっています。

 まだ火属性にしか対応していませんがこれを装着する事で今までよりも強力な魔法を多く放てるようになるはずですよ」



 なるほど、確かにそれなら「最大限に力を引き出してくれる物」という私の要望に沿った品だ。

 実際に使ってみない事には分からないがこの男の事だ、性能面に関しては心配する必要もあるまい。



「そ、じゃあとりあえずこれは貰っていくわよ。

 訓練で使ってみるから結果が出たらまた連絡するわ」


「はい、でも気を付けて下さい。 これは試作品なのでまだ…



 さて、さっそく明日の訓練で使ってみましょうか、どの程度の物なのか楽しみだわ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 何が要望通りとはいかないかも、よ! 


 そうだ、そもそも使い始めた時点でおかしい事には気付いていたのだ。…ただ


 先の訓練での出来事を思い出す。

 あの一発目でそれは分かっていたはずなのだが、好奇心か、それとも魔導士としての知識欲なのか、どうしても結果が見たいがためにその行動を止める事が出来なかったのだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「嘘…でしょ…」



 私は、いつもの訓練メニューの前にまずはその初手となる下級魔法で試してみる事にした。

 だがその下級魔法、いつもは標的である魔法障壁を展開した魔力抵抗版に触れると消えてしまうのだが、今私が放った魔法はその標的に消されるどころか貫通してしまったのだ。


 目の錯覚…よね? もしくは標的を外してしまったとか……穴が開いてる…。


 自分でもそれは無いと思っていたが、標的を外した訳ではなく間違いなく貫通している事が確認出来た。

 その先にある外壁まで到達した所でようやく消えたのだが、二つの抵抗を抜いた後でもあそこまで届くという事実は私の魔法に対する危険度の認識を大きく塗り替えるものであった。



 間違いなく下級で放ったはずだ…大きさも変わってないし範囲だって狭いまま、魔力消費だっていつもどお……減って…いない? いや、むしろいつもより充実しているような…?



 魔法はどれ程下級のものであったとしても使えば必ず魔力を消耗する、それが当たり前なのだ。

 そして使い続ければいつかは精神が限界を超えて意識を失う、強制的に眠りに落ちるような状態になるのが全ての魔導士の共通認識だと思う。

 なので私は今下級とは言え魔法を放ったのだから当然それに伴う疲弊感が来るものだと思っていたのだが、疲弊感どころか逆に高揚感すら覚えるような充実した感覚が私の中にあるのだ。


 …下級でこれなら…中級はどんな威力になるのかしら?


 冷静に考えればそれは危険な行為だと分かったはずなのに、この時の私は充実した魔力から来る高揚感と何より魔導士としての知的好奇心からそれをやめるという選択が存在しなかった。

 そしてその結果が…。



 ははっ! すごいっ! すごいっ! どんどん魔力が高まっていくのが分かるわ!



 定番と呼ばれる下級魔法を複数回放った後に中級魔法による範囲攻撃を行うという戦法の練習をする事にしたのだが、下級魔法を撃つたびに増していく魔力が楽しくていつもより多く撃ってしまっていた。

 そして最後に、溜まりに溜まった魔力を中級魔法に注ぎ込み標的に向けて放つ…放ってしまったのだ。



「え…?」



 中級魔法を放ち、魔力を消耗し、そして自分の放った魔法を見る事で私はようやく冷静になる事が出来た。

 しかし、それはあまりにも遅すぎたのだ。


 私の放った中級魔法、普段であれば大きな火の塊をもって複数の敵を殲滅するというものだ。

 だが今私が放った魔法、あれはなんだ? 火の塊なんて生易しいものではない。

 火炎ともマグマとも取れる全てを消し炭と化すかのような純粋な熱の塊、それが5つ、私の意思に従い先ほどの標的に向かって飛んでいくのだが私はそれを呆然と見送る事しか出来なかった。


 ああ、さすがにこれは予想していなかったわね…。


 この時私は自分の死を覚悟していた。

 あの塊、あれが着弾すれば標的どころではなくこの訓練場一帯が焼き尽くされる事だろう。

 幸いにも私以外の使用者はいなかったが、もう逃げられないという事実を瞬時に理解してしまったのだ。

 

 魔法による自傷事故。

 毎年数件は報告があがるのだが死亡事故に繋がる事例は意外と少ない。

 というのも、こう言った事故を起こすのは戦闘用魔法を覚えたての素人であり、まだ下級魔法ですらまともに扱えないような者ばかりなのでその威力も弱いからだ。

 もちろん属性や当たり所によっては死亡する事もあるのだが、大半は軽傷で悪くても全治数か月程度のケガがほとんどだった。


 まさか私がこんな素人みたいな失敗をするとは思わなかったわよ。


 私の脳裏に父や母、そしていつもやさしくしてくれた姉の顔が過ぎり、迷惑を掛けてしまって申し訳ないという気持ちと共にもっと子供らしく甘えれば良かったかもという後悔が生まれた。

 そして最後にこの魔道具を渡した男の顔が浮かんだ。


 こんな危険な物を渡して! 恨んでやるんだから!


 そして私の魔法が標的に着弾し、その瞬間に閃光とでも呼ぶような赤い光に飲み込まれ…私は目を閉ざした。









 …だが、いつまで経っても私の意識は消える事が無く、肌を焼かれる熱さも、体を引き裂かれる痛みも、四肢を弾き飛ばされる衝撃も、何一つとしてやっては来なかった。


 どういう事だ? 確かに目の前で着弾し赤い光に飲み込まれたはずだ。


 私は恐る恐る目を開き…そして、その変わり果てた惨状を目の当たりにした。


 訓練場、いや、元訓練場だった広場は未だに陽炎を起こす程の熱気を孕んでおり、秋の様子が見え始めたこの季節においても真夏以上の暑さを感じる程だった。

 そして訓練場に置かれていた様々な器具、標的にしていた的はもちろんなのだが兵士の扱う訓練用の武具や人型の模型等、あまつさえトレーニング用の大型の機材に至るまで全てが原型すら分からないただの黒い塊と化していたのだった。


 そんな空間に私は立っていた。

 普通に考えれば助からない事は確実だったのだ…今目の前にあるこれが無ければ。



「これは…障壁魔法…?」



 目の前には私の両手、それぞれに付けられた魔導武具から展開された障壁魔法が存在していたのだ。

 見た目だけでは分からないが、魔法による熱も爆発による衝撃も感じなかったことからそれぞれが魔法と物理の障壁であることが窺えた。


 障壁魔法って確か両方使うと干渉するんじゃなかったっけ?……いや、そんな事はどうでも良いわよね。


 私の鈍くなった思考がそこまでを考えてようやく助かったのだと実感出来た。


 訓練着の袖や裾は多少焼け焦げてしまっているが体には傷一つ付いてはいない。

 訓練場の被害は深刻なものではあるがそれだって弁償すれば済む話だ。


「は、ははっ、は、はははっ」


 私はその場にへたり込み、口からは乾いた笑いが自然と溢れていた。

 それと同時に下半身が嫌な感触に包まれている事に気付く…どうやらいつの間にか漏らしていたらしい。



 …そして私は放心した頭の隅である事を思い出していた、そういえばお店を出る前にララが何か言っていたような…?



『気を付けて下さい。 これは試作品なのでまだリミッターや調節機能が付いていません。

 安全装置だけは付けてありますが過信して強力な魔法を使うのは避けてくださいね』



 ああ、そう言えばそんな事を言っていたな…。


 つまり私は人の話を聞かずに勝手に暴走し、勝手に恨み、そして助けられた訳だ。



 私は自分の愚かしさに情けないという思いを抱くと同時に、ララに依頼をした自分の目に間違いはなかったのだという確信を得る事も出来たのであった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 その後は騒ぎを聞きつけてやってきた兵士たちに事情を説明し今に至る訳だが、こうして冷静に考えられるようになるまでに随分と時間が掛かってしまった。



「それでウォーレット様、これはどちらで入手された物なのでしょうか?」



 レノンと名乗った魔導士は暫く私の魔導武具を調べていたのだが、分かった事は魔法の増幅率が通常では考えられない程に高いという事くらいだった。

 使われている素材にも特別な物はなく、核も高級な物が使用されてはいたがそれでも常識の範囲内の品だという事だ。


 つまりは私でも分かるような事しか分からないって事ね…。


 まあ彼は技師という訳ではないからしょうがないだろう。

 本来であればブラックとかに頼むような内容なのだが今日は無理だと断られたようで、代理で来たこの魔導士が調べて、それでも分からなければ持ち帰って後日鑑定してもらうという事になっていた。



「それは最近レオンリバーに来たララって言う技師が作った物よ」


「えっ…? ララ…さんですか?」



 私の話を聞いたレノンはかなり驚いた様子だ。



「あら、ララの事を知っているの?」


「あ、はい。 ララさんとはミルス村で会いまして…







 なるほど…どうしてこんな時期に越して来たのか謎だったけれどそんな経緯があったのね。


 なんらかの功績を挙げた事は予想がついていたのだが、娘の命を救ってくれただの魔核の脅威を払っただのと思っていた以上の事を成していたようだ。

 先日も古代の魔道具である浄化装置の修理を成功させたという話だったし、もしかしたら彼は私の見込みというレベルを超えた技術力の持ち主なのかもしれない。



「それに娘ともとても仲良くしてくれていますよ」



 娘さんか、この人の娘さんって言うと2,3歳くらい?…高く見積もっても5歳くらいかしら?

 話し方や表現に何か違和感を覚えるけれど…まあ良いわ。


 結局この日はそれ以上の進展はなく、魔導武具も翌日にブラックに調査してもらうという事になり持ち帰られたのであった。

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