表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/273

EX4 ピッセル(2)後編

お約束

 お風呂を終えた私は先ほど案内された部屋まで戻って来た。

 古ぼけた棚以外はまだ家具と呼べるような物も無く、ベッドも無いため床に直接布団を敷いただけの簡素な部屋だ。



 私の…私だけで使って良いんだ…。



 でも、そんな部屋でも私は嬉しかった。

 今朝まで私が寝起きしていた工房の休憩室は、布団こそ置いてあったもののそもそも寝泊まりするような場所では無いのだ。

 魔工技師は女性が多く他のお弟子さんも大半は女性だったが、それでも師匠を始め男性の視線は少なからずあり、着替えをするにも気を遣わないといけないのでこうして人目を気にせず自分だけで使える場所がとてもありがたかった。


 まだまだ殺風景な部屋ではあるが、空き部屋だし好きに飾り付けて構わないと言われている。

 これからこの部屋を故郷の部屋に負けないくらいの空間にしていって………。


 ……だから! 浮かれてる場合じゃないんだってばーー!!


 私がこの部屋を使うという事は師匠の提案を受け入れるという事。

 それはつまり師匠と…あの…あれのお相手をする事を受け入れるという事でもある。

 お風呂であれこれと考えてはいたが正直なところ結論が出ておらず、長湯をした事でのぼせた頭では思考を働かせる事も難しかった。


 早いけど今日はもう休もうかな…。


 体の疲れはそれ程感じていないし休むには早すぎる時間だが、ブラック師匠の元を出た事、そしてララ師匠に師事し…さらに今のこの状況と、もう考える事ばかりで頭がパンパンになってしまっているのだ。


 さすがに一晩寝床を借りただけで強引に関係を迫って来るような人ではないし、しっかり休んで冷静に考えられるようになってから答えを出す事にしよう。


 それではおやすみなさ、 コンコン、と …部屋のドアがノックされた。



「…はい」



 もう休んでいるという事にしても良いかもしれないが、さすがに失礼が過ぎる気がするし重要な話だったら困るので返事をする。



「ピッセル、入っても良いですか?」


「師匠!? は、はい、どうぞ!」



 聞こえて来たのはララ師匠の声だった。

 最初は驚いてしまったが、考えてみれば現在この家に居るのは私を除けばララ師匠とリリナさんの二人だけだ。

 今日会ったばかりのリリナさんが訪ねて来る可能性は低いので当たり前な事ではあるのだが…。


 ど、どうしたんだろう? 私に何か…まさか…まさかね?



「良かった、まだお休みではなかったんですね」


「は、はい、 あ、でもそろそろ休もうかと思っていた所です」



 部屋に入って来たララ師匠は小さな手提げ袋を持っており、中身は分からないけれど何らかの道具が入っているように見えた。



「ああそうだったんですね、ではどうしましょうか? ピッセルさえ良ければさっそくやろうかと思っていたのですが。

 あ、でもここだとちょっと難しいですね…良ければ僕の部屋に来ませんか?」



 や、や、や…やっぱりーーーー!!!

 さ、さっそくだなんてそんな…私まだ何の準備も出来てないよーー!



「さ、さっそく…ですか?」



 うわーーーん!! いくらなんでも早すぎるーーー!!

 だってまだ1日目なんだよ! こういう事はもうちょっと時間を掛けて私の覚悟が決まってそれから…それからなら私も…。


 でも、ここで拒否したら明日には追い出されるんじゃないか?

 ララ師匠はそんなひどい人ではないと思うけれどこの先も拒み続けたらどちらにしてもここに居られなくなるんじゃないか?

 それならばもうここで覚悟を決めてララ師匠を受け入れる方が良いんじゃないか?


 焦るあまり思考が暴走している事は分かっていたが、もう受け入れても良いのではないだろうか? という結論に向かいつつあった。


 確かにちょっと強引ではあるが、優しくて母様に似た雰囲気を持っているし、ブラック師匠が認める程に優秀な魔工技師だし、師として…そして子を成す相手としてこれ以上の相手がこれから現れるだろうか?


 …うん、覚悟を決めよう。

 


「で、では……よ、よろしくお願いします」



 そうして私はララ師匠に連れられて師匠の部屋まで向かいました。






 ここがララ師匠のお部屋かー…。


 ララ師匠の部屋はとてもきれいに整理されていました。

 ブラック師匠の所にある作業部屋と雰囲気は似ているのですが、あちらと違って整理整頓清掃までと行き届いており、床に寝転がってもまったく汚れが付かないだろうと思える程でした。



『こらピッセル! ちゃんと片付けないとダメでしょ!』



 う、ちょっと嫌な事を思い出しました。


 私はあまり整理が得意ではないので故郷に居た頃もよく母様に怒られていました。

 もしかしたらララ師匠はそんな所まで母様に似ているのかもしれません。



「ではピッセル、こちらにどうぞ」



 部屋に入ってすぐ、ララ師匠に促されるままに机とセットになっているイスに座らされました。


 えっ? あっちのベッドじゃないの?


 きれいに整えられたベッドを横目に私は困惑していました。


 もしかして…ベッドじゃなくてこっちで? うう…せめて初めてはベッドの上が良かったな…。



「では始めましょうか」


「は、はい!」



 そう言ってララさんは…私の方に手を伸ばし、そして……。














 そのまま通り過ぎて机の奥から回路用の木版と工具を取り出しました。



「ふぇ?」


「ん? どうかされましたか?」



 えっと…? これをどう使うんだろう? この2つで出来る事なんて回路を作る事くらいじゃないだろうか? …あれ? これって…………………………………………あ゛


 気付いた。


 やぁぁーーーーーーーーーーーーーー!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、勝手に変な暴走してごめんなさあーーーーい!!



「あの、なんだかお顔が真っ赤になっていますがどこか体調でも…」


「だ、だ、だ、大丈夫です!!

 あ、あの…念の為お聞きしますが今からやるというのは回路作成の授業…と言う事で合っていますよね?」


「え? ええまあ…早い方が良いかと思いましたが、もしかして明日からにしたほうが良かったでしょうか?」



 ララ師匠は私が念の為にした質問にも、戸惑いながらも当たり前で常識的な回答を返してくれる。

 そうだ、ララ師匠はただ単に弟子になった私に指導をしようとしただけなのだ。



「いえいえいえいえ! そんな、師匠の言う通りですよ!  はい!何も間違っていません」


 …むしろ間違っているのは私の方だよ。


 そもそもララ師匠は住む場所を引き換えに関係を迫ってくるような人だったか?

 確かに出会ってから日は浅いがそんな手段を取るような人でない事くらい分かっていたはずだ。

 だと言うのに私は状況だけで勝手に師匠を悪者にして…。



「そうですか? では、始めましょう」


「うう、ごめんなさい。

 そしてよろしくお願いします」



 初日の夜はこうして過ぎて行った。


 ララ師匠は私の為に授業を行ってくれたのだが、盛大な自爆をしてしまった私はその内容を冷静に理解する事も出来ず何度も失敗をして師匠を困らせる事となってしまいました。




 ―――――――――――――――――――――――

 余談




「し、師匠! 良いですって! それくらい自分でやりますから」



 初日の授業終了後、ララ師匠に部屋まで送ってもらい、師匠が部屋から出ようとした所でした。

 お風呂の後だった事もあり荷物の傍には私の着ていた服、洗い物がまとめて置いてあり、それを見つけたララ師匠が洗うので持って行きますねと言いだしたのだ。



「え、あっ、ああそうですね。

 失礼しました、男の僕が触れるのは良くなかったですね、すみません気が利かなくて」


「いえそんな、むしろ洗い物とかは私が全部やらなきゃいけないくらいですよ」



 もちろん師であるララ師匠に洗い物までして貰うのは申し訳ないという気持ちもあるし、洗い物なんかの雑用は私がやるべき事だと思っている。

 ただ、今の本音は男性であるララ師匠に衣類を…特に肌着類まで洗ってもらうのはさすがに恥ずかし過ぎるという感情が主であった。



 なんでララ師匠はこんなに平然としているのだろうか?

 ララ師匠くらいの年齢だったら同年代の女性を見れば食事やデートに誘ったり、こうして一緒に住んでいれば意識するのが普通だ。

 …もしかして私はそんなに魅力が無いのだろうか?



 でも…なんと言ったらいいのか、まるで子供を相手にしているかのような扱いなんだよね。

 なんでだろ? もうちゃんとした大人なのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ