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3章幕間3 冒険者(2)

 私の名前はルナ、冒険者です。

 18歳の女で魔法を使う後衛、攻撃や支援を担当しています。


 まあ担当なんて言い方をしましたが私のPTメンバーはもう一人、幼馴染であるリンダだけなので分担として後衛をしているという程度のものです。



 まずはリンダの事を紹介しますね。

 リンダは一つ年上の19歳で冒険者としては前衛、ただし味方を守るよりは敵を倒す事に主軸を置いた戦い方が好きなようです。

 私にとっては親友……であると同時に王子様のような存在です。

 …同じ女性だけどね。



 私たちの故郷はここからいくつか大きな街を経由した辺りにある小さな村落で、私はそこでごくごく普通の農家の娘として生を受けました。

 リンダも同じ村の出身でしたが、当時のリンダは…今もあまり変わってはいないのですが分かりやすく言えばガキ大将のような存在で、毎日同年代の子供を集めては近くの森や川へ遊びに行き、年上の男の子が相手であっても引けを取らずケンカになる事も日常茶飯事、そんな少女時代を過ごしていました。


 それに比べると私はかなり内気な性格でした。

 どちらかというと外で遊ぶよりも自室で本を読んだりする方が好きだったのですが、そんな性格は子供の中では異端でイジメを受ける事もあり…それを助けてくれたのがリンダだったのです。


 イジメグループのリーダーと取っ組み合いのケンカになった時は、相手が逃げ出すまでひたすら突撃を繰り返すという乱暴なものでしたし、助けてくれた理由もなんとなく気に入らなかったからと言う大雑把なものではありましたが当時の私にはそれが格好良く映りました。



 …今になって冷静に考えてみるとイジメと言ってもからかい程度の可愛らしいものだったし、リンダに対しても女の子なのにそれはどうなんだろう? と思う事は多い。

 正義感はあるようなのだが初対面の相手であってもケンカ腰なためトラブルが絶えず、大人になった今でも相手に謝りに行った回数が両手の指では足りない程です。


 どうしてリンダと一緒にいるのか? と聞かれた事も何度かありました。

 …自分でも疑問に思った事はあるのだが、どうもあの時に感じた憧れを未だに引きずっているようなのだ。

 もちろんそれだけではなく、冒険者になり強くなった私からみても頼りになる存在であり常に前向きな姿勢には好ましい物を感じている。

 だが、ケンカの後始末をした後でもリンダはいつもしょうがないなー、なんて思ってしまうのはきっと惚れた弱み…のようなものなのだと思っています。




 ―――――――――――――――――――――――

 ルナ




「うーん、見当たらないねー」


「本当にこんな場所に店があるのかよ?」



 私たちは今レオンリバー中央通りから東区画に入り込んだ裏の裏通りまで来ています。


 何故そんな所へやってきたのかと言うと、どうもこのあたりに錬金薬を扱う店があるらしく、しかもとびきり質の良い物を格安で出してくれるという話を聞いたからです。

 いえ…それだけではありません、もし話が本当であれば失った魔力まで回復出来る魔法薬があるという事なのだ。


 本当にそんな物があるのであれば魔導士としてこれほど重宝する物は無いだろう。


 魔導士にとって魔力は武器であり体力だ。

 攻撃をするためには当然消耗するし枯渇してしまえば意識を保てなくなる。

 それに仮に全部使い切らなかったとしても大きく消耗してしまえば睡魔に襲われるような状態になるため戦闘においては大きな足手まといとなってしまうものだ。

 そんな時に魔力を回復出来る魔法薬があればどうだ? 反撃に出る事も出来るし魔導士としての働きを大いに助けてくれる事だろう。


 正直眉唾な話ではあったが、新人の冒険者達がえらく自信満々に語っていたので真相の確認がてらこうしてやって来ているのだった。



 …それに切っ掛けが欲しいと言うのもあった。

 私とリンダは冒険者としては中の下、ようやく中堅グループの端っこに入ったあたりなのだが、ここのあたりが壁になっている冒険者がとにかく多いのだ。


 ここを突破する事でレベルを付与される者が多く、いわゆる『レベル持ち』と呼ばれる冒険者に成れる。

 年齢的には私やリンダくらいでそこに到達する人が多いのだが、壁を越えられなければ何年頑張ろうともレベルは得られずにそのまま冒険者を引退する人もいるのだ。

 焦る必要は無いのかもしれない、30を超えてからレベル持ちになった冒険者も居るしそんなに急いで上を目指すだけの理由は私には無い。

 だが…リンダはやはり上級と呼ばれる冒険者を目指しているようなので、私としても出来る限りの手伝いをしてあげたいと言う気持ちがあった。


 一応他の冒険者とPTを組むという手段もあるにはあったのだが…やってくるのは下心丸出しの男連中ばかりで、そんな人間とリンダが仲良く出来るはずもなく二人の力だけで頑張ろうという事になっている。




 

「あっ! あったあった! リンダ、ここじゃない?」


「はっ? ここ? これで店なのかよ…」



 裏通りを何度か行き来していたのだが、ようやく看板…かなり見すぼらしい物ではあったがお店である事が確認出来る目印に出会えた。

 看板には魔法薬や魔道具を扱っている事が書かれていたので件の錬金薬を扱う店で間違いないだろう。


 …まあリンダの言い分も分からなくはないくらいには普通の民家っぽかったが。



「まあまあ、せっかく見つけたんだから入ってみようよ」


「はー…しゃあねえな、さっさと用事済ませてくれよ」



 そう言ってリンダは無造作に扉を開いて中へ入り私もそれに続いた。





「いらっしゃいま…「おう! じゃまするぜー!」


「こんにちはー」



 お店に入ると店員らしき女の子?…年下に見える子がおり、華奢なのだがそれなりの身長がある私やリンダよりも背が高く女の子にしては珍しいなーと思った。

 ただ、どうもリンダの声に驚いてしまったらしく、最初の一声以降動かなくなってしまっている。



「あー…ごめんなさいね、この子ちょっと言葉使いが乱暴だから」


「…う、あ…いえ、大丈夫…です…」



 私が話し掛けると一応返事をしてくれるのだがなんだか怯えているように見えた。

 少し可哀そうにも思ったが、客商売なのだから口が悪いだけの相手であればもう少し頑張って欲しいものだ。





「えーっと、早速だけどここって魔法薬を扱っているお店ですよね?」


「あ、はい、そうです。

 ご注文いただければすぐにごよう…「おいおいなんだよこれ、魔道具かこれ? クソだっせーな」



 ようやく落ち着いた様子の店員さんに魔法薬の話を切り出したのだが、またもやリンダが何やら大声で騒ぎだした。


 あーもう! 今度はなに!?


 声がした方を見るとリンダがショーケースに入った何かを見ている。

 先の言葉からそれは何かしらの魔道具なのだろうと思ったが…。



「こんなちっせえもんで火が付くのかよ? 欠陥品じゃねーだろうな?」



 確かにリンダが見ている物、言葉通りであれば着火用の魔道具なのだろうが、それは私が見た事のある物より小さく、デザイン? とも呼べないような無個性な形状をしている。


 だが欠陥品という可能性はほぼないだろう。

 そんな商品を販売していては信用問題になるし、特にここのような小さなお店でそういう噂が広まってしまえば挽回する事はまず出来ない。

 だから小さくて無個性な形状をしていようとちゃんと機能はするのだと思う。

 …値段は安いしもうちょっと可愛らしいデザインだったら買っても良かったんだけどね。



「おいルナ、本当にこんな店で目当てのもんが手に入るのかよ? 言っちゃなんだがまともな商品があるかも怪しいぜここ」


「リンダ、さすがに言い過ぎよ」



 嘘が付けない性格なんだろうけどこういう所はやはりどうかと思ってしまう。


 はー…とりあえず用事を済ませちゃいましょう。



 改めて魔法薬の話を聞くべく店員さんの方に向き直った…のだが、さっきまでビクビクしているだけだった店員さんの様子が変わっていた。

 怯えていた様子が完全に消えて、リンダの方に冷たい視線を向けているように見えた。


 えーっと…これ多分怒ってるよね?


 まああれだけ悪口を言われたら当然だろう。

 だがリンダにはそんな事はまったく伝わっていないようでさらに店員さんに絡み始めてしまった。



「でもよー…、 おい嬢ちゃん、ここがちゃんとした店だって言うんなら俺にピッタリなアイテムを見繕ってくれよ」


「ちょっとリンダ、いい加減にしたら?」


「うるせーな、俺はお前が変な店に騙されないか確かめてやるって言ってるんだぜ」



 う、うーん…気持ちは嬉しいんだけど…。


 リンダの言葉を少しだけ嬉しく感じてしまっていたがそこでようやく店員さんに動きがあった。

 商品棚ではなく作業スペースの様な所へ向かい、そこに置いてあった小さなケースを手にするとこちらへ戻って来て私たち二人の前でその蓋を取った。



「お客様にピッタリの商品です」



 店員さんは冷たい表情と声音でそれだけを告げたのだが、私はその中身を見てもそれが何であるかが分からなかった。

 白い色をした…液体というよりはクリーム状の物であり、不快なものではないが少しだけ強い匂いがしていた。リンダも同じ物を見ているのだがやはり何かは分からないようだった、…何らかの錬金薬ではあると思うのだが…。



「これって何ですか?」


「美容クリーム」


「え?」


「美容クリーム、どんな荒れた肌であってもたちどころにツヤツヤで瑞々しい肌を取り戻せる。

 …そっちのお姉さんにはこれ以上ないくらいの()()()()な商品です」



 なにその化粧品(アーティファクト)、すごい欲しいんだけど。



 …いや…うん、まあ確かにリンダは…私もそうなのだが最近肌荒れが気になってきていた。

 冒険者なんてやっていると手入れをするのも難しいし、そもそもリンダにいたってはそういう事を気に掛けている様子すらない。


 つまり彼女はこう言いたいのだろう、「お前肌荒れが酷いぞ」と。



「てめぇ…」



 どうやらリンダにもその意図は伝わったようで、怒っている様子が手に取るように分かる。


 まあ…私を守ろうとしてくれたのは嬉しいけどさすがにね…。



「リンダ、貴方が悪いわよ」


「は? ルナ…なんでだよ、俺はお前を守ってやろうと」


「大丈夫、気持ちは嬉しいけど平気だから、ね?」


「…ちっ、分かったよ、なら腕前だけは見せて貰おうか。

 俺たちは魔法薬を探しに来たんだ、ここでは…あれだ! なんかすごい魔法薬を売ってるんだろ?」



 ようやく本題に戻れたがリンダの説明ではさすがに曖昧過ぎる。

 私はここに来た経緯を店員さんに説明し、魔力を回復出来る魔法薬を探している旨を伝えた。


 すると「なるほど、少々お待ちください」と言って店の奥に消えたのだが、2、3言葉を交わす程度の時間ですぐに戻って来た。

 そして彼女は少量の液体が入った小さな器を手に持っており、「少しだけど試すならこれで十分でしょ」と言って私たち二人の前にその器を置いたのだ。



 最初は意味が分からなかった。

 魔法薬をお願いしたのにお茶でも出されたようにしか見えないからだ。

 でも話の流れから言って…


 魔法薬…なんだよね? でも魔法薬って作るのに時間が掛かるんじゃなかったっけ?

 …いや、それよりもこれ…。



 私は目の前に出された液体から異様なものを感じていた。

 魔導士である私には馴染みの深い魔法を使う際に感じる魔力、あれを強烈な圧力で固めたような濃厚な力を感じるのだ。

 魔法薬が最後に魔力を籠める事で完成する事は知っているので魔力を感じる事自体はおかしくないのだが、私が今まで使ってきた魔法薬とのあまりの違いに目の前のこれとなかなか結びつかなかったのだ。


 でも、魔導士ではないリンダにはそれが良く分からなかったのかもしれない。



「……面白い! 試してやるぜ!」


「待ってリンダ! それは…あっ…」



 少し逡巡したあたりリンダにも何か感じるものがあったのかもしれないが止めておくという選択肢はなかったようだ。

 懐から小さなナイフを取り出すと自らの腕にためらいなく大きな傷を付け、流れる血を布で抑えながらさし出された魔法薬を一息に飲み干してしまった。




 結果、リンダはその体勢のまま後に倒れた。

 一言も声を発さずに、まるで瞬間的に意識を喪失したかのような動きだった。



「リンダ!?」



 私はすぐにリンダの上半身を抱き上げて声を掛けた。


 呼吸はしているしどこにも怪我はない。

 だが返答はなく、妙に赤い顔をしており完全に伸びてしまっていた。


 あれ…? ()()()()()()()()()()


 もう一度リンダの、今度は先ほど傷を付けた腕を入念に確認したのだが、傷どころかその跡すら見つける事が出来なかったのだ。


 魔法薬を飲んでからまだ十数秒程度しか経っていない。

 いくら魔法薬が劇的な効果をもたらすものだとしてもここまで瞬時に回復するというのはありえない。

 それに…この状態はなんだ? 一見すると酒に酔ったかのようにも見えるがさすがにそんな訳は無いだろうし…。



「何を飲ませたの!?」


「あ…、ご、ごめんなさい! すみません! …やり過ぎました…」 



 私が問い詰めると店員さんはすぐに最初の大人しそうな状態に戻った。




 ―――――――――――――――――――――――




 結果を言えばリンダはすぐに気が付いた。

 店員さんがリンダの額に手を当てると赤くなっていた顔がいつもの状態に戻り、冷やした布で顔を拭うと目を覚ましたのだ。


 そして店員さんからも事情を聴いた、先ほど飲ませた薬は一体何だったのか?




「なるほど、私が言った通りの物だったんだ」



 先ほど差し出された液体こそが私が探していた魔力を回復出来る魔法薬だったそうだ。

 でも…。



「分かんねーな、何でそれを飲んだだけで俺はぶっ倒れたんだ?」



 そう、聞いた話だとその魔法薬を飲んで魔法を連発していた魔導士が居たと言う話だし、リンダが倒れた理由については何も分からない。



「…それはちょっと…怒りに任せてやり過ぎたというか…魔力の許容量を大幅に超えたから…です」


「許容量? …え、でも…」



 魔力には許容量があるという事は知っている。

 分かりやすく説明するなら基本値で100くらいの魔力を持っている人であれば150から300くらいまでは魔力を受け入れる事が可能だと言う話だ。


 だが、先にリンダが飲んだのは一口分も無いだろう量だった。

 いくらリンダが魔導士ではないにしても、あれだけで許容量を超えたと言うのだろうか?


 それにその状態のリンダをどうやって治したのだ?

 魔力の譲渡自体は魔導士であれば難しい技術ではないがそれは譲渡に限った話だ。

 他人から魔力を抜き取るなんて聞いた事がないし、もしそんな術があるのだとしたら危険な事この上ない!




 …いや、これ以上はやめておこう、気にはなるが聞いた所でどうしようもないものだ。


 私は魔法薬を買いに来ただけのただの客なのだ。

 目当ての物が手に入るのであれば必要以上に踏み込む理由も無いし、この店では常識が通用しないという事が分かっただけで十分だった。






 この日以来、私とリンダは何度もこのお店に通う事になる。


 1つはやはりあの魔法薬。

 あの日は迷惑を掛けたお詫びという事で二人分のそれぞれ違う魔法薬を渡されたのだが、話に聞いていた通り魔法の連発が可能になる代物で、一度その有用さを体験した事で手放せない物になってしまったのだ。



 そしてもう1つ、私にとってはこちらの方が重大事。

 あの美容クリーム、店員さんが言っていた通りの効果がある本物の化粧品(アーティファクト)でした。

 その効果かは分かりませんが、リンダが…私もなのですが、同じ冒険者男性に何度も告白されるようになってしまいました。

 リンダがすごく綺麗になった事は嬉しいのですが、男性の視線を集めるリンダの姿にちょっとだけ複雑な気持ちを抱く様になったのでした。

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