第24話 開店、そして初仕事
今日は開店初日。
昨日は今日の開店に間に合わせる為、ギルドから戻ってすぐに最後の準備をした。
とは言っても主な作業は許可の取れた商品を並べたり店内の清掃を行うくらいで、後はお釣り用の小銭を用意したりするだけの簡単な仕事だったのでそれ程かからなかった。
そしてレオンリバーに来てから6日目の今日、ようやくお店を開ける事が出来たのだ…が、
「お客さん来ないね」
開店してから数時間経っても未だに一人のお客も現れることは無かった。
「まあ予想はしてたけどね。
こんな場所だとそもそもお店があるって事を認識されていないだろうし」
そう、お客が来ない事は最初から予想出来ていた事だ。
特別な宣伝を行った訳でもなし、お店があるという事は改装した外観と店の前にあるミルス村の時から使っている立て看板で分かるが逆を言えばそれだけだ。
なのでお店の前を通りかかった極々少数の人にしかここにお店であるという事は伝わっていない。
「ふーん…ならなんで私はここに居ないとダメなの?」
「ああ、それはだな…
今日はリリナにも店に出てもらっている。
初日という事で不測の事態が発生した場合の対処を頼みたいというのもあったのだがもう一つ理由があった。
「とりあえず昼まではこのまま待つ事にするけれどお客が来ないようだったら出かけるからさ。
お前には店番を頼みたい」
「え…店番なんてやったことないよ…?」
「大丈夫だって。
多分お客さんは来ないだろうし仮に来たとしても商品を渡してお金を貰うだけだからさ」
「ん、んーまあそれくらいなら…」
リリナは渋々とではあるが一応引き受けてくれるみたいだ。
まあこれくらいの事はやって貰わないと…というか出来るようにならないとリリナの為にもならないだろう。
仕事が忙しくなるようだったらさすがに任せる事はないだろうが現状は手伝ってもらう事にしよう。
もしそうなるようだったら店番が出来る人を雇う事も…まあ今は考える必要もないかな。
「で?兄さんはどこにいくの?」
「ああ、ちょっと職人ギルドまでな」
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さて…ここに来たのはこれで4回目か。
まだレオンリバーに来てから6日目なのにけっこうな回数来たものだ。
結局お昼までにお客が来ることは無かったので僕は今職人ギルドに来ている。
もしかしたらという淡い期待はあったがやはりそうそう上手くいくものでは無かった。
そういえばここって休みの日とかあるんだろうか?今の所閉まっている所は見た事ないが定休日とかがあるのなら把握しておきたいしついでに確認しておくかな。
窓口を見てみるといつもの二人、クレインさんとシエラさんが居た。
相変わらず忙しそうにしているのはシエラさんだけでクレインさんは暇そうだ。
裏方の仕事は手伝っているようだがやはりお客さんの対応を一人でこなしているシエラさんに仕事が集中している。
まあ僕が言った所で解消されるものでもないんだろうけどね…。
「こんにちは、クレインさん」
「やあいらっしゃい!
ララくんだったね、昨日はどうだった?ギルド長とはうまくやれたかい?」
「はい、おかげ様で今日からお店を開けることが出来ました」
「お、今日が開店か!おめでとう!」
「ありがとうございます」
社交辞令的な挨拶を交わすがクレインさんは実際に僕の門出を祝ってくれていると思う。
こういう所は好感が持てるし色々と親切に教えてくれる頼りになる人だ、テンションが高い事を除けばシエラさんよりも話しやすいかもしれない。
「ふむ…だが開店初日の今日にギルドに来たって事は何かあったのかな?」
「あー…やっぱり分かりますか。実はですね…
僕は現状を一通り説明した。
開店してから半日、お客が一人も来ていない事。
お店があるという事をそもそも認識されていないという事。
そして…仮に宣伝を行ったとしてもファムさんのお店が近くにあるのでお客の獲得は難しい事。
もちろん値段で対抗する事は出来なくもないだろうが…。
今回設定した値段は昨日ギルドで貰った資料の最安値で設定してある、ファムさんのお店の値段から見ると半額以下だ。
だがレベル7という看板をかけている大手の店と何の看板を出すことの出来ないうちでは、そもそもの知名度が違い過ぎて値段を見て貰う所までいくのが難しい。
「なるほど…確かにそれだとお客さんの呼ぶのは難しいだろうね。
でもそんな君がギルドに来たって事はつまり…」
「はい、仕事の斡旋をお願いに来ました」
ここに初めて来た日、説明を受けた職人ギルドの業務の中に仕事の斡旋というのがあった。
どういうものなのか一応聞いておいたのだが要するにオーダーメイドの商品を頼みたい人が利用するものらしい。
基本的な商品であれば商店に出向けば購入出来るのだが特殊な効果、特別な性能を発揮する物は一般に出回らないのでこういうシステムが出来たという事だ。
ギルドから提案された価格で商品を出したのはこのシステムに期待しての事だ。
これが無かったらミルス村の時と同じ値段で露店でも出そうかと思っていた。
そうでもしないと他のお店に対抗出来ないからね。
「ほう…ギルドからの斡旋を受けに来たのか」
「あ、ギルド長」
いつの間にかアレギウスさんが近くに来ていた。
全然気付かなかった…昨日もそうだったが気配を消して近づいているのだろうか?
まあ気配を感じ取ったり出来るわけではないが…。
「こんにちは、アレギウスさん。
昨日はどうもお世話になりました」
「うむ、昨日は色々と聞いて済まなかったな。
それで…斡旋を受けるという話だったな」
「はい、最初なので出来れば簡単な物をやってみたいのですが何かありますか?」
斡旋の仕事の難易度はピンキリとの事だ。
誰かが趣味で欲しがったりするようなちょっとしたお遊びの物から実現が不可能に近い難しい物を頼む人もいるらしい。
カードにレベルが表示されるまではとりあえず難易度の低い仕事をいくつかこなしてみるつもりだった。
「仕事か………少し試してみるか」
「え?あの、何か?」
「こっちの話だ、魔道具と錬金薬関連の仕事だな。
俺が良いやつを探してきてやるから少し待っていろ」
アレギウスさんは何かをぼそぼそと呟いた後に奥の部屋入って行った。
また待たされるのか…まあ仕事を貰えるんだから我儘を言うのもあれだが昨日みたいに1時間も待たされたら困るな。
「昨日ギルド長と何かあったの?」
「いえ、特に何があったというわけでは…」
「うーん…怪しい!」
何がだろう?
それから5分くらい待つとギルド長は戻って来た。
クレインさんは一応窓口に戻っていたがやっぱり暇そうにしている。
「待たせたな。
とりあえず今お前に回せる仕事はこんなもんだ」
と言っていくつかの紙束を見せてくれた。
書いてある内容は依頼品の詳細、報酬、期限、後はレベル条件の記入欄もあったがそこだけは全て空欄だった。
「依頼人については書かれていないんですね」
「ああ、依頼品を見れば分かるだろうがあまり周囲に知られたくないような物が多い。
依頼人の保護という事でそこは明かせない決まりとなっているんだ」
「なるほど…」
依頼品を改めて見てみると…
毛生え薬…まあ知られたくはないよね。
それでこっちは…媚薬?良いのかこんな物作って?
魔道具の方もこれは遠くの音を聞き取る魔道具……つまり盗聴?
思った以上にやばい物が多いな。
「もちろん誰の依頼でも受けるという事はない。
相手の身元はしっかりと確認して犯罪に使わないという誓約書も書いて貰っている。
これを違えた者は罪の度合いにもよるが最悪死罪になる場合もある」
良かった、さすがにそのあたりはしっかりとしているか。
それならどれを受けてもあまり違いはないかな?
報酬も銀貨2枚~4枚なのでけっこう高い。
回数をこなせればこれだけでも生活出来そうな額だ。
「これらの依頼を全て受けても問題はないのでしょうか?」
「いや、さすがに全部は許可出来ない。
ギルドの規定で1人が同時に受けられる仕事は二つまで、月に受けられる仕事は五つまでとなっている。
1人の職人に仕事を独占させるわけにはいかないって事だ」
「なるほど。
ならどれを受けるべきか…やはり報酬額が高い物の方が…」
「そうだな、これなんかどうだ?
お前の実力なら十分こなせるはずだ」
僕が迷っているとアレギウスさんは依頼の中から二つの紙束を取り出して見せてくれた。
どうやら魔道具関連と錬金薬関連でそれぞれ選んでくれたみたいだ。
とりあえず内容を見てみよう。
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依頼者 ―――
依頼品 植物の病気を治せる薬(サンプル有)
報酬 銀貨3枚+材料費
期限 緊急ではないが枯れるまでにはなんとかしたい
レベル条件 ―――
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依頼者 ―――
依頼品 涼しくなれる魔道具
報酬 銀貨4枚+材料費
期限 早ければ早いだけ助かる
レベル条件 ―――
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報酬額は合わせて銀貨7枚か、依頼品も他の物に比べると大分まともだ。
うん、この二つなら最初の仕事としては申し分ないな。
「良いですね、この二つを受けたいと思います」
「そうか、なら受付はクレインの所ですると良い。
…この依頼について何か聞きたい事や確認しておきたい事はないか?」
「そうですね…いえ、期限が曖昧な事を除けば特にはありません」
「…そうか、この手の期限が曖昧な依頼は大体3日くらいで仕上げて来る奴が多いな。
仮にそれ以上の時間が掛かったとしても期限を定めていない依頼人は文句を言えない事になっている。
…それで本当に他に聞きたい事は無いのか?」
ん?えらく念押しするな。
何か確認する事項があるのだろうか?
依頼品は…薬は病害のサンプルがあるから問題ないだろうし魔道具も前にベネギアさんに渡した物に近い感じだろう。
3日くらいでと言うがこれくらいの物なら今日中には出来るだろうし特に問題があるとは思えなかった。
でもそれは僕が知らないというだけで職人ギルドとしては確認しておくのが当たり前な事項があるのかもしれない。
「すみません、何か確認しておくような事があるのでしょうか?
なにぶん今回が初めての仕事なので勝手が分からず…」
「…いや、すまなかった。
仕事を進めるうえで問題になる事がないなら良いんだ。
職人ギルドに所属する者として恥ずかしくない仕事を期待している、頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます。
それでは失礼いたします」
若干引っかかるものがあったがとりあえずこの仕事を受けるという事で問題なさそうだ。
二人分で報酬が銀貨7枚か…回数に制限があるとはいえ破格の報酬と言えるだろう。
これならお店にお客が来なくてもなんとかなるかな?…でもやっぱりせっかくのお店だからお客さんにも来て欲しいな。
さて、受け付けを済ませて早い所戻らないと。
大丈夫だとは思うがリリナ一人にお店を任せるのはやっぱり不安があるしね。
最後に、依頼を受ける時にクレインさんが「あれ?これって…まあギルド長が勧めた物なら良いか」と言っていた。
やはり何らかの裏があるっぽいが仕事は仕事だ、ギルド長が勧めたものだし不正なものではないだろう。
「特にはありません…か、あの程度ならレシピや回路を調べる必要すらないという事か。
…普通の依頼では実力を測るのは無理そうだな、次は…」




