第23話 開店準備(後編)
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お店の準備2日目
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今日の予定は商品の準備だ。
以前の魔物騒動で店内にあった商品はほぼ使い物にならなくなっていたが、幸いにも錬金具や工具の類は無事だったので材料さえあれば問題なく作れそうだった。
リリナは自室に籠って朝から作業をしているようだ。
ポポの草は街の周辺にいくらでも生えているので採ってくるのは簡単だった。
そのうちプリム草で作ってみるのもありかもしれない。
ファムさんのお店で見た物も大半はプリム草から作られた物だったのでやはり主流なのだろう。
そして僕の方は、
核は無事みたいだな…これならそのまま使えそうだ。
壊れた魔道具の再利用をしている所だ。
魔物に破壊された魔道具はもちろん使えなかったが、核さえ無事ならいくらでもリカバリーが効く。
大分前に作った物もあるしな、良い機会だし今までの研究成果を元にパワーアップさせてみるか。
研究ノートが無事で助かったよ…。
僕の部屋に置いてあったからダメになったかなと思ったが、多少汚れているだけで問題なく読める状態だった。
それじゃあさっそく作るか!
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うーん…ちょっとやりすぎたかもしれないな。
今回のテーマ? というか構想かな? は、魔力効率の向上とプラーナを使用出来る魔道具の作成だった。
作成自体は概ね上手くいったと言え、どの魔道具も出力アップには成功していたし動作にも問題は無かった。
ただ…問題となりそうなのがプラーナを使用出来るようにした物だ。
今動作確認しているのは火を付ける為の魔道具なのだが…
うーむ、火がすごい勢いで吹き出している…。
先端に火を灯らせるだけの魔道具だったはずなのに僕の身長の半分くらいの火が吹き出していた。
とても日常生活で使用できるような物では無いし、生活用品というよりはむしろ武器と言った方がしっくりくるレベルだろう。
こっちのやつも…まあこれは状況によっては使えるのかな?
もう一つ確認をしているのは氷を作る魔道具だ。
こっちも出力が大分上がっているようで水を入れた瞬間に凍り付く程だった。
急ぎで氷を用意したい場合なんかには使えるかもしれないが間違って人が手を入れたりしたら危険だと思う。
プラーナの使用は任意で切り替えられるから普通に使えない事もないんだが…購入する人には事前に説明しておかないと事故が起きるかもしれないな。
正直プラーナの使用でこれほど出力が上がるとは思っていなかった。
使い方によっては武器にもなりえるこれらを普通に販売して良い物か迷ってしまう程だ。
魔導技術で作られた武器は多いと聞くがこの出力を見てしまうと納得出来るな。
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午後、お昼の休憩のあと僕は職人ギルドに来ていた。
魔道具の作成で魔力をけっこう消費したというのもあるがお店に出す商品についてギルドで相談がしたかったのだ。
ファムさんやブラックさんのお店で確認した値段は僕の考えていたものよりも高いものだった。
さすがに同じ値段で販売する気は無いがあまりにも安い値段で売るのも問題があるかもしれない。
なので下手に自分で判断して問題になるよりは先に相談してしまうことにしたのだ。
相変わらず片方にだけ並んでいるな…。
二日前に来た時と同じで、女性職員の前には何人か人が並んでいるが男性職員の前には誰も居なかった。
まあ僕としては並ばずに利用出来るからありがたいけどね。
それに登録に来た時も色々と親切に教えてくれたし僕としては悪い印象は持っていなかった。
高すぎるテンションだけは疲れるかもしれないが慣れてしまえばどうという事もないだろう。
という事で前にも話をした男性職員のカウンターに向かった。
「すみません、少し相談があるのですが」
「お、君は!先日登録に来た子だね!
どうだい?お店の準備は順調かな?」
前言撤回、やはり慣れるのは無理かもしれない。
「え、ええまあ、それでお店の事で相談があるのですがよろしいでしょうか?」
「相談ね、いいよ!じゃんじゃん聞いちゃって!」
「はい、では…
先ほどの相談内容を一通り説明した。
時折相槌を打ってくれているのだがそれすらもテンションが高かった。
テンションが高い相槌ってなんだ?とは聞かないで欲しい。
「なるほど、商品の扱いと価格についてか。
そうだねー…それについては基本的に自由にしてもらって大丈夫だよ。
ただ君が心配しているようにあまりにも一般的な価格と乖離している場合はギルドから指示をする場合があるね。
どうしても気になるのなら扱う商品のサンプルを提出して貰えればうちである程度調べる事も出来るけどどうする?」
ほう…ギルドはそんな事までしてくれるのか、なら頼もうかな。
特に自分で決める理由もないし慣れないうちはギルドを頼った方が良いだろう。
「ではお願い出来ますか?商品は錬金の薬と魔道具を扱います」
「おーけー!
それじゃあ用意して貰う物だけど…
必要な物は魔道具は1種、錬金薬は少量で良いので扱う物を一通り、それと魔法薬もいるとの事だが、
「すみません、うちで扱う予定の商品はポポの草で作った物ですが問題はないでしょうか?」
「ポポの草?あーあれか、また珍しい…というか変わった物を使ってるんだね。
そうだね…とりあえずポポの草で作った物で構わないけれど魔法薬だけはプリム草の物も用意して貰えるかな?材料はほら、これを使ったらいいよ」
そういってプリム草を1つ用意してくれた。
サンプル用なので小さい物だったが1つ作るだけなら十分すぎる量だろう。
「分かりましたそれでは明日、また寄らせてもらいますね」
「あっごめんごめん、明日なんだけど僕は出張でいないからさ。
別の係の人に伝えておくからそっちでお願いしてもらえるかな?
あ、そういえばまだ名前を教えていなかったね!
僕の名前はクレイン!28歳独身さ!
明日来るのなら僕の名前を出して貰えれば分かるようにしておくからさ」
クレインさんか、そういえば名前聞いていなかったな。
…でも28歳独身って情報は別にいらないような…まあいいか。
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ギルドからお店に帰って来るとリリナが暇そうにしていた。
どうやら作る物は一通り作った後で特にやる事が無かったようだ。
いつもなら暇な時には新しい薬の研究をしているのだが今はまだ材料の調達も出来ていないので研究に手を付ける事も出来ないみたいだ。
「おかえりー、どうだった?」
「とりあえず明日サンプルを出して見て貰う事にしたよ。
魔法薬の提出もいるからそっちはお前に頼む。
プリム草の物も必要って事だから…これ使って作っておいてくれ」
小さなプリム草をリリナに渡す。
「おー、プリム草か。
魔法薬ね、普通のやつで良いの?」
「ああ、それで良いぞ」
「はーい、じゃあ明日までには用意しておくね♪」
リリナはプリム草を受け取って嬉しそうに自室に戻って行った。
おそらくプリム草を使ってなにか新しい研究でもするのだろう。
仕事さえきっちりしてくれれば文句はないがあいつも大概研究馬鹿だよなー。
「さて…こっちも明日の準備をしておくかな」
魔法薬以外の準備だけは先にしておく。
種類はそれ程無いので時間は掛からないが1つだけ迷っている物があった。
魔道具はどれを持って行ったらいいかな?
お昼までに作った武器になりそうな物は却下するとして別の物…この前ベネギアさんに渡した物と同じやつを作れば良いかな?あれなら危険は無いだろうし。
という事で僕もリリナと同じく自室に籠って魔道具作りに専念する事にした。
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お店の準備3日目 午前
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昨日の約束通り僕は今日も職人ギルドに来ている。
いつものカウンターに行くとクレインさんはやはり居なかった。
出張に行くという話だったのでクレインさんが居ないのは当たり前だ、だが代わりに居たのが…
なんかすっごい怖い人がいる…。
そこにいたのは40台くらいの大柄な男性で、見えている範囲だけでも筋骨隆々なのが分かる。
顔や腕には無数の傷跡があり、職人ギルドの職員というよりはベテランの冒険者と言った方がしっくりくる外見だった。
眼光も鋭く、隣のカウンターに並んでいるお客さんも委縮してしまっている。
クレインさんが言っていた別の係の人って多分あの人だよな…ちょっと、いやかなり近づきにくいな。
だが行かないわけにもいくまい。
約束があるというのもあるんだが…さっきからすごい見られている気がするし。
もしかしたら僕が来るのを待っていたのかもしれない。
「すみません、昨日クレインさんにお願いしていた検査用のサンプルを持ってきたのですが」
「やはりおまえがララか、待っていたぞ。
さっそくだが商品を見せて貰おうか」
やはりこの人がクレインさんの言っていた代わりの人のようだ。
僕の持ってきたサンプルケースを受け取ると「しばし待て」と言ってカウンターの奥に持っていき検査を始めていた。
このままカウンターに立っていると邪魔になりそうだったので、周りを確認してから空いている休憩スペースで待つことにした。
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どれくらい経っただろうか?体感でも1時間は既に経ったと思う。
だが一向に呼ばれるような気配もなく手持ち無沙汰になっていた。
「お待たせしてごめんなさい、こちらをどうぞ」
ギルドの窓からぼけーっと外の様子を見ていると横から声がかかった。
声につられてそちらに顔を向けるといつも忙しそうにしている女性の方の職員が立っていた。
どうやら暇そうにしている僕を見かねてお茶を用意してくれたようだった。
「あー、これはどうもありがとうございます。
丁度喉が渇いていた所なんで助かります」
出されたお茶を一口飲んでみた。
これは…麦茶かな?
魔法で作られた氷でしっかりと冷やされており多少の暑さでぼーっとしていた頭をしゃっきりとさせてくれた。
「美味しいですね…この時期にはやはり冷えた麦茶が一番ですよ」
「ふふっそう言って貰えると出したかいがありますね」
そう言って職員の方は上品に笑って見せた。
うーん綺麗な人だ。
まさに大人の女性って感じでちょっとだけ惹かれるものがある。
僕よりいくつかは年上だろう。
スタイルがかなり良く、長く伸びた髪もサイドでまとめてから前に流しており包容力のありそうなお姉さんという印象を受ける。
他のお客さんが並んでまでこちらの職員に話をする理由が少しだけ分かった気がした。
「申し遅れました、わたくし当ギルドの受付を担当しているシエラと申します。
お見知りおき下さいませ」
「これはどうもご丁寧に、
僕は先日こちらのギルドに登録をしたララと申します。
ご迷惑を掛けることもあると思いますがよろしくお願いします」
簡単に挨拶を済ませた後もシエラさんは僕の話し相手になってくれた。
どうやら丁度お客さんが途切れたらしくシエラさん自身も暇を持て余していたようだ。
「なるほど、サンプルを持って来られたのですね、それで今はギルド長が検査をしていると」
「え?あの方がギルド長なんですか?…まあ確かに貫禄はかなりありましたけど…」
「ふふっ言いたい事はわかりますよ♪、職人ギルドよりも冒険者ギルドが似合うだろう。…ですよね♪」
簡単な僕の声マネをしながらおどけた仕草を見せてくれた。
話していて楽しい人だ、ギルドのお客さんがこの人の所に集まるのは容姿だけでも無さそうだな。
「あーやっぱり分かりますか?
最初に見た時はベテランの冒険者かなと思いましたよ」
「うーん…ある意味当たってはいるんですよね。
ギルド長、アレギウスさんは以前冒険者をやっていましたから。
10年くらい前の話ですがレベルも7を持っていたそうですよ」
「レベル7…ちょっと想像がつかない強さですね」
いや…でも先日見たユキノさん、彼女も相当な強さだったしそれくらいのレベルを持っていてもおかしくなさそうだな。
また来ると言っていたし教えて貰えるようだったら聞いてみようかな。
「それにしてもけっこう検査ってかかるんですね。
値段を決めて貰うだけなのですぐに終わるかな、と思っていたのですが」
「そうですね…いえ、でもさすがに掛かり過ぎな気がしますね。
ギルド長は…まあ見た目はあんな感じですが腕はかなり良いですよ。
このくらいの検査だったらもうとっくに終わっているはずなのですが…」
そろそろ話題も尽きてどうしようか…と思っていた時だ。
「見た目がこんな感じで悪かったな」
「ひゃっ!も、もうギルド長!急に話し掛けないでくださいよ。
ただでさえお顔が怖いんですから背後から話しかけられたらびっくりしちゃいますよ」
先ほど僕がサンプルを渡した人、ギルド長のアレギウスさんが近くに来ていた。
確かに少しだけ顔は怖いかもしれないがそれを正面から言えるシエラさんもかなりすごかった。
アレギウスさんはシエラさんの言葉に特に怒ったような素振りはなかった。…むしろ若干落ち込んでいるようにも見える。
まあ正面から顔が怖い、なんて言われたら僕だって落ち込むだろうな。
「俺の顔は怖いのか…」と小さく呟いてからアレギウスさんはこちらに向き直った。
「ララ、少しだけ聞きたい事があるからついてきてくれ」
「あ、はい、分かりました」
検査が終わったのだろうか?でもそれなら聞きたい事があるっていうのも変だしな…。
「ギルド長?検査になにか問題があったのですか?」
「問題か…ある意味問題があったと言えなくもないな。
検査の結果商品として扱ってもらっては困る物が出て来た。
詳しい事は応接室で話そう」
商品に出来ない物か、どれだろうな…。
とりあえず話を聞いてみるしかないだろう。
ダメな物はダメとして他の物は出せるのだろうし確認しない事には始まらない。
「分かりました。
それではシエラさん、話し相手になって頂いてありがとうございます」
「いえいえ、それじゃララさんも頑張って下さいね♪」
シエラさんに笑顔で見送られながら歩き始めたアレギウスさんについていく。
今まではロビーの所しか見ていなかったがこの建物はけっこう広かった。
応接室は比較的手前側にあったのだがそこから奥までかなり長い廊下があり、なんの部屋があるのかまでは分からなかったが下手に動き回ったら迷子になりそうな程だった。
応接室に通されて席に着く。
特別な装飾もない簡素な部屋だがロビーと同じく清潔感があった。
テーブルには僕の持ってきたサンプルが一通り置いてあったのだが…。
あれ?プリム草の魔法薬だけ無いな。
まあ材料はここで貰った物だし回収されただけかもしれないが何だが変な気がするな。
「とりあえずここに有る物は問題ない、値段に関しては一応自由だが…この資料に書いてある金額で扱ってもらえると助かる」
そう言ってアレギウスさんは数枚の紙束を渡してくれた。
中身を見てみるとファムさんやブラックさんのお店で見聞きした金額と同じ位の範囲で金額が記されていた。
おそらくこの範囲内で価格を決めろという事だろう。
うーん…原価に比べるとかなり高い気もするが技術料って事なのかな?
少し気になったがこれは帰ってからリリナと相談して決めることにしよう。
「分かりました。
それで先ほどおっしゃっていた問題のある商品というのは…見た所プリム草の魔法薬に問題があったのだと思いますが」
「そうだな、正直他の商品も販売を許可するかはギリギリのレベルだったのだが店が小さいという事もあって許可することにした。
…だがあの魔法薬だけはダメだ。
念入りに検査をしてみたが正直どれ程の性能なのか見当もつかない。
一応王都の方で調べて貰うように手配はしておいたが許可がおりることは無いと思ってくれ」
アレギウスさんはそこで一旦言葉を切った。
ここから先の話をするべきか否か、迷っているようにも感じられた。
「…ひとつ聞いてみるが、あのサンプルは誰が作った物だ?」
「サンプルですか?…えーっと魔道具は僕が作った物で錬金薬は妹が作った物ですね」
「ほう…妹さんが、名前を聞いてもいいかな?」
「はい、リリナって言います」
「リリナ…」
アレギウスさんは僕の言葉を聞いて考えこんでしまった。
時折何かを思い出すように「リリナ…リリナ…」と呟いていたが特に思い当たる事は無かったようだ。
「すまんな、やはり聞いたことがない名だ」
それはそうだろうな、リリナが過去に何か特別な事をしたなんて話は聞いたことがない。
生まれてからずっと一緒に居たのだしそういう話があれば僕が知らないということは恐らくないだろう。
「いえ、ではこちらのサンプルは持ち帰っても大丈夫でしょうか?」
「ああ、かまわん。
話は以上だからもう帰ってもらって大丈夫だ。
ああそうだ最後に…まあそれだけの物を作れるやつに言う事でも無いのだろうが半端な仕事だけはするな。
職人が下手な仕事をするようになると信用を失うだけでなく街に住むすべての人に迷惑がかかる。
そんな奴に仕事を任せるわけにはいかないからな、その点だけは気を付けてくれ」
「はい、もちろんです!」
クレインさんから聞いていた通りのセリフにしっかりと返事をしてから職人ギルドを後にした。
これで必要な準備は一通り済んだだろう。
後はリリナと商品の価格を決めるだけなので明日からようやくお店を開けることが出来そうだ。




