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第22話 開店準備(前編)

 ―――――――――――――――――――――――

 お店の準備1日目

 ―――――――――――――――――――――――

 レオンリバーに街に来てから3日目、今日の予定はお店への改装だ。

 民家なのだから当たり前だが現状では外から見ても中に入ってもお店には見えない。

 元々が目立たない場所にあるのだからせめて前を通った人がお店だと分かるような造りにしなければどんなに良い商品を用意しても見て貰えないだろう。


 なのでまずは入口付近の改装をする所…なのだが、



「よっしゃ、じゃあここの壁は全部崩しちまうぞ」


「あんまり乱暴にやらないでよ、あんたがやると残す部分まで一緒に壊しかねないんだから」



 お店に入ってすぐの所でクリフとカレンさんが何やら物騒な事を言っていた。


 つい先ほどの事だが僕とリリナで改装を始めようとしていたところに手伝いに来てくれたのだ。

 冒険者ギルドにお願いしたのは昨日なのにもう連絡がついたようだ。



「騒がしくてすみません」



 横から声を掛けてきたのはレノンさんだ。


 今日はクリフとカレンさんだけではなくレノンさんとシアさんも来てくれていた。

 レノンさんは前と変わらず温和で話しやすいのだがシアさんは…。


 じーーーー


 うーん…こっちも最後に見た時と変わってないな…。

 見られていると思うんだけどこっちが視線を向けると、


 ぷいっ


 視線を逸らしてしまう。

 怒っているようにも見えるしただこっちを観察しているだけにも見える。

 だがどちらにしてもシアさんの意図が分からないので対処のしようがなかった。


 次に会う機会があったら聞いてみるつもりだったし後でちょっと話してみるかな。



「いえ、とても助かっていますよ。

 でも本当に良かったのですか?こんな事を手伝っていただいて」


「もちろんです、ララさんにはシアを救っていただいた恩がありますから。

 こんな事で恩返しになるとは思っていませんが少しでもお手伝い出来る事があれば遠慮なく言ってください」


「はは、ありがとうございます。

 では今日一日よろしくお願いしますね」



 という事で僕はレノンさん、シアさんと一緒に、そしてリリナはクリフ、カレンさんと一緒に作業をすることになった。

 リリナもあの二人に対してなら遠慮がなくなってきているので話しやすいだろう。



 さてこっちの作業は…と。


 内装はリリナ達に任せているので僕たち3人の分担は店の外側だ。

 用意した資材を魔法で加工して配置していく、基本的にやる事はそれだけなのだが…



 うーん…いまいちだな。



 センスの無い僕では何回やっても歪なデザインになってしまう。

 お店だという事、そして扱っている商品についても分かるのだが子供のお遊戯みたいな出来栄えだった。



 もしかして内装を手伝った方が良かったんじゃないか僕は?


 ちらっとレノンさん達の方を見てみたが二人はそんな僕の様子には気付いた様子も無く一緒に作業をしていた。



「これ、どうしたら良い?」


「そうですね、シアの好きなようにやっても良いけれどこれと合せるともっと良くなりますよ」



 仲睦まじいとはまさにこの事だな。

 二人の邪魔をするのもあれだし僕は僕で頑張りますかね。



 その後も出来る限り一人で頑張っていたのだが、結局シアさんに苦戦している所を見つかり手伝ってもらう事になった。




 ―――――――――――――――――――――――




「そういえばララさん、以前購入した魔道具についてなのですが」



 作業が一段落したお昼休憩中、レノンさんから一つの質問があった。



「えーと、レノンさんに買っていただいたのは灯りをともす魔道具でしたね。

 何か問題がありましたか?」


「いえ、思っていた以上に重宝していますよ。

 ただ不思議なのがあれにはプラーナを入れる所が無いですよね?

 魔力切れになったりはしないのでしょうか?」



 あー…やっぱりプラーナを使うのが一般的なのか…



「あの魔道具はプラーナが無くても動きますよ。

 特に使用の制限も無くいつでも使えるように設計した物なので」


「そうなのですか、不勉強ですみません。

 魔道具はプラーナで動くものだとばかり思っていました」


「いえ、私も先日聞いたのですがプラーナを使う物と使わない物、どちらもあるようです。

 ちなみにクリフが購入した物もプラーナは使わないので旅先で火が付けられない、という事も無いはずです」


「なるほど、確かにそれなら安心ですね」



 レノンさん僕の説明で安心したようでシアさんの所に戻って行った。

 確かにプラーナが当たり前になっている人からしたらそれを入れる場所がないという事は使い捨てのように感じてしまうかもな。


 次から作る物はプラーナが入る物を作った方が良いのだろうか?

 もし魔力が希薄な場所があったらそういう場所でも使えるだろうし無駄にはならないだろうが…

 …とりあえずこの件は保留だな、必要があればその時に考えれば良いだろう。



 それにしても… ちらっとレノンさんとシアさんの方を見てみる。


 二人とも僕の視線に気づいた様子もなく食事をとっていた。

 シアさんの頬に付いたソースを拭いてあげているレノンさん、二人の様子はどう見ても…


 直接聞いてはいないけれど恋人同士にしか見えないよな?


 レノンさんは多分僕と同じくらいの歳でシアさんはリリナより少し下だろう。

 多少歳が離れている気もするがありえないって程の組み合わせでも無いだろう。

 僕が知る限りほとんど一緒に行動しているあの二人はただの仲間という関係には見えなかった。





「よっ、そっちの様子はどうだ?」


「わっ!あ、クリフか、びっくりした」



 二人の様子を見ている所に急に声を掛けられたので驚いてしまった。



「どうした?んー…?シアか?村に行った時も話していたみたいだし何かあるのか?」



 クリフは僕の視線から見ているのがシアさんだと思ったようだ。



「あーいや、そういう訳じゃないんだけどさ、あの二人って恋人同士なのかなーと」


「あの二人?って誰と誰の事だ?」



 クリフはどうにも要領を得ないって顔をしていた。

 たった今シアさんの話をしていたのだから他に居ないと思うのだが。



「いやだからあの二人、レノンさんとシアさんの事だよ」


「え、レノンとシアが?…そりゃ無いだろ」



 何言ってるだこいつ?みたいな表情で見られている。

 何でだ?そんなおかしな事を言っているのだろうか?



「えっと…一緒に居る所をよく見るし今もほら、仲睦まじい感じだからそうなのかなーって思ったんだけど…何かおかしかった?


「いや、だってあの二人親子だぜ?恋人にはならねーだろ」


「は?…え?そうなの…?えー……じゃあレノンさんって今何歳なの?」


「たしか30くらいって話だったかな、正確な歳はよく知らねーけど」



 30…とてもそんな年齢には見えないな、僕と同じくらいだと思ってたよ。

 という事はシアさんが12,3くらいだから若ければ17、18くらいの時の子って事になるのか…

 年齢的には別におかしくはないか。

 でも親子かー…こう言ってはなんだが全然似てないな、おそらくシアさんは母親似なのだろう。



 親子である、と知ってから二人の様子を見ると納得出来る部分もあった。

 仲睦まじいとは言っても家族なら十分にありえるような範囲だったしレノンさんの行動も手のかかる娘の世話をしてあげていただけなのだろう。



 でも親子って事は…あの時は緊急だから仕方ないとはいえ父親に向かって娘さんの服を脱がすように言ったって事だよな…。

 …この話題には触れないほうがよさそうだな。




 ―――――――――――――――――――――――



 

 お昼からは僕も内装を手伝う事にした。


 外装はレノンさん達でも十分、というよりは僕が居ても役に立たないので諦めたのだ。

 まあ内装もほとんど終わっており細かい配置を決めたりもしないといけないのでこればっかりは僕とリリナでやらないといけない。


 内部の様子は朝に比べて大分様変わりしていた。

 予定通り玄関周囲の壁を全て崩して応接スペースと一つにしている。

 これによってそこそこの広さを確保出来たのでこの部分で接客を行えるだろう。

 後はカウンターや商品棚、ケース等を配置していけば一応の体裁は整うのでそこまではやろうと思っている。


 仮に商品を増やすような事があればその時はその時でまた考えれば良いだろう。



「もうほとんど出来ているんだな、クリフにカレンさんもさすがに冒険者をやってるだけありますね」


「まーな、この手の力仕事は任せてくれよ」


「力仕事()()しか出来ないけどねこいつは」



 クリフとカレンさんは相変わらず仲が良いな。


 そういえばリリナの姿が見えないが…っと奥のソファーに寝転がってやがる。



「おいリリナ、サボるんじゃない!何一人で休んでるんだよ」


「うえー…だってあの二人の相手するの疲れるんだもん…」



 めっちゃ疲れてますアピールをしてくるが客人に仕事をさせておいて一人だけサボっているのを見過ごすわけにもいかない。

 それに早い所片付けてしまわないといつまで経っても開店出来ないからな。



「あの二人ならまだ話しやすいだろうに」


「まあそうなんだけどさ、それとこれとは話が別と言うか…」


「はー…良いからさっさと片付けるぞ、頑張ったら晩飯に好きな物用意してやるから」


「…仕方ない、早い所片付けてゆっくり引きこもろう」



 という感じでようやくリリナも動き始めてくれた。

 動機は不純だが仕事をしてくれるなら別に良いだろう、二人で手分けして商品の配置を決めて行くことにした。



 そして夕刻に差し掛かったころようやくお店への改装は終わった。

 もちろん完璧にというわけではないが当面はこれでやっていくつもりだ。

 これからお店を繁盛させることが出来ればさらに改装をしていきたいが大分先の事になるだろう。



「お疲れ様でした、こんな時間まで手伝って貰ってありがとうございます」



 遅くまで手伝ってくれた4人のお礼を言う。

 僕とリリナだけだと何日か掛かるだろうと思っていたのでクリフ達の手伝いはとても助かった。



「いいってことよ、お前には色々と助けて貰ったしな。

 それにこれくらいの事だったら普通に仕事しているよりも楽だしな」


「またあんたはそういう…でもララさん達の為なら私も何でも手伝いますよ」



 クリフ達の好意はありがたく思うがやはりそれに甘えてばかりも良くないだろう。

 とりあえず今日のお礼に何か出来ないだろうか?すぐに用意出来る物があれば良いのだが。


 と、僕が考えているとその考えを読んだかのようにリリナが奥からやってきた。



「あの、皆さんこちらをどうぞ」



 リリナが4人に差し出したのは…あれって前から研究してたやつだよな?

 一度だけ飲んでみたがかなり美味しかったし今日のお礼としてなら丁度いいかもしれないな。



「これは?」


「栄養剤ですよ、ちょっとアレンジしたものなので美味しく飲めると思います」



 レノンさんの質問に答える。

 これで受けが良いようだったら商品にしてみるのもありだな。


 リリナに勧められてそれぞれがコップを手に取った、そして一口、



「おぉー…こりゃうめえ!」


「ほぉ…これは…」


「甘くておいしーー!それにこのシュワシュワしたの何?初めて飲んだよ」


「美味しい…」



 リリナの新作はかなり好評のようだ。

 あのシュワシュワした液体、実験の過程でたまたま出来たものらしいがまた面白い物を作ったもんだ。


 4人は新作の栄養剤ジュースが気に入ったようでそれぞれ感想を言い合っていた。

 クリフとレノンさんは二人で「もうちょっと甘くない方が」とか「エールよりも刺激が強いですね」

等と話している。

 カレンさんはリリナに迫って感想を言っているがリリナは大分引いていた。


 …そしてシアさんは一人でちびちびと栄養剤ジュースを飲んでいる。


 丁度良い、少し話をしてみようかな。

 



「シアさん、少し良いですか?」



 ビクッ!


 話しかけられるとは思ってなかったのかシアさんは僕の声を聞いて少し驚いているようだった。




「…何?」


「いえ、シアさんに少し伺いたい事があるのですが…大丈夫ですか?」


「…………良いけど…」



 うーん…あんまり良いって感じはしないな。


 シアさんは一応了承の返事を返してくれたが僕の方に視線を向けようとしない。

 どうみても避けられているようにしか見えないが許可は出ているのだし聞いてみることにしよう。



 …今思ったんだがこれ何て聞けば良いんだ?


 僕の事が気になるんですか?…自意識過剰すぎるだろう。

 僕に何か言いたいことがあるのですか?…なんか問い詰めている感じがして嫌だな。



「…すみません、シアさんがたまに僕の事を見ているように感じたもので何か用事があるのかなと…

 いえ、僕の勘違いなら別に良いのですが」


「……勘違い…では無い。

 …私もあなたに聞きたいことがある、…良い?」



 お、勘違いだと返されたら一番困ったが向こうから話を聞かせて貰えそうだな。



「もちろん良いですよ、なんでも聞いてください」


「…私が聞きたいのは前に話した時の事、…あの…宴の晩の話」


「宴の晩…治療の話をした時の事ですか?」


「そう」



 シアさんは頷いた。



「あの話をした時…あなたが感じた事…あなたが思っていた事…」



 この聞き方は…あの時にも少し感じたがやはり僕の考えている事が分かっているのだろうか?


 どう答えたら良いだろうか?やはりあの時と一緒の…いや、違うな。

 シアさんの聞きたい事はそんな建前ではないだろう。


 あの時、シアさんを治療した時、そして宴の晩に話をした時の僕の思っていた事か。

 うーん…正直に話すのは少し気恥しいな。



「…レノンさんに背負われているシアさんを見た時、あの時シアさんの容体がとても気になり診療所まで様子を見に行きました。

 クリフに頼まれた、というのは本当ですが僕自身シアさんの事をなんとしてでも助けたい。

 あの時に僕が感じたのは、思っていたのはそんな事です」


「…やっぱり…そうなんだ…」



 シアさんはどうやら納得出来たようだ。

 分かりにくいけれど少しだけ嬉しそうな表情をしている…ような気がする。


 だが…なんだろうな?僕自身あの時は妙にシアさんの事が気に掛かったが今は普通だった。

 なぜあの時だけシアさんの事が気になったのだろう?

 体調が悪そうだったから?…まあそう言われたらそれまでなんだがあの時に感じたものはそんな物では無かったように思う…。




「後は宴の時に話した事でしたね。

 シアさんはまだ子供ですし命を助けられた、みたいな恩を感じて欲しくなかったって事くらいですよ」


 ぴくっと、僕の言葉でシアさんが小さく反応した。


 あれ?なんか表情が…分かりにくいけれどまた怒っているような?なんか余計な事言ったかな?



「…そう、やっぱり…そうなんだ…」



 先ほどとほとんど同じセリフだったが今度は落ち込んでいるような口調になっていた。

 感情をほとんど感じられないシアさんにしてかなり珍しい反応だ。



「後はそうですね…あー…花畑で見たシアさんはとても綺麗だ、と思いましたね」


「!?」


「思わず見とれてしまうくらいでしたよ」



 さすがにこれを正直に言うのは恥ずかしいな…。

 でもここはもう隠さずに全部話してしまった方が良いだろう。

 まあ僕みたいなのに綺麗だと言われても困るだけかもしれないが…。



「も…いい………」



 ん?何か言ったのかな?声が小さくてよく聞こえないが…?



「何でしょうか?」


「もういい!分かったから!」



 うわっと!


 シアさんは急に大声を出すとそのまま踵を返して店の外に出て行ってしまった。

 あまりにも大きな声に周囲の4人もこちらの様子を窺っていた。



「兄さん?何かあったの?」


「うーん…良く分からないけどまた怒らせちゃったのかもしれないな」



 最後に見えたシアさんは白い肌に赤みがかかっていた。

 怒らせたのか、それとも照れていただけなのか、僕ではシアさんの気持ちを察することは出来そうもなかった。



「シアちゃんなんかすごかったね」


「ええ、私もシアがあそこまで大きな声を出したのはほとんど聞いたことがありませんよ」


「だな、何を話していたんだ?」



 クリフ達もやはり僕とシアさんが何を話していたのか気になるようだ。

 恥ずかしいのであまり話したくはないんだがな…。




 ―――――――――――――――――――――――




 事情を一通り説明した。

 ただし最後の綺麗だったという部分だけは伏せてだが。



「そうですか…シアがそんな事を…」


「大丈夫じゃないかな?話を聞いてみた感じだとララさんは別に悪くなかったと思うし。

 まあ一つだけ気付いた事はあったけどね」



 レノンさんはシアさんの行動が気に掛かっているだけのようだがカレンさんは気付いた事があるようだった。

 やはり同じ女性の方が分かる事もあるのだろうか? 



「え?何かありましたか?」


「んー…それは私の口からは言えないなー。

 シアちゃんから直接聞くかララさんが自分で気づくかしないとね」



 うーん…気にはなるがそう言われたらこれ以上聞くことも出来ない。




 結局その日はそこで解散となった。


 カレンさんは帰り際にリリナに迫っていたな。

 「毎日通いますね!」「毎日はちょっと…」

 仲が良いのは良い事だ。…多分。


 

 クリフ達のおかげでお店の改装が1日で終わったのは助かった。

 まだ商品を用意したりもしないといけないが2、3日中にはお店を開けるかもしれないな。

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