テンプレイベント発生?
かなりゴツい冒険者がオレに近付いてくる。強いだろうな、このオッサン。
指には収納の指輪があり、念じたのか、そこから手の辺りに青白い光が集まる。
収納の指輪からも神力と似たような力を感じる。あれも煌力製品みたいだ。
強そうな稼いでいるっぽい冒険者は、収納の指輪を持っているので、しばらくしたらオレたちも堂々と使おう。
瞬時に光が消え、手の中に残ったのは古びた剣だった。
アリス先生が赤いオーラを纏って、オレを庇うように前に出ようとするのを止めた。
オレのほうへ近付いてくる冒険者に向かって歩き出す。
ギルドの中央辺りでオレとオッサンが対峙した。
「お前みたいな子供が、お前のような細っこい魔力の低い子供がっ……」
オッサンがブルブル震え出す。
「素手でオークを倒すなんて凄ぇじゃねえか!」
「いや誉めんのかよ!!」
魔力を込めたアリス先生のツッコミで、オッサンが3mくらい吹っ飛んだ。
厳つい顔で剣を出したら誤解されても仕方ないと思うので同情はしない。
「ふっははははっ! お嬢ちゃんはさすがにやるな! いや驚かせてすまん」
鼻血を出しながら朗らかに笑うオッサン。ちょっと不気味である。
「おっちゃんは魔力値4603、戦闘ランク3級、採取ランク8級の冒険者、ランドだ。よろしくな」
そういえば魔力値を計ったばかりで、受付嬢に何の説明も受けてないな。
戦闘ランクは戦闘の実力か実績を表して、採取ランクは薬草とか指定の魔物の素材とかか?
級は等級だろうから、日本と同じなら1が高くて10が低いんだろう。段なら数字が増えると上だけど。
逆はないだろうな。このオッサンは明らかに戦闘メインの体つきだ。このデカイ体でいそいそと採取が得意だったら笑う。
「で、ランドさん。オレを誉めてくれるのは嬉しいけど、何で剣なんか。アリス先生が構えるのもしょうがないと思いますよ?」
取り敢えずアリス先生を庇っておく。罪に問われたりしても困るし。
「おっちゃんのことはおっちゃんでいい。若ぇ者は礼儀より勢いだ」
豪快なオッサンだな。気安いのは結衣も怯えなくていいからラッキーだ。
「オレは香、いや、勇人だ。ランドさんのことはオッサンと呼ぶことにする」
名字を名乗らないので、貴族とかしか名字は使わないのかもしれん。
「おう! ユートか。……でだな、剣を出したのは武器を持ってないみたいだったんでな。初心者の頃に使ってたコイツをやろうと思ってな」
差し出された剣を受け取る。
「いいんで……いいのか? 見ず知らずのオレに。取っておいたからには思い出の品じゃ」
古いが手入れはされている。大事にしていたはず。
「いいんだよ。物はいつか壊れる。今まで壊れなかったのは、お前の役に立つためだったのさ」
オークを倒しただけで、随分買われたな。オレくらい魔力が低いと倒すのは難しいのか?
「それじゃ、有り難く貰うことにする。壊したら悪い」
今のところ武器がないとキツいからな。
「おっちゃん……、いいおっちゃんだったんだな~。つい勢いでツッコミを入れちゃったよ。ごめんな~」
アリス先生のツッコミは魔力を込めてたからな。
「はっはっは! お嬢ちゃんの攻撃くらいじゃあ何てことねぇさ。おっちゃんは鍛えてるからな!」
まずは鼻血を拭けオッサン。
「俺たちからはポーションをやろう。魔力回復ポーションだから、魔力の少ない奴は買えるようになったら常に切らさないようにな」
30代くらいの冒険者のパーティーも物をくれる。親切な人が多いな。
礼を言って受け取ると、別の冒険者たちも初心者に必要そうな物や注意事項、比較的弱い魔物の出る場所などを教えてくれた。
「おじちゃんたち優しくて結衣は好き!」
あっちこっちフラフラしていた結衣は、女性冒険者に抱っこされている。
可愛らしい結衣に好かれて、オッサン冒険者たちは親バカみたいなデレデレした顔で食べ物をあげている。
「でも、なんで皆こんなに良くしてくれるんです?」
疑問に思ったオレは、横にいた20歳くらいの女性冒険者に聞いてみた。
「ギルドはギルド全体の利益を守るのが大前提なの。ギルド全体には当然冒険者や依頼者も含まれるのよ」
結衣やアリス先生をニコニコ見ていた女性冒険者は、こちらに向いて笑顔で話し出す。
「新人が育たないと冒険者ギルド自体に先がなくなるでしょ? だから新人が冒険者活動していけるようにベテランたちがサポートするの」
冒険者ギルドもね。とウインクをする。外国人顔なので自然な感じにバッチリ決まっている。
「どんなギルドでも、自分の所の利益を守るためには、ギルド員の生活を守る必要があるし、ギルドのためにならない違法行為は罰しないと」
まあそうだよな。新人がバカにされたり攻撃されたら、ギルドに寄り付かなくなるよな。
犯罪などの違法行為を許していると、ギルド全体が信用をなくして仕事がなくなる。
ギルド員同士の喧嘩とかを見ないふりするような職員は利益を損ねるし、自分の会社を潰して職を失うかもしれないからバカだよな。
「それ以前に喧嘩を仕掛けるのも、街中で無意味に武器を抜くのも犯罪だし。ギルドはその職業の利益を守る組織であって、治外法権な大使館じゃないし」
もっともだな。
「オレも余裕があれば助け合いをするようにします」
女性冒険者はオレの頭を撫でる。やはり日本人は若く見られるのか、子供扱いされてる気がする。
こっちの成人は何歳からか知らないし、日本でも未成年者だから、これが普通なのか? なんか納得できないな。
「あの、皆さん。説明をしたいのでそろそろ宜しいですか?」
受付嬢が控え目に声をかけてきた。そういえば途中だったな。オレの魔力が冒険者をやるには低いせいで、いつもは登録が完了してからの流れが、おかしくなったんだろう。
さっき聞いた話だと、冒険者はだいたい、魔力値1000前後の人がなりたがるらしい。
あまりに低い魔力値だと、身体強化も長時間はできないし、魔法として使うにしても威力が低く、回数が撃てないので危険度が増すからだそうだ。
それで余計に心配されたのかもしれない。結衣は見た目通りの年齢だし、アリス先生も11~12歳くらいに思われていた。みんな年齢を聞いて2度見していた。
アリス先生に差し出していたお菓子を、バツが悪そうに引っ込めていた。アリス先生は素早く奪っていたが。
「先ほどランドさんが言っていたように、戦闘と採取でランク分けしています。戦闘が安定して倒せる魔物の強さを示しています。魔物のランクも同じです」
10級に分類される魔物を安定して倒せるようなら、戦闘ランクも10級になるのか。
採取のほうは、採取してきた物の希少価値や状態、数などで決まるらしい。
「他にも、ギルドはお金に困った時、怪我などでポーションが必要な時など、金利なしで借金ができるので覚えておいてくださいね」
その分、依頼料などから仲介料などを引かれてるそうだ。その依頼に違法性はないか、魔物の数などに誤りがないかなどを調べてから、依頼として貼り出される。その費用だ。
税金も引かれているので、支払い手続きなどは代わりにギルドがやってくれる。その手数料も含まれている。
魔物の素材の解体費用なども引かれてから支払われるので、冒険者は仕事に集中できる。
緊急性の高い依頼だと、調べる時間がないので報酬から引かれない。
強制依頼などはなく、指命依頼は請けるかは自由と、かなり冒険者の権利が守られている。
「そしてギルドカードはこちらです。ランクが上がれば新しく作り直します」
オレたちはカードを受け取り、確認する。
銀色の金属製で、名前やランクを示す項目がある。オレたちのランクは、まだ記載されていない。
オークに1回勝ったところで、説明通り上がらないようだ。
「それとオーク素材の報酬は3万1000シリンですが内訳をご覧になりますか?」
どうせ食べれる肉とかを、グラムいくらで買い取るとかだろうし、冒険者ギルドは信用できそうだ。
そもそも相場が知らないから、聞いても適正価格か判らないので意味がない。喉も渇いたし、宿も取らないと。
「必要ありません。このギルドのことは信用できそうなので」
「ありがとうございます。他の冒険者も聞いていますからね。他の街の冒険者ギルドでも大丈夫ですよ」
そんな悪徳なギルド職員はゆるさねぇよ! と周りの冒険者が気炎を上げていた。
ランドのオッサンに手頃な宿を聞いて、オレたちは冒険者ギルドを後にした。