結衣の回復魔法は優しさでできています
冒険者ギルドから出てきたオレたちは、宿に向かいながら談笑している。
「いや~、いい人たちだったな! アタシを子供扱いするのが気になるけどな!」
「結衣もお腹いっぱ~い」
ご機嫌で手を繋ぐ2人の背中を見ながら、オレは宿の看板を探していた。
「あっ! 勇人勇人。宿代は1人6000シリンだそうだから、着替えとか歯ブラシを買っていこうな!」
振り向いて見上げるアリス先生の目は嬉しそうだ。女の子は買い物が好きだからな。オレが結衣の面倒を見ている間、義姉さんもよくバーゲンに突撃していた。
「いいですよ。必要な物だし、資金に余裕もあるし」
「結衣のお洋服は? まだダメ?」
資金に余裕があっても、見た感じ服は安いのもあるが、いい服は高い。
「服はもう何日か我慢してくれ。宿代2日分と小物を買うくらいしかない」
無理だと言うと、結衣は残念そうな顔をしたけど、すぐに笑顔を見せ、うん! と頷いた。
必要な物を買い込んで宿に向かう。看板を見上げるオレたちの顔はビミョ~な顔だろう。
日本と違うのは判っていたつもりだったが、実際に見るとやっぱり厳しそうな世界だ。
「大学生の頃に女子だけで行った、貧乏海外旅行みたいな宿だな」
アリス先生の言葉を聞いて、結衣が不安になったのか、「結衣たちビンボーなの?」と聞いてきた。
「すぐにオレが稼いでみせるからな。少しだけ待ってくれ」
「結衣は大丈夫! 叔父ちゃんたちがいるもん」
我慢させてばっかりは情けない。早く稼ごう。
宿を取り部屋に案内されたあと、水を貰った。水魔法で出した物らしい。
この宿には井戸などがなく、1日に使う水は少ない魔力でも出せるので魔法らしい。
高い宿なら風呂もあるそうなので、明日から戦いに出て稼ごう。
「ご飯の時間までアタシは寝る。結衣ちゃんも歯磨きして寝たほうがいいよ」
歩き疲れてるだろうしな。もうすでにウトウトしている。
「アリス先生、結衣を頼みます。オレは情報収集してくるんで」
後ろを向いて、パンツの中に隠していた収納の指輪を取り出していたアリス先生に声をかけてから鍵を外す。
「休まなくて大丈夫か? 情報収集なら明日みんなですればいいよ」
「明日は仕事に行きたいから、今のうちにしておく。まだ夕方にもなってないし」
「ん~、わかった! 結衣ちゃんはアタシに任せとけ!」
ドアの外まで見送ってくれたアリス先生に結衣を任せ、オレは宿を出た。
宿の主人に酒場の情報を聞き、冒険者がよく行く酒場を探して歩く。
オレの破れた服を見ても変な顔をする人はいない。危険な世界では服が破れても珍しくないんだろう。
酒場に到着すると、ドア越しにも騒がしいのが分かる。
ドアを開けると酒の匂いがオレの鼻を刺激してくる。
「マスター、安くて飲みやすい酒をください」
カウンターに向かったオレはすぐに注文する。
小銀貨1枚、1000シリンを差し出すと、マスターは小さなビンと木のコップをくれた。お釣りに大銅貨2枚返ってきたので、800シリンなのだろう。
その酒とコップをもって、ベテランっぽい冒険者の集団がいるテーブルに向かう。
「さっき登録した新人冒険者なんですけど、話を聞かせて貰えませんか?」
「新人かぁ! 俺達も新人の時は苦労したもんだ。みっちり仕込んでやるから呑め! 冒険者は酒に強くなくちゃな!」
ベテラン冒険者たちが、自分たちの高そうなボトルから注いでくれるので呑む。
喉が焼けそうだが呑めなくはない。一息に呑んでみせたオレを称賛して、いろいろな話を聞かせてくれた。
「そうか……、若いのに2人も守らなきゃならんとはなぁ……。よし、魔物の弱点なんかを頭に叩きこんどけ」
少しでも安全に戦うための方法なども聞く。
1ヵ月の必要な生活費は一般的な家庭で、15万~20万シリン。
冒険者だと武器や防具の費用もあるので、新人は30万シリンは稼いだほうがいいらしい。必要な生活費が賄えるくらいに適度な仕事を教えてくれた。無理をしないのが1番安全だと口を揃えて言う。
結局酔うまで情報収集し、夜中に宿に帰るとアリス先生に怒られた。
「まったく……、呑むならアタシに任せとけばいいのに! 未成年なんだから無茶するな!」
自分も呑みたかったんだろうか?
翌朝、二日酔いに悩むオレは、何とか身を起こし、仕事に行くために朝食に向かおうと結衣を起こす。
「叔父ちゃんがお酒くさくなった! 頭いたい? いたい?」
兄貴が呑んで帰った時のことでも思い出したか?
「いたいのいたいの飛んでけ~」
ベッドに膝立ちになった結衣が、オレの頭を撫でながら、おまじないをする。
「お~、結衣ちゃんが光ってるな! 無意識に魔法を使ってるぞ」
二日酔いの苦しみを知ったオレを、嬉しそうに見ていたアリス先生が結衣の回復魔法に目を見張る。
「…………」
「叔父ちゃん、頭いたいの無くなった?」
無言で癒されていたオレに、嬉しそうな顔を向けて聞いてくる。
「ああ! ありがとうな、結衣。これなら戦える」
喜んでいる結衣を撫でてから、朝食に向かった。
あとはオレが魔力を使って戦ってみよう。結衣でも問題なく魔法が使えるようだし、オレは少ない魔力で効率的に戦う方法を探ろう。
パンと野菜スープに玉子焼きという、ごく普通の朝食を食べたあとに冒険者ギルドに向かう。
等級の低い依頼が貼ってある壁を眺めていると、10級の依頼票を見ていた16~17歳の冒険者パーティーが、ポーション用の薬草採取を請けようと話合っていた。
依頼票を剥がさずにギルドを出ていく。いつも貼り出されている依頼は、剥がさずにそのまま行っていいようだ。
「先生、どうします? オレは常時討伐依頼をメインにしようかと思うんですが。弱点とかも聞いたし」
結衣と一緒にぴょんぴょん跳ねて、上のほうにある依頼票を見ていた先生に聞いて見る。
「はぁはぁ、……ちょっと準備運動してただけだからな? アタシは生徒に危険なことはさせたくないんだ」
別に誤魔化さなくてもいいのに。
「オレは強くなりたいので戦いますよ」
「わかってるよ~。アタシだって戦う必要は感じてるから」
しぶしぶという感じで認めてくれた。
「結衣も叔父ちゃんとアリスお姉ちゃんを助けるよ!」
拳を握って気合いを入れているが、結衣には戦いは早いので応援だけ任せる。
「結衣、オレたちが安全に戦うために、結衣は周りから他の敵が来ないか警戒する大事な役だ」
危ないから駄目だと言うと、子供は余計にやりたがるので、こう言って誤魔化した。
「大事な役目…………、うん! 頑張る!」
オレの腰に抱きついて喜ぶ。よし、上手くいった。
決まったので出発しようとしたら、防具なしじゃ危ないと、30歳くらいの女性冒険者がオレたちに皮の胸当てをくれた。
礼を言って出発すると、門のところで身分証を求められた。街を出る理由と向かう場所を聞いて記録しているので、遅くなったりすると捜しに来るのかもしれない。
道を外れ森に入ると、自分の足音にも結衣やアリス先生が反応して、ビクビクする。
少し歩いただけでコボルトの集団に遭遇した。親切な冒険者の先輩たちに聞いた話だと、ゴブリンやコボルトはすぐに増えるし数が多いので、遭遇率が高いから余裕があれば倒すように聞いた。
弱くても数が多く、1匹で行動することは滅多にないらしいので、出会ったら数を減らしておかないと、何十匹にも囲まれたりして、新人が犠牲になりやすい、見敵必殺な魔物だ。
「アリス先生、結衣と下がって!」
身体強化をしてコボルトに遅いかかる。
人間の匂いを嗅いで、よだれを垂らしていたコボルトの顎を蹴り上げ、横から剣を振ってきたコボルトを一歩下がって躱して剣で斬りつけ、首を飛ばす。
蹴りを食らって仰け反っていたコボルトの首を、返す剣で斬り裂く。
2匹の血が噴き出す頃には、脇を抜けて次のコボルトに襲い掛かった。
仲間を2匹やられて唸り声を上げていたコボルトの顔面を突き殺し、抜く勢いで半回転して横と後ろから向かってきたコボルトを斬る。
正面から襲撃してきた奴には、蹴り上げた土で視界を潰して袈裟懸けに斬り倒す。
後ろから棍棒を振り上げ殴り掛かってきたコボルトの攻撃を、右足を下げ、半身になって躱すと同時に喉を肘打ちで倒して、首に剣を突き刺して止めを刺す。
「ふう。もう居ないな」
周囲を見回して確認してから身体強化を解く。
それから、コボルトの着ていた服を破り、剣についた血糊を拭った。
「勇人、お前…………、ちょっと強すぎだぞ。アタシの心配は何だったんだよ~」
「だてに10年以上修行してませんよ。身体強化で凄く動きやすいし」
しかし、魔力の半分近く使ってしまった。もっと効率のいい戦い方を試さないと。




