七夕特別企画 おままごと
七夕特別企画です!
どうぞよろしくお願いします。
とある日。
ミナが退屈だと言うので、暇つぶしにセフィロトの世界店に来ていた。
ここには何でもある。魔王からお小遣いもいっぱいもらったので、ある程度であれば何でも買えた。
「イラッシャイマセ!」
黒子姿の店主さんに出迎えられて、俺たちは中に入る。
「ねー、勇者? あの葉っぱなぁに?」
世界店の景観はいつもと少し違った。
謎の商品が陳列する棚は普段通りなのだが、店の目立つ場所に緑の植物が生えている。
細くて葉の数が多い木だ。そして枝のような部分には何やら紙が吊るされていた。
初めて見る植物である。
「店主さん、これなんだ?」
俺も分からなかったので聞いてみると、店主さんはいつもの発音がおかしな言葉で説明してくれた。
「コレハ、笹ノ木デス」
笹……?
説明されても分からないが、何か神秘な力を感じるのでそういうアイテムなのだろう。
「今、『七夕特別イベント』ヤッテマス。『短冊』ヲ買ッテオ願イスルト、オ値段ニ応ジテ願イガ叶イマス」
なるほど。この笹とかいう植物は儀式的な行事に必要なものなのだ。『短冊』という紙を購入して笹の木に吊るすと、願いが叶うらしい。
「コレ、カタログデス」
差し出されたカタログに目を通すと、値段の違う『短冊』が並んでいた。料金が高ければ高いほど願いが叶う、という仕組みらしい。
「勇者! ミナ、これやりたいっ」
ミナは興味津々だった。ぴょんぴょんと跳ねて俺の洋服を引っ張っている。
そうやって可愛く甘えたからって俺が言うことを聞くとでも思ってるのだろうか?
ここは心を鬼にしよう。
「一枚だけだからな? 一番高い短冊だけで我慢しろよ」
「うん!」
ミナには悪いが、甘やかして俺のようなクズになるとご両親に顔向けできないので、一番高い短冊を一枚だけ買うことに。
ふぅ……ちょっと厳しくしすぎただろうか。
「ありがとっ。えへへ~」
だが、ミナはあまり気にしてないようだ。嬉しそうに笑って、店主さんから短冊を受け取っている。
「毎度アリ! コノ筆デ短冊ニ願イ事ヲ書イテ、吊ルシテクダサイ」
「分かった!」
彼女は素直に言うことを聞いて、店主さんから借りた筆で何やら短冊に記入する。
「よしっ。これでだいじょーぶなの」
あまり悩んでないあたり、願い事は最初から決まっていたようだ。
「何て書いたんだ?」
「んっ。秘密なの」
悪戯っぽく笑って、ミナは俺に見えないように笹の木に手を伸ばす。身長が小さすぎて一番低いところでもギリギリで、一生懸命背伸びして吊るしていた。
気になる……何を願ったのだろうか。
見ようと思えば見える位置にあるのだが、そうするのは気が引けた。
ミナが見せないと言ったのだから、ここは大人しく我慢するか。
「出来た! 勇者、もう帰ろう?」
「え、いいのか? 暇なんだろ?」
「平気。ミナ、おひまじゃなくなったの」
ミナはおすまし顔を作って、俺の手を握る。
そのまま引っ張るように歩き出してしまった。
うーん、女の子は分からん……さっきまで暇とか言ってたのに、気変わりが早かった。
何か腑に落ちないけど、気にしてもしょうがないので俺も大人しく帰ることに。
魔王城へ、俺とミナは帰還する。
最早俺の部屋になっている魔王の私室にて、ミナと二人きりだ。
魔王はお仕事中である。
「えっとねー……どうしよっかなー」
ミナは何か企んでいるようで、さっきから思案顔である。
しばらく様子を観察していると、不意に何かを思いついたように表情を明るくした。
「そうだ! 『おままごと』にするのっ」
え? おままごと?
それが何か聞き出す前に、ミナは俺に向かって言葉を紡ぐ。
「勇者? 遊ぼっ!」
刹那――ミナから淡い光が漂って、俺の体を包み込んだ。
そうなった瞬間、俺の体は意思に反して動き出す。
「分かった」
何かを思う前に、ミナの言葉を肯定していたのだ。
なんだこれ……!?
「えへへー。あのねあのね! ミナ……短冊に、『勇者とお遊びしたい』って書いたの。だから、今日はずっとミナと一緒なの!」
なんと。これはあの短冊の効果なのか!
確か、店主さんは願いが叶うと言っていた。ミナが俺と一緒に遊びたいと書いて、それが強制されているのだ。
つまり、今日の俺はミナの思うがままになるようである。
「まったく……まぁ、いいんだけど。それで『おままごと』って何だ?」
「タマちゃんから教えてもらったのっ。みんなで家族になるお遊びなんだって!」
「家族……ロールプレイみたいなものか」
みんなで役割を決めて、なりきるというごっこ遊びか。
タマちゃんというのはタマモのことだ。恐らくこれはホドの子供遊びのようだ。
別に変なことをするわけでもない。短冊でミナに服従している状態とはいえ、大したことにはならないと――そんなことを俺は思っていたわけだが。
「じゃあね、ミナは『お嫁さん』役!」
おませさんめ。可愛らしい言葉にほっこりする。
ミナがお嫁さんということは、即ち俺に与えられる役割は一つだろう。
「じゃあ俺は旦那様か?」
これしかない。やれやれ、ミナのためにいい旦那様を演じてやるか!
と、気合を入れたのに、
「違うのっ。勇者は、『赤ちゃん』役ね!」
「――え?」
なんか、おかしなことになりそうだった。
あ、赤ちゃん役だと……? ミナより年上の俺が!?
いやいやいや、これは有り得ない。年下に甘えるとかそんな奴いるのかよ。
もちろん、断ろうと思った。
でも、今は短冊の効果が持続中だった。
「分かった。俺は赤ちゃん役だな!」
ミナの言葉を断れるわけがなく、俺は与えられた役割をまっとうすることになる。
かくして、お嫁さんと赤ちゃんという二人きりのおままごとが始まった。
幼女でありながらシングルマザーという、ある意味では重い設定のミナは、しかしそれを知らずにお嫁さんになりきる。
「勇者、よしよし~」
俺をなでなでしていた。いつもならここで恥ずかしくなるだろうが、今の俺はミナに絶対服従となっている。
「おぎゃぁああああああ!!」
だから、全力で赤ちゃん役を演じるのだ。
俺は泣き声を上げながら仰向けとなって、手足をじたばたとさせる。設定上は産まれて間もない赤ちゃんのようだ。
まだ這うこともできない。
「どうちたのでちゅか~?」
ミナは嬉しそうに赤ちゃん言葉を使って俺をあやしていた。
うーん、死にたい。頭の中の冷静な俺が羞恥で悶絶している。
だが、現実世界の俺は赤ちゃんを熱演していた。
「まんま! まんま!」
「んー? おなか空いたのでちゅか? えっと…………あ! ちょっと待っててねっ」
そう言ってミナは、突然部屋から出て行った。
その間、俺は赤子の態勢のままじっと待ち続ける。ミナに待てと言われているので、言われた通り待っているのだ。
少しして、ミナは戻ってきた。
その手に、哺乳瓶を持って。
「メイドさんにミルクもらったのっ。飲ましてあげまちゅからね~」
「あばぁああああああ!?」
流石に驚いて、産声とも悲鳴ともとれる声を上げてしまった。
おいおい、哺乳瓶とか……やめろっ。これ以上情けなくなると、自分で自分を殺したくなる。
だが、ミナは止まってくれなかった。
「はい! ちゅっちゅして?」
俺は哺乳瓶でミルクを飲まされる。
ミナはもともと、魔王から俺のお世話役を任されているくらい面倒見の良い性格をしていた。お世話することも嫌いじゃないようで、今とても楽しそうである。
対して、俺はもう恥ずかしくて頭が沸騰しそうだった。
「んちゅ! んちゅ!」
しかし、現実の俺はノリノリである。短冊効果でミナに逆らえなかったのだ。
そうやってミルクを飲み干し、今度は哺乳瓶と一緒に持って来ていたおしゃぶりを咥えさせられた。
ここまでくると、俺の心はもう何も感じなくなっていた。
「おぎゃぁあああああああああ!!」
ひたすらに赤ちゃんを演じる。
ミナが楽しそうに笑ってくれるなら、もうそれだけでいいのだと思い込んで。
「ただいま。ふぅ、今日も仕事頑張ったぞー……って、勇者?」
そうしていると、仕事を終えた魔王が部屋に帰ってきた。
彼女はミナに膝枕されている俺を見て、不思議そうに首を傾げている。
「また赤ちゃんになってるのか?」
またって何だよ。
そう言いたかったが、今の俺は赤ちゃん。
「ママぁ……?」
ママを口にすることしかできなかった。
「魔王様! おかえりなさいっ。あのね――」
俺の代わりに、ミナが魔王に状況を説明する。
「ふむ。短冊、か……では、今日が終われは元に戻るのだな」
話を聞いた彼女は、短冊の効果でこうなっているのだとなんとなく察したようだ。
だが、俺を戻そうということは微塵も考えなかったようで。
「理解した。なら、ミナよ。今日はここに泊まれ……一緒に勇者をお風呂に入れてあげるぞ!」
「うん! じゃあ、魔王様も『お嫁さん』役で!」
何故かママが増えた。
そのまま俺は、ママ二人にお世話され続ける。
「ママぁあああああああああああ!!」
最後まで俺は赤ちゃんのまま、七夕という一日を過ごすのだった。
ふぅ……死にたい――
お読みくださりありがとうございます!
このお話はしばらくしたら、後の間話に入れたいと思います。




