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勇者だけど、魔王から世界を半分もらって裏切ることにした  作者: 八神鏡@ようあま2巻&霜月さんはモブが好き1~5巻
第三章

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第九十一話 神隠し

「烏天狗。やりなさい」


「御意」


 俺が降伏すると、徳川家康は隣の妖怪――烏天狗に指示を出した。

 やつは微かに頷いて、腰に差していた団扇のようなものを取り出す。


 これを軽く振ると、景色が一変した。


「っ……」


 驚くも、つい最近似たような現象を体感したことを思い出す。

 フクさんの結界に入った時も、同じような感覚だった。


「【神隠し】と呼ばれる、彼の妖術ですな。これで、君たち三人の気配は途絶えた」


 言われて、そういえば自分自身の気配がなくなっていることに気付いた。

 気配には敏感なのだが、烏天狗の妖術によって遮断されているようだ。


 こうなると、魔王たちが俺たちの居場所を補足するのが難しくなる。

 まぁ、魔王ならなんとかなるはず。頼むぞ!


 他力本願で思考を放棄。周囲を見渡してみる。


「ここはどこなんだ……?」


「『本能寺』と名付けられた場所ですな。町の外れに位置しておるから、見つけ出すのは苦労するじゃろう」


「ふーん……俺と魔王の愛のパワーなら楽勝だけど」


「そうだと良いですな」


 虚勢を張ってみたが、徳川家康は取り合わない。柔和に笑ったまま本能寺とやらの建物に入っていった。


 つまらんなぁ……反応がいい奴なら『幼女と結婚してるのか!?』なんて驚いてくれたのに。


 話も弾まないので、後ろから大人しくついていく。

 未だに、護衛と思わしき五人がついてきているので徳川家康の暗殺を試みることはできない。


 隙を突いてこいつさえ殺せたらどうにかなりそうだが、警戒されては仕方ないか。


 案内されたのは、とある一室。構造は【幻想遊郭】とほとんど変わらなかった。


 ただ、外に面していない部屋なので、周囲の様子を探ることはできない。

 牢ではない分マシだが、ここで大人しくしていろということなのだろう。


「むにゃむにゃ……」


 そして、おんぶしているミナは未だ寝ていた。夜も遅くなってきたのでぐっすりである。


「布団を用意しましょうかな?」


 捕虜とはいえ、丁重に扱うという言葉は本当だったらしい。

 徳川家康がミナの様子を見て、小間使い(女中と呼ばれているらしい)の女性に布団を用意させる。


「あ、お酒も用意して! この女にセクハラされたんだから、せめて高くて美味しい酒を飲まないとやってられないわよ!」


 次いで、酒呑童子に抱っこされてうんざりした様子のニトが、徳川家康に酒を要求した。可哀想に、そのほっぺたにはキスマークがたくさんある。


 かなり気に入られたようだ。


「ふぉっふぉっふぉ……面目ない。これ、ほどほどにしろと言ったじゃろう」


「かわいーから、我慢できなくって。てへっ☆」


 徳川家康もため息をついている。申し訳ないという気持ちはあったのか、部屋に酒も用意してくれた。


「子猫ちゃ~ん。あーしも飲んでいいっしょ!」


「イヤよ。あんたと飲んだら不味いわよ」


「え? 口移しで飲ませてくれる感じ!?」


「頭の中お花畑か! うぅ……あっち行きなさいよぉ」


 珍しく変人勝負でニトが負けて、泣きべそをかいていた。

 世の中、上には上がいるものだ。


「では、儂らは離れますかな。織田信長が亡き者となるまで、大人しくしてくだされ。その後、儂らに危害を加えないのであれば、魔族と一緒に開放しましょう」


 ここで、徳川家康はそんなことを言う。

 そのままどこかに行こうとしていたが、気になっていたことがあったので俺が呼び止めた。


「待ってくれ。最後に、どうして織田信長に君主の座を渡さないのか教えてくれないか?」


 そう。俺は、この爺さんがセフィラである織田信長に君主を譲らない理由が知りたかった。


 どうも、接してみると理知的な性格のようだし。

 私欲のために君主に固執しているようには見えなかった。


 何かしら、理由があるのかもしれないと思ったのである。


「…………女子供に、世界を背負わせると? ふぉっふぉっふぉ……それは認められませんな」


 徳川家康はなおも微笑んで、オレに言葉を返す。

 笑っているのに、その言葉から感情を読み取ることができない。


 それが本心なのかどうかも、俺には分からなかった。


「そもそも、女性がセフィラになるというのも、ホドでは初めてでしてな……しかも、それが幼子じゃ。なかなか難しい問題がありますぞ」


 織田信長には資格がある。

 だが、それだけだと徳川家康は言った。


「おおよそ数世代ぶりのセフィラが、まさか彼女になるとは……今、儂が君主を譲ったところで、世界は安定しないじゃろう」


 感情論ではない。

 現実的に考えて、織田信長に譲れないと徳川家康は判断したようだ。


「君の世界ではどうか知りませんがな……ホドでは、女性の位が少し低い。ましてやいきなり君主になるなど、認められないのじゃ」


 男尊女卑、か……実力主義で全て平等の魔界では考えられないな。


 あの世界では強さこそ絶対だった。だから、男だろうと女に容赦ないし、女だろうと舐められない。


 世界によって価値観は違うが、ホドではそれが顕著のようだ。


「女子供は守られていればいい。儂らはそういう考えじゃよ」


 ホドにおいて、男は強いというのが一般的な考えのようだ。

 ただ、だからこそ守るという意識もしっかりと根付いているのか。


 そういった思考の差異が、徳川家康と織田信長に確執を生んだということだろう。


「とはいえ、セフィラがいては儂の権威が揺らぐのは間違いないのじゃ。故に、織田信長は排除する。今回の騒動は、それだけの話ですな」


 それだけを言って、徳川家康は今度こそ俺に背を向けた。

 もう話は終わりらしい。


「そうか。ま、頑張れよ……どうせ魔王にやられるだろうけど」


 言われっぱなしというのは性に合わないので、俺からも言葉を送る。


「あいつらは、お前が思ってるより厄介だぞ? 思い通りになると思うな」


 かつて戦っていた者として、それは自信を持って言える言葉だった。


「……そうだと、いいですな」


 しかし徳川家康は取り合わない。

 最後まで腹の奥を見せないまま、ここから離れていくのだった。


「……あ、ちなみにあーしはここで監視だから!」


「ぁああああああああ!?」


「きゃぁああああ! そんなに嬉しいの!?」


「これは悲鳴よっ!」


 ニトの悲鳴と酒呑童子の嬌声を耳にしながら、俺は息をつく。

 今は何もできないし、魔王が来るまでは大人しくしておくか――

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