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第七十話 二つ目の新婚旅行先

 現在、魔王城にホドのニンジャがやって来ている。

 しかも、そのニンジャは魔王に『助力』を求めている。


 それはあまりにもおかしな話だった。

 魔族に並ぶ戦闘民族の世界、ホドが……よりによって天敵ともいえる魔族に借りをつくることになるのだ。


 不可解である。罠だと考えた方がよっぽど納得できるくらいだ。

 あるいは、助けが必要なくらい危機に瀕しているか、だが……それを判断するには、あまりにもホドのことを知らなすぎる。


 どうすればいいものか、魔王も俺も分からなかったので、彼女に相談してみることにした。


 魔王軍四天王、その一角にして最古参の妖狐――タマモである。

 

「タマモ。少し話がある。扉を開けよ」

 

 そういうことで、やって来たタマモの私室。

 声をかけると、中から反応があった。


「なんじゃ、突然……いつも通り、勝手に入って構わないのじゃ」


「では、入るぞ」


 扉越しに許可をもらったので、魔王は遠慮なく扉を開けた。


 そして見えたのは、裸のタマモだった。


 彼女の部屋は『タタミ』という、ホドの床敷材料が敷かれている。中央には囲炉裏があって、壁や天井などは木材で構成されていた。


 魔王城ではあまり見ない作りの部屋である。

 その中で、タマモはキセルを吹かしながら寝そべっていた。


 裸で。うん、やっぱり裸だよな……見間違えではなかった。


「ん? 勇者も一緒なのじゃな」


「……いや、隠せよ」


 彼女はとても堂々としている。

 隠す素振り見せずに、のほほんとしていた。


「ほう? わらわの裸、隠すほどの価値があると言ってくれるのか?」


「ま、まぁ……な」


「嬉しいことを言ってくれるのう。ご褒美にもっと見ていいのじゃ」


「くっ……これくらいの誘惑に俺が負けるとでも思っているのか!?」


「勇者よ。目が血走っているぞ? 妻が隣に居るのだ。自重せよ」


 隣から魔王がお尻をペチンと叩いた。


「まったくっ。勇者は色に弱い」


 魔王はぷっくりと頬を膨らませて、俺をジトっと睨んでいる。

 ごめん……欲望に抗えなかった。


 おかしいなぁ……前は別に、タマモくらいの体つきで興奮することなんてなかったのに。

 いつの間にか性癖が変わっている気がする。


「冗談じゃ。魔王、あまり拗ねるでない……どれ、茶でも出してやるのじゃ。座れ」


 キセルを置いて、タマモはようやく立ち上がった。

 床に脱ぎ捨ててあった羽織に袖を通してから、彼女は部屋の奥に消えていく。


 お言葉に甘えて、俺は座布団に腰を下ろした。

 そして、魔王は俺の上に腰を下ろした。


「……座布団は二つあるのじゃが」


「大丈夫だ。我と勇者はラブラブだからなっ」


「そうなのじゃな。うむ、仲睦まじいのは良きことじゃ」


 孫を見るような目で微笑むタマモ。

 ともすれば誰よりも、タマモは俺と魔王の結婚を喜んでいる。どうも、魔王や俺が可愛くて仕方ないらしい。


 彼女は永きを生きる妖狐である。俺と魔王なんて、小さな子供に過ぎないのだろう。

 だから基本的に、タマモは俺と魔王に甘い。


「ほれ、茶じゃ。菓子もある。たくさん飲んで、食べると良い。おかわりもあるのじゃ」


 嬉しそうに、俺たちのことをもてなしてくれていた。

 こうやって喜んでくれるなら悪くない。これからは用事がなくてもたまに訪れても良いかも。


 だが、今は聞きたいことがあって赴いたのだ。

 いつまでも和んではいられない。 


「タマモよ。貴様に聞きたいことがあるのだ」


 お茶とお菓子を食べてまったりした後に、魔王が話を切り出した。


「実は、現在魔王城にニンジャが来ていてな――」


 それから魔王は、ホドからの伝言について説明する。

 タマモはキセルを吹かしながら、然程表情を変えずに話に耳を傾けていた。


「ホドから、客人なのじゃな……しかも、助力を求めているとはのう」


 魔王の話を一通り聞いて、タマモは肩をすくめる。


「あの世界が助けを求めている理由は、二つ考えられるのじゃ。一つは他世界からの侵略者。戦力が不足していれば、あるいは魔族にも助力を求めるかもしれないのじゃが……それは、考えにくいのう。魔族に匹敵する種族が危機に瀕するなど――ありえないのじゃ」


 考えられる理由のうち、一つはタマモ自身が否定した。


「じゃから、まぁ……十中八九、お家騒動じゃな」


 そして、考えられる二つ目の理由を耳にして、魔王が首を傾げた。


「どういうことだ? お家騒動とは……つまり、身内同士の喧嘩であろう?」


「そうじゃ。あの世界は、実力主義の魔界と違って色々複雑でのう……君主となる者は、血筋が大きく関係するのじゃ。王の血筋じゃなければ、君主になれないということじゃな」


 魔界で魔王になりたければ魔王をぶっ殺せばいい。

 しかし、ホドはそこまで単純な世界ではないようだ。


「血筋こそが君主の証であるなら、その証を持つ者は複数現れる。例えば兄弟。兄と弟、二つの人物が君主の証を持ち、どちらも君主になろうとした場合に起きるのが――お家騒動じゃ」


 俺たちの概念で言うところの、内部分裂に似たようなものだろう。


「お家騒動で、ホドは複数に分かれている。そして一方の勢力が、魔族に助力を求めている――と、わらわは予想しておるのじゃ。そして恐らく、これは当たっているじゃろう」


 タマモは自身満々に胸を張って言う。

 だが、それはそれでおかしいと俺は思った。


「タマモがホドにいたのって、大分前だろ? 時間の経過で、お家騒動とかなくなってる可能性もあるんじゃないか?」


「ない。エルフ以上に閉鎖的で、変化よりも停滞を美とする阿呆ばかりいる世界じゃ。あの世界はどれほど時が経とうと、変化するわけがないじゃろうな」


 タマモは俺の言葉を一蹴する。

 やはり、ホド出身者の言葉には説得力があった。


 なるほどな。つまり魔族は、内部分裂に勝つための戦力として期待されているらしい。


「で、どうするのじゃ?」


「行く」


 タマモの問いかけに、魔王は即答した。


「あやつらに貸しを作れる機会だ。悪くない」


「……わらわは、お主がおもらししていた頃から知己なのじゃ。嘘をついてるのは分かっておる。本当の理由を言うのじゃ」


「くっ……ゆ、勇者との新婚旅行に、丁度良いかと思ったのだっ」


 お姉さん的存在であるタマモに、魔王もあまり頭が上がらないのか。

 あっさりと素直になった。


「なんだよ、魔王……可愛いこと言いやがって! よし、ホド旅行だ!!」


 ついでに俺も素直になった。

 ホドといえば、独特の文化が形成されているらしい。お酒にも料理にも期待できるだろう。あと、やっぱり生でハラキリが見たかったのである。


「勇者も乗り気か! くくっ……楽しい旅行にしようではないか」


 と、いうことで俺たちはホドに行くことにするのだった。


「わらわに話を聞きに来た意味があるのかどうか、そのあたりは分からないがのう……旅行を楽しむのは悪いことではないのじゃ。どれ、わらわも一緒についていって、ホドの名所を案内してやるのじゃ」


 タマモも一緒に行くらしい。

 他にも何人か声をかけてみるか。


 さて、果たしてどんな波乱が待ってるのか分からないけど……とにかく、楽しい思い出を作れたらいいなと思いました。

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