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第六十二話 祝福の宴

「――はっ」


 ふと意識を取り戻した時には、朝だった。

 窓から差し込む朝日を浴びながら、俺はふと思い出す。


「そうか、俺……魔王とエロいことしてたら、我を失って……」


 ユメノの魔法のせいで、俺の性欲は散々に押さえつけられていたらしい。

 解放したら、爆発したのだ。エロいことをしたというのに、鮮明な記憶がない。無我夢中になっていたようだ。


 ちょっともったいなかった。でもまぁ、断片的には覚えているので良しとしよう。


 一言で、童貞を卒業した感想を表現するなら……『気持ち良かった』に尽きるな。

 世のカップルや夫婦が日々行為に及ぶ理由が分かった。これ、なかなかやめられそうにない。


 ただ、快楽のための行為ではないのだ。お互いが、お互いを好きと認識していることを確認する、神聖な儀式でもある。


 心と体が繋がった時、脳内に麻薬が流れ込むかのような快楽が押し寄せるのである。

 最高だった……あ、思い出したらまたムラムラしてきたな。


「…………」


 無言で、隣を見る。そこでは魔王がすやすや眠っていた。

 裸で。


 これはもう襲うしかないだろう。そう思って手を伸ばしたその時、魔王が目をパチリと開いた。


「……ひ、ひぐぅ」


 そして彼女は、涙目になって首をブンブンと横に振った。

 え? 可愛いけど、何で?


「ま、待つのだ勇者っ……流石の我でも、初めてがあのように激しくては、回復に時間がかかる! 降参だ……これ以上はバカになるのだっ。今じゃなくて、夜にしてくれ……頼む」


 昨夜、やっぱり俺は性獣になっていたらしい。

 どうやら、勇者と魔王の夜の決戦は、俺の圧勝で幕を下ろしたようだ。魔王が降参している。


 らしくない弱々しい姿だ。酷くそそられる。

 たまらなかったので、もちろん朝の決戦へと移った。






「た、立てない……くそ、やりすぎだぞ勇者っ。今まで躊躇っていたくせに、枷が外れたらこうも自制が聞かなくなるのか? もっと、優しくするのだっ」


「ご、ごめん……」


 流石に反省して、魔王にぺこぺこと頭を下げる。

 お風呂場で、動けない魔王を丁寧に洗いながら、むくれた彼女に謝り続けた。


「魔王がエロ過ぎて、我慢できないんだ。ごめんな、可愛いお前に欲情しちゃって」


「ふ、ふんっ……可愛いとか言うなっ。我は怒っているのだぞ。別に、喜んでなどないからなっ」


 とかなんとか言いつつも、頬が緩んでいる。相変わらずチョロイなぁ……


「勇者よ。我はな、ダメとは言ってないのだ。でもな、我の体はとても小さい……その分、負担も大きいのだぞ? もう少し労わるのだ、バカ者めっ」


「ごめんごめん」


 なんだかんだ受け入れてくれる魔王に、俺もまた頬を緩める。

 こんな可愛いのが俺の嫁とか、なんて幸せなのだろう……一生大事にしようと思った。


「だから、その……今夜は、もう少しジックリがいい。激しいのも、悪くはないが」


「……魔王って、結構淫乱だよな」


「勇者にだけは、淫乱なのだっ」


 そっぽを向く魔王は、以前より表情が豊かになっているような気がする。

 昨日、しっかりと話し合って良かった。魔王とより打ち解けられた気がする。


 夫婦らしく、なれているだろうか……そうだったら、いいなって思った。






「あ! ようやく来ましたねっ。おめでとうございますぅ~! 魔王様、勇者様! 宴の準備はできてますよっ」


 お風呂から上がってすぐに、大広間に呼ばれたので行ってみれば、そこは既に宴会場だった。


「こ、これは何だ……ユメノ!」


 酒を飲み、料理を食らい、はしたなく大口開けて騒いでいる魔族一同を見て魔王は声を上げる。


 首謀者らしきロリ巨乳サキュバスは、珍しく酒の匂いをまき散らしながらふらふらと寄ってきた。


「魔王様、処女卒業おめでとうございますぅ~。僭越ながら、おめでたいことなので配下の者達に命令して、宴の席を用意したんですよぉ~」


 魔王の体にもたれかかるユメノ。顔がかなり赤かった。大分酒を飲んでいるようだ……これは酔ってるな。


「なっ――!? こ、このような催しを、我は許可してないぞ!?」


 一方の魔王は、違う意味で顔を真っ赤にしていた。自身のプライベートなことが周知された挙句、祝福までされているのだから無理もない。


 ご丁寧に、お赤飯まで用意されていた。五帝が頑張ったのだろう、かなり上等な赤飯である……これみよがしに赤飯が置かれてるものだから、この場にいるみんなはきっと魔王に何が起きたのか理解しているようだ。


「グヘヘ、魔王様も大人になりやしたね!」


「ガハハ、体は子供ですけどね!」


「フハハ! よっ、ロリコン勇者! あんたもなかなかやるじゃねぇか!」


「ひゅ~ひゅ~」


 広間の至るところからはやし立てるような声も上がっていた。


「っ~~~……後で覚えてろよ、阿呆共めっ」


 恥辱に震える魔王は、それはそれで可愛い。暫くそのまま鑑賞を楽しんだ。


「ユメノ……そろそろ、性交の許可を出そうかなと思っていたのだが、残念だったな。貴様は我の機嫌を損ねた」


「っ!? そ、そんな! あんまりですよっ。許可ください! 何でもします、お願いしますからぁあああああ!!」


 ユメノはどうやら墓穴を掘ってしまったらしい。魔王はふてくされていた。


「ごめんなさいっ。ちょっと嫉妬しちゃっただけなんです! 魔王様が私より先に大人になったから、ヤケになっていただけなんですっ。どうか、この通り……エッチを、させてください!!」


 土下座して這いつくばるユメノに、魔王は見向きもしない。


「一生処女のままでいろ」


 無慈悲な宣告である……ユメノは途端に泣いて、次の酒瓶のところに走って行った。


「魔王様のあほぉおおおおお!!」


 ……今回は自業自得のような。

 まぁ、いい。頑張れユメノ。応援してるからな!


 そんなことを思いながら後ろ姿を見送っていると、今度は残りの四天王が顔を出した。


「やや、これは盛り上がってますな」


「めでたい席じゃからのう。妾からしてみれば、ようやくかとい言いたいところじゃが」


「……まったくだ。ここまで魔王様をお待たせするとは、情けない勇者め!」


 スケルトンのスケさんに、妖狐のタマモに、龍神のドラゴである。

 三人は普段酒を飲まないのだが、この日は違ったようだ。


「どうじゃ? 勇者、魔王の具合は良かったじゃろう? 性戯も妾が仕込んだのじゃ、悪くないに決まっておる。楽しめたか?」


「……ま、まぁな」


「なんなら、妾も交ざって良いか? 最高の快楽を、味わえると思うのじゃ」


 タマモはあまり酒に強くないらしい。かなり酔っているようだ……俺に抱き着いて、無防備な姿をさらしている。


「ダメだ! 勇者は、我だけのものだっ」


「なんじゃっ。独り占めか? 妾にも楽しませろっ」


 しかし魔王がタマモを引き剥がした。

 すると、タマモがそのまま魔王に絡み始める。あっちはあっちで放っておこう……またタマモに絡まれたら、魔王の機嫌が悪くなるし。


「いや~。今日は良き日ですぞ! 魔王君がようやく跡継ぎを残す準備を始めたのですからな……勇者君、頑張りたまえ。元気な子供を、頼みますぞ?」


 酒をあおるスケさん。口から入れているのはいいが、骨しかないので顎から下に落ちて飲めてなかった。何やってるんだろうこの骨は……


「お前はダメ人間だが、遺伝子には価値がある。魔王軍が養ってやってるのだから、子供くらいはしっかりと残せよ」


 そしてドラゴはなんか偉そうだった。酒が入ったら説教するタイプらしい。でも言ってることは間違ってないので何も言い返せなかった。


 調子乗りやがって……覚えてろよ、後で魔王に言いつけてパワハラさせてやる!


「ありがとう、二人とも。跡継ぎのことは、俺に任せてくれ!」


 とりあえずそれだけを言って、この場を離れる。

 そのままだと、また絡まれると思ったのだ。やかましいので、別の場所を探すことにしよう。

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