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第六十話 お風呂

 第四世界『ケセド』の死霊族アンデッドを壊滅させた。

 そのことをを魔王城で報告して、一連の騒動は終わりを迎えた。


 後始末は四天王を中心として、称号持ちがやってくれるらしい。


「ゆっくりしてください。魔王様とお二人で、どうぞ……ごゆっくり!! うわぁああああん! 私もエッチしたいいいいいいい!!」


「ユメノも発情期じゃのう。やれやれ、あちらはわらわに任せるのじゃ。魔王、教えた房中術をしっかりと使うのじゃぞ?」


「魔王君、勇者君、しっかりと子作りに励むように。お二人の子供となれば、さぞかし素晴らしい魔王になるでしょうからな」


「……勇者、優しくしてさしあげろよ」


 何やら、気をつかわれているようだった。

 ユメノ、タマモ、スケさん、ドラゴという順に好き勝手言っている。おいおい、本当にそういうことするかどうかは分からないから……いや、する可能性もあるけどさ。


「余計なお世話だ、阿呆共め! いいから散れ!!」


 未だ俺に抱かれている魔王が、そう言い放って四天王を追い払う。

 これで俺たちは二人きりになった。


「さ、さて、勇者よ……部屋に行くか」


「う、うん。そうだな。部屋に行くか」


 四天王のせいでなんか変な雰囲気になりつつも、俺は魔王の部屋へと向かう。

 俺と魔王の、愛の巣だ。


 到着して、魔王をベッドに下ろす。 


「大丈夫か? 体力、戻ってるか?」


「うむ……勇者のおかげで大分良くなった。普通に生活できるくらいには回復している」


 先代魔王に魔力を奪われていたが、持ち前の回復力で少しは力を取り戻したらしい。


「「…………」」


 そしてやってくる沈黙。なんだこれ……付き合いたてのカップルかよ。

 どことなく新鮮な感覚である。俺と魔王は手を組んだ時からずっと仲良しなので、こんな風にお互いを意識してそわそわしたことがなかった。


 でも、いつまでもこのままいるわけにもいかない。


「……とりあえず、お風呂入らないか? 俺、汗でべとべとだ」


 沈黙は、俺が先に破る。魔王は視線をきょろきょろと動かしながら、こくんと頷いた。


「そ、そうだなっ。お風呂、入ろう」


 魔王もいつもとは様子がおかしい……こっちまで恥ずかしくなるんですけど!?


「あー、もう! さっさと行くぞっ」


 むずがゆくなって、俺は衣服を脱ぎ捨てる。

 ここで躊躇ってはいけない。勢いに身を任せるのが吉だと思ったのだ。


「ゆ、勇者よ……見られてると、恥ずかしいのだが」


 一方で、魔王はやけにもじもじしていた。なんだよ、こいつ……昨日まで俺と普通にお風呂入ってたくせに。 


「何を今更……ほら、早く魔王も脱げよ。いつも通り、すっぽんぽんになれ!」


「わ、我がいつも裸みたいな言い方するでない! ちゃんと衣服は着てるっ」


「裸と大して変わんない恰好してて、今更恥ずかしがるなよっ」


 マントとひもみたいな下着を強引に剥ぎ取ってやった。魔王は素っ裸になる。


「う、うぅ……はずかしいのだっ。いつもは何ともないのに、今日はダメなのだ……」


 褐色の肌が晒される。魔王は顔を真っ赤にしながら、局部を手で隠そうとしていた。その仕草やめろ……無意味だから。


「くっ、これなら世界を一つ滅ぼした方がマシだっ。この恥辱心に耐えられない……み、見るなぁ。勇者、今日の我はおかしいのだっ。こんな我を、見ないでくれっ」


 悔しそうな表情で赤面するという謎の感情を表現する魔王。

 いいかげんお風呂入りたいので、小脇に抱えて連れて行くことにした。


 お風呂場にて、魔王と一緒に体を洗う。魔王が一向に動こうとしないので、仕方なく俺が洗ってあげることにした。


「……勇者の体、逞しいな。手も、大きい」


「毎日見てるだろ……って、いつもと立場逆じゃないか?」


 普通なら俺がお世話されている方なので、今日はどことなく不思議な感じがした。

 前までは、魔王は俺にお世話されることを拒んでいたのである。これは、少し心境の変化があったと見ていいのかもしれない。


 今回の、死霊族との戦いを通して……俺と魔王の関係も、少しは前進できたのだろうか。

 それを、今からしっかりと確認しなければならないだろう。


 そんなことを考えながら、一通り体を綺麗にした俺たちは湯船に浸かることにした。


 狭い浴槽で、身を寄せ合う。魔王の体温を直に感じた。

 熱い。お風呂に入っているからというのもあるだろうが、やはり魔王の体が熱い。


 風邪、ではないだろう。魔王の様子から体調が悪くないことは分かる。

 だとしたら、やはり……興奮しているのかもしれなかった。


 期待、してるんだろうなぁ……息も荒いし、そわそわしてるし、何よりドキドキという激しい鼓動が伝わってくるのである。


「魔王……ドキドキしすぎじゃないか? 鼓動が聞こえてくるんだけど」


「なっ――!?」


 指摘されたのがまた恥ずかしくなったのか、魔王は涙目になりながら狼狽える。


「そ、そうか……ちょっと待て。今すぐ止める!」


「おいおいおいおい! やめろ、心臓止めたら死ぬから!」


「だ、だってぇ……うぅ、卑怯だぞ! 勇者が近くにいるだけでドキドキするのに、裸で一緒にお風呂なんか入ったらこうなるに決まってるだろうが!!」


「えぇ……そんなこと言われても」


 言いがかりすぎて困った。


「そう言う勇者はどうなのだ!? 貴様の心音も聞かせて――って、ぁ」


 魔王が俺の胸に耳を押し付ける。あ、バカ……っ!


「勇者もドキドキしてるではないかっ」


 そうなのだ。俺だって、大好きな魔王を前に平常心でいられるわけがないのである。ドキドキするのも当たり前である。


「お互い様だから……その、落ち着け。な?」


「……勇者も、同じなのか。だったら、おちちゅく」


 噛んでるし、本当に落ち着いてるかどうかはよく分からないが。


「まずはお風呂だ。ゆっくりと、体を温めよう」


 とにかく疲れを癒すために、俺と魔王は無言で湯船に浸かるのだった。

 やれやれ……ただお風呂に入るだけで、こんなに波乱があるとは。


 この後、果たして本当に大丈夫なのだろうか――?

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