表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/143

第五十話 六魔侯爵

 これはちょうど、勇者がエルフの世界イェソドで握手会をしていた頃の話。


「むむ……勇者殿を興奮させる方法、何かありますかね」


 人間界『マルクト』では、六魔侯爵が会合を開いていた。


「私にはさっぱり。戦いについては心得がありますが、もう枯れてしまった老木故に……性欲なんぞ感じたのは、大分前でありましてな」


 マルクトの南方、六人の魔族は青空の下で円卓を囲っていた。

 話を仕切るのは、黒魔侯爵のタナカさんである。眼鏡にスーツを着た初老の男性が肩をすくめていた。


「このあたりはアルプ殿の領分かと思いますが」


「……そうね。サキュバスの得意分野ね」


 タナカさんに話を振られたのは、局部のみしか隠していない淫魔侯爵のアルプ。魔界随一ともいわれるおっぱいの持ち主である彼女は、自身の胸を揺らしながら妖艶に笑っていた。


「ふふっ……腕が鳴るわ」


「あれー? でも、勇者さんろりこんだよねっ? アルプさんのおっぱいって、ろりこんも好きになれるのかなっ?」


 弾む声を上げたのは、獣魔侯爵のシロ。白髪で、犬耳と犬尻尾がついた元気いっぱいの女の子だ。


「大丈夫よ。だって、私はサキュバスよ? ロリコンでも関係ないわ」


「んー、四天王のユメノさんでもダメなのに? アルプさんはユメノさんより上ってこと!? すっごーい!!」


 無邪気に目を輝かせるシロに、アルプは引きつった笑みを返す。


「……も、もちろんよ。そろそろ、あのユメノとかいうクソガキより、私の方が上ってことを知らしめてやるわ……見てなさい、シロ。私の色気で、勇者を懐柔するわ」


「うん! がんばって!!」


 強がるアルプ。無垢に応援するシロ。そんな二人を見て、タナカさんはため息をつく。


「……現実的に考えたら、幼いサキュバスを差し向けた方が合理的かと思いますがな。まぁ、アルプ殿に任せましょう。で、シロ殿は何かありますかな?」


「うん! ボクね、いっぱいペロペロしたら勇者さんも元気になると思うの!!」


「そうですか。獣魔のことはあまりよく知らないので、シロ殿も考えがあるのならそれで良いですな」


 ペロペロの意味がよく分からないタナカさんは、そのまま流して他の六魔侯爵に目を向ける。


「で、問題はそちらの三人です。悪魔侯爵のデビルさん? 何ニヤニヤ笑ってるんですか」


 と、ここでタナカさんが話を向けたのは、悪魔軍を統べる長――悪魔侯爵の『デビル』であった。


 筋骨隆々の魔族で、凶悪そうな角や尻尾、牙を持つ恐ろしそうな魔族である。戦闘民族といわれる魔族の中で、更に武闘派な一族の者だ。


「んだよ、タナカ……簡単は話じゃねぇか。ようは、女を抱く気分になれないってことだろ? だったら、楽勝すぎて笑っちまうよ」


 自信満々である。テーブルの上にのっけた足を組み替えながら、デビルは一言。


「女がダメなら、男だろうが!! 悪魔軍でも活きのいい男を数人用意する。それで問題ねぇぜ!」


 実はこの悪魔、戦いにこそ秀でているが、頭が酷く弱い。

 タナカさんは悩まし気にこめかみを抑えながら、ため息をついた。


「…………いえ、何も言いますまい。物は試しです。万が一という可能性もありましょう。で、その活きのいい男は了承してくれますかな?」


「了承なんてとる必要ねぇよ。俺様がヤレって言うんだ。ヤルに決まってるだろ」


 悪魔族は、強きこそ正義の一族である。

 強者の命令なら弱者は断れない。その魔族を思って、タナカさんは同情した。


「勇者殿の性癖がおかしなことになってないことを祈りましょう。で、討魔侯爵のエクソ殿は?」


 次に意識を向けたのは、討魔侯爵のエクソ。

 十字架を胸に抱いた、全身黒ローブの魔族だ。顔まで見えない彼だか彼女とも知れぬエクソは、ゆっくりと親指を掲げる。


「…………!」


 まるで、問題ないと言わんばかりにサムズアップしていた。見た目の割に陽気な性格なのである。


 しかしタナカさんにはよく分からない。そもそも意思疎通ができないので、エクソに関しては匙を投げる。


「分かりました。任せましたよ」


 そう言うと、今度は喜びを表現しているのか小躍りし始めた。やっぱりよく分からない存在なので、タナカさんは無視する。


「さて、神魔侯爵……プリスト殿は――って、聞いてますかな?」


 そして最後に、白無垢姿の神魔侯爵であるプリストに言葉をかける。魔界における回復役である神魔軍をまとめる彼女は今、机の上にだらしなく伸びていた。


「ぅふぃ……らいじょうぶぅ」


 呂律も回っていない。目がトロンとしており、唇の端からは涎が垂れている。完璧に寝ていたようだ。


「ねてない。自分は、ねておりませんのでぇ」


「では、策はあるということでよろしいですかな?」


「…………うん? まかせていいよー?」


「語尾に疑問符がついているのですが、任せましたよ。やれやれ、まともなのが一人もいないところが、六魔侯爵の弱点ですな」


 頭痛そうにタナカさんは唸る。

 アクの強いメンバーに彼はいつも悩まされるのだ。


「おいおい! タナカはどうなんだよこら!? てめぇは何もないとかいうつもりじゃねぇだろうな!!」


「いえ、そんなことはありません。そうですな、私は――配下の者に一人、うってつけの存在がいます。その方に任せることにしましょう」


 デビルの言葉に、タナカさんは答える。

 彼の黒魔軍にも一人、ロリコンになっている勇者が好みそうな存在がいたらしい。これで六魔侯爵の、勇者を興奮させる六の手法が揃ったようだ。


「では、勇者殿が来るまでに準備を済ませておくように」


 こうして、六魔侯爵の会合は終わる。


「あ! そういえば、マルクトに侵入してた死霊族食べちゃったんだけど、美味しくなかったよ!!」


「シロ殿、あまり無闇に捕食しないように……」


「それにしても雑魚だったぞゴラァ!! たかが千程度だと暴れ足んねぇ」


「だからといって同族同士で喧嘩しないように……」


「あらあら、野蛮ね。私達サキュバスは精を吸収できて、みんな喜んでいたけれど」


「死んでる者から精気をとらぬように……」


「ふわぁ。死んだら、いっぱいねむれるかなー?」


「だからと言って死なないように……」


「っ! っ! っ!」


「せめて何か言葉を口にするように……」


 去り際に交わされた雑談の方が重大そうだが、六魔侯爵は世間話をするような態度であった。


 個性は強いが、これでも魔族における実力者たち。

 人間界の統治、というやるべきことはきちんとこなしているのだ――

お読みくださりありがとうございます。

このたび、私の書いているもう一つの作品『異世界でチート無双してハーレム作りたいのに強すぎてみんな怖がるんですけど』が書籍化することになりました。

もし気分が向いたら、こちらもよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ