第百三十五話 英雄賛歌その十三『使命と責務』
――そしてデビルは、勇者と顔を合わせた。
殺風景な荒野にて。対面する二人はお互いを睨み合う。
「よくもまぁ、ほいほいと来れたな。てめぇにとっては仲間を助けるためなんだろうけどよ……その仲間に逃げられるってのは、流石の俺様でも予想外だったぜ」
デビルの言葉に、勇者は動じない。剣を握る彼はただひたすらに戦意を研ぎ澄ませていた。
「別に構わない。あいつらが助かるのなら、それでいい。見返りなんて求めてない」
「……敵ながら、てめぇには同情するぜ。俺様なら、あんな奴ら仲間なんて思えねぇ、速攻でぶん殴るだろうな」
そう。勇者は先程、仲間である僧侶と戦士に呼ばれてこの魔界を訪れた。魔法使いと騎士が人質になっていると聞いていたので彼は迷わず駆けつけたのである。
デビルの目的は勇者と戦うことだ。その勇者が来てくれたので、人質にはもう用がない。約束通り二人を解放すると同時、なんと彼らは勇者を置き去りにして逃げていった。
勇者はその後ろ姿を眺めるだけで声をかけることすらなく四人を見送った。
置き去りにされて、いいように利用されている勇者に、敵ながらデビルも同情している。
「ああいう、軟弱な奴らを見るとイライラしちまうぜ……! 情けねぇ」
「…………」
デビルの怒りをにじませた言葉を、しかし勇者は否定しなかった。表情は動かさないが、その無言はデビルの言葉に同意しているようにも見える。
「俺様は考えるのが嫌いだからよぉ、てめぇが何を思ってるのかは知らねぇぜ? だけどな、仲間は選んだ方がいいんじゃねぇか?」
「……そうだな」
ここまで言われては、勇者も無言のままでいることはできなかった。ほんの少しだけ頬を緩めた彼は、苦笑しながら首を縦に振る。
「最悪、だよなぁ……なんか、悪い。お前は敵なのにな、同情してくれてありがとう。俺だって、あいつらに思うところがないわけじゃない。だけど、やっぱり俺は勇者だから……あんな奴らだろうと、守らないといけない。それが、俺という勇者に課せられた『使命』と『責務』だから」
そして勇者は、剣を掲げる。余計なお喋りはおしまいだと言わんばかりに。
「お前、俺と戦いたいんだろ? そろそろ始めよう……お前が望むままに、敗北を与えてやるよ」
「……おいおい、、面白いじゃねぇかよ! たかが人間が、俺様に勝つ? 笑わせるな……やってみせてくれ、勇者!」
勇者の好戦的な言葉を受けて、デビルもまた戦意を昂らせた。
「やっぱり、俺様はうじうじ考えるより殴る方が好きだな! さぁ、始めよう……てめぇとなら、最高の時間を過ごせそうだ!!」
「ああ。お前と戦えば、日頃の悩みも吹き飛びそうだよ」
勇者にしては珍しく、楽しそうな笑顔。久しぶりに彼は強者と戦えることに喜んでいた。
デビルは頭が悪いが、だからこそ彼が戦いに求めるものはシンプルだ。
『どちらがより強いのか』
二人の戦いは、自分が強いことを証明するためだけのもの。
策もない。虚実もない。ただ真正面から激突し、殴り合うだけの野蛮な戦いだ。
だがしかし、二人は最後まで笑いながらぶつかり合う。
そして――その戦いに勝利したのは、勇者だった。
「強いじぇねぇか……やっぱりてめぇは、最高だ」
戦いを終えて、デビルは倒れながら勇者に言葉をかける。
「また、戦おうぜ。次は俺様が勝つ。だから俺様を殺すんじゃねぇぞ?」
斬新な命乞いの言葉に、勇者は苦笑しながら首を縦に振るのだった。
「そうだな……お前とまた戦えたら、楽しいかもな」
それだけを言って、勇者はこの場を立ち去る。
また、戦い合うことを約束して――
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このたび、新作『魔族と一緒に封印された勇者は魔王城で余生を過ごす ~魔王よ、戦いはもういいからのんびりスローライフしないか?~』を連載しました。
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