第百三十五話 英雄賛歌エピローグ『そして勇者と魔王は今――』
「――こうして勇者は魔王の部下を次々と倒し、最終的には魔王の心を奪いましたとさ。そして今も二人は、魔界のお城で二人仲良く暮らしていくでしょう」
第十世界『マルクト』。
通称人間界と呼ばれるその場所では、先程まで吟遊詩人がおとぎ話を語っていた。
お城の広場には多くの子供たちが集まっている。みんなおとぎ話を聞き終えて、物足りなさそうな顔をしていた。
「ねぇねぇ、それからどうなったのー?」
「魔王と勇者は戦わなかったのー?」
子供たちはまだ物足りないらしい。それらの言葉を聞きながら、吟遊詩人は苦笑して肩をすくめた。
「だから、現在進行形のおとぎ話と言っているだろう? 勇者も魔王もまだ死んでない。ただ、二人の戦いの日々は終わったのさ……このおとぎ話には、英雄の死などという悲劇的な結末はない。敵役の死という勧善懲悪なオチもないのだよ。ただ二人は、幸せになれた――それがこのおとぎ話の終着点さ」
「だからこそ……これはとても素敵なお話です。皆さんもいつか、このおとぎ話のすばらしさが分かるときが来ます。英雄なんてこの世界には要りません……物語なんて生まれないほどに、平凡な世界こそが理想なのです。そうなるように、一緒に頑張りましょう……そろそろ時間も遅くなります。皆さん、お家へ帰りましょうか」
吟遊詩人に続いて声を上げたのは、子供たちと一緒におとぎ話を聞いていて現人間界のお姫様『セーラ・マルクト』である。
彼女の一言もあって、子供たちはやや不満そうではあるものの、広場から去って行った。
そんな子供たちの後ろ姿を眺めながら、セーラは微笑む。
「嬉しそうだね」
「はい。子供たちが元気に生きてる……それがとても嬉しいです。あの方が守り抜いた世界がどんなに幸せであるか、実感します」
セーラが脳裏に浮かべている人物は、かつて人間界を救った英雄――勇者だった。
彼のおかげで人間界は今、平穏な毎日を過ごせている。
それが彼女はとても嬉しかったのだ。
「――ハッピーエンドとは、まさにこれですな。ではでは、私はこれにて去りましょう。また違う世界で、物語を紡ぎたいと思います」
吟遊詩人は朗らかに笑い、その場を去っていく。
そんな彼に手を振るセーラは、なおも微笑んだままだった。
「どうか……あの方が――勇者様が、今も幸せでありますように」
彼女は想う。英雄の幸せを。
どこか違う世界で、彼が笑っていますように、と――
――そんな勇者は今。
「おぎゃぁ……ママぁ、みるくほちいよぉ」
「やれやれ、まったく……大きな赤ちゃんだな。仕方ない、我のミルクでも飲むといい」
幼女に膝枕されながら、哺乳瓶でミルクを飲んでいた。
「ちゅぱちゅぱっ。おいちぃ」
「よしよし。たくさん飲むのだぞっ」
まったくもって情けない姿だが、一応彼はかつて人間界を守り抜いた勇者である。
幼女にバブバブしている彼は、かつて精悍だった勇者とは思えない。
だが、彼はそれでいいのだ。
なぜならもう、勇者は『勇者』じゃない。
彼は一人の人間として、魔王に愛されている。ただそれだけの存在なのだから。
「勇者……これからもたくさん。我に甘えるのだぞ? 遠慮なんてしたらダメだからな!」
「おう! たくさん甘えてやる……あ、ムラムラしたから今夜も甘やかしてくれっ」
「くくっ……上等だ。何なら今からでも、我が勇者を快楽に導いてやる!」
そして二人は、いつものようにイチャイチャし続ける。
かつて争い合った魔王と勇者は、とても幸せそうだった。
こうして二人の物語は終わる。
むせかえりそうなほどの幸せの中で、二人はこれからも永遠に愛し合うのだった――
『勇者だけど、魔王から世界を半分もらって裏切ることにした』~完結~
お読みくださりありがとうございます!
作者の八神鏡です。突然で申し訳ないのですが、『勇者だけど、魔王から世界を半分もらって裏切ることにした』はこれにて完結となります。
読者様にとっては急な終わりとなったかもしれません。申し訳ないです。
ただ、これからも時間をとれそうになく、更新が難しい状況が続きそうでした。
そんな中で、この物語を放置するのはちょっと良くないかなと思い、こうしてひとまず区切ることにした次第です。ご理解いただけると嬉しいです。
完結とはなりましたが、これからも何かあれば小話を書きたいなと思っております。
今作は、私の好きなバブミを題材にしました。打ち切りとはなりましたが、書籍化もできて嬉しかったです。可愛いイラストも見れて満足でした。
こうして物語を終わらせてあげることが出来て、私もほっとしております。
今まで読んでくれて、本当にありがとうございました!
2018年8月1日 八神鏡




