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最悪のファーストコンタクト

おれ は ぎんぱつようじょ を ひろった!


 俺はすぐに拾得物の様子を確認する。

 拾得物、すなわち落とし物。日本国憲法では落とし物を拾った日の翌日から一週間以内に警察に届け出を出し、なおかつ落とし主に落とし物が返還された一カ月以内なら、落とし物の価格の100分の5以上100分の20以下に相当する額を請求することができる。ここは異世界なので日本の法律が通用するわけではないが、善意に金が要求できるいい法律だと思う。しかしこの異世界で法整備はされているのか。どの程度の文化レベルなのだろう。抜け道を考えるのが今から楽しみだ。

 さて、この拾得物をじっくりと頭の先から足の裏まで舐めまわすように観察した結果、とてもいいことがわかった。この幼女はそれなりに高い身分のお嬢様だ。

 異世界での価値観がまだわからないので確定ではないが、こんな山と川しかない大自然に置き去りにされているにしては、着ている服に汚れがほとんどない。真っ白な肌にも土埃ひとつない。そして着ているのは、自然色では明らかにない、金ぴかで色彩のはっきりした服。ゆったりとした袖は十二単に似ているだろうか。明らかに動きやすい服ではない。つまり日に当たる必要がなく、金に服をかけられるが働かなくてもいい身分の人間なのだ。さっそくの金づるである。

 出だしから好調だが、しかし不審な点はある。見たところ十歳くらいだと思うのだが、こんな山奥に服を汚さず(・・・・・)倒れているというのはどういうことだろう。ここまで何らかの交通手段で来たのか、人に連れられてきたのか。何やら後ろ暗い匂いがぷんぷんする。

 まあ、それはそれとしてちょっと試してみよう。

 俺はさっきの羽根女の姿から、目の前の幼女へと『変身』してみる。豊満な女性の身体が、見る見るうちに早回しのように縮んでいく。成長する時の伸ばされる感覚とは違う、無理やり狭い場所に押し込まれるような圧迫感とでも言おうか。質量は一体どこにいっているんだ?しかし元々は赤ん坊の生後二千グラム程度の質量だったわけで、深く考えたら負けかもしれない。

 数秒後、幼女の着ている華美な服すらも寸分たがえず、俺は銀髪幼女の姿になっていた。やはり服を着ている人間を観察しても、服を着た状態にしか変身できないようだ。服を脱いだ姿に変身するには、服を脱がすしかないのか……くっ、リスキーだな……


「う、ううん……」


 銀髪幼女が身じろぎしたので俺は慌てる。流石に目の前に自分と同じ顔の人間が立っている、というのは心臓に悪いだろう。羽根が生えた女も却下。この幼女には羽根が生えてない。

 さてどうするか。


「うっ、ああ……お、お父様!」


 がば、と幼女が物騒な寝言とともに起き上がる。あじさい色の瞳がきょろきょろと辺りを見回す。

 俺の変身は間に合ったとも言えるし、そうでないとも言える。

 キュリアは変身したい身体について「具体的に思い浮かべなければならない」と言った。だから自分のことのようによくわかる――生前の俺の姿になったのだった。

 しかし俺は失念していた。人間の身体感覚、というのは服は身体の一部と捉えていないということ。服を脱ぐときに皮膚を剥がれたように感じることはないように。

 だから俺の身体を再現しようと焦った結果。

 ――俺と幼女のファーストコンタクトは全裸だった。


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