真実
政府軍が回収したのは、テロリストの遺体とつぶれた車輌。
それに傷ついて動けなくなったカナタだった。
たった十数分で。
カナタは五十人あまりのテロリストを『排除』した。
「開発費が欲しかったのよ」
音声を切ったモニターに背をむけてソフィア博士が言った。
五十鈴から送られてくる映像にはカナタの姿が映し出されている。
カナタが両手首から長く鋭利な刃物を出してテロリストに襲いかかる。
恐ろしいほどのスピード。きっと人間の目では捉えられない。
わたしは思わず目をそむけた。
「自律システム開発にかかる費用は個人でどうにかできる金額じゃない」
カナタが放つ電撃が車を破壊した。
わずかに見えたカナタの顔は無表情だった。
「政府は九条に全面支援を申し出たわ。軍事用ロボットの開発と引き換えに」
優れた身体機能は救助用ではなく……返り血を浴び敵を殺すのがカナタのもうひとつの姿。
「ハルカのデータを見たでしょう? 九条は秘密を揉み消されないように、大勢の前でハルカを暴走させたのよ」
大きな被害がでることなどまるで無視して……ソフィア博士は声は平板だった。
「ハルカは原子力で動いていたのね」
だから汚染源は破壊されたハルカのボディだったんだ。原発事故ではなく。
「いまカナタの命とこの施設を支えているのはカナタのきょうだいたちとかつてのカナタの心臓。原子の火が消えるときがカナタが終わる日」
ムネノ ホノオガ キエルマデ……。
扉に刻まれた文字。
ギンガ・リュウセイ・ユキ・ハナ・トワ・クオン・イノリ・アカリ、そしてカナタ……。
「回収されたカナタ、帰還しました」
小川博士から報告が入った。
「カナタ!」
「行ったら駄目、ソラはここにいて。ロボットたちを迎えに」
はい、と職員が返事をした。
樹海から館内のカメラに画面が切り替わり、ストレッチャーに乗せられたカナタが映った。
目は見開かれたまま。全身傷と火傷を負ったようになり、着ていた服は破け血で汚れていた。ぴくりとも動かないカナタに救助用に開発されたロボットたちが群がった。
中にはふだんは掃除をしているものも混じる。
彼らはカナタをストレッチャーごと研究室へ運んでいく。
「……いずれここは無人になるのよ。だから今日みたいなケースがおこってもロボットだけで対応できるようにしてあるの」
「カナタは……ここから出られないの?」
「カナタが処分されなかったのはここの放射線物質を守るため。世界中から集められた核廃棄物があるのよ。きょうだいたちは封印されて発電装置に。ソラ、カナタをお願いね」
わたしは違和感を覚えてソフィア博士を見上げた。
「あなたはね、カナタの『お友だち』にするために連れてきたのよ」
ソフィア博士の瞳は冷徹だった。
「九条さえ……」
立ち上がりかけたソフィア博士は、不意に床に倒れた。
「林博士!」
小川博士が駆けよって来る。ソフィア博士の唇がかすかに動いていた。
……いなければ……
ソフィア博士の心の深淵を覗いたような気がして背中の毛が逆立った。