↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラとカナタ  作者: たびー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/14

展望室

 展望室につながるエレベーターの前で小川博士に会った。

「カナタを探してる?」

 くたびれた白衣を着て無精髭を伸ばした博士がわたしにたずねた。

「修理がすんだはずなのに、三日も部屋に戻らないの」

「確かに修理は終わったけど。施設のあちこちで過ごしてるみたいだね。マーカーも意図的にオフにしてる」

 うん、とわたしはうなずいた。

「でもたぶん展望室かなって……」

「考えることは同じだね。あ、拒否された。もう展望室にいるの確定」

 博士が苦笑した。

 エレベーターが反応しなかったのはカナタが操作したかららしい。

 博士は胸ポケットから銀色の鍵を取り出すと、コンソールを開けて鍵を挿した。

「無理やりにでも会いに行こう」

 博士はわたしを抱上げると、降りてきたエレベーターに乗った。

「前のときも、こうだったの?」

「いや。でも今回は今までで最大の襲撃だったから」

 五十鈴のライブカメラが映したのは、新雪を踏みあらした無数の足跡、赤く染まった雪……音声を切ってもなお、見ているものたちを震撼させるには充分だった。

「実をいうとね、今回の件はある程度予測済みだったんだ」

「似たようなこと、カナタも言ってたわ」

 冷たい顔でソフィア博士に。

「新しい職員は云わば異分子だ。場所柄テロを警戒する。なによりスズキはここを志願するには若すぎた」

「若すぎた?」

「ここに入る条件は市民IDの抹消。一度入ったらもう外では暮らせない」

 それって死亡した扱いになるってことじゃないの?

 わたしの疑問に答えるまえに、エレベーターは展望室に到着した。


 開いた扉の向こう、カナタはいつものように窓辺にうずくまって樹海を見ていた。ふだんとは違って、セーターとパンツのラフな格好だ。

「カナタ」

 カナタはわたしのほうを見ようとしなかった。

「カナタ、体を見せて」

 小川博士は構わずカナタのそばまで行くと、緑の瞳をのぞいた。一度は視線を合わせたけどカナタはふいっと横を向いた。

 小川博士は無遠慮にカナタの髪をかきあげ生え際を確認した。

「仕上がりが雑だな。首の亀裂もきれいになっていない」

 カナタは眉間にしわを寄せて小川博士を下から睨んだ。

「みんな卑怯だ。最終的に嫌な仕事はぼくにやらせる」

 カナタは小川博士の手を振り払い、顔をのせた膝を抱えた。

「だったら、普段から待機状態にさせといて必要なときだけ動かせばいいじゃないか」

 わたしと博士は顔を見合わせた。

 カナタが怒っている?

 今までにないくらい、感情をあらわにしている。

「結局、ぼくは人殺しだ。もう助けた命より奪った命のほうが多い」

 悔しさと悲しみが入り交じったような声。

「施設を代表して言うよ、カナタ、すまない。それからありがとう。ぼくらを守ってくれて」

 小川博士は深々とカナタに頭を下げた。

「きみは、ほぼヒトだ」

「そうだね、同族さえ殺す。完璧にヒトだよ」

 カナタ……小川博士は顔を歪めた。

「ヒト同様の感情を持つきみを、長い時間に閉じ込めたことを、ソフィア博士は後悔している」

 カナタが顔をあげた。

「忘れたくてもきみは忘れられない。辛くて悲しい記憶を持ち続けなきゃいけない」

 わたしたちは、すべての記憶を『記録』を持ち続ける。

「そして、すべての責務をきみに押しつけて自殺した九条博士を恨んでいる」

「自殺だったの……」

 九条博士の死因。

「ハルカを暴走させたその日にね。博士も勝手だ」

 相変わらずわたしを見ずにカナタは吐き捨てるように言った。

「もしかして……ソラちゃんに嫌われたって思っている?」

 カナタは弾かれたように顔をあげ、小川博士を見たけど、わたしと目が合うとすぐにそらした。

「ソラちゃんは心配してカナタを探しにきたんだよ」

「そうよ。修理が終わったって聞いたのにカナタが部屋に帰って来ないから」

 わたしはカナタの足元に駆けよった。

「あんな姿……見られたくなかった」

 無表情で敵を排除していたカナタ。ただ命令に従っただけ。本人にはどうすることもできなかったはず。

「怖くなかったって言えば嘘になる。でも、傷ついたカナタが二度と動かなかったらどうしようって……そっちのほうが何倍も怖かった」

 カナタはようやくわたしを見た。

「よかった。カナタがまた元気になって」

 今にも泣きそうな顔をしたカナタ。前にも見た。

 カナタは窓辺から降りるとわたしを抱き上げた。

「研究室へ行こう。ぼくに直させて」

 カナタはわたしの背中に顔を埋めて、ただうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。