序章:アドミニと統括AI
「なあ、統括。これやっぱりおかしいよな?」
「邪馬台国が消えた話ですか?」
180メートル級の宇宙艦、のちに『天の鳥船』と呼ばれることになる船のブリッジで、一人の男がホログラムの画面を見つめながら首を傾げていた。男の口調はどこまでも軽い。
男は船の統括AIと会話しているようだ。
「あからさまに消してる痕跡が、消した事を物語ってるだろ?」
「肯定」
「よし(笑)。修正しに行くか」
「私もでしょうか? 過剰では?」
「だって俺お前しか……船持って無いし」
「……」
AIの沈黙を肯定と受け取ったのか、男は楽しげに腕を組んだ。
「よし、今日からお前は『天の鳥船』な。俺は『旅人』と名乗ろう」
「それは、船の名称ですか?私(統括AI)の名称ですか?」
「両方」
「了解です、アドミニ」
「旅人だって」
「了解です、旅人」
旅人は顎をさすりながら、未来の歴史の改変シミュレーションを眺める。
「大和を弱体化……いや、編纂者を……、ああ……邪馬台国を教育しよう」
「文明改竄になりますが」
「じゃあ、壱与一人だけ教育で」
「まあ、それなら。なぜ壱与なのですか?」
「だって、ばあちゃんと若い巫女ならねえ?」
「……」
「まあ、冗談だ。未来へ繋げる為に、若さに期待ってとこ」
「若すぎませんか」
「卑弥呼が健在な状態で、次代の壱与に介入するタイミングは、ここしか無いんだよ」
「肯定」
「ああ、教育係が要るな」
「作成済みです」
「あ、ああ、そうか。名称は『アイ』で。じゃあ壱与のガードシステムも——」
「作成済みです」
「仕様は甘々で、絶対防御な」
「了解しました」
旅人は不敵に笑い、最後に重要な釘を刺した。
「そうそう。俺達を神と認識させるな。これは絶対だ」
「『俺達』を具体的に指示して下さい」
「旅人と鳥船、それと…アイ、は無理だな」
「肯定。現場に降りた時点で不可能です」
「まあ、そうだよなあ。諦めた」
「神扱いさせないのは旅人の哲学ですか?」
「面倒くさいだけだって」
こうして、宇佐のはるか上空、宇宙空間にステルス状態で待機する『天の鳥船』から、一人のサポートAIが地上へと送り込まれることとなった。




