聖騎士をおとす
その日、王都の空は抜けるような青だったが、漂う空気は鉄の味がするほどに張り詰めていた。
王国軍の最高エリート集団、聖騎士団ギルド【アヴァロン】。法と秩序を体現し、王室の盾を自負する彼らにとって、突如として現れた新興ギルド【マスターピース】、そしてその頂点に立つ正体不明の男「リアム」は、排除すべき不純物以外の何物でもなかった。
民衆は熱狂し、貴族たちは唾を飲み込み、そして賢者は地下で薄笑いを浮かべる。
これは単なる武術の試合ではない。既存の秩序が存続するか、あるいは「勘違い」という名の神話が世界を塗り替えるかの、決定的な分岐点であった。
聖都アヴァロンの中央闘技場。白亜の石材で組まれたその円形舞台は、かつて数々の英雄が血を流した聖地である。観客席を埋め尽くす五万人の視線は、入場門から現れた一人の青年に集中していた。
リアム。
黒いコートを羽織り、一歩一歩踏みしめるように歩くその姿。観客には「絶対者の余裕」に見えたが、実のところ、リアムは極度の緊張で膝の震えが止まらず、足元を確認しなければ転んでしまうため、慎重に歩かざるを得なかっただけである。
(……なんで。どうしてこうなったんだ。対抗戦? 負けたら管理下? むしろそっちの方が静かに暮らせる気がするのに、なんでグレンもイブもあんなに殺気立ってるの……!?)
リアムの背後には、不動の巨躯を誇るグレン、不敵な笑みを浮かべる魔女イブ、そしてどこか恍惚とした表情で主の背を見つめるカエデ、リリー、マリー、アクアが控えている。
「リアム様、ご安心を」
グレンが耳元で、岩を砕くような低い声で囁いた。
「あのような鉄屑を纏っただけの慢心の塊、リアム様の御手を煩わせるまでもありません。俺たちが、この国の『序列』を分からせてやります」
「あ、いや、グレン君……できれば平和的に……」
「――『徹底的に、慈悲なく潰せ』、ですね。承知いたしました」
「……話、聞いてた!?」
リアムの悲鳴のようなツッコミは、対抗戦開始を告げる大鐘の音にかき消された。
【アヴァロン】副団長・ボルド vs 【マスターピース】騎士・グレン
「ハハハ! 軟弱な平民上がりが、この『金剛のボルド』を倒せるとでも思っているのか!」
ボルドが纏うのは、数百年の歴史を持つ伝説の防具『ミスリル・ガーディアン』。彼はその巨体に似合わぬ速度で、巨大なスパイク盾を構えて突進した。その衝撃は、城壁をも粉砕する。
対するグレンは、槍を右手に下げたまま、微動だにしない。
ボルドの盾がグレンの鼻先に迫った瞬間――。
「……リアム様の前で、騒がしいのだ」
グレンが軽く左足を地面に叩きつけた。
その瞬間、ボルドの周囲の空間だけが、重力の深淵へと叩き落とされた。グレンが秘かに習得していた超重力武技【十重天・万物沈下】。
「な、に……がっ!?」
ボルドの身体が、まるで見えない巨人の足で踏みつけられたかのように、地面へとめり込む。伝説のミスリル鎧が、自身の重みに耐えきれずメキメキと悲鳴を上げ、ひしゃげていく。
「ぐ、あああああぁぁっ!!」
骨が軋む音が場内に響き渡る。ボルドは指一本動かせず、這いつくばったまま、ただ地面の砂を噛むことしかできない。
グレンはゆっくりと歩み寄り、冷徹な眼差しで、もがき苦しむ副団長を見下ろした。
「リアム様は『命までは取るな』と仰った。感謝するがいい、貴様のその無価値な命が繋がったことを」
グレンが槍を振るう。直接触れてはいない。だが、放たれた真空の刃が、ボルドが纏う重装甲だけを「皮を剥ぐように」正確に切り裂き、ボルドは下着同然の姿で観衆の前に晒された。
プライドと物理的な防御、そのすべてを同時に破壊されたボルドは、そのまま白目を剥いて失神した。
【アヴァロン】聖魔導師隊長・セリナ vs 【マスターピース】魔女・イブ
「邪悪な魔女め、その不浄な存在ごと焼き尽くしてあげましょう!」
セリナが放つのは、神殿の加護を受けた第七位階魔法『ソラリス・ジャッジメント』。上空に現れた巨大な魔導陣から、極大の熱線がイブを飲み込んだ。闘技場の石畳が瞬時に蒸発し、溶岩へと変わる。
「……終わったわね。塵も残さないのが私の慈悲よ」
勝利を確信し、冷笑を浮かべるセリナ。しかし、噴煙の中から響いたのは、退屈そうな欠伸だった。
「ふぁ~……。ねえ、今の温風、お肌の保湿にちょうど良かったわよ。ありがとう」
「なっ……あり得ない! 私の極大魔法を無防備で受けて、無傷だと!?」
「無防備? まさか。リアム様が教えてくれたのよ。『本当の守りは、隠すことにある』って」
(※注:リアムが着替え中にリリーに覗かれそうになり、「隠さなきゃ!」と叫んだ時の言葉である)
イブが指先で空をなぞると、セリナの周囲の空間がドロリと黒く濁り始めた。
「【深淵の快楽墓標】」
「ひっ、……何、これ……身体が、熱い……っ!」
セリナの悲鳴が、次第に艶を帯びた喘ぎへと変わっていく。目に見えぬ「影の触手」が、セリナの魔力回路を直接刺激し、彼女が長年積み上げてきた「理性」を快楽で焼き切っていく。
法衣が内側から弾け、聖なる乙女が、五万人の観衆の前で自ら肢体をくねらせ、無様に愛を乞う姿へと変貌した。
「あ、あああぁっ! 嫌……もっと、もっと壊してぇ!!」
絶頂の果てに、セリナは泡を吹いて崩れ落ちた。聖魔導師の権威は、マスターピースの魔女が放つ「背徳」の前に、塵芥となって消え去った。
【アヴァロン】団長・ガウェイン vs 【マスターピース】リーダー・リアム
ついに、静寂が訪れる。
アヴァロン最後の希望、ガウェインが、黄金のオーラを纏って舞台に立つ。その手に握られているのは、王家から下賜された聖剣『エクスカリバー・レプリカ』。
「……リアム。貴様の部下たちは、確かに人間を辞めている。だが、私は見たぞ。貴様が先程からずっと震えているのをな。……恐怖か? それとも、私を殺すための武者震いか!」
(……前者だよおぉぉぉ! 怖いんだよ、あの剣からビーム出そうなんだもん!!)
リアムは絶望的な状況に、心臓が口から飛び出しそうだった。あまりの極限状態に、視界がチカチカと点滅し、脳が現実逃避を始める。
そこへ、アクアが事前に「勝利の祝杯用」として渡していた特製薬が、リアムの胃袋で活性化した。
「……ガウェイン」
リアムの口から漏れた声は、もはや人間のそれとは思えないほど冷酷で、底知れない質量を伴っていた。
「……?」
ガウェインは息を呑んだ。目の前の青年が、突如として巨大な「空虚」に変貌したように感じたからだ。
「――無駄なことは、やめろ。……僕が動けば、この街の『因果』が狂う。……お前は、自分の剣がなぜ震えているのか、理解していないのか?」
(※本心:僕が動くと足が絡まって転ぶから、マジで動かせないで。あと、剣が光ってて眩しいんだよ)
「な……にっ……!?」
ガウェインが愛剣を見ると、確かに、伝説の聖剣がガタガタと音を立てて震えていた。
否、震えているのではない。リアムの背後に現れた巨大な【守護霊】が、その「存在」の重圧だけで、剣を原子レベルで圧壊させようとしていたのだ。
――パキィィィィィィィン!!!
轟音と共に、王国の至宝である聖剣が、リアムの「言葉」一つで粉々に砕け散った。
「……ば、馬鹿な……。接触もせずに、聖剣を……!?」
ガウェインは理解した。目の前の男は、強者などという生温い存在ではない。
これは、摂理。これは、天災。
抗うこと自体が、生命としての論理エラーなのだ。
「……ふ、ふふ……。そうか、そういうことだったのか、ムドー様……。貴方は、人間などではないものを、この国に招き入れたのだな……」
ガウェインは聖剣の柄を落とし、ゆっくりと両膝をついた。その瞳には、恐怖を通り越した「恍惚とした絶望」が宿っていた。
「……私の負けだ。……マスターピース・リアム。……今日より、アヴァロンの三千の剣は、貴方の影に従おう」
王国民五万人が、その光景を静寂の中で見守り、そして――。
「「「「「リアム! リアム!! リアムサマァァァァァ!!!」」」」」
地響きのような大喝采が、聖都を揺らした。
対抗戦の幕が降りたその夜。
アヴァロンの大聖堂最上階にある貴賓室は、勝利の熱気と、薬物によって狂わされたリアムの「情欲」の檻へと化していた。
「リアム様……。お疲れ様でした。……さあ、敗北者たちからの『貢ぎ物』を、存分に味わってくださいねぇ」
アクアが、薄いガウンをはだけさせ、リアムの膝の上に跨る。彼女の手には、さらに強力な「支配者の蜜」が入った小瓶。
「……持ってこい。……すべて、僕の足元に跪かせろ」
薬の作用で「全能の神」へと精神が書き換えられたリアムが、低く、冷酷な命令を下す。
扉が開かれ、入ってきたのは二人の美女。
一人は、リアムの影として常に仕えるカエデ。
そしてもう一人は、アヴァロンの象徴――聖女エレーナ。
「リアム様……。貴方の圧倒的な御力、この魂に刻まれました。……どうか、汚れた私を、貴方の慈悲で満たしてください……っ!」
エレーナは、清純の象徴であった法衣を自ら脱ぎ捨て、全裸でリアムの足元に這いつくばった。その瞳は、信仰の対象を神からリアムへと乗り換えた狂信者のそれだった。
「……カエデ、エレーナ。……お前たちの忠誠、その『身体』で示せ」
「はい……リアム様……っ!」
カエデがリアムの背後に回り込み、その逞しい(ように見える)背中に豊満な胸を押し当て、耳たぶを優しく甘噛みする。
一方で、聖女エレーナは、震える手でリアムの男根を包み込み、処女特有の純潔な口腔で、貪るように奉仕を始めた。
「んっ……ふぅ……。いい締め付けだ、エレーナ。……聖女の癖に、随分と欲深いじゃないか」
「あはぁ! リアム様、最高です! 聖女様の喉の奥まで、リアム様の『種』をたっぷりと注ぎ込んであげてくださいねぇ!」
アクアが薬をリアムの唇に塗り、さらに感覚を狂わせていく。
その夜の行為は、もはや愛交ではなく、神による「所有権の刻印」であった。
カエデの熟練した肢体がリアムを締め付け、エレーナの処女の狭窄がリアムの昂りを絶頂へと誘う。
リアムの荒々しいピストンが、聖なる大聖堂に肉欲の音を響かせ、エレーナの白濁した瞳からは、快楽の涙が溢れ出した。
「ああああっ!! 神様……リアム様ぁ!! 私を、壊して、滅茶苦茶にしてぇ!!」
聖女の叫びが夜を裂く。
一晩で、リアムは聖都の「心」と「身体」を、完全にその手中に収めたのだ。
王都の地下。ムドーは水晶球に映るリアムの「神としての振る舞い」を見て、声を殺して笑った。
「ホッホッホ……。完璧じゃ。……リアムよ、お主が神として振る舞えば振る舞うほど、周囲の信仰はお主の『無能という真実』を塗り潰し、現実を再構築していく。……これぞ、世界を欺く究極の魔法」
ムドーが指先で水晶をなぞると、次なる戦地となる「隣国」の地図が浮かび上がった。
「さあ、次は海を越えようか。……世界がお主を恐れ、愛し、そして最後に絶望するその時まで……ワシの遊戯は終わらんよ」
勘違いの連鎖は、もはや一国の枠を越え、大陸全体を飲み込もうとしていた。
リアムの望まぬ「世界征服」は、まだ序章に過ぎなかった。




