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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-12.ハヅキの領地

 我が師父ネイトナル様のもとへ、弟君ルーディナル様をご案内するおつかいクエストを完遂した俺たちは、数か月ぶりのパーティ・ホームでくつろいでいた。

 だが、平和な日々というものは長く続かない。

 俺たちの目の前に、見事な土下座を決めたハイラルがいた。


「まずさぁ、説明、ほしいんだな」


 ハイラルの実家のヤマトゥーン家を興したのは日本からの転移者、山田さん。

 俺たちは転生だが、いうなれば同郷の子孫。

 えにしとかきずなとか運命ディスティニー感じちゃうかどうかはさておき、親近感はある。


「さんざんたかった借りがあるからなあ」

「友達の頼みですからねえ」

「そやねえ」


 王都にて俺たちは、クジラ型の飛行船ことホエール型航空巡洋艦に遭遇した。

 教会総本山をバックに背負う世界の勇者様の空からの表敬訪問に、王都は大興奮ってなもんですよ。

 郊外に着陸したホエール型航空巡洋艦の周囲には、屋台が繰り出すほどのお祭り騒ぎとなった。

 俺は人混みが苦手だからパスしたけど、貴重な娯楽イベントだもんなあ。


 このお披露目外交に、ハイラルは航空巡洋艦・リアリティ・ショックを発症。

 庶民とは違う目線を持つ、人類社会の導き手、貴族様にとって空への手がかりは、良くも悪くも人類が次のステージへ進んだということを意味する。

 ハイラルはツェルマットへの帰路の途中で、実家へ寄って報告を行ってきた。


「一緒に旅はいいんですが、総本山って遠いんですよね?」

「んー(大陸中央だって)」


 現在、世界でただ一隻の航空巡洋艦を開発、建造したのは教会総本山である。

 ハイラルの実家ヤマトゥーン家は新たな時流に取り残されないよう、教会総本山に表敬および航空巡洋艦の売却ないし技術提供のお願いをすべしと決断。

 人当たりが良く、教会の助祭という地位を持ち、巡礼行名目でふらふらできるハイラルに白羽の矢がぶっ刺さった。

 言い出しっぺの法則とも言う。


「一か月くらいでたどり着けるらしいんだ。道中移動のほとんどは川船で」

「歩かなくていいなら賛成」

「ヒル子はブレねえなあ」


 ツェルマットから王都まで陸路で一か月強かかる。

 とすれば、教会総本山まで一か月くらいとは、時間感覚上は行って行けないことはない行動圏内だ。

 ヒル子の言うとおり、船旅なら自分の足で歩かなくていいのもポイント高い。


「ウヅキには特に、錬金術師として技術顧問をやってほしいんだ」

「……航空巡洋艦の技術と言われても」


 師父の弟君ルーディナル様によれば、航空巡洋艦は教会総本山が持てる知識と技術を集結した夢の結晶だそうだ。

 王都に噂レベルの情報は流れていたことはわかるが、肝心なところは秘密のベールの向こう側だろう。

 前世の飛行船に関するおぼろげな知識はあるから空に浮かぶ理屈はわかるが、素材や構造、機材など細かいところはお手上げだ。


「一人じゃ心細いんだよ」

「わかった」


 頼られたら立たねば男がすたるってもんですよ。

 ヤマトゥーン家としては、教会総本山への御機嫌伺い顔つなぎの表敬メイン。

 高度な政治的交渉なんて諦めてるから、言ってみるだけさとくれば気も軽い。


「田舎の男爵家が最新技術を求めたって相手にされるわけない。それでも、行っておくこと打診してみることに意味があるんだ」

「レスポンスビリティを見せるのと、行動したってアリバイですかあ」


 貴族ってのも面倒なものであるなあ。

 護衛パーティがてらの同行は承認の流れだが、ハヅキは報酬条件について触れた。


「これは自分からのお願いになりますんけど、金銭以外の報酬で、我が事ねじ込みたいんや」

「パーティじゃなく、ハヅキ君の都合ということ?」

「ウヅキやハヅキにはおんぶにだっこだし、借りが少しでも返せるならいいけど?」


 ハヅキはヤマトゥーン家に要求する報酬に、野望のための仕込みを混ぜこみたいのだと。

 具体的にはヤマトゥーン領の東に広がる湿地帯の領有権、これを周囲の諸侯からも確定させるための助力を引き出したいそうだ。


「自分は、悪徳領主をやるねん!」

「ハハッ、ハヅキもぶれねえなあ」

「ん~()」


 教会総本山まで同行せずこっちで動きたいとかなり本気である。

 船旅に馬と荷馬車は邪魔、荷物はミナヅキの【虚空蔵】で賄えるので、確かにハヅキが同行する必要性は薄い。

 ならばと、スコールの兄貴も残ると言い出した。


「ハヅキを野放しにする気か」


 俺とミナヅキに否はない。

 野望、大いに結構。互いの野望を手助けすることが、我ら元祖イレギュラーズの盟約である。


「ハヅキの【鑑定】に頼りたい場面もあるかと思うが、地歩固めも大事だしな」

「総本山なんて名前だけで魔窟や。自分のような未熟もんがこっそり【鑑定】なんぞできへん」


 俺たちのギフトがすっぱ抜かれることは前提だ。

 ……俺の【隠密】、誤解されませんかね。遍歴の錬金術師を名乗るスパイ、怪しさ満点じゃないですか。

 監視の目が、俺に向く分には構わないってどういうことですかあ?


「今度も長くなりそうだし、フィルたちも残るかい?」

「何を言っているんです。総本山への巡礼ですよ?」


 ミナヅキは、女の子には月のものもあるしと気遣ったつもりが、元教会関係者として、総本山への憧れを語られては是非もない。

 六人での巡礼行、旅費はぜーんぶヤマトゥーン家持ち。

 冬の間はあっちで過ごし、春になったら帰ってくると決め、準備に入る。


 ハヅキとスコールの兄貴はさっそくヤマトゥーン領へ向かった。

 己の野望のために報酬交渉だ。でついでに交易荷物も荷馬車に満載する無駄のなさ。


 ハイラルとミナヅキは、所属するツェルマット教会でこれまでの巡礼の報告と、総本山に向かいますの連絡。

 三人娘は買出し。誘われたが、荷物持ち役なのでやんわりとお断り。


 俺は一人でツェルマットの市街地を囲む城壁外に新しく作られた通用門をくぐった。

 新たに整地中の拡張区では、お馬さんたちがのんきに草を食んでいる。

 広大な敷地を独占するニートナル魔術師学園に師父を訪ねた俺は、真新しい一室に通された。


「ということで、今度は教会総本山まで行ってきます」

「巣立った弟子を見送り、無事の帰りを待つのも師の務めか」

「伯爵様からは何か?」


 航空巡洋艦の存在は師父から伯家に報告済みだ。

 伯家も王都や教会関係の情報入手ルートは持っているだろうが、王都から呼んだ弟君からの所見という切り口。


「いや、私は学園を軌道に乗せることが求められているからな。予定では、そろそろ今年度分の子たちも送られてくる」

「設備を整えるだけでも、まだしばらくかかりそうですね」

「ああ。それも含めて、やりがいのある仕事だよ」


 師父には子がないので、弟君のルーディナル様に家督継承した。

 現在は師父ネイトナル様の一代騎士ニートナル家と、代々錬金術師を輩出してきた平民ニートナル家の並立状態になっている。


 夏の間に師父たちは学園内の新居と工房に移っており、城壁内の屋敷と工房の譲渡もすんなり。

 俺の弟弟子たちは、学園内の工房をまわしながら、最年少講師と学生総代をやっている。

 生徒たちのアイドルという立ち位置に戸惑いがあるようだが、大丈夫。俺のP魂が保証すると言っておいてやった。


「おまえの拠点も、不在の間に移築しておくか?」

「お願いします。今回はハヅキがこっちで動く予定ですので、何かしらのときはあいつに判断させてください」


 師父による学園の私物化?

 違います。学園が師父の私物なんです。

 ツェルマット伯爵家の本拠地に、新たにつくられた出城および付随事業を任された騎士様なんだぞ、我が師父は。

 家業と事業の区別の緩さはまさに中世クオリティ。封建制度の建前上は伯爵様からの借地だけれど、事実上の所有権だ。

 そして俺はニートナルの名乗りを許された一門衆だ。


 移設についてハヅキにも話を通し、任せとけと胸を叩かれる。


「ヤマトゥーンのキタのみなとと領都にも家を用意中やねん」

「そりゃまた張り込むな」

「自分が、転移門トランスファー・ゲートで跳べる距離との勘案やからな」


 グフフと笑う俺たちを、スコールの兄貴はあきれ顔で見ていた。


 準備を整えた俺たちは伯都ツェルマットから東へ進み、カブツ川沿いのクアナのみなとから船に乗った。船頭さんが櫓をこいで川を遡る。

 キタのみなとは、船でおよそ一日南に行ったところ。船頭さんや船客が休むための船溜まりと船宿だ。

 翌日にもヤマトゥーンの領都で下船する。


 教会総本山への巡礼およびヤマトゥーン家を代表したハイラルの表敬、さらに交渉事についての依頼と報酬を書面で確認し、パーティ・イレギュラーズのリーダーとして署名を記す。

 いまさらだが、残るのはハヅキとスコールの兄貴だけで大丈夫かな。

 ヤマトゥーン家の協力は確約されたものの、最低でも二家との領地境の交渉って、使い道がなく放置されている湿地帯とはいえきつそうなんだけどなあ。


「ま、そっちの交渉と同じで、言うだけ言ってみるところからのスタートやな」

「無礼打ちでズンバラリされるなんてのはやめてくれよ」

「わーっとるがな。最悪、相手は殺してでも生き延びちゃる」


 勘弁してくれよとつぶやくヤマトゥーン家当主オブムス様だが、交渉の使者をズンバラリなんて、するもされるも戦争案件。

 後ろ盾するっちゃ覚悟のうえでの話、一蓮托生ってもんでしょうよ。


「まあ、そうなんだがな。当家にもメリットのある話だからのっているわけで」

「くれぐれも、ハヅキのこと頼みましたからね」


 俺たちの旅そのものは平和だった。

 川賊という元気な連中もいるらしいが、きちんとみかじめ料を納めている船頭の船なら特に問題はない。

 船頭自体が賊と化すのもパターンだが、運がいいのか、それともあえて貴族家出身の巡礼の聖者を獲物にしようとは考えなかったのか。


 教会総本山は、琵琶湖よりもでかい、内海と呼べるくらいに超でかいアフレ湖のほとりにそびえたっていた。

 華美ではないが、水面に映る姿と合わせ絵になる建築群と門前町が広がる。


 ハイラルの表敬は滞りなく。向こうも手慣れた感じで終了。

 航空巡洋艦のあれこれも、一笑に付されて終了。

 宿坊に滞在中にお上りさん用の観光コースらしきものを案内されて、その一部に通常の船工廠や研究機関っぽいものが含まれていた程度。


 一応、俺の【隠密】は警戒されたらしく、常に誰かがついているとヒル子の【気配察知】も告げていた。

 俺自身は、魔力酔いでもういゃん状態だったのだけどね。

 人多すぎ。聖域かなんかしらんけど、魔力あふれまくりんぐ。酔うわこんなん!


「さすがは総本山つうか、帰りてー」

「冬の長旅は危険ですし、とりあえず酔い覚ましに郊外にでましょうか」


 ミナヅキの提案にのっかり、魔力酔い的な意味で居心地の悪い宿坊から出てアフレ湖周辺をめぐる。

 緯度的には王都と同じくらいなのか、ツェルマットほどには寒くない。

 巡礼の聖職者一行らしく法術込みの施術を行ってみたり、ミナヅキの【虚空蔵】からそろそろ怪しい食料を炊き出しと称して配ったり。

 ついでに魔力通しを試したり、孤児を数人荷物持ちとして身請けしたり。


 冬の間に熱心に、世のため人のために尽くしていた……ように見えるわな。

 その信仰心や誠実さは、俺に監視をつけていた誰かの目にもとまったらしく、総本山からツェルマット教会に、助祭ハイラルと助祭ミナヅキの「司祭昇階推薦状」が発行された。


「よく来たねのお土産だよ」

「教会運営の実務経験がない者を司祭に叙階したところでただの飾りですから」

「じゃあいらないのか?」

「「そうは言っていない」」


 素直じゃないんだから。


「司祭になったら、ハイラルは引退か?」

「引退ってさあ。うちの領地の教会運営に入る、いわば人生本番だよ」


 行政区としての村ごとに教会はあるので、そのどこかで今赴任している人が引き上げられるか引退するまで、助手的な立場で実務研修だ。

 世俗的なバックアップは無視できないにせよ、教会組織内での叙階年次序列が聖職者としての建前。

 新任司祭が領内教会すべてを掌握できるわけもない。


 帰り着いたツェルマットでは、荷物持ちとして身請けした子たちに、なんと驚き、魔法使いになれる才能が発覚。ニートナル魔術師学園に委託するという予定調和をこなし、移築したパーティ・ホームでぐだぐだした。


 ハヅキは、いわゆるハヅキ領について、すでにヤマトゥーン家からの書面を確保していた西の境を足掛かりに、東と南の領地境を確定するという偉業を成し遂げていた。

 ぐだぐだの湿地帯が広がる真北は交渉相手がいないし、東西の境を伸ばすと交渉相手が増えるためとりあえず放置。

 切り札は風土病の撲滅。


「やっかいな病やってことは共通認識やん」


 風土病の撲滅のためには余計な干渉なく動きたい。

 そして撲滅したら、当然その土地はおいらのものだろう理論。


「認めんってんならそれでもええんや。どこまでがおたくの領地か、はっきりさせてくれ。そこには立ち入らんし、風土病に関する一切の助力もせん」

「判断せず引き伸ばすようなら?」

「どこまでが己の領地って言えんなら、勝手に線引いても文句言わんなっちゅうこっちゃ」


 領地領土と言っても、所詮は実効支配が効く範囲に過ぎない。

 領地を接する者同士で境界線を定められないのなら、どちらかが実効支配した領域までがその者の土地である。


「あっちさんも損はないんよ。どうせ使っていない土地やねん。自分の風土病対策が成功して使えるようになれば儲けもの」

「その後に攻め込み、実効支配してしまえばいい、ですか」


 極論すれば、自領を守れない方が悪い。

 力こそ正義。力の裏付けあっての封建貴族制であり、社会である。


 ハヅキは、いまだ名ばかり書面上の存在とはいえ領地を確保、悪徳領主への地固め始めた。

 ミナヅキは、旅をするための旅には興味をなくし、迷っている。

 そして俺は、フリーダムな立場から二人のサポートをしたい。


 俺たち三人のイレギュラーズと仲間たち、しばし羽を休める時期だろうか。





(第5章・了)



【メモ】

第5章(全12回+設定メモ)の投稿は以上です。

評価や感想、ブックマーク等ありがとうございます。


年度末進行はじまりのため、次の第6章で区切りの予定です。

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