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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-10.おつかいクエスト2

 我が師父ネイトナル様は、御領主ツェルマット伯様からの信頼も厚き騎士である。

 といっても戦場いくさばで活躍する武人ではなく、一代騎士爵を授けられた錬金術師であって、ゲーム風にいえば内政人材だ。


 現在の師父は伯爵家肝入りの教育事業、ニートナル魔術師学園(仮)を差配するお忙しい日々を送られており、弟子である俺は、本来ならば師父のそばで手足となるべきなのかもしれない。

 しかしながら、物事には順序やら向き不向きやらがあるのである。


 俺は、遠く王都におわす師父の弟君への手紙を届け、そしてできれば伯都までお連れするための旅の途上にあった。

 アレだ。

 おつかいクエスト2なのである。


 もちろん名目上は、ハヅキとハイラルという二人の助祭様の巡礼行。

 なので道中の教会を訪ねれば、比較的簡単に宿や物資支援を受けられる。

 寄らば大樹の陰とはよくいったもので、世界に根をはる教会というものの組織力と信用は半端ねぇってもんだ。


 関所でも、公の意向や統制が強いところは、無体は避ける傾向がみられた。

 巡礼行の背後には教会組織があるもんね。虎の威を借る狐プレイも乙なもんである。


 そもそもさっき言ったように物資支援を受けやすいという立場に加え、手持ち数日分の食料以外の荷物はミナヅキの得た恩恵ギフト【虚空蔵】に入れてある。

 大した物を持ってない巡礼の聖職者とそのお付きのご一行からは、ロクなモンは取り立てられないという寸法でもある。


 まあそれでも、不良ってのはどこにでもいる。

 見て見ぬ振りした上司や止めない同僚は同罪ってことで。

 このご時世、関所の破壊なんて稀によくある。

 俺たちは『たまたま』そのような関所跡地を通り抜けてきただけってなもんですよ。


「それにつけても治安の悪さよ」


 つくづくも、このご時世、ろくなもんじゃねえ。

 街道を歩んでいた俺たちの前と後ろに、見るからに盗賊の御一行様がニヤニヤ顔をさらしながらエントリー中である。

 前衛ポジションをとっていた助祭様のハイラルと向こうの代表っぽいのが口上を交わしているが、どうやら彼らは神罰を恐れぬ剛の者たちであるらしい。


「んで、ヒル子、どう?」

「両側の森の中に、ひとつふたつ……二人ずつ潜んでいる、と思う」


 【気配察知】を持つヒル子は、俺が魔力レーダーで探った感触と同じ結果を告げた。


「(森の中の伏兵だと弓持ちかな。つぶしたいな)」

「(わかった。もう少し長引かせてみる)」


 試練の迷宮で得たギフト、本当に便利だわ。

 みんなの中継はミルディーフの【念話】で行われている。

 声に出さないやり取りで情報共有し、交渉の引き延ばしをしてもらっている間に、俺は【隠密】を発動。

 慎重に、そそくさと右手の森に踏み込んだ。


 しかし、左右に二人ずつに、正面と背後で十人。計十四人もの動員力のある盗賊ねえ。

 前日に泊った教会では近辺を根城にする盗賊団のうわさは聞かなかったから、流れの新顔か、あるいは次の村の衆か。

 奪おうってんだ、奪われても文句は言うな。


 伏兵の位置はわかっているので、俺はストーキングからの小石投げで立った音に注意が向いた隙にマジック・アローで頭部撃ち。

 一発では死なないにしろ、頭を打ちぬくとショック症状を引き起こせるのがオイシイ。

 声を出される前に、二人とも喉を掻き切った。

 あーやだやだ。慣れちゃったよ。


「(右二、クリア。案の定、弓持ち)」

「(今、各自の食料を差し出して、これでどうかって引き延ばし中)」

「(了解、急いで左に回る)」


 流れの盗賊団だろうと、村境を出たらジョブ・チェンジする普段は優しいお父さんだろうと、俺たちがやることは変わらない。

 目撃者は残さない。

 こちらの戦力、特に無詠唱魔術の存在を知られるのは困る。


「(左二、クリア)」

「(各自、割り当て確認。大丈夫ならカウントいくよ)」


 カウントダウン後、ハイラルの雄叫びとともにまばゆい閃光が世界を染めた。


「【ハイラルゥウウ・フラアアアッシュ】!!!」

「うああああ!?」

「目が、目がああ!!」


 いつピカるかわかっていれば備えられるけど、降伏交渉の途中でいきなり閃光を食らっては連中も困っただろう。

 もちろん猶予なんてくれてやらない。


 前方向けにスコールの兄貴とハイラルが抜刀斬りこみ、フィルが【魔法の矢】の呪符から連射。

 後方向けにはミナヅキ、ハヅキが無詠唱マジック・アローをばら撒きながら突撃。

 ヒル子とミルディーフは馬車そばで待機。


 戦闘はすぐ終わる。事前交渉と後始末のほうが時間を食う。

 フィルたちは賊の衣類をいやいや剥ぎ取って一纏まりにしていく。

 どれほどぼろくて臭くとも、一般に一番高価な品が衣類なんだもの、仕方ないじゃない。


「気分よくないのは仕方ないでしょう」

「でもフィル、らなきゃ私たちがられてたんだし……」

「そうなんですけどね、そうなんですけどね!」


 衣類に金銭や武器にしていたナタやクワのような鉄器は、パッと見で価値の低そうな一部を街道にばらまくが、そのほかは全部ひっくるめてミナヅキの【虚空蔵】に収納。

 仕分けや確認は後でもできる。

 盗人の末路は縄目、吊るすべし。


「まーたロープ仕入れなきゃ」

「『世に盗人の尽きることなし』とはいうけどねえ」


 超時空太閤秀吉殿下の御代を騒がした大泥棒、石川五右衛門の辞世の句っぽいものを呟いてみるが、なんとも救いがない。

 俺たちの痕跡を消したら急いで街道を逆戻り。前日お世話になった教会に駆け込む。


「街道で、大勢の野盗の群れと、真っ黒な鎧の騎士様がっ!」

「なんと!」


 俺たち、一番年上のスコール兄貴でも十七歳。

 成人している以上は一人前を名乗るけれど、それでも未熟な少年少女なのよ。

 よくわからん状況にでくわしたら、まずは逃げるって特に恥じゃないのです。

 騒ぐ俺たちに釣られて、村の連中も集まってくる。


「噂の黒騎士様だと!」

「世直しの遍歴騎士様かっ!」

「だが、ここいらで盗賊団なんて聞いてないなあ」

「……隣村の?」

「ああ……」

「みんな、武器は持ったか?」

「ともあれ様子見さ行っとくべぇ」


 なお真っ黒な鎧の騎士様云々は、俺たちに注目が集まるのを避けるために編み出したデコイでごわす。

 少年少女の巡礼一行が返り討ちで吊るしてきましたなんてのより、騎士様の悪党退治に出くわしましたのほうが、受け入れやすいやん。


 噂が先走り独り歩きしているっぽいのは笑いどころなんだろうか。

 しまいには、我こそが遍歴の世直し騎士であるなんてイロモノにまで出会ってしまい、俺たちは何とも言えない顔を見合わせたこともある。


「笑ってはいけないシリーズ・イン・異世界!」

「やめろぉ」


 実在・非実在問わず、王都までの道中、世直し遍歴の黒騎士様にはお世話になりました。

 世直ししてください、本当に。


 ただでさえ南下しているうえに季節はもう夏、王都に着いた頃にはすっかり暑くなっていた。

 ミナヅキたちは王都の教会に挨拶に、俺とハヅキ、そして兄貴は師父ネイトナル様の弟君ルーディナル様のところにと二手に分かれた。

 さすがにミルディーフの【念話】では繋ぎきれないが、座標指定に使っていない一組のリターン・アンカーを互いに持つことで、トランシーバーもどきとする。


 魔力線マジック・ラインに【千里眼クレアボヤンス】や【順風耳/盗聴イーブスドロッピング】、【囁声ウィスパー】を乗せるだけなのだが、複数の魔法を並列で処理するのは難しいので、どれか一つ、一方通行になってしまい実用性は低い。

 あくまで非常用の連絡手段だ。


 なんとかならないかと相談もしたのだが、メセドリウスさんも首を振った。

 まあね、遠距離通信の利点なんて、ちょっと頭のいい人ならすぐ気づく。

 それなのに実現していないってことは、できないとみるべきなんだろう。


 ルーディナル様にお手紙を渡し、ツェルマットの状況と拉致してでも連れ帰るとの意気込みを伝えたところ前向きなお言葉を返された。


「親父の墓参りもまだだしね、すぐに家督を譲ってしまいたいと兄が言うのなら是非もない」

「道中の治安も悪く、ルーディナル様ご一家を護衛する者たちを雇っての旅路となります。手続きのためにも日程等を詰めたく思います」


 工房の閉鎖は問題ないようだ。

 もともと競争の激しい王都、代わりはいくらでもいると笑った姿はすこし寂しそうであった。

 家財道具も、よほどのお気に入り以外は家に付属するものとして残していく。

 この感覚は前世日本人としてはまだ慣れないが、居抜き物件のようなものと思えばいいだろう。


 奥様やお子様が、世話になった方々へ別れの挨拶に回ったり、在庫や機材の処分をしたり。

 そんなこんなの準備中に、俺のほうでは例によって頼まれていた、王都各所へのお手紙配送とお返事受け取りに駆け回る。


「なんだよ、ぶーたれるなよ」

「ん(だって、せっかくの王都なのに、私たち施術院勤めに組み込まれちゃうし!)」

「奉仕って、聞こえはいいけどタダ働きなのよね」


 巡礼者の勤労奉仕は、宿坊や食事提供とのバーターではあるのだが、腐っても正規教育を受けてきた法術師様を使い倒すというのは確かにね。

 なおフィルさまは、法術師であることを明らかにせずミナヅキの秘書的なポジションを確保している。さすがだ。


「いつ出発?」

「今月末。その予定で護衛依頼も出している」

「末かあ~」

「ん(巡礼一行として入っちゃったから、いまさらそっちに行けないし)」


 ぶつぶつ言いながらもアイスにはにんまり。

 氷結系の魔法使いにして料理人という、なかなかに愉快なおっさんの開いているお店の情報をくれたのはハイラルだ。

 なんだろう、さすが貴族子弟のネットワークなんだろうか。

 隠れ家風の店内は俺も好みだが、お代はすごかった。


「また来たい」

「ん!(期待! あ、これは『来たい』と『期待』をかけたものでね……)」

「わーったわーった。また時間作ってこような」


 お代はすごいが、しょうがないじゃない。

 それくらいの贅沢はできるだけ稼いだしね。ヤマトゥーン領ローラー作戦で。


 もちろんそれはパーティでの稼ぎだけど、俺とハヅキの資金で運用していた頃のツケを精算すると、総取りとなってしまう。

 なのでヒル子やミルディーフたちには小遣い銭を渡している。

 黒字転換すれば、きちんと個人資産を持たせてやりたいが、家父長制に慣れているせいか、リーダーの俺が管理していればいいじゃないとも。


 フィルさんいわく「身請け分含めたら、返済で一生かかるでしょ」とのこと。

 まあ、そうなんだけどさ。

 個人の独立は財布の独立って、伝わらんかなあ。


 王都では魔導回路微細化のためのドワーフの細工師も探したが、ドワーフ産という品物は扱っていても職人はいなかった。

 正確には、厳重に囲い込まれているか、ドワーフの国から出てこないのだという。


「超、引きこもり集団らしい」

「親近感を禁じ得ない!」

「世界旅行いうてるヤツがそれでええんかい」


 ミナヅキの前世は引きこもり気味だったそうだし、王都まで旅してみて、ロクなもんじゃねえとの感想も漏らしている。

 あるいは、世界旅行という野望は破棄されるかも?

 正直なところ、なんでもいいのよ。

 せっかくの転生、楽しめれば勝ち。


「大変だ! 空を見ろ!!」

「なんだあ、ありゃあ!?」


 なんだかんだと時間は流れ、ルーディナル様と最後の詰めを相談していたところ、街中から騒ぎの声が挙がった。

 好奇心には勝てない。

 俺たちも表通りに出て空を見上げ、そして息をのんだ。


 クジラ……を模したもの?

 胴体にゴンドラのようなモノが張り付き、たくさんのロープやなにかしらの機材が張り出している。


 前世記憶でいえば飛行船のようなものが、ゆったりと王都の上を遊弋していく姿がそこにあった。



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