5-01.ショート・トリップ
■ここまでのあらすじ(抄)
金髪碧眼美少年の俺ウヅキ、黒髪黒目で腹も黒いのがミナヅキ、おっぱい星人が赤髪青目のハヅキ。
転生者である俺たち三人は、中世ファンタジー風のこの世界で協力して生き抜くことを誓った。
ぶち上げた野望のうち、ハヅキの悪徳領主はいまだ道筋見えないけれど、当の本人が焦っていない。
錬金術師の遍歴修行となりたて助祭捕の祭祀職巡礼行、同行の商人という装いで巣立ちを迎えた十三歳の春。
俺たち三人の転生者、仲間とともに羽ばたくぞ。
俺ウヅキは、十三歳の若さ溢れる美少年である。
そして俺は、前世の記憶が覚醒してしまった転生者でもある。
幼馴染にして親友のミナヅキ、ハヅキも同様。
同郷で同世代で三人そろって転生者、それもだいたい同じ時代の日本で生きていたらしいとくれば何らかの意図や作為を感じる。
だがしかし、死因はトラックにはねられてとか真っ白い部屋で神様に会いましたとか、そういうお約束は一切経験していない。
俺たち以外にも転生者か転移者が存在していた痕跡があることも踏まえ、世界のシステムとして転生なり転移なりが行われているのではないかというのがミナヅキ仮説である。
「紙と鉛筆には助けられました」
「なかったらつくって儲けようネタだが、逆にいえば簡単なモンはだいたいやられてるっぽいんだよな」
「むしろ文明や技術が衰退しているまである」
そもそも、この世界の始まりが複数世界からの大規模集団転移であったろうことはほぼ確実。
なんせ神話がそう言っている。
曰く、この世界は滅びゆく世界から救い出した人類や動植物の避難所として、神々が創造された新たな地アガルタであると。
なお、アガルタだったりアスガルドだったりアガードだったりエグルスだったり、世界の呼び名は伝承によって異なる。
諸説あるというやつだ。
「文字通り、世界を股にかけた超すんごいノアの箱舟伝説みたいなもんやね」
「人類だけでも、俺たち人間にエルフにゴブリンにドワーフにオークに……」
「基本、それぞれの世界の人類だったみたいですね」
だが、せっかく救済した神々の願いもむなしく、人類と滅びの因子とは切っても切れない関係だったようである。
世界を滅ぼそうとする力が迷宮を創り魔物を生み出し、闇の手先と化したダンジョン・マスターもいるらしい。
かくて千年以上の長きにわたり、人類と魔物との生存闘争は続いている。
そんなこんなの剣と魔法の中世ファンタジー風異世界で、チートなしメタ知識なしで、貧村の農奴の末っ子として、どないせーちゅうねん。
賢い幼少の俺たちは、転生者という秘密を抱えた同志として、協力して生き抜くことを誓った。
それからはや十年。
親や村から売り飛ばされたりもしたけれど、私は元気です。
「就職ガチャには勝った!」
「衣食住のすべてにおいて村にいるよりマシだったと言えるわ」
「売られたおかげで将来への道が開けたとは皮肉なものです」
村の食糧危機対策の口減らしとして売られた俺たちは、感情としても法理論としても、今生の親や故郷とは縁切りした。
それぞれの奉公先で研鑽を重ね、錬金術師の弟子となり、教会の祭祀職資格を手に入れ、商人として独立した。
あえて自分を追い込むような過酷なこともやってきたと思う。
そんな俺たちを支えたのは、幼少期の誓いに含まれた生きるための希望、将来への野望を、三人で実現しようという熱いモチベーションである。
俺の場合は冒険者稼業をやること。
ファンタジー世界に転生とくれば定番だもんな。
この世界でのいわゆる冒険者にあたる魔物狩りとして、すでに一歩踏み出している。
ミナヅキは世界旅行。
前世は引きこもり気味だったことへの反省だそうな。
教会の養成院で法術だけでなく祭祀職コースもやったのは、祭祀職巡礼行という慣習にのっかるため。
そしてハヅキは、悪徳領主をやるんだと。
悪徳はさておき、まずどうすれば領主になれるんだというところから手掛かりがない。
俺の錬金術師の遍歴修行と、助祭捕ミナヅキの巡礼行に、独立商人として同行するハヅキ。
わけと縁あって、俺の兄貴のスコールに、ミナヅキの同窓で同じく新任助祭捕のハイラル、身請け金を払って教会から引き取った形になったヒルデガード、フィリア、ミルディーフの三人娘との、計八人での旅になる。
穏やかな春の日に巣立った俺たちの前には、洋々たる前途が開けていた。
先頭を行くのは兄貴のスコール。数え十六歳の青年期入りかけだけど一行の最年長だし護衛役だし俺が最前線やるんだとのこと。
ペースをつくるのはハヅキが連れたお馬さんで、大所帯の荷物を積んだホロ付きの馬車をひいてもらっている。
「なんかこう、清々しい気分よね!」
「ん!」
顔をほころばせて元気いっぱいのヒル子とミルディーフは、足取りも軽く荷馬車についていく。
その後方に、フィルとミナヅキが並んで歩いている。
「なーにが『君たち自身の意思で辞退すれば何も問題ない』ですかねえ。私たちのこと要らないって言ったのはあっちなのに」
「そうだねえ」
最後尾を守る殿が、俺とハイラル。
ま、先頭の兄貴と最後尾の俺以外の隊列は気分次第だ。
「養成院の院長、法術師の引き抜きって不祥事なのに自分で泥かぶる気はなかったんだな」
「迷宮攻略組の声が大きくてね。院長にとって法術師を三人も引き抜かれたことよりも、彼らのご機嫌を損ねることのほうが直接立場に響く……のかもね」
「おう派閥ぅ。でかい組織はいろいろあるなあ」
「まあそういうこともあって、僕も教会内に残るより巡礼に出てしまうほうがいいなと思ったんだ」
本来ハイラルは、ツェルマット教会内で司祭まで出世して、それで実家のヤマトゥーン男爵領に戻って地元教会を運営する予定だったはずだ。
後ろ盾のない、つまり出世見込みのないハヅキと違い、れっきとした貴族家をバックに持つハイラルが自ら出世コースを外れたのだから、同窓たちにもいろいろ言われたらしい。
「なーに、どうせ司祭に昇階するまで十年は覚悟さ。変な派閥抗争に巻き込まれないことのほうが大事だよ」
「そういうもんかねえ」
「ヤマトゥーン家にとって大事なのは自領の教会のコントロールであって、上位組織のツェルマット教会とはほどほどの関係でいいからね」
祭祀職資格、つまり聖職者としての地位を失わないようにだけ気を付けて、適当な時期に実家に泣きついて司祭になれば、もとの人生コースに復帰だそうな。
大局を損なわなければなんとでもなる。
さすが本物の貴族家のお坊ちゃまは格が違う。正直うらやましい。
「それに僕だって、試練の迷宮で恩恵を得ておきたいさ」
「まずは立地確認だけな。おまえさんの実家報告が先だかんな」
神々が人類に与えた試練にして対魔物戦闘訓練施設、試練の迷宮では条件を満たすと恩恵が得られるという。
何が得られるのかは運次第というが、挑戦しない手はない。
ただし、迷宮に潜り条件を達成するには相応に時間が取られる。
先に実家に対し、卒院の件も含め、手紙で済まさず一声かけておくのが、ハイラルの果たすべき最低限のホウレンソウとなる。
旅立った初日は相手を入れ替えつつの会話が多かった。
ミナヅキたち教会の養成院あがりは、基本的に俺たちとは週に一度会えるかどうかという付き合いだったし、改めて相互の立ち位置や考え方なんかを探り合い確認しあうプロセスでもあった。
二日目は、会話のトーンがやや落ちた。
三日目はだんまりである。
「足、痛い」
「この宿もノミだらけじゃないですか!」
「おなか……いたい」
ヒル子たちは、伯都ツェルマットの教会の孤児院から養成院へと進んだ、いわゆる内部組である。
当人たちの記憶にある限り、街を出ること自体が初めての経験であった。
「休養するにも、次の街まで進んでまうほうが都合がええんやが」
「だがなあ、昼の時点ですでに目が死にかけてたっていうか、例の牛の歌みたいな悲しそうな瞳でこっちを見るというか」
女子組にはじっくりお休みしていただいて、俺たち男子組は男子部屋で額を寄せ合って善後策を探す。
はるばる王都までの往復経験もある俺やハヅキ、兄貴は平気なのだが、ミナヅキやハイラルからは弱気な声があがる。
「僕もキツイ。村から伯都まで出た時はそうでもなかったはずなんですが」
「同じく。体力は問題ないが、慣れないことで疲れているという感じだね」
焦る旅ではない。
体を慣らしていくべき時期に無理をして壊してしまったらそれこそ本末転倒になる。
体調を整え直すのに一日二日は休んでもいい。
「ただなあ、手持ちの銭にそんなに余裕ないんや。すこしでも稼がなと、ほとんど商材化してもうてる」
「売りさばくにも、次の街ノルトラムのほうがやりやすいわな」
「いっそ女子は荷馬車に乗せて運ぶか?」
「一案ですが、ツェルマットを出たばかりだからほぼほぼ満載なんですよね」
養成院組にはお小遣い以上の収入のなかったことから、帳面上はともかく、現状のパーティとしての財布は俺とハヅキ頼りで持ち出しだ。
当座の行動を共にしているものの、いつ抜けるかわからないハイラルは今のところ自分の分だけにしてもらっている。
そして俺は三人娘の身請けと装備等の旅の準備と、師父ネイトナル様から譲られた敷地に拠点たるパーティ・ホームを建設したことで、稼ぎまくった資金のあらかたを吐き出してしまった直後である。
今後もキサラギ・ポーションに関する権利金は分配される予定だが、自分で製造していないんだから幾らかもらえるだけマシというもの。
ハヅキも馬と荷馬車を購入、日々の餌代を考えてもさほどの余裕はないだろう。
ずばり、現在はパーティとしての収入がない。
「最低限は自分の交易でひねり出しますけんど、このままだとジリ貧やね」
「助祭捕様たちのおかげで関所の対応がいいことはありがたいんだが、収入は早めに解決しないといかんなあ」
関所のような場所では俺や兄貴などは巡礼の聖職者様の従者とか荷物持ちとか、そういう扱いということにしている。
それだけでなく、道中に教会があれば簡単な奉仕と引き換えに数泊くらいはさせてもらえるらしい。
ただし、ここは場所が悪かった。
まだ伯都ツェルマットから三日目の距離、かつ、次の街ノルトラムに近すぎて、最低限の宿くらいしかない集落なのだ。
予定では通過するだけの場所であったのだが、女子組のペースにあわせた結果、行程の途中で日が暮れることが判明、急遽足を止めた。
前回の王都行でなら野営も覚悟の強行軍もやったが、そこまで無理をすべき場面でもない。
明日は野郎どもで荷物を担ぎ、馬車に三人娘乗せてとにかくノルトラムまでは行こうぜ、と話が決まりかけたところで女子たちが男子部屋に顔をのぞかせた。
なにやら深刻な表情をしているが、らしくもなく様子をうかがっている。
「どしたよ。旅慣れてないのはしゃーないんだから、気負う必要はないぞ?」
「……きちゃった」
意を決したかのように進み出たミルディーフが俺の耳元でささやき、俺はしばし呆然としてしまった。
「あー、第一級事案発生につき、転移門を使用する。転移者は俺と三人娘、再帰還点を示すリターン・アンカーの管理はミナヅキ、再帰還予定は明早朝とする」
「おう?」
「ごめん」
「いろいろ、甘かったです。いきなり迷惑をかけていますが、すいません、一度戻らせてください」
法術系の高位になる転移門は、俺たちがいわゆるアイテム・ボックスを求めたすったもんだの末に手に入れた魔法の一つである。
本来は転移先の指定がクッソ難しくて使い手が希少らしいが、俺たちは魔道具によって基点から魔力線を引くことで座標指定の簡略化に成功した。
俺たち三人がそれぞれ持つリターン・アンカーの現在の基点はすべて伯都ツェルマット、パーティ・ハウスの一室にある。
事情を簡単に説明した俺はゲートを開き、三人娘とともに伯都に戻った。
明日の朝に、ミナヅキの持つリターン・アンカーまでの魔力線をたどって再度転移すれば、神隠し騒動を起こさずに済むだろう。
「俺は魔力の回復に専念するから、すまんが自分らでなんとかしてくれ」
「ええ、まあ、男性に手伝わせるものじゃないですし」
ミルディーフは、生理がきちゃったのだ。
こなかったそれはそれで問題ですけどね。
俺は、自分の部屋で一人嘆息した。
「女の子は大変なんだなあ」




