4-11.コレにおまけがついてきた
例のアレこと異世界物でおなじみのアイテム・ボックス。
あれば超便利なものなので探したのだが、見つかったのは『望めない』恩恵の【虚空蔵】と、それを再現しようとした『使えない』収納の魔法だった。
収納の魔法を弄りまわすうちに、遺失魔法分解消去っぽいものを再現してしまい、師父ネイトナル様に功績を押し付けるという一幕もあった。
師父やニートナル家にとっては、ツェルマット伯爵家から一代騎士に叙されるのは名誉なことだが、旅に出たい俺にとっては邪魔な首輪だかんなあ。
収納の魔法に見切りをつけ、ミナヅキが提案してくる。
「別アプローチとして、もともと存在する空間に接続する、要は転移門の転用はどうだろうか」
「なるほど。ネックの部分をまるっと放棄するわけやな」
「ほむん」
転移門は法術系の魔法。
教会の書庫にアクセスできるミナヅキから、高位呪文書の写しを受け取る。
一般に出回るようなものではないが、これも養成院の候補生という肩書あればこその成果だ。
「養成院に居られるうちに、漁れるものは漁っておきたいんだよね」
「だな。研究に関しては俺とハヅキでやるから、ミナヅキは情報収集頼むわ」
知は力。
知にアクセスできる環境の貴重さは、失って初めて気が付くものかもしれない。
俺たちは転生者として身をもって知った後悔があり、今生の常識にも飢えている。知に貪欲にならざるを得ないのだ。
「結構な量、写本してきたもんですわなあ」
俺たち三人の手に入れた本や写本は俺の部屋に保管してある。
本棚を前にハヅキは感慨深げであった。
「残して旅に出るのもなあ、惜しいというか、悔しいというか」
「ファンタジーらしく、無限収納や魔法の鞄なんてもんがあればよかったんやけんどね」
「仮に存在していたとしても、噂一つ耳に入ってこないようなモノじゃあね」
「ファンタジーは、都合のいい夢の国ではなかったゆうことやね」
収納の魔法は、収納庫としてもともと存在しない謎空間を生成、維持しなければならない。
対してミナヅキの示した新アプローチでは、存在する空間に対して物品の出し入れをするゲートを開けないかというものである。
魔術師の魔法である瞬間移動は、空間を入れ替えることで移動するもので、入れ替え先は視界内に限るとされている。
法術師の魔法である転移門は、離れた場所へ転移できる門を生成し、人がその門をくぐることで移動する。
どちらも、使い手は非常に少ないようだ。
少なくとも俺や師父は知らない。
ミナヅキの渡してくれた資料を読み解いていくと、高位呪文なのはもちろん、使い手がほとんどいない理由もよくわかる。
「手順が複雑で消費もでかいなあ……」
「但し書きに、迷宮の中には転移門開けない領域もあるから注意ってありまっせ」
迷宮だしなあ。
別宇宙につながっている場所だと言われても納得するしかない摩訶不思議空間だし、そういうところもあるんだろう。
また、ほんのり見え隠れする危険性も、使い手を少なくする原因だろう。
「魔術と法術の違いはあるけど、座標指定の仕方はそっくりだ」
瞬間移動が視界内限定なのは、入れ替え先の座標指定をイメージに頼るため。
同様に転移門も、転移先の座標指定をイメージに頼っている。
よっぽど強いイメージ、慣れ親しんだ場所でもないと転移先を固定できず、ゲートを開けないとある。
ゲートを開くための魔力消費もドッカーンだが、これは収納の魔法も同様。空間を繋ぐためのどうしようもないコストなのだろう。
「さらに、距離に応じて消費も増える」
むしろ、使い手がいるということが脅威かもしれない。人類すごいぜ。
「機能を限定していくわけでっしゃろ? 省魔力化はある程度は期待できるやろ」
「ゲートのサイズがイコールで出し入れできるモノのサイズになっちまうが、仕方ないか」
とりあえず危険度の少ない瞬間移動から試す。
転移門は、ゲート通過中に破綻した場合、転移元と転移先にぶった切られる。
攻撃魔法に応用できそうな物騒な副作用に頭が痛くなるが、安全装置的なものを組み込むと魔力消費が跳ね上がるのもわかるし、なんとも厳しいものだ。
「つか、テレポはテレポで怖いなこれ」
「『*いしのなかにいる*』」
「やりかねない。視界内限定って但し書きが、血文字に見えてくるぜ」
座標指定をイメージに頼っている以上、イメージ先が視界内である必要はない。なのにわざわざ但し書きがついているということは、つまりそういうことなのだろう。
ちなみに入れ替えする空間の大きさもイメージ頼み。
嫌がるハヅキを道連れに跳んでみたが、結構ファジーに可変する。
ハヅキと違って弟弟子たちは特に嫌がらずに、実験に協力してくれた。
空間を入れ替えて立ち位置が一瞬で変わったレオーネなどはスゲースゲーとはしゃいでいた。
若さとは、無邪気なものである。
魔力の回復を待って、覚悟を決めて転移門もテスト。
視界内の空間を指定したら、特に問題なく成功した。
見えないところとして、俺の部屋を指定しようとしたが、まとまらず失敗。イメージがはっきりしない。慣れ親しんだはずの自分の部屋でもこれか。
「いまんとこ、空間を入れ替える入れ替えないと、ゲートを開く開かないの違いだけだな」
「そんだけ違えば別モンでっしゃろ。似て非なるっちゅうもんや」
消費する魔力は似たり寄ったり。
収納庫としては、テレポで空間を入れ替えだと柔軟性がいまいちだな。規格を定めて丸ごと入れ替え……いや、巻き込み事故を考えると使えないか。
やはり、転移門をベースにするのが無難だろう。
問題は、イメージに頼らずに収納庫の座標をどう指定するかと、距離に伴う消費の拡大となる。
発現させるゲートを起点に、どっちの方向に何キロメートル云々の決め打ちは、詳細な地図があっても位置ずれする未来しか見えない。
「しかも、惑星いうんは表面ぼこぼこな球体やしなあ。上下方向のズレは怖いで」
「指定がイメージ頼りって、合理的ではあるんですよね」
「転移先、収納庫の場所イメージを強くする、記憶力を鍛えるしかないのか?」
「魂レベルで?」
行き詰っていた俺たちに、助けは思わぬところからもたらされた。
スコールの兄貴が弟弟子たちのことで俺に注意を促したのだ。
「ヤクートはともかく、レオーネには必中の矢はまだ早いみたいだぞ」
「あーいいのいいの、誘導用のガイド・パス引くこと自体が魔力制御の……ガイド・パスぅ!?」
俺は屋敷の庭の木陰に魔力の糸を固定し、そのままパスを伸ばしながら自分の部屋に戻った。
転移先はこのガイド・パスの先だぞーってな感じで転移門を開くと、バッチリですよ奥さん。
ただしこれだけと集中が途切れた瞬間にガイド・パスは失われる。
そこで用意しましたのがこちら、【魔力線】の刻印をメインに、魔力供給用の魔石を、入れ替えも考慮して二セット搭載いたしました新作魔道具でございます。
名前はリターン・アンカーとでもしておこうか。
「どや」
「うわ、ウザッ」
座標指定を術者から切り離せることが、魔道具【リターン・アンカー】の利点となる。
例えば転移門で原点に戻ったとしても、現地に【リターン・アンカー】を残しておけば、魔力線をたどって再度、転移門を開くことができる。テレポもできるけど、危ないのでやめておこう。
魔道具【リターン・アンカー】を使用することで座標指定を簡易化し、また機能を特化させた改造魔法を、それぞれ緊急瞬間移動と収納庫接続門とした。
前者は、非常時にはとにかく素早く発動させることが大事なので手順を簡略化したが、できれば使いたくはない。
後者が、なんちゃって収納魔法となる。
「実用性は?」
「要検証」
距離により消費する魔力はどう変わるのか、また、【リターン・アンカー】の魔石もどれくらいもつか。
お屋敷の庭の一画に縄を張って絶対に立ち入り禁止とし、そこに【リターン・アンカー】で魔力線を固定。
ハヅキと兄貴とともに、片道三日のシールセンの迷宮を目指す。
伯都最寄りの迷宮というと観光地っぽい紹介になるが、魔物狩りの皆さんにとっては新たな主戦場だ。
例によってポーション背負子にガン積みなのは、第三者の目を意識したためである。商売メインじゃないにせよ、商売ですという外観をつくっておかないとね。
「冬は動きたくないって、すごくわかる」
「二日目の宿がないのが最悪だな」
「だから屋敷に戻ったやん……」
屋根壁あってお布団の中で眠れるって最高ですね!
夜が明けたので、お屋敷から道中の木陰に隠しておいた【リターン・アンカー】までの魔力線を目印に転移門を開く。
「キツイか?」
「俺の魔力だと、テレポにしろゲートにしろ、せいぜい数日分の距離が限界ぽい」
「自分だとその半分目安やねえ」
「ウヅキたちがさんざん気にしてた、収納庫としてはどうなんだ?」
「そっちはもうちょいいける。あと、【リターン・アンカー】側の消耗次第」
シールセンの迷宮そばには、新たな迷宮街が生まれかけていた。
多くの人員がブーンレバーの迷宮からそのまま横滑りしたのだろう。自警団のおっちゃんたち、なじみの顔もあった。
「なんでおるねん」
「なんで居なかったのです!」
ヨス傭兵団とヨス家の姫様までいた。
露店でポーションを売りさばいていたところに現れたリュクレース嬢は、萌黄色の髪を逆立ててハヅキを責めた。
「あなたがポーションを売ってくださらなかったから、無為に伏した者が出たのですよ!」
「知らんがな。そないにポーション欲しければ伯都で買えばよろし」
護衛であろういかつい男が怒声を上げて割って入りそうだったので、俺はそいつの注意を引いた。
「お役目上、あんたが姫様の味方なのはわかるが、伯都で売ってるもんを調達できない云々はないぜ」
「小僧が勝手をいうな」
「そうか。じゃあ、今後一切あんたらにはキサラギ・ポーションは売らん」
「貴様何を」
「俺が、製造者だ!」
いかつい男は言葉に詰まった。
すでに周囲は自警団の連中が固めている。
急に静かになった男とは対照的に、ハヅキとリュクレース嬢の罵りあいはヒートアップしていったが、痴話げんかの一種だと思えば関わったら負けである。
「俺の聞いた話だと、法術師が手配できたからって態度が急変して、それで喧嘩別れしたはずだが?」
「ああ、いや……、男と女のことだ」
「ただの町娘じゃないだろ。ポーションが命綱だと思うなら、仕入れ先を繋ぎとめとくのも組織背負った人間の仕事のはずだが?」
「そこはほら、お嬢もまだお若くて」
「つうか、ヨス傭兵団はブーンレバー迷宮攻略の主力だったんだろ? 攻略なったなら、旧領奪還に向かわなくていいのか?」
「……いろいろ、あるのだ」
よくよくと聞いてみれば、迷宮攻略の最前線を担当したヨス傭兵団は半壊したという。
なるほど、お姫様の身近な人々がごっそり死んだり不具になったりすれば、ハヅキに八つ当たりしたくもなるか。
されるほうが黙って受ける理由もないが。
名声と富は手に入れたものの戦力は激減、旧領奪還など望むべくもない。
後ろ盾の伯爵家は、隣国への介入となるため慎重な姿勢を崩さないという。
「結局、我らは利用されたのだ!」
本音なんだろうけどさ、伯爵家を利用しようとして集ったヨス家の残党なわけで、文句を言える筋でもないと思うんだな。
利用し利用され、政治やってるんだから当然だろう。
怒るなとは言わないけど、八つ当たりは見苦しい。
リュクレース嬢は泣いて走り去ったが、じゃあハヅキの気が晴れたかといえばそんなわけない。
終わったこととして整理した心をほじくり返されるわ、気分の悪い思いを押し付けられるわで、一方的に被害を受けたようなものだ。
「慰めてくれても、ええんやで?」
「ハヅキ、おまえはよくやった」
「女のワガママを受け止めるのも男の甲斐性とはいうが、なあ」
新たな迷宮街には一泊だけして帰路についた。
道中で周囲に誰もいないことを確認して、転移門を開いて伯都、ニートナル屋敷に戻る。
だがしかし、そこも安息の地ではなかった。
あまりにも男前な顎を持つエンダー家の末姫が、ソバカスまみれのおさげの悪魔を引き連れて屋敷に訪れたのである。




