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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第4章 三人の転生者《イレギュラーズ》、何歩か踏み出す

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4-03.迷宮街自警団

 伯都ツェルマットから約一日の距離にある迷宮街は、同地に存在する迷宮に挑む魔物狩り(ハンター)と、彼らの財布を狙った者たちによって生まれた街である。


 冒険者稼業の第一歩を記すべく訪れた俺は、しかし、迷宮酔いという思わぬアクシデントに見舞われ宿に伏した。

 俺と兄貴の都合に付き合い、行商先として迷宮街に同行したハヅキもまた、大量に持ち込んだポーションがまったく売れずに落ち込んでいた。


 しかしそれでも腹は減る。人間だもの。みつを。

 兄貴のスコールおよび護衛に雇ったウェンレイトンさんともども、何か食いに行こうとした矢先、宿の受付あたりから怒鳴り声が響いてきた。


「自警団だ!」

「ここにキサラギのポーション売りだ、なんて騙り野郎が泊ってるだろう!」


 俺たちは顔を見合わせた。


 どう考えてもハヅキのことであり、すなわち俺たちの問題である。

 素泊まり幾らの宿の主人が、宿泊客の盾になるなどと考える方が間違っている。

 身にかかる火の粉は自分で払うしかない、自力救済の世の中なのだ。


 怒声が聞こえる中、ぼさぼさの赤毛と対照的に顔を青くするハヅキの肩を叩き戸口に向かうが、兄貴とウェンレイトンさんが立ち塞がった。


「……出ないわけにいかないじゃん」

「そうかもしれないが、そうなんだろうが、ああっクソ。俺の後ろにいろよ」

「護衛が俺の任務ですしねえ。避けられませんか」


 簡易的な隊列を組んで宿の受付に近づくと、こちらを認めたご主人や、屈強な男たちを引き連れ怒声を上げていたおっさんと目が合った。


「……」

「……」


 ご主人は迷惑そうに、おっさんは目を見開いて俺たちを見つめる。

 次の瞬間、おっさんは背後に向き直り、配下の男たちに怒鳴り散らかした。


「何が騙りだバカヤロー! ご本人様じゃねーか!!」

「ええっ!?」


 いやー、知った顔でよかった。おっちゃん、久しぶりじゃん。

 これには俺も思わず膝から力が抜けそうになる。


「そこにおわす金髪パツキン様こそ、かの錬金術師ニートナル様のお弟子さんだぞバカヤロコノヤロドアホウがッ!」

「ち、ちがいます兄貴! 赤毛です、赤毛!」

「そうでがんす、赤毛のコゾーでやんす」


 金髪碧眼美少年とは俺のことだ。俺の前に立つ兄貴も金髪だけど。

 緩みかけた空気が男たちの弁明で風向きが変わり、改めて自分に矛先が向いたことにハヅキは身を固くした。


「カーッ! これだから若造は。伝説の赤毛露店も知らねーとかよぉ」


(ハヅキ、おまえ伝説だったのか?)

(いや、身に覚えはないねん)


 おっちゃんによると、二年前の冬に突如現れた『錬金術師ニートナルの弟子の修行品、キサラギ・ポーションを扱う露店』は、営業が不定期なこともあり、見かけたらラッキー、買えたら泣けと言われていたのだとか。


(別の見習い商人と、露店の権利を週半々だったもんな)

(お互い融通しあって、弾力的にやっとりましたさかいなあ)


 春にハヅキが露店営業をやめる際には、キサラギ・ポーションの入手ができなくなると困るというムーブメントが魔物狩りの間で起こったことも、今となっては懐かしい。

 本家ニートナル・ポーションに対して、ベース量は半分だけど売値も半値以下ということと、本家で扱っていなかった効能を持つ赤ポと青ポの存在が大きかった。


「兄貴、部屋から赤い奴、ケースごと持ってきてちょうだい」

「ああ、自分からもお願いやスコール兄。赤と黄緑、ケースでたのんます」


 おっちゃんはじめ自警団の皆さんに、『お近づきの印』をハヅキが配る。宿の主人にも『迷惑料』。

 これも社会の潤滑油、人的つながり顔つなぎこそが信用にもつながるのだから、必要経費でございます。


「やったぞお前ら、キ印のレッドだぞ!」

「うひょーマジモンだあ」


 キ印って……キ印ってさあ。

 ブランド名は『キサラギ』なんだ、略さないでくれよ……。


 なし崩しで解散ということになった自警団のガサ入れだが、俺はおっちゃんを呼び止めて食事に誘った。


「はあ、修行の一環っすかあ。魔物狩りの真似事なんて大変っすねえ。いや、俺も魔物狩りっすけど」

「いい護衛つけてて修行なんて鼻で笑われそうだけど、薬草採取はもちろん、ポーションだって使ってる現場を知らなきゃ、また失敗するからなあ」


 おっちゃんがウェンレイトンさんに目をやり、ウェンレイトンさんは目礼で返す。

 俺自身の野望はともかく、正当な理由のほうも、錬金術師として、ポーション製作人として大事なことなので、カバー・ストーリーとも言い切れない。


「売り手に信用がなけりゃ、誰だって買うわけない。度忘れしてた」

「騙りだまがい物だと、そう思われてもしゃーないくらい、自分、無名やわ」

「そう言ってもらえるとこっちも助かる。ポーション詐欺なんざありふれてるから、うちら自警団としても、な」


 先ほどいたメンツにはハヅキの顔も売れたし、因縁つけられたら自警団を頼ってくれと話が進む。


 ただやはり、持ち込んだ全量を迷宮前露店で売りさばくのは難しいだろうと。

 おっちゃんクラスのベテランであればこそポーションにも手が出せるが、中堅未満だとやはりお値段の壁が厚い。

 むしろポーションを惜しんで大けがをするような事態さえあるという。


「本家ニート印はおいそれと使えない俺らには、坊ちゃんのキ印は本当にありがたい。欲を言えばもっとお安めに……」

「これ以下だと、教会の癒水とかちあうんだよ」

「ああ、教会かあ」


 思わせぶりなそぶりをしていたので、俺は懐から取り出した本家ニートナル印の前衛向け活力薬液ヴァイタル・ポーション、魔物狩りの間での通称『ロイヤル・パープル』を、そっとおっちゃんの手に握らせた。


 翌朝、俺たちは四人そろって見込み客を訪問した。

 自警団のおっちゃんいわく、近隣国で政争・戦争に負けて領地を失った元男爵家の連中が、ヨス傭兵団を名乗り集まっているという。

 捲土重来と当座の生活資金のため迷宮での魔物狩り活動にいそしむ彼らは、深層にアタックしている関係で、どうしてもポーションに頼ることになる。


「よかろう、買おうではないか」

「これだけ大量に仕入れられるとは僥倖ですね、お姉さま」


 自警団の紹介とハヅキのネーム・バリューでは弱かったので、俺の師父の名と服の中にしまっていたツェルマット魔術師組合のメダルも示したところで、ようやく責任者に会わせてもらえた。

 家臣を控えて対応してくださった初夏の葉っぱ色の髪の姉妹が、元男爵家ことヨス家の生き残りなのだろう。

 文字通り肩から荷を下ろした俺たちは、お代を受け取って退出した。


「顔は好みなんやが、もうちょっと、こうね」

「ハヅキはかわらんな。俺は胸よりも、もっと柔らかい感じの顔つきがいいな」


 胸元を両手でアピールするハヅキに、スコールの兄貴も応じる。


「一応、亡国の姫君たちなんですから、ほどほどにしてくださいね」

「おっと」


 さて、荷が片付いたとなれば、向かうはダンジョンである。

 迷宮酔い、いわば魔力制御訓練の賜物として仮称・魔力感知能力を得てしまった者への手痛い洗礼は、とにかく慣れるしかない。


 ハヅキも一緒に突入、俺があかん感じを判断して撤退。

 スコールの兄貴や護衛のウェンレイトンさんには申し訳ない。


「俺は別に。楽な依頼ならむしろ歓迎ですから」

「気にすんなよ。てーかウヅキ、俺のために無理してないか?」

「兄貴のためってより、俺のこの先のためだよ」


 薬草採集依頼は不達成で諦めるのもやむなしだが、ダンジョン・アタックできるのは今日含めてあと三日。できることはやっておかないと。

 昨日の俺の姿を見ていたはずなのに、予想以上だったのかハヅキはだんまりだ。

 しゃべるどころか、思考をすること自体がおっくうになるからな。


「場数を踏んで慣れるしかないんだよな」

「迷宮酔いとは、そういうものらしいですね」


 迷宮に、入っては出て、出ては入りを繰り返す俺たちは、自分で思う以上に目立っていたらしい。

 明日は伯都に帰る日となり、大分マシになったと自己分析しながら飯をとっていた俺たちの席に、白髪の男が割り込んできた。


 タナークと名乗る男は、この迷宮街では知られた存在であるようで、彼によって深層から救助された魔物狩りも一人や二人ではないとウェンレイトンさんが耳打ちしてくれた。

 ついた二つ名はダンジョン・マイスター。

 いわゆる凄腕である。俺の勘もとい仮称・魔力感知もそう告げている。

 ハヅキの顔も青ざめているから同感なのだろう。


「出たり入ったりしているルーキー・パーティがいると聞いてね。魔物との闘いで無理をしているんじゃないんだね?」

「……ド初心者なもので、慎重に瀬踏みしています」

「そっちの彼は初心者には見えないが?」

「護衛です。俺たちがバカをやるなら止めてくれると思いますが、度胸試しなら、ねえ?」


 白髪で赤目って、アルビノか。しっかしなんだこれ、背筋を冷や汗が伝うのがはっきりわかるぞ。


「君たちの装備なら、素人でも三~四層には行けるだろうが、無理はいけないからね、うん」

「深いほど強くなるんだな、やっぱり」


 兄貴、会話を続けないでくれ。こいつはなんかヤバいんだって。


「魔物については、ここは素直なダンジョンだな。ひどいところだと、初見殺しの強い魔物が浅層でも出る」

「管理者のいるダンジョンは、そういうこともあるらしいですね」

「いやその、管理者ってなんだい?」


 ナイス質問……じゃなくて兄貴ぃ。


「ダンジョン・マスター、人類の敵です」


 ウェンレイトンさんは言い捨てた。

 意図的に迷宮を育成し人類に戦いを挑んでいる、闇の勢力の手先なのだそうだ。


「ただし、迷宮解放の手立てが、迷宮核ダンジョン・コアを砕くだけでなく、ダンジョン・マスターを倒すという選択肢が加わる利点はあります」

「そう。野良迷宮だと砕くしかない迷宮核ダンジョン・コアが、迷宮から持ち出せるようになる」


 迷宮核ダンジョン・コアとは超すんごい魔石ともいえるもので、希少性からも宝珠として超高値で取引されるとかどうとか。

 ためになる話ではあった。


 魔力の強さがイコールで戦力値とはならないが、目安にはなる。


 格闘技の達人を思い浮かべればわかる話だが、磨き抜かれた技術や、それこそ才能としかいいようのない戦いのセンスなどは、魔力云々とは関係ない。

 また、今生では神々の恩恵ギフトという摩訶不思議な技術・能力も存在する。

 ただし、魔力が大きいとは、ほぼイコールで魔法使いあるいは闘気術使いであることを意味する。なので目安。


「マイスター・タナークに直接声をかけられるとは、すごい勉強になりましたね」

「二つ名持ちかあ。俺もいずれはかくありたいぜ」


 宿に戻ったというのに、まだ鳥肌が立っている。

 猛者というものは、俺の常識の枠外の存在なのだろう。

 一見は親切そうに見えたが、力は本物。俺など一瞬で殺される。下手に関わるべきではない。


 翌朝、街を出ようとしたら、門のところで自警団のあんちゃんとガラの悪い小僧がもめていた。


「通るよー」

「お、すいやせん。そこ開けろや」


「こいつ、ポーションだって騙り野郎なんでさぁ」

「言ってない。勝手にポーションだって勘違いしたてめぇが間抜けなんだ」


 ガラの悪い小僧は、埃と垢で黄ばんだ全身に似合わないほどに澄んだ青い目で、俺たちまでにらみつけてきた。



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