4-01.冒険者稼業の第一歩
■ここまでのあらすじ(抄)
金髪碧眼美少年(自称)の俺ウヅキ、黒髪黒目で腹も黒いのがミナヅキ、おっぱい星人が赤髪青目のハヅキ。
転生者である俺たち三人は、中世ファンタジー風のこの世界で協力して生き抜くことを誓った。
口減らしで伯都に売り飛ばされた俺たちは、それぞれの立場で頑張った。
錬金術師の弟子、法術師&祭祀職の卵、見習い商人として研鑽を積む日々を過ごしていた十一歳の秋、村を出た兄貴と再会し、俺も魔物狩り組合に登録。世界旅行や悪徳領主にはまだ届かないけど、冒険者稼業へ踏み出した。
俺たち三人の転生者、野望にかなり近づいている?
俺ウヅキには盟友がいる。
現在は教会の養成院で祭祀職および法術師となるべく励んでいるミナヅキ、ノウブラウンド商会所属の見習い商人として行商や露店の経験を積んでいるハヅキ。
俺たち三人は、転生者という秘密の絆で結ばれた堅い友情を誇る。
ここは魔法と魔物の中世ファンタジー風の異世界。
神様チートもなしのド田舎農奴の末子スタートという環境で前世の記憶が戻ってしまい、とにもかくにも生き残るために協力を誓ったことが原点だ。
口減らしのために売り飛ばされたが就職ガチャには勝利し、ステップ・アップでジョブ・チェンジで、十一歳現在、それぞれの地歩を築いている。
「というわけで、兄貴のスコール。みんなもよろしく」
「スコールだ、よろしく」
伯都ツェルマットが秋を深める中、俺の師事するネイトナル様のお屋敷に、ミナヅキ、ハヅキはじめ参加できる友人を招いて兄貴を紹介した。
兄貴は十四歳。
家も耕地も継げない立場ゆえ、いずれ村を出るとは言っていたが、このたび有言実行し、俺とともに魔物狩り組合への登録も果たした。
「待って。お兄さんはわかるけど、なんでウヅキまで魔物狩りなんて登録してるの?」
「ん~?」
ナイス・ツッコミ!
たまにこういうポイントを稼ぐから侮れないんだよな、ヒル子は。
ご褒美に、ミルディーフともども頭を撫でてやろう。
「俺も、いずれ遍歴修行に出るからな。ちょうどいい機会だし、事前訓練みたいなもんだって師父が」
「遍歴ですかあ。ミナヅキ君も数年後には巡礼行に出ちゃうのが確定ですし、私たちは置いてきぼりですかあ?」
フィルが口をとがらすのをミナヅキがなだめる。
ヒル子ことヒルデガートにフィルことフィリア、そしてミルディーフが養成院の在籍年限一杯となるまであと二年と少々。
卒院後は、順当にいけば施術院勤務となり、ツェルマット教会の影響下で一生をおくることになるだろう。
というのも、この残念なヒル子ですら、『才能』に恵まれた者にしかなれない法術師として研鑽を積んでいるのだ。
時間とコストをかけて育てた特殊技能者を、むざむざ手放すバカはいない。
つまり数年後の未来では、旅立つミナヅキはじめ俺たちとはお別れさようならということになる。フィル様はそれがいたくご不満なのだ。
フィルたちの身柄をもぎ取る手立ても相談しあってはいるが、現状よいアイデアはない。
貴族様なら、自領にその技をもたらしてくれという建前で、献金を積んで身請け云々という手もあるそうだけど、俺たちはド平民だしなあ……。
「ネイトナル様のご指示か。であれば、深いお考えあってのことだろうねえ」
「いろいろあるんだよ、実際」
俺とミナヅキ、ハヅキは互いに状況を共有しているが、友人とはいえハイラルたちにあえて晒すような事情でもない。
別に隠しているわけではないが、俺たちは兄貴のスコールも含め、出身地のエンダー村、エンダー家と縁を切ったのだ。
しかし、旧縁をタテに強請り集りに身柄拘束などという事態がないとは言い切れない。
俺たちは、おそらくやつらの想定以上に貴重な人材に育っている。
ミナヅキ、ハヅキは言うまでもなく、俺もまた錬金術師の弟子として薬学および魔術師としての造詣を深め、がっつりエリートな特殊技能者に育ちつつある。
エンダー家としては、力づくにでも押さえたい身柄となるかもしれない。
そういう諸々を勘案して、我が師父ネイトナル様は、万が一にでも俺が身柄を押さえられないよう、年季明け前に遍歴修行に出す腹積もりであらせられた。
そこに兄貴の登場で計画を前倒し、事前の実地訓練として旅や魔物との戦い、薬草採集などの経験を積むようにとのご配慮なのである。
これから冬の間の露店について思案していたハヅキものっかり、じゃあ、北東一日ほどの距離にある迷宮街へ行こうぜということになった。
この世界でいわゆる冒険者に該当するのは魔物狩り。魔物狩りといえば、魔物を狩るのがメインの商売。魔物といえば迷宮である。
魔物狩り組合への登録、これすなわち俺の野望である冒険者稼業への直通路である。
だってさあ、剣と魔法の異世界ファンタジーとくれば冒険者稼業じゃありませんか。
定番ですよ、定番。
乗るしかない、この転生定番ウェーブにってやつですよ。
俺と兄貴は魔物狩り組合で登録を行い、魔物狩りパーティ『イレギュラーズ』を結成した。
ハヅキは、行商人の小知恵としてすでに登録済みだ。
渡されたタグに刻まれたランクはF!
あったよランク制!
俺たち以前の転生・転移者がいろいろ頑張ったのかもしれない。やっぱり魔物狩り組合とくればランク制だよな!
俺は紙を束ねてメモ帳をつくり、表紙に『ウヅキの冒険日記』と大書きした。
いやーワクテカっすね!
もちろん、真面目な準備も進めた。
あれこれやっていたら一週間などすぐだった。
兄貴と俺、そしてハヅキも、ごくごく一般的な革鎧や小剣といった装備を調達したが、鎧を身体に合わせる調整や刀剣含めた装備の手入れの仕方を学ぶだけでも時間をくうとか。
留守の間は工房を弟弟子のヤクートに任せるにしろ、俺のキサラギ・ブランドと本家のニートナル・ブランドの両方について、事前に仕込めるだけ仕込みとか。
魔物狩り組合で迷宮街や迷宮そのものの情報収集とか。
浅い階層の地図と出現魔物情報も買った。
金ならあるんじゃ~の成金ムーブって、案外楽しいかも。
マネー・イズ・パワー! マネー・イズ・チート!
さらに、パーティ『イレギュラーズ』は、魔物狩り組合で薬草採集依頼を受託した。
集めるは、迷宮内で採取できる薬草。その名も傷薬の草。
そのマンマだが、素のままでもポーションに加工したときにも効能がよろしく、命名に文句も言えない。
迷宮という特殊環境で生育することで魔力を媒介しやすい形質がどーたらこーたら。
かぁー!
俺は今、猛烈に冒険者をしているッ!
薬草採集依頼のご依頼主が俺の師父だとか、俺ご指名になっているとか、組合にも話は通してあって質のいい護衛的な若手をご紹介してもらうだとか、そういう大人の事情はこのさいどうでもいいことじゃないかあ。
だって、本家ニートナル・ポーションおよび俺のキサラギ・ポーションのお得意様という事情を差し引いても、組合的にデメリットないし。
組合への依頼手数料および実働者への報酬はきちんと支払われるうえに、仮に「俺の判断」で依頼失敗しても組合は責任を負わないのも通常の依頼と同様。
「お土産は、無事故でいいよ、おとうさん」
「アイム・ノット・ユア・ファーザー!!」
「ノォオオオー!」
軽いじゃれあいの最中もミナヅキは、異世界で冒険者という野望をかなえつつある俺を恨めしそうな目で見ていたが、諦めてくれ。
ヤツの野望、世界旅行のためにも、今はじっくり勉学に励み、教会の祭祀職という立場を手に入れることが重要なのだ。
あれ?
そういや教会の養成院っていわゆる学校なわけで、俺とハヅキはある意味商売系シミュゲーでくくれるけれど、実はミナヅキだけ別ゲーやってない?
学園ファンタジーといえば悪役令嬢とか勇者候補生とか、そういうのいないの?
それっぽいエピソードは耳にしたことがあるだと……。
なんて羨まし……ああ、そっすね、俺らモブだもんね、それもモブAとかモブBじゃなくてモブDくらいの、立ち絵でも見切れてたりする端役ポジっすもんね。
関わってないからよう知らんで終わっちゃうよね。背景ですもんね、俺ら。
ともかく、一年二年なんてあっという間。
すぐにまた、一緒にバカをやれる時がくる。
「そのためにも、慎重に」
「わかってるって」
俺とスコール兄貴、そしてハヅキは魔物狩り組合で、組合推薦の護衛的な若手さんと合流した。
兄貴は戦士として、俺は呪符使いとして自己紹介。魔術師としてふるまうには、ちょっと問題があるので呪符使い。
ハヅキは見習い行商人で行きかえりの同行者というポジション。
「俺たちド素人なもんで、ご教授、よろしくお願いいたします」
「ブーンレバーの迷宮の浅層で薬草採集と往復の護衛、六日間、こちらこそよろしく」
Dランク魔物狩りのウェンレイトンさんは自然体であった。
護衛料は六日契約で銀貨四枚。
親方級職人には劣るものの、つつましく一か月は暮らせるだけの金額だ。
はっきり言えば、採集した薬草の売値程度では元も取れないどころか大赤字確定案件である。
兄貴が魔物狩りって儲かるんすねとかスゲーとか言っていたが、あえて言えば俺の護衛という重責に対しては破格の安値なのではなかろうか。
今の俺の月収って銀貨百枚はこえてたよな、確か。
そのあたりの事情を察しているのか言い含められているのか、ウェンレイトンさんはド新人の俺たちに対しても丁寧な態度を崩さなかった。
さすが、組合お勧めの優秀な若手だ。
ウェンレイトン、体育会系の細マッチョ。覚えておこう。
「迷宮に着くまでも冒険だぜ」
「そやね」
疲れた。
ハヅキはもちろん俺や兄貴まで背負子にぎっしりのポーション、ポーション、ポーション……
もちろん、毛布やランタン、水袋に数日分の保存食といった、実物触るのは初めてだけど馴染み深い冒険者生活セットも忘れてはいない。
「迷宮街にどんな需要があるかわからんけん、今回は確実にはけるポーション主力で攻めたる!」
「ハヅキは、言葉遣いも変わって商人っぽくなったなあ」
「村から売られて丸っと五年以上ですねん。昔のままではおられまへん」
ノウブラウンド商会所属の見習い商人、ハヅキの目的はあくまでも行商。
行先を迷宮街にしてくれたのは、俺と兄貴の都合に付き合ってくれたからだ。重い荷物を用意して担ぐくらいは仕方ない。
迷宮とは魔物を倒すことで手に入る魔石の産地であり、魔物狩りという社会的底辺層の雇用の受け皿が稼働する産業ととらえることもできる。
しかし、ひとたび魔物あふれをおこすと被害が甚大になるため、ツェルマットの魔物狩り組合とそのバックにいる伯爵様は、褒賞を出して攻略を奨励している。
伯都から北東ほぼ一日の距離にある迷宮。
発見者の名にちなんでブーンレバーと呼ばれるダンジョンが、近隣の魔物狩りの主戦場である。
そのかたわらには、魔物狩りを相手にする商人や娼婦などの人たちが集まって自然発生的にできた街が存在する。
なんとか日暮れ前に、ブーンレバーの迷宮街に到着。
門番に魔物狩り組合のタグを示すと、行商人の小知恵の通り、頭幾らの入場税だけで通過できた。
商品持ち込み税を取られなかったハヅキのちいさなガッツポーズ。人は、いつの時代どこの世界でも、税金逃れのために知恵をこねくり回す生き物なのである。
そのままウェンレイトンさんおすすめの宿に投宿。
四人一部屋、素泊まりで大銅貨二枚か。メモメモ。
翌朝、軽めの朝食をとってから、商売に励むハヅキと別れ、俺と兄貴はウェンレイトンさんに護られながら迷宮に向かった。
意気揚々と迷宮に乗り込んだ俺たちだったが、太陽が頂点に達する前に、俺は兄貴に背負われて迷宮を脱していた。
「しっかりしろ、ウヅキ。もう迷宮の外だ」
「う……うう……」




