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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第3章 三人の転生者《イレギュラーズ》、野望のために頑張る

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3-12.ウヅキ、野望に近づく

 秋の収穫祭も終わり、冬へと向かう伯都には人があふれている。


 比喩表現ではなく、収穫祭から晩秋にかけては人でにぎわうシーズンだ。

 これには訳があって、近郊農村において収穫終了で不要になった人手が放出され、そのような人たちが仕事と飯を求めて伯都へと集まってくることによる。

 仕事のない冬に飯を食う口を残したくないというまことにえげつない裏事情が、人を伯都に集めるのだ。


 そんな秋のある日、工房の戸口が叩かれた。


「あの、すんません。こちらにウヅキって自分の弟がお勤めしていると聞いてきたんですが」

「兄貴じゃないか!」


 扉の向こうには俺の直上の兄スコールの、記憶よりも大人びている姿があった。

 立ち話もなんだし、かといって工房に入れるには汚れすぎている。

 俺は師父に許可を取り、兄貴を屋敷の方へ案内した。


「裏門から入って、最初に中庭で足洗うか」

「すっげーな、お屋敷じゃん。いいとこ勤めてんだな」


 城壁に囲まれた限られた領域を奪い合う伯都で、庭持ちって時点で富貴層確定だからなあ。

 辺鄙なエンダー村の農奴生活しか知らないと、別天地だと驚くのわかるよ。前世記憶のあった俺たちでさえ、ガチの貴族や金持ちスゲーってなったもん。


 兄貴の足を洗った時点で水桶が真っ黒になったので、さすがにこれはあかんと心を鬼にした。

 風寒い秋だが、兄貴の鍛えられた身体を信じて全身丸洗いに移行する。服は俺の予備を出した。


 ご覧ください。

 くすんでいた金髪が、俺やヤクート同様の輝きを取り戻しました。

 これがニートナル薬用石鹸と、俺特性のレモン汁リンスの威力でございます。


「見違えたな。確かにウヅキと兄弟だ」

「えっと、スコールです。弟が世話になってます」

「積もる話もあるだろう。今晩は泊っていけるのかね?」

「あ、はい。特にあてもないので、泊めてもら……頂けるのであればこれぞむじょうのよろこびできょうえつしごくにございまするう」

「うん、無理はしないでいい。内々でなら言葉遣いも普段通りで構わない。気を楽にしたまえ」


 我が師父は、兄貴の頓珍漢な言葉遣いに微笑まれた。


「あてがないのであれば、好きなだけ滞在するのもよかろう。部屋はウヅキと同室でいいか?」

「はい、ベッドを運び込めば十分かと」


 頷いた執事さんがススっと移動する。

 これで夜までには俺の部屋にベッドが二台になっているだろう。


「ありがとうございまするぅ~」


 スコールの兄貴は十四歳になっていた。

 俺の三つ上だからハイラルよりも一つ上、今は疎遠なヘンドリックと同い年だ。


「突然でびっくりしたよ」

「おまえたちが村を出るときに言ったじゃないか。俺だって五年もすれば魔物狩りで英雄になってやるって」


 英雄とまでは言っていなかったような気がするが、記憶は記録とは違う。

 兄貴の中ではそういうことになっているのだろう。


 エンダー村の領主カイアスは、就任直後の食糧危機を乗り切ったことで村内の支持を固め、以降、まずまず堅実な領地運営を続けているようだ。

 目下の悩みは嫁のアテだとか。あっそ。


 もうチビじゃない若ことセオルドはこの春に騎士として村に戻ってきたという。試練の迷宮での恩恵ギフトも得られたようだ。

 そして秋となり、伯爵様への上納を護衛輸送して伯都に来るのに、兄貴も便乗したのだとか。


 兄貴たちのような家を継げない者が、どこかのタイミングで村を出ることは暗黙の了解であり、すんなり離村できたという。

 むしろ、伯都への入市税が問題で、門前の商人に持ち物を買いたたかれて途方に暮れていたとか。

 門前商人はそういう商売だから恨む筋合いはないが、もうチビじゃない若が同行者の分くらい出してやってもいいだろうに。

 そういうところ、エンダー家の連中は薄情なんだよな。


「システィナには?」

「末姫様と会うってセオルド様についてってちょっと話したけどさ。ありゃあ、ダメだ」

「ダメかあ」

「すっかり街の女気取り。俺より自分の方が偉いって思ってる。末姫様付きってだけなのにな」


 周りがお貴族様とその付き人だし、自分も付き人には違いないから錯覚しちまうんだろう。

 広義で城勤めではあるシスティナが偉そうにすれば、街の平民はバックが怖いからへいこらする。

 こうなると、勘違いとも言い切れない、偉いから偉いんだが成立してしまう。何かあればひっくり返る程度の幻想だけどね。


「それでな、弟にこういうこと頼むのは苦しいんだが……」


 兄貴は実に素寒貧なのである。

 屋敷に御厄介になっている間になんとかして稼ぐつもりだが、そも、魔物狩り組合に登録するためには登録料がかかる。助けてくれと。


 ハヅキも言っていたな。登録するだけなら銀貨一枚だっけか。

 金なんかは融通できるが、安易に貸すのもアレではある。

 苦労の伴わない銭は身につかないというか、兄貴が俺にたかるのが当たり前のダメ人間になってしまうのは困る。

 何かの仕事の対価として、それこそ商人の行商護衛として……


「ああそうだ、ハヅキがいるんだ。兄貴、明日俺に付き合ってくれ」

「ん、もちろんいいぞ。しかしハヅキか、あいつも元気でやってるのか?」

「なんとか。ミナヅキも、あと一緒に売られた連中も、殺されちまったホセ以外はボチボチやってるさ」


 ホセ以外の四人とも、見かければ声を掛け合うくらいはする。

 祭りの時期にはともに過ごすこともある。


 ホセの件は村には知らされていなかったらしく、兄貴はひどい話だと吐き捨てた。

 わざわざ知らせることもないと判断したのかもしれないが、ホセに限らず、俺たちの売り先は覚えていてもそれだけ。

 もうチビじゃないセオルドの件で用があったときだけシスティナが来襲したが、それ以外は没交渉。いっそ完全に没交渉であればよかったのに。


 兄貴にエンダー家、エンダー村と縁を切ることを告げ、俺も同意だと返される。

 家を、村を出た以上、帰るあてなどないと言い切られれば、それでいいのかこの社会と思わず嘆息してしまう。


 俺は今生の両親や上の方の兄貴に対して薄情かもしれないが、スコールの兄貴には肉親の情がある。

 触れ合った時間や密度の差が情の濃淡を生じているのだろうか。


 幸い、今のところ兄貴一人を養うくらいはどうということはない。

 最初から寄り掛かられては迷惑だが、とりあえずの生活や路頭に迷ったようなときには支えられる。


 残念なことに、握手による魔力の認識は兄貴にはできなかった。


 これが通らないとなると厳しくなる。

 次善策として、翌朝から闘気術の基本たる錬気瞑想を教えたが、難しい顔をしてうなるだけであった。

 俺の経験上も一朝一夕にはいかないものであり、諦めない限りは見守ろう。


 昼前にはハヅキをつかまえ相談できた。

 やはり、魔物狩り組合への登録は銀貨一枚かかるという。

 以前話していた、入市税のカラクリなどを踏まえて、ハヅキはすでに登録済みだ。


「いうても、まだピンで動いたことはないさかい、フツーに商人として関銭とられとりますがな」

「ピンで動ける商人なんてどんだけ強いんだって話だろ」


 昨年でノウブラウンド商会の抱えるビギナー向け行商路から卒業したハヅキは、この春から難易度イージーなところを狙って経験を重ねていた。

 まずは東に往復一か月程度まで。次に二か月まで足を伸ばし、ハイラルの実家であるヤマトゥーン領を訪ねた。

 さらに往復三か月以上をかけて南の王都へ向かい、先ごろ伯都に戻ってこの冬に備えていたところである。


「王都かあ、いつかは俺も行ってみたいな」

「スコールの兄貴なら、それこそ護衛として一緒に行けるんでないかな」

「ただ、もう秋も深いし、冬はやっぱ動きがないか」

「そやねえ」


 商人たちだって、わざわざ寒い中移動したくはない。

 護衛だなんだの話が次に出てくるのは春。むしろ冬に出るような隊商護衛依頼はよほどの事情があり、腕利きでないと危険がデンジャーだろう。


「定番は、迷宮ってことになるのか?」

「自分も詳しくは知らんけんど、北東ほぼ一日の距離にある迷宮、これが伯都の魔物狩りの主戦場っぽいやね」

「ブーンレバーっていうらしい。俺、そこに行こうと思ってたんだ」


 消費地が近くにあるんだから、ポーションが売れるわけである。


 魔石は魔物を倒せば手に入る。

 ゆえに迷宮とは魔石の産地という見方もできるが、いったんあふれさせると被害がシャレにならない。

 迷宮から魔物あふれを起こさせないために、攻略してしまうことを視野に、魔物狩り組合とそのバックである伯爵様は魔物狩りを奨励しているそうな。


「市場広場で露店をひらく権利もおこうてなあ。自分も、商売として迷宮街には行ってみたかったし、兄貴、よかったら一緒しましょか?」

「願ってもないが、俺は迷宮にも入りたいな」

「行き帰りで二日、向こうで商売四日のペースで、自分の商売中に無理ない範囲でどや?」

「おう、頼むわ!」


 俺たち二人に迷惑かけて悪いなと言い、いや、ありがとうだなと言い直す。

 そんな兄貴の装備を整えるための金をとりに屋敷に戻り、ついでに師父に報告。


 ネイトナル様はしばし眉を寄せた憂い顔をしておられたが、目線を俺と兄貴に据えて宣われた。


「実はウヅキは、年季明け前に遍歴修行に出してしまうつもりでいた」

「ふぇええ、俺は捨てられちゃうんですかああ」

「……おまえの慌てた姿とは、珍しいものを見れたな」


 のどで笑って、我が師父は続けられた。

 曰く、エンダー家が縁故をたてに俺を強請ゆする可能性について考えていた対策だと。

 いくらニートナル家が富貴とはいえ、当代がお亡くなりになれば平民落ちである。さすがに村持ち騎士家と正面切った戦争はできない。

 よって、年季明けの前に、遍歴修行に出してしまい、万が一でも身柄を押さえさせないつもりであったと。


「少しばかり早いが、遍歴修行に出す前に実地訓練を行うことも悪くなかろう」

「イエス、マスター」


 俺と兄貴は早速、魔物狩り組合で登録を行った。

 魔物狩りパーティ『イレギュラーズ』も結成。

 これで職業欄に『魔物狩り(ツェルマット魔物狩り組合)』とかなんとか記載されるのだろう。ステータス・オープンできないけど!


 兄貴にはごくごく一般的な革鎧や小剣を『貸し』、俺自身はそれに加えて呪符使いとして装備を整えた。

 ツェルマット魔術師組合の登録魔術師の肩書はちょっと重いのよ。呪符使いなら、まだ敷居が低い。

 魔術師組合のとんがり帽子はニートナル屋敷にお留守番、メダルも木彫りのアクセと一緒に服の内側になるように首からかけておく。


 そして、じゃじゃん!

 先端部に呪符をセットするカード・スロット付きの杖を新調しました。

 手元まで銀の導線を引っ張って、杖のまま呪符魔法をぶっぱなします。ハヅキとミナヅキにもプレゼントだ。

 製作はいつものメセドリウスさんにお願いした。一応は魔道具の範疇だしね。


「呪符を使い分けるのが呪符使いのメリットだろうが」

「とっさに使うための事前セットです。余裕があれば呪符束から選べますが」

「理にはかなっているのか……」


 プレゼントを渡す際に、俺があれこれ準備を整えた姿を見たミナヅキが声にならない叫びを発したのでフィルに介抱を任せ、同じくハヅキがズッケーと叫んだので職人のところに連れていき、コイツの分もよろしくと頼んだ。

 お代は自分で払うだろう。

 この数年でそれくらいは稼いだはずだ。


 ミナヅキ君は、年限一杯養成院で頑張ってください。

 大丈夫、今の一年二年の差なんてすぐ埋まる。むしろ、きっちり勉強しておいたほうが絶対に後々役に立つ。前世の記憶がそう告げている。


 背も大分伸び、少年期真っ盛りの十一歳。

 俺たちがエンダー村から伯都ツェルマットに売り飛ばされてから丸五年以上が過ぎている。


 ミナヅキは教会の養成院で祭祀職課程と法術課程を並行し、己の野望、世界旅行への布石を打っている。

 ハヅキは見習い商人として知見を広げつつある。

 そして俺は錬金術師の弟子として、遍歴修行に備えた実地訓練を行うこととなった。


 俺たち三人のイレギュラーズがそろうのはまだ先の話になってしまうが、それぞれの経路と目指すものの差だ。

 俺の野望、冒険者稼業への直通路は目の前に開いている。


 紙を束ねてつくったメモ帳の、表紙に記すは『ウヅキの冒険日記』。

 ワクテカが止まらない!





(第3章・了)

第3章(全12回+設定メモ)の投稿は以上です。

ここまでのお付き合い、および評価やブックマーク等に感謝します。


第4章も引き続きよろしくお願いします。

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