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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第3章 三人の転生者《イレギュラーズ》、野望のために頑張る

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3-05.失敗は、できるうちにするもの

 伯都ツェルマットが秋分の収穫祭の準備に追われる中、ニートナル屋敷の俺の部屋にミナヅキ、ハヅキがそろった。


「ひっさびさの自分ら三人だけやな」

「イレギュラーズ伯都会合……もう何回目かは忘れちゃいましたね」


 西の塩鉱山までの往復隊商にくっついて行商人見習いをしているハヅキからは、伯都に戻ってきた直後の暗い顔の影がちらつく。

 俺たちがスランプに陥っていたように、ハヅキもまた何事かあったのだろう。


 今日の都合がついたのが俺たち三人だけだったのをむしろ幸いとして、転生者という秘密の絆で結ばれた同士の突っ込んだ話し合いをしよう。

 なのでヌビア奥様からのお茶のお誘いを、男だけの話がありますと言って断ったら、あらあらと笑われた。


「まあ、あれや。よくある失敗談や」


 塩鉱山までの行きの道中で、伯都で仕入れたツボが割れた。

 正確には割られた。犯人の目星はついているが証拠はない。


「自分の師匠ポジの先輩も、なぐさめ兼おしかりっちゅうか、これも勉強やからってな」


 推定犯人に対して「あいつらがクズなのは大前提だが」、ハヅキが「荷から目を離したのが悪い」そうだ。

 虫の居所が悪かった、人品の根が腐ってる、見習いへの『教育』……理由なんてものはどうでもよく、割れたツボ、破棄せざるを得ない商材というハヅキが受け止めるしかない結果だけがある。


「結局な、甘かったんや。自分の身は、自分の財産は、自分で守るしかない。それがこの世界の鉄則っちゅうわけや」

「前世日本の治安は、世界的にも異常にいいほうらしいからなあ」

「自力救済はいわゆる中世のお約束ですが……」


 万人が万人を相手に闘争するのは大変だから、じゃけんみんなの約束事決めて守って社会を回しましょねーという思想が、実行力の裏付けを得るのは近代以降だったか。

 それ以前の社会形態だと、いわゆる警察も司法も実行力の担保は限定され、公平公正も寝言だからなあ。


「スキを見せたんが悪いし、痛い思いをしなければ理解できない。だから助けなかった。それで、このままだと大赤字だがどうするっちゅうね、いやほんま、手痛い勉強でっせ」

「厳しい話です」


 手元に残った商材は、俺のお勧めのニートナル薬用石鹸だが、これは売れる相手がなかなかいない。

 小ぶりの試用版のほうはお試しにという感じでちょぼちょぼ売れたそうだが、本命の標準型は終着点の塩鉱山まで塩漬けになったという。


「塩鉱山まで塩漬けなんてネタふられても突っ込みにくいだろ」

「ネタにするしかないんや!」

「まあほら、ネタにできるくらい回復したってことで」

「実際、厳しかったで。売れないと借入すら返せない。頭ん中そればっかで、心がおかしくなりそう……なっとったんかもな」


 金がないのは首がないのと一緒というが、ハヅキは首ではなく心をくしかけたらしい。

 専売利権の関係でハヅキは塩を仕入れられないので、落ちモノを懐に入れるだけ。事実上、往路も帰路もほぼ手ぶら。


「あまりの居心地の悪さに、塩鉱山の隣の村で有り金全部で麦仕入れたんや」

「収穫期ですから、底値ではあったのかな」


 ただし、この時期、麦はどこの村にもある。つまり途中で売れるものではないので、重い思いをして伯都まで運んだという。

 最終的に、借入には利息付けて返済できたが、前回生み出した銀貨一枚の元手は大銅貨二枚まで目減りの赤字。


「『失敗は、できるうちにするもの』。先輩らからもそう言われたし、理屈ではわかっとるんやけど、そいでもやっぱしなあ」

「気に病むで本当に病んじゃうのが人間ですから、気にしすぎないようにと言っても、それこそハヅキもわかっているでしょうしねえ」

「それも、勉強かあ」


「しかも行きになあ、途中の村の木彫りアクセサリーの人に、伯都の夏至祭でリーフ様押しで完売したなんて、御礼半分の自慢してもうててなあ。帰りに合わせて気合入れて用意してくれてはりまん……」

「そりゃまあ、なあ……次も買うって思うよなあ」

「コレコレでスッカラカンでゴメンナサイいうたら、お代は次くるときでええから持ってけって」


 ハヅキは、一つ小銅貨一枚として五十枚分をツケで商品を預かっている。

 仮に、前回同様一つ小銅貨三~五枚で売れたなら、純粋な儲けとしては銀貨一枚相当を生み出せる計算になる。


「いいひとやん」

「おっぱいでかいおばちゃんやねん」

「おっぱいおっぱいおっぱい、おまえはいつもそれだ!」

「ええやん! 女子おなごのパイオツは幸せの塊やで!」


 俺たち三人で、愚痴とバカを言い合って、多少は気が楽になったのだろうか。

 ハヅキの顔色は健康的なスケベ色に戻っていた。


「こっちもなあ、失敗だったりスランプだったり、毎日が充実しちゃってますよ本当に」

「僕のほうもね、施術院実習で、前世知識的には多分ガンのおばあさんの担当やったんですけど、死を見送るって存外キツイ」

「ミナヅキには情があるっちゅうこっちゃな」


「情をなくしたら、ただの実験台、痛みを抑える【無痛】と【鎮静】の練習相手だもんな」

「医者の腕は、殺した患者の数で決まるなんて台詞もあるかんなあ。数こなすしかないのは事実なんやろし」

「いろいろ、考えちゃいますね」


 件のおばあさんに関しては、記憶にあるがん治療の四本柱、外科療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤)、免疫療法のそれぞれでアプローチを考えてはみたもののモノにできなかった。

 まさしく実験台にしてしまったという意識は俺も共有している。


「機能強化系の【抗病】が、免疫力をあげているのではとの推測から、痛み止めに混ぜてこっそり使ってみましたが、はたして効果はあったのか」

「治癒系だと、ガン細胞自体も活性化させてるおそれがあるんだよなあ」

「割と作用機序がはっきりしとりますからなあ、この世界の魔法って」


 それこそ、魔法の効果発現には必要ないとはいえ、作用機序を定めているのがいわゆる呪文である。

 呪文を唱えることによって、魔力操作の手順や発現効果のイメージを固めるのが一般の魔法使いの常識となる。


 そのせいで呪文の数自体はいくらでも増える。

 個々別々の状況に対応するために、あるいは消費する魔力量を節約するために、分化したり特化したり、文言を弄って編み出される。

 文言を弄れるだけ魔法語に熟達したという証でもあり、いわゆる改造魔法やオリジナル呪文の作成は、魔法使いなら誰しもがかかるはしかのようなものであるらしい。


 ただし、あまり意味がない呪文は淘汰され消えていく。

 比較的軽度の外傷の癒し【封傷】と、打撲等内傷にも有効な傷の癒し【治癒】くらいに違うならともかく、約三センチの傷をふさぐ【封傷3c】と約五センチの傷をふさぐ【封傷5c】をわざわざ覚える人はいない。


 それにどうせ呪文は補助。こういうふうしますぞぉって指定を自分に言い聞かせてるだけのシロモノ。

 結局はイメージよ。


「ガン細胞を明確に認識できれば、悪性新生物は消毒よーってイメージを固められただろうか」

「どうやってガン細胞を認識するかをクリアしたうえで、必要になる魔力量はどれくらいでしょうかねえ」


 朝晩の錬気瞑想と魔石チャージを欠かさず続けているおかげか、どうやら俺たちの魔力量や魔力制御は結構いいレベルに到達しているらしい。

 魔力制御に難ありすぎのハイラルは論外だが、同様の訓練を続けているはずのヒル子やフィル、ミルディーフもそれなりなんだろうか。

 とはいえ俺たちの基本方針は目立つことを避けるなので、ミナヅキは術をかける回数を周囲に合わせたり、発現効果を調整したり。


「自分だけでなく、ウヅキとミナヅキも、反省して次に生かすしかない場数ふんどるんやなあ」

「失敗だらけの人生でした」

「まだだ、まだ終わらんよ。俺たちの冒険はまだこれからだろ」


 ハヅキは、それじゃ打ち切りエンドやと笑いながら、次の商材の相談を持ち掛けてきた。

 塩鉱山で売れた石鹸は確定として、俺のところから出せるものとなると……。


「鉱山だし、石鹸売れたってことはやっぱりほこりや土砂なんかかぶるのかな」

「どっちかっちゅうと、塩気で肌をやられたケアと思えたな」

「塩気への肌ケア、髪ケア、……目はどうだ?」


 目薬である。

 すぐに手に入るかは別問題だが、確かその名もずばり目薬の木ってのがあったはず。

 点眼は難しそうだから、コンタクトレンズつけたまま洗うときのような、コップを目に当てて水でゆすぐ感じで。


「確かに目にもきそうな環境やな。実演プレゼンで食いつくか……いや、自分が気付いてないだけで目薬はすでにあるのかも?」

「ああ、あるかもなあ。俺んとこは魔法薬液ポーションメインだから、一般の薬剤師の売れ線はちょっとわからんわ」

「煙やほこりが気になっても、水で洗っちゃえますから、施術院に来るのはもっと致命的な眼病になってからかなあ」


 しばし考えていたハヅキだったが、ポーション瓶サイズで何本か用意してほしいと注文をだしてきた。

 そのくらいなら運ぶ邪魔にならないし、売れなくても自分用とあきらめもつくという。


「毒にならん薬草の煎じ汁で十分や。コップの水に薬液を数滴まーぜまぜしてやれば偽薬効果プラシーボでそうやん」

「薬液なんかは地元の薬剤師が作れちゃうだろうから、売れても最初だけかもな」

「そこで生きるのがブランドやんけ」


 ニートナルの名を冠するとなると、俺には決められない。

 さっそく師父ネイトナル様に確認するが、特に商売っ気のないお返事を頂く。


「目薬程度なら、廃棄分の薬液を流用でよかろう」


 ついでに前回と同様、露店ディスプレイ用にクズ薬草も分けていいかと問えば好きにしろとのこと。んん~、放任主義?


「師父はああ言われたが、あまり安くてもニートナルの名に傷がつくしなあ……」

「ブランドの価値は、値段からも決まる関係があるしのう」

「高いほうが良いものって、根拠のない思い込みなんですけどねえ」


 とりあえず瓶代だけもらい、売り上げが立ったら改めて仕入れ値を決めると約束する。

 売値も、一瓶大銅貨一枚以上と強気の設定。早速一ダース十二本を用意した。


 収穫祭にあわせた露店でのアクセサリー販売も無事にすみ、ハヅキは恩あるおっぱいのでかいおばちゃんへの土産なども仕入れて旅立った。

 これが、西の塩鉱山に向かう今年最後の隊商となる。

 塩の場合は専売利権云々で年間の取引量が決まっているという事情もあるが、商人たちも寒さが厳しい中を好き好んで動きたくはないのだ。


 冬に向かい空気が鋭くなっていく日々に、突如悪魔は現れた。

 ニートナル・ポーション工房の戸口に、エプロンドレス姿の少女が仁王立ちする。


「げぇ、システィナ!」

「ウヅキのくせにごあいさつじゃない。エンダー家ソウニャ様付き女中に対して失礼よ!」


 幼少期の、姉貴風をいつまでも吹かす忌まわしき記憶とともに、おさげの悪魔はソバカスまみれの鼻を鳴らした。



【メモ】

メグスリノキ

 ムクロジ科カエデ属の落葉高木。

 樹皮を煎じた汁に有効成分が含まれており、眼病の予防・視神経活性化・肝機能の改善などの効果がある。

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