3-01.ポーション工房カイゼン計画
■ここまでのあらすじ(抄)
金髪碧眼美少年(自称)の俺ウヅキ、黒髪黒目で腹も黒いのがミナヅキ、一見常識人だがどこかで突き抜けているのが赤髪青目のハヅキ。
魔物がいて魔法もある、いわゆる中世ファンタジー風な世界に転生した俺たち三人は、生き延びるために協力を誓う。
村の食糧危機に口減らしで売り飛ばされたくらいじゃめげていられない。
それぞれに研鑽を積み、俺は錬金術師の弟子、ミナヅキは教会で法術師の卵、そしてハヅキは見習い商人へとステップ・アップ。友人もできた。
ゆくゆくは冒険者稼業に世界旅行、目指せ悪徳領主!
俺たち三人の転生者、野望ために頑張っている。
冬まきの麦が青々と茂る中を隊商が行く。
その人馬の列の中に、行商人見習いとして混じっているハヅキの赤毛が揺れている。
伯都ツェルマットの門をくぐったあと、ハヅキは振り返らなかった。
見送るは、俺ウヅキの金髪ひっつめ髪に養成院スタイルに刈りそろえられたミナヅキの黒髪、ほか友人たちの頭部も色とりどりの、ここは中世ファンタジーよろしく魔物も魔法もある世界。
そんな認識を持つ俺たち三人は、前世の記憶を持つ転生者である。
といっても神様にお会いしたことはなく、俺TUEEEできるようなチートの類もいただいていない。
生まれも由緒正しき農奴の子。これがゲームであったならリセット・マラソン不可避だが、リアル・リセマラにチャレンジする勇気はなかったぞ。
不幸中の幸い、俺たちは口減らしで売り飛ばされた先の就職ガチャには勝利し、真面目に下積みをこなしジョブ・チェンジへとたどり着いた。
数え九歳の現在、俺はポーション工房の小間使いにして錬金術師の弟子、伯都の魔術師組合に名を連ねる魔術師の卵でもある。
教会の各職種を育てる学校、養成院に送り込まれたミナヅキは、法術師の卵であり、野望のために祭祀職コースも狙っている。
そしてハヅキは、丁稚先のノウブラウンド商会関係の隊商に参加し、行商人見習いとして旅立った。
次に三人でそろうのは数か月後となる。
唐突に襲ってくる寂寥感を、とにかくの無事を祈って押し込める。
「出発が、安息日でよかった」
「俺は師父に許可とってたから平日でもなんとかなったが、ミナヅキたちは出てこれなかったか」
「細々とした自由時間はあっても、外出となるときびしいねえ」
ヤマトゥーン男爵家から養成院へ送り込まれたハイラルが、背を伸ばしながら首をひねった。
育ちの良さがわかる穏やかな優男だが、骨や筋から細かい音が立つ。養成院の生活だって、楽ではないのだろう。
多分きっとおそらく絶対に、ハイラルの祖先は日本人転移者だろうと俺たちは確信している。
だって、ヤマトゥーンという家名に、おまけに家訓が『黒髪黒目は大事にしろ』ですってよ。
まあ、だからどうということもないのだが、奢って頂いたり集まる場所を提供して頂いたり、何かとお世話になればその分の好意を返したくなるのが人情というものではないか。
「ほな、いつものようにヤマトゥーン屋敷にお邪魔させてもらいますぅ~」
「ああ、僕も一応は法術コースに入れたけれど、魔力制御が絶望的だからねえ。今日も特訓、よろしく頼むよ」
法術とは、魔法の教会用語である。
高度に政治的な事情により、法術・法力などという語を用いているが、原理的には同じものだ。
そして魔法とは、俺たちの推測では、発現イメージと、できるという魂からの確信、それを裏付ける魔力制御と魔力量の四点がキモとなる。
ハイラルは魔力量は足りても魔力制御に劣る。
だがそれでも、術を発現できた時点で『才能』ありと認められ、養成院で法術師の卵と認められた数少ないエリートとなる。
「入っちまえば、こっちのもんでさぁ」とは悪ぶったハヅキの談だが、実際その通り。できる、できないの『才能』という壁一枚を隔てて、世間の見る目は変わってしまうのだ。
「ミナヅキ君、私たちは講義のおさらいメインでお願い」
「ん」
女子組はフィルことフィリアを筆頭にミナヅキを囲んでいた。
自家製のメモ帳を手繰るヒルデガードも、ミルディーフに袖を引っ張られてふらふらと移動していく。
もう二人の友人とは、いろいろあって疎遠になっている。
喧嘩別れというわけではなく、今日のハヅキの見送りにも来ていたが、その場で解散。ヤマトゥーン屋敷での法術ブラッシュ・キャンプには参加しない。
二人は自分たちに才能無しと見切り、法術師への道をあきらめそれぞれの道へ進んだことで、カリキュラム上の接触が減ったとか春の宿舎入れ替えで部屋自体が別になったとか、そういう疎遠だ。
「しかし本当に、ウヅキもミナヅキも、大丈夫なのかい?」
「ジョブジョブだいじょーぶッスよぉ」
俺は弟子という立場で、ミナヅキは同室のハイラルのおかげで、ついに、ランプを常用することが可能になった。
日の出とともに起き、日の入りととともに寝る。実に健康的な生活から一転、闇を恐れない文明社会に目覚めたのだ。
ミナヅキは法術師の卵として写本部屋および書庫の一部が使用可能、俺もまた師父の蔵書を写して自分の教本とすることが課せられている。
新たな知識へのアクセスが解禁されたとなれば、夜更かしも捗ろうというものである。
もちろん、ルーティンとしての工房仕事に、弟子としての学問、実技修行もおろそかにしてはいけない。
「ミナヅキの、左のクマさん強そうだよな」
「わかります? なぜか左ばかり肩がこるんですよ。ペンを動かすのは右手なのに」
「姿勢かなあ」
「姿勢かあ」
目にはウサウサ、目の下にはクマさんが常駐するさまにハイラルなどは引き気味だが、なんていいますかね、充実感。これがね、すごいんですよね。今頑張るぞ、頑張れるぞ、みたいな。寝ると思った瞬間には寝ているくらいの熟睡もできますし。
「うふふふふぅ~」
「ふふふふぅ~」
「……ねえ、やっぱりどうにかしたほうよくない?」
「ミナヅキは一緒にすごしてるからまだ何とかなるが、ウヅキはなあ」
「フォローしてほしいのは私の方よ!」
「ん~」
残念な子がなにか言っているが、俺だって現状がよいとまでは言っていない。
やることが多くて時間がとられ、必然的に自由にできる夜時間にしわ寄せがいっていることくらいは自覚している。
「九歳で過労死では残念過ぎる。といって、どこで時間を絞り出すかってなあ」
「無理ブーストが効く期間は短いですからねえ。そろそろ軟着陸を模索する時期ではありますか」
ミナヅキに関しては簡単だ。自分用の写本、これを減らせばいい。
法術関係の、自分用教科書とか呪文書とか、その程度におさえれば、あのヒル子でさえなんとかこなせる量になる。
ただし、教会の書庫へのアクセスと写本は、養成院の候補生という立場だからこそできるものでもある。
限られた時間のうちに、できるだけ多くの知識を漁っておきたい手元に残したいというのは、俺たち三人の共通認識だ。
もちろん身体を壊しては元も子もないわけで、確保すべき情報の取捨選択や調整はミナヅキ自身につけてもらうしかないだろう。
「弟子としての学習や修行の時間は聖域でしょうし、となると工房オペレーションからひり出すしかないでしょうか」
「動線に沿った器具配置くらいはすでにやったぞ」
工房にてただ一人の下働き歴ほぼ三年。
あからさまな不都合は師父であるネイトナル様に訴えて、例えば仕入れ検品台を道との出入口付近に移すなどの手当はしている。
検品台から保管庫への動線は伸びてしまったが、入荷出荷にかかる作業は出入口側の原則と、外からの明かりとりの窓の位置的にここしかないだろうとの主張を、師父が受け入れてくださった結果である。
「無駄な作業をなくしてしまうことが一番と聞くが、なくせるような作業は普通してないよなあ?」
「料理だと、茹でながら洗うみたいな並行作業もしますけど?」
「無理せずに、時間をかけるのが一番だと、そうは思わない?」
「んん~」
正論ではあるんだよ、ヒル子。だが、その正論に何の意味があるというのか。
ともあれ、工房で何をしているのかの作業の棚卸をして、省略できそうな作業、順序組み換えで短縮できそうな作業を探す、そんなところに落ち着いた。
目的は弟子として、薬剤師や魔術師としての研鑽、写本および内容理解と研究のための時間確保とする。
実現のための手段として、ポーション工房のオペレーションにカイゼンを試みる。
ここまではよし。
次に前提を確認。
ポーションとは薬効成分、魔力剤、栄養分や香料などの添加物、それらすべてを溶かし込む溶剤で構成される。
薬剤素材の調合は、神経は使うが、下準備が終わっていれば量って混ぜるだけ。
となると素材の準備段階にカイゼンの種を探すべきか。
溶剤はきれいな水であればいい。
こだわるなら蒸留水でも作ればいいが、現状は井戸水。汲む手間、運ぶ手間がかかる。
運搬具に工夫?
薬効成分と添加物は似たようなもの。
仕入れ後の工房での作業は、選別とカット、すりつぶし、抽出などの何段階かの下準備。
選別は薬剤師としての修行の一環でもある。実際に見て手を動かすしかない。カットはさほどの手間ではない。抽出も鍋につっこんだら時間管理メイン。省力化できそうなのはすりつぶしくらいか。
すりつぶしを自動化?
そして魔力剤。内包した魔力を使い切ったクズ魔石を砕いてすりつぶした粉。
魔力あり状態の魔石は、圧力をかけることで内部魔力を消費して熱を発生させ、強い衝撃を与えると爆発することもある。そのため、魔力剤にするには魔力を使い切ったクズ魔石でないとならない。
これまた仕入れ自体は出入りの商人に任せればいいので、工房での作業は、砕いてすりつぶすこと。……ここか!
クズ魔石粉の製作に異様に時間を食っている。
というわけで、ポーション製造工程のカイゼン、今回はクズ魔石粉製作の自動化を推してみる。
工程にかかる生産時間としても、生産量を担保する素材ストックの意味でも、クズ魔石粉がボトルネックとなっていた。
クズ魔石粉の在庫不足を解消すればさらなる増産も……いや、俺の手間を省くことが今カイゼンの主眼である。増産は忘れよう。
ということで、器械化・自動化してしまいたい。
この世界で器械といえば魔道具。
石臼をひくだけの魔道具。モーターになるものと、動力伝達機構があればいい。
俺は師父を相手にプレゼンを試みた。
今回はPREP法ではなく、カイゼンを志した理由である俺の修行時間の確保をまず訴えた。
「ふむ。ならば、人を増やすか?」
中・長期的な視野およびポーションの増産を考慮に入れるのであれば増員は必須だが、短期的には新人教育という手間が俺を殺す。
俺は、事前に用意したペーパーをお手元に差し出し、心を込めて熱く器械化・自動化の利点とランニングコストの理を説いた。
仮称・モーター魔道具のエネルギー源として、一週間に魔石一つを消費すると想定。標準的なSI2(Strongly Includ_2)グレードの魔石の仕入値はおおむね大銅貨二枚。
ちなみに魔物狩り組合等での買取値は大銅貨一枚。差額は業者がおいしく頂きます。
話をもどして、大銅貨二枚とは成人職人の日当相当なので、見習い小僧だと半額以下だとしても、雇用賃を下回るランニング・コストを達成できることになる。
イニシャル・コスト?
ごめん、俺、魔道具の相場を知らないのでそこは計算に入れていない。
「なるほど、いろいろと考えているようだな」
師父の渋い声は俺を落ち着かせる。
腕を組み、俺のペーパーを吟味し、また宙に視線を飛ばし……
「見込みはありそうだ」
「では!」
ネイトナル様はニッコリと微笑まれた。
そのまま、机のわきから分厚い本をお手になされる。
「ここに、『魔導刻印大全』がある。お前の言い分では、歯車等の器械的な機構はともかく、魔道具としての本質はシャフトを回すだけの簡単な仕組みのようであるし、練習のつもりで設計をしてみるがいい」
「イ……イエス、マスタァ」
アイエエエエエエ!
なんで、仕事なんでふえちゃうのおおほぉお……




