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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-10.ウヅキPの挫折

 伯都ツェルマットの高級住宅街の一画、ヤマトゥーン男爵家の屋敷の庭に俺たちはいた。


 教会の養成院にて、ミナヅキが法術師としての才能を開花させたことを発端とする、光の術ブート・キャンプは座学を終え実技の段階に入っている。

 俺の熱い応援のかいあって、あの残念ヒル子が光の術を成功させるという偉大な一歩を記していた。


「うばぁあああ」

「うああ、ばっちいな。離れろって」


 涙と鼻水とよだれをまき散らして俺にまとわりつくヒル子を振りほどいたのもつかの間、ミナヅキとハヅキからヘルプ要請が飛んできた。


 残念なヒルデガードはさておき、俺の担当するもう一人のアイドル、ミルディーフの次の段階は魔石への魔力チャージ・チャレンジ。

 クズ魔石を渡し、これに自分の魔力を送り込むことが魔力制御訓練になり、ただし魔力切れは最悪死ぬからアカン予兆を感じたらすぐに手を放せなどなど。


「ん」


 おトイレ・タイムはすでに済ませてもらったので、万一気絶しても最悪の事故は起こらないだろう。一応ついてきてもらい、俺の見えるところにいるように頼む。

 ミナヅキとハヅキ、どちらのヘルプを優先するかは、担当アイドルの関係でミナヅキとした。


「すまんな、ハヅキ。そっちはもうちょいもたしてくれ」

「あー、まあねえ。この場を用意してくれてはるの、ハイラル様やしねえ」


 ミナヅキの同室ルーム・メイト、ヤマトゥーン男爵家からツテとコネのために教会組織へ送り込まれたハイラル様のご支援あっての場の確保である。

 大切なスポンサー・ハイラル様を抱えるミナヅキPと、どうも記念受験臭い感触のあるヘンドリック君と、えーと、ムウレリアを抱えるハヅキP。

 現実は格差社会なのだ。世知辛いことである。


「ていうか、フィルも詰まってるのな?」

「え、なんですその評価。できると言われてできるなら、苦労はないと思うんですけど?」


 俺たち分析では、魔法とはイメージと確信、魔力制御と魔力量の四点がキモとなっている。

 このうち魔力制御は魔石チャージで、魔力量は闘気術の錬気瞑想で鍛えられる。光の術に関して言えば、養成院でさんざん手本を見ているのだからイメージはあるはず。

 残るものが、心からの、魂からの確信ということになる。


「やっぱり、『できる』って確信を持つのは難しいんだと思う」

「そうだねえ。現に僕らはこれまでできていないから、こうして教えをうているわけで、それがいきなり『できる』なんて確信はちょっとね、難しいよね」


 フィルことフィリアとハイラル様を担当したミナヅキは、魂の壁を打ち破ることができなかったようだ。

 俺にしても、ヒル子に対しては心の師シュウゾウ様の熱き魂をコピーしてひたすらに励ましただけであり、俺自身にヒル子の魂の壁を崩す力があったわけではない。すべてはシュウゾウ師のお導きによるのだ。


 とどのつまり、理屈で理性で考えたところで、魂の壁は破れない。

 そろって難しい顔をしている彼らの面前に、俺はヒル子の首根っこをつまんで押し出した。


「なあフィル。ヒル子でさえ、できたんだぞ」

「ハッ!」

「みてみてー、私もこれで法術師~」

「あ、バカ。やめろ」


 ぽわんと、光の玉がヒル子の頭上に発現する。

 俺の注意もむなしく、ヒル子はガクっと膝から崩れ落ちて白目をむいた。


「ヒルデガート!?」

「……魔力とは命の力。使いすぎればこうなると、わかっていただろうに」

「ああ……えっとね、放っておくわけにもいかないから、ちょっと外すね」


 フィルにミルディーフも加勢して、残念な状態のヒル子を引きずっていく。

 残念な八歳児とはいえ、あれでも女。後始末を俺たちに任せたり、見せたりはためらわれたのだろう。


「えーと、ではハイラル様。ハイラル様の自己分析だと、イメージ、確信、魔力制御、魔力量の四点セット、どこにどんな問題がある?」

「切り替えてくるねえ。ミナヅキとも話したんだけど、僕の弱点は、やはり確信。そして魔力制御や魔力量にも不安ありというところだね」

「いつものハンド・トゥー・ハンドで、魔力を感じることはできたんだ。ただ、魔石チャージを試したけどうまくいかない段階」


 目に見えるようにパラメータが示されたり数値化されたりする道具があれば、もうちょっとマシな分析ができるのだろうが、聞き取りで状況を把握するしかないのが現状だ。

 ハイラル様は養成院送りにされたことからもわかるように、いわゆる武闘派ではない。しかし、貴族子弟の嗜みとして最低限の闘気術、身に纏わせて底力を上げることはできるという。

 せっかくなので、闘気術を披露してもらうことにした。


 ハイラル様が集中に入るとほぼ同時に、闘気が全身を覆うように薄く広がるのがなんとなくわかる。

 漫画オーラのようにはっきり見えるわけではないが、こう、肌がチリチリする感じというか、凝視するとあのへんに闘気、つまり魔力があるなって感じられるというか。


 実演として在ツェルマット、ヤマトゥーン男爵家屋敷のお庭を駆けるハイラル様。

 超適当に換算すれば、五〇メートル四秒台くらいの、真人間の十歳児ならありえない速度だ。

 これが闘気術の怖さ。フィジカルの底上げ、自己バフもりもりんぐ。

 さらに、ハイラル様にはできない高等技術だそうだが、刀剣に纏わせた闘気を飛ばして遠隔攻撃なども可能。つうか、前世目線なら十分以上に魔法だよ、闘気術。


「俺たちは、闘気も魔力も根っこは同じ『力』なんじゃないかと判断している」

「え?」


 ポカンとした顔をされた。常識が壊れるなあ、などとつぶやいているが、頭から否定はしてこない。


「纏った闘気を、一点集中させるように指先に集めて、ひかれーって念じてみ」

「むーん。……ウヅキたちを信じないわけじゃないし、あまりこういうのは言いたくなかったけれど、やれと言われてできるのであれば苦労はないよね」


「まあなあ。けどまあ、徐々にでも、闘気の濃い薄い、つまり制御はできてきているみたいですぞぉ」

「そうだね、僕にもそう見える。その調子で制御力を上げていくのがハイラルの当座の目標になるんじゃないかな」

「おだてられてる、わけではないようだけど……闘気は闘気、法力……魔力は魔力。そういうふうに生きてきて、いまさら同じものと言われても……うーうん」


 診断結果と処方。

 ハイラル様は闘気量、つまり魔力量は問題ないが、制御に難あり。まずはそこを鍛えましょう。

 あとはミナヅキに任せ、ハヅキ組のヘンドリックとムウレリアに向き合うが、ぶっちゃけどうしようもなかった。


「俺は闘気術は最低限学んだつもりだが、これが魔力と同じものと言われてもちょっとな。悪いが、信じられん」

「そもそも魔力って言われても、あたしわかんないんだよね。闘気ってのも同じ」


 ハンド・トゥー・ハンドで俺の魔力を送り込んで実感させようにも、当人はどう言おうが拒絶、ガードされていて通せない。

 魔力というものの実感がないので、魔石にチャージしようにも体内の魔力を動かすことができない。闘気? 全身を覆うものだそうです。

 ハヅキが悪いわけじゃない。むしろ、貧乏くじを引かせてしまったと謝らなければならないだろう。


「魔力とは命の力。魔石チャージは、それを体外に出そうという話だから、できないのがむしろ当然なのか?」

「他人の魔力を受け入れへんのも、防御反応とすべきかも?」


 魔力の知覚と魔石チャージ、すんなりできるできないの差。

 俺たちは『できる』、と信じ込んでいたからできた。鶏が先か卵が先かみたいなもんだなあ。できれば、できるんだよ。

 結局、その日のうちに法術に目覚めたのはヒル子だけという結果に終わった。


 魔力を実感できない者に対して、どう教えればいいのか。

 困ったときはツテを頼るのも恥ずべきことではない。

 俺は敬愛する上司、ニートナル・ポーション工房長のネイトナル様に相談を持ちかけてみた。


「養成院のミナヅキは、同じ村出身の親友です。その彼の学友たちと、法術、つまり魔法についてどんなトレーニングが可能かと試していたのですが、手を合わせての魔力の送り込みもできない状態でした」

「いきさつに気になる点は多いが、魔力を感じられない者か……」


 聞いているだけで心が落ち着く渋い声。

 俺とハヅキの推論通り、他人の魔力を受け入れないというのは自身を守る防御反応だと先置きしたうえで、かぶりを振った。


「以前も言ったが、魔力とは命の力。ゆえに誰にでもあるものではあるが、結局のところ魔法は『才能』となってしまう理由がそこにある、と言うべきだろうな」


 他人の防御反応を貫くような魔力とは、つまり攻撃魔法になってしまう。

 いわゆる癒しの術でさえ、自身の身体に他人の魔力が通ることを、意識するしないに関係なく拒否する相手には効かないか効きが落ちる。


「なるほど、魔力制御は技術であり鍛錬できる。魔力量も伸ばせよう。だが、鍛える以前で躓いた者に『才能』があるとは言えまい。当人が意識してかせずかは問わずに、手ずからの魔力通しを拒んだ時点で、魔法使いになることを拒否した。そう捉えるしかないのだ」

「才能の、一言で片づけるのは悔しいです」

「ああ、そうだな。だが、鳥の雛が己の殻を自ら破らなければ世にでられないように、魔法使いもまた、同じなのだ」


 翌週も、俺たちは伯都ヤマトゥーン男爵屋敷の庭に集った。

 ヘンドリックとムウレリアの抵抗を解こうと、魂を揺さぶろうと、言葉を尽くしてみるが芳しくない。

 フィルは、光の術を発現できた。なんといっても、ヒル子ができたのだ。自分にできないわけがないと納得できたのだろう。ヒル子ともども法術コースへ編入。

 ただしヒル子は、術を使うことにためらいがちだという。俺たちの前で醜態をさらしたわけだからな。自分の限界を見極めるまではそうなる。わかるぞ、ヒル子。


 その後も毎週とはいかなかったが、法術ブート・キャンプは開催された。

 ハイラル様はじわじわと魔力(闘気)制御力を磨いている。

 ミルディーフには錬気瞑想と、魔石チャージを毎日やるように言いつけたが、今のところ守っているようだ。

 だが、ヘンドリックとムウレリアの出席率は微妙になっていった。


 夏間近なある日、俺は、ネイトナル様およびその奥様の御下命を受け、友人たちをニートナル家のお茶会に誘った。


「夏至祭の最中に行うから、友人呼んで来いって言われてたんだが、ヘンドリックとムウレリアにも伝えといてくれないか?」

「ポーション工房のニートナル家か。僕は行くよ」


 ミナヅキおよびハヅキはもちろん、ハイラル様は即答。

 フィル、ヒル、ミルディーフからも承諾を得る。


 問題は、お茶会って何をすればいいんだか俺にはサッパリなことである。



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