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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-09.ウヅキのPデビュー

 新緑が目に優しい季節になりました。


 ミナヅキの学友、ハイラル様のご実家ヤマトゥーン男爵家がここ伯都ツェルマットに所有する別宅の庭に俺たちは集った。


 まずは自己紹介といこう。

 俺ウヅキはポーション工房の小間使い、ハヅキはノウブラウンド商会の丁稚、ミナヅキ以下は全員が教会の養成院所属の候補生となる。

 場所の提供者ハイラル様にはじまり、騎士の子ヘンドリック、残念ヒル子ことヒルデガート、意外と計算高いフィルことフィリア、そして君たち誰やねん?


「あたしはムウレリア。フィリアやそっちとこっちのルディと同じ、孤児院からの編入組だよ」

「……ミルディーフ」


 ピンク色の髪ってあるんだなのムウムウに、ルディかぶりの銀髪金目ミルディーフね。

 ……じゃなくて、なんで増えてるの?


「なによ。あんたが自信満々に特訓だって言うから、犠せ……法術を志す友だちを誘っただけじゃない」

「おい、本音が漏れてるぞ」

「あはは、そっちのルディはそういう子だから、いまさら気にしないよ」

「ヒルデガードは目が悪くて目つきが悪いから誤解されやすいけど、裏表のない子なんだよ?」


 フィルさんや、それはフォローになっているのかいないのか。

 いずれにせよ、ヒル子は孤児院時代から残念な子だったんだな。俺は、目頭をそっとぬぐった。


 集まった全員が、数え八歳から十歳前後の少年少女である。

 特訓云々は、春のうららかな陽気にやられたミナヅキが、ついうっかり光の術を成功させてしまったことに始まる。


 光の術を『できた』ということは、イコールで『才能』があるということになり、ミナヅキは法術コースを課されることになった。

 教会の言う法術とは、つまりは魔法のこと。高度に政治的な判断により、魔法・魔力ではなく法術・法力という語が用いられている。


 ここで法術師、つまり魔法使いとは、『才能』がないとなれないものとされているが、才能のあるなしなんて本人にわかるものでもない。

 養成院では、おおむね三年程度は光の術を試行させる時間をとって才能発掘を行うことで、捨てきれない希望を抱く候補生たちにチャレンジの機会を与えている。

 三年間、チャレンジを続けてもできなかったのなら、才能はない、諦めろということでもある。

 そしてミナヅキ以外の候補生たちが養成院に入ったのは、全員が昨春。一年が経過し、魔法の才能は開花せず、さりとて諦めるにはまだ早く、悩む折に友人に成功者が出たというシチュエーションだ。


「私は、聖女に、なるの!」

「いやー、あたしもなれたらいいなとは思うけど、こればっかりは才能だしねえ」

「俺も、特訓はともかく、光の術ができたときに感じた、できなかった時との違いとか、そういうの聞けるだけでもいいかなって」


 ヒル子の野望はさておき、なんかこう、期待値低くないですかねー。

 いいんですけど。できなくても俺のせいじゃないってノリなら、俺も特に責任感じないですむわけだしぃ。


「僕は、ウヅキ君の自信を信じてもいいかなと思っているよ」

「私も。ウヅキ君の特訓どうしたに、ミナヅキ君なにも言わないし、二人とも光の術使えるの見せられてるし」

「ん」


 訂正。

 期待値妙に高いのも困るな。

 実際問題、魔法のできるできないに関する俺たちの推論が正しくとも、当人の努力や資質の影響は大きいのだ。

 世間が、なにもかもをひっくるめて『才能』の一言で済ませているだけで。

 にしてもミルディーフさん、眼力ありますね。そらしたら負けのような気もするが、じーっと見つめられるとちょっとドキドキしてしまうぞ。


「ま、顔合わせもすんだことやし、自分ら三人が指導側、そっち六人が受ける側ではじめよか」

「納得するまでやるだけやったなら、それでダメでも諦めがつくっていうしね」

「ハヅキぃ、ミナヅキもぉ、もっと熱くなれよ!」


 今日の俺のテーマは、シュウゾウ・リスペクトだ!


 ……さておき、とりあえず全員を座らせる。

 特訓と言っても、いきなり滝行だの逆さ吊りだの目隠しして石を投げつけるだの、そういうものじゃない。


「まず初めに、魔法とは……適当に法術って置き換えてくれな」

「ああ、わかっているよ」

「魔法とは、イメージと確信、魔力制御と魔力量。この四点が基本だろうと、俺たちは推測している」


 いきなり首を傾げられた。


「そも魔力とは、命の力、魂の力そのものと言われている。その魔力を、正しく制御できなければ魔法は発現しない。ここまではいいな?」

「そんなの当たり前じゃない……痛い痛い痛い」


 ヒル子の顔面をとらえたシャイニングなハンドそのものに打撃力はない。

 鷲掴みしたこめかみをにぎにぎしてやっただけだ。


「正しい制御のためには、明確な発現イメージが必要になる。ここまでもいいな?」

「いいから離して、離してってばあ」

「さらに、どれだけ明確なイメージがあり制御が正しくとも、必要な魔力量が足りなければこれまた発現しない。わかるな?」

「わかったからぁ」

「最後に、イメージと制御と魔力量がそろっても、『できる』と信じられなければできない。これが確信だ」

「確信したわ、ウヅキは意地悪よ!」


 ぐーりぐーり。

 ヒル子に復唱させながら間をおいて、各自の理解を待つ。


「理屈としては通っているような気もするけれど……」

「ん」

「うん、そうだね。強いて言えば、魔力量や制御、イメージはともかく、確信と言われても困るなあという感じかな」


 俺を信じると言った(言っていない)ミルディーフとハイラル様、それにフィルは、ここまでの理屈を飲み込もうとしつつ喉にひっかかるものがあるという感じか。

 対して、真剣度の足りない記念受験組のムウレリアとヘンドリックは戸惑いか、あるいは半信半疑、もしかすると哄笑の影が見え隠れする。


「ちょっと待って。あたしたち、毎日、呪文を唱えてそれでも発現できてないわけで」

「そうだな。法術……魔法を発現させるためには、正しい呪文と発動語。これは常識中の常識だぞ」


 俺は、外国映画のコメディアンのように大げさに肩をすくめて、わざとらしいため息をついてやった。

 オーバーアクションのために解放してしまったヒル子が涙目で俺をにらんでいるが、その眼前に人差し指を突き付けてみる。


「なあヒル子。光の術の呪文ってさ、何て言ってるのか意味わかってる?」

「え?」


 ミナヅキ情報。呪文および発動語は、いわゆる魔法語で構成されている。

 そして魔法語を学ぶのは法術コースに入った後であり、光の術の時間ではただ単に、お手本の術師の声を丸暗記して自己リピートしてみているにすぎない。


「音そのものに不思議パワーがあるってんでなけりゃ、呪文にも発動語にも魔法を発現させる効果なんてないぞ」

「え!?」

「第一、呪文も発動語もない無詠唱の現物見せてるだろ。これでまだ常識どうこう言うなら、見捨てるぞ」

「えぇ!?」


 シャイニーング、シャイニーーング。にぎにぎ、わきわき。

 記念受験組と違って真剣ではあるが、ヒル子もまた、俺を信じていないメンツだからなあ。


「……やだ」

「はいぃ?」

「見捨てないで! お願い! 信じるから!!」


「よろしい。では改めて言おう。魔法とは、イメージと確信、魔力制御と魔力量である」

「魔法とは、イメージと確信、魔力制御と魔力量です!」


 まず結論、次に理由、具体的な例示を挟んで理解を促し、最後にもう一度結論。PREP法はプレゼンの基本だぜフゥハハァー。


 俺の背後でミナヅキとハヅキがコソコソとささやきあっていた。何がウヅキはえげつないだ。聞こえているぞ、腹黒にどスケベめ。

 特訓だ鍛錬だ、これをやれあれをしろと言ったところで、何故それをやるのかをとりあえずでも理解していなければ、力の入れ所もわからない。

 理解し納得したうえでこそ、鍛錬というものは最善の効果を生む。


 PREP法による座学後、俺たち三人がそれぞれ二人ずつに指導を行うことになった。

 俺の相手はヒル子とミルディーフ。

 ミルディーフには、そも魔力とはを認識させるハンド・トゥー・ハンドを行い、何となく掴めたようだったので魔石チャージ実習の前にトイレに行ってもらった。

 ていうか、ほとんどしゃべらないのはいいとして、魔力を感じて上気したほほで金目を輝かせて見つめられると、こう、いかん。

 「俺のを入れるからなるべく抵抗しないでくれ」に続く「ん」という声の微妙な調子、第三者目線だと俺あかんヤツじゃね?


「……ウヅキのスケベ」

「ああ……、むしろ言ってくれてほっとした。ありがとな、ヒル子」

「そ、そんなことどうでもいいし! それより私は何をすればいいのよ」


 俺たちのように毎朝とはいかないだろうが、養成院にいる以上、全員が闘気術の錬気瞑想は最低限はこなしているはずだ。

 そしてヒル子は魔石チャージを日課にして半年以上が経過している。

 繰り返し見本を見ている光の術の発現イメージもあるはず。

 魔力量、魔力制御、イメージはそろっているとすれば、あとは『できる』という確信だけになる。


「ここまでは、わかるな?」

「うん。ていうか、最初から、こういう、丁寧に教えてほしかった」

「おまえが俺を信じてなかったからだ。今は信じてるんだよなぁ?」

「信じてる、信じてるから手をよけてぇ!」


 魂からの確信、なるほどこれは難しい。口でどう言おうが、本人が深く納得し信じ切ることができるのか、ということだ。脳みそを騙すのとはワケが違う。信仰の領域とさえ言える。

 ゆえに俺にできることは、ひたすらの応援ということになる。


「ヒル子ぉ!! もっと熱くなれよ! 熱い血燃やしてけよ!! 人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ!!」


「テッペン獲るって言ったよな? 聖女なるっつったよな! ぬるま湯なんかつかってんじゃねぇよおまえ!!」


「言い訳してるんじゃないですか? できないこと、無理だって、諦めてるんじゃないですか? 駄目だ駄目だ! 諦めちゃだめだ! できる! できる! 絶対にできるんだから!」


「『できない』はやらないヤツの言い訳……いや、今のはナシ」


 おおっと。

 伝説のハートマン軍曹ムーブは俺には無理だから、シュウゾウ師のお言葉をリスペクトしていたつもりがブラック臭が混じってしまった。


「とにかく!! 諦めんなよ! 諦めんなよ、おまえ!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって! 俺だぞ、俺が応援しているんだぞ! あともうちょっとのところなんだから!」


「できるできるできる。諦めるなよ。諦めたらそこで試合終了だぞ」


 ぽわん。


「できた……できたできたできたできたぁああああああ!!」

「やったなあああああああ!!」


 俺はヒル子に抱きつかれ、涙と鼻水を振りかけられた。まあそれはいい。ただ、もうちょっと肉をつけてほしい。

 食糧事情はヒル子の責任ではないが、やはりこう、残念な子だ。


「……おぅ、モウレツ」


 いつの間にか戻っていたミルディーフが、両手を口に当てて俺たちをまじまじと見つめていた。

 いや、八歳児同士ですからね?

 色気もクソもないんですが、なんでかなー。眼力ってやつなのか、ミルディーフの金色の瞳に見つめられるとちょっとこう、ねえ?


 まとわりついて鼻水を塗り込んでくるヒル子を振りほどくのは一苦労だったが、今日の苦労がこれで終わることもないようだ。

 新星のごとくデビューを飾ったヒル子をプロデュースした俺の下へ、ミナヅキとハヅキの両Pからヘルプ要請が飛び込んでくる。


「今日はウヅキのステージだから」

「僕らはアシスタントでいいんで」

「もっと熱くなれよぉ!」



【メモ】

 シュウゾウ・マツオカ氏は炎の妖精ともいわれますが、ここではあくまでウヅキのリスペクト相手です。

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