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【兎録番外編】ある昼下がりの事

今回は番外編!


外の世界のその後やら、布石やらが含まれています!



ゆっくりしていってくださいね!

ガタンゴトン、と音をたてて電車が進み、

体もそれに合わせて揺れる。

外へ目を向けると緑ばかりが増え、

本能的な怖さを誘う暗がりも比例して増えていく。


スマホの画面の先日あった工事現場の事故の死亡者リストを消し・・・、



「で、なんだっけ?」


目の前の座席に座っている相方・・・宙描杏鈴(そらかき あんり)に声をかける。

今日の企画をした張本人に、だ。


「《いいもの》があるいい場所を見つけたのよ!」


目をキラキラとさせた相棒はふっくらと膨らんだリュックサックを前に抱え、興奮しながら言う。


「うーん・・・。

そう言ってもねぇ・・・。


・・・・・・あ、次だね。」


山奥にある駅、

コンクリートもひび割れ、所々がコケで覆われたホームに降り、

目の前にそびえる山を見上げる。


「これ・・・登るの?」


「うん!」


相方は満面の笑みを浮かべ、死刑宣告を下す。


――明日は筋肉痛かな・・・。


~~~~~~~~~3~4時間後~~~~~~~~~


「フゥ・・・フゥ・・・。」


かぶってきたハンチング帽を被り直しつつ、

息を整える。


何年間も歩く人が途絶えたままの道は獣道の方がましだと思える出来で、

蔦や枝が道を塞いでいたので体力を大幅に削られた。

街派である私にはキツすぎる・・・。


服装がフリフリの付いたケープで、それがしょっちゅう枝に引っ掛かったのも原因だろうけどね。


「ねえ・・・本当に『いいもの』なんて見れるの?」


不満たらたらで声をかけると、

相方は被っていたカラフルな帽子から蜘蛛の巣を払っていた。


――余裕しゃくしゃくじゃない・・・。


「大丈夫よ、きっと。」


いつもの輝くような綺麗な笑顔を浮かべ、

自信に溢れた返事を返す。


――どーだかね・・・


「さっきからそればっかりじゃない・・・

嘘だったらただじゃ置かないからね!」


森が切れ、光が差し込んでいるのが見えたので、

そこへと勢いを増して無言で歩いていく。


そろそろ森が切れる、というところで相方が余裕で追い越し、

また、笑顔を浮かべて言う。


「もうすぐだよ、清水!」


「へいへい・・・。」


視界が開けると、

緑で彩られた山々、

そしてそれに囲まれた盆地が広がった景色だ。


目を凝らすと、池や森等が見え、

外界から閉ざされ、古の時代の時を刻み続ける秘境。

そのような景色は、絶景という訳でも無いけれど綺麗な事には変わりない。


「《いいもの》って・・・コレ?」


「そうだよ、いい景色でしょ?」


問いかけると、

相方は背負ったリュックサックからカバーに包まれたキャンバスと、折りたたみ式のキャンバス台を取り出していた。


そして、手馴れた手つきで組み立て、鉛筆でその景色を映しとっていった。


「・・・・・・スケッチするなら私を呼ばなくとも良いんじゃないか・・・。」

「いい景色だと思ったからさ、

二人でこの景色を見て、その喜びをわかちあいたかったから・・・さ。」

・・・むぅ。」



――自分の事を考えてくれたのなら怒ったら大人気ないし・・・。

余り外に出ないから外へだしてくれてうれしいとも思っているのは事実だからね・・・。


愚痴っていても仕方が無いし、

ちょうど近くに有った古い切り株に腰をかけ、

相方がスケッチしているのを眺めていた。


ちょうど、古びた神社に取り掛かった頃、

後ろから足音がした。


――音の位置がおかしい。

・・・まるで、その場にワープでもしてきたような・・・。



「こんなところに人が居るだなんて・・・、

珍しいですわね。」

私は見知らぬ人が話しかけてきた事に、

相方は背後からいきなり声をかけられた事に驚き後ろを振り返る。



・・・そこには大きな日傘をさし、

白いナイトキャップをかぶった金髪の女性が立っていた。



――胡散臭いな・・・。


この人・・・いや、人間では無いかもしれない奴は深入りしたらいけない気がする・・・。


「貴女達、何故此処に?」


「私はここへこの景色を描きにきたの。

この子はその付き添い。」

「付きそ・・・・・」


さっきのにツッコミを入れようとしていると、

女性に遮られる。


「なら、この先にある幻想には興味はないかしら?」


「げ、幻想?」


幻想・・・?

これは何をさしているんだ?

幻という訳でも無さそうだし。


「幻想・・・ですか。

見ることが叶うなら見てみたいな。

・・・そして、それを描きたい。」



相方は無神経に即答する。


――少しくらい考えなさいよっ!


女性の反応をうかがうと、

さらに胡散臭い笑みを深めながら口を開いていた。


「それなら、いずれ幻想へと案内しましょう。

では、ごきげんよう・・・。」


そう言ったきり、女性は山を降りていく()()を して歩いていき、

藪の中で足音が消える。



――やっぱりっ!


「勝手に答えやがってぇ・・・。」


私がいくら心配しても、あんなのに関わり続けてたら身を滅ぼしてしまうっていうことをわかってるのかな・・・・・・

・・・分かってないな。いつもこんなだし。


その証拠に、


「あはは・・・ごめんごめん。 」


この軽さである。


・・・まぁ、気がついてないから平静で居られるのかも知れないけど、

とにかく、ここから相方を移動させないと・・・。


――しょうがない。嫌われるかもしれないけど、

ここは心を鬼にしないと・・・。



「いい加減にしてよっ!

何度振り回せば気が済むの?

私は先に帰るっ!」

「そんな・・・。」


傷ついたかおをこちらに向け、

決心が揺らぎかかる。

――怒りの表情が上手く顔に張り付いていてくれているといいんだけど・・・。



そう思いながら、後ろを向いて元来た道を帰ろうとする。


・・・が。


「うわわっ!」


足元に生えていたグチュグチュしたキノコを 踏み抜き、足が滑る。


足元が落ち葉だったのも災いして、近くにあった崖に足を滑らせる。


「危ないっ!禍成(カナ)!」



私の大っきらいな名前・・・

私自身の名前を叫び、相方が手を伸ばし、手を掴まれる。



――そんなことしたら!


頭の中のシュミレーターは余程有能なのか、

相方がその通りに(わざわい)へと吸い込まれて来る。


落ち葉どもは踏ん張るには緩すぎて、相方の足元が滑る。


「うわああああああっ!」

「キャアアアアっ!」


下を見るが、尖っている岩ばかりで助かりそうに無い。


――クッ・・・・・・南無三・・・。


死を覚悟した時、黒とも紫ともつかない(いろ)が目の前を塗りつぶす。



「フフフっ・・・。


これで、数はそろったわね・・・。」


胡散臭い・・・いや、もはや不気味の域に達した声が後ろから聞こえ、鳥肌が立つ。



女性の姿を頭の中へ焼き付け、

何か分からない空間へと落ちていく。



日がちょうど真上を飛んでいる時期の出来事だった。






今回は、友人との合作で、友人と、自分自身を動かして行きました。


これからもちょくちょく出てきて、布石やらを打って行きたいと思うので、そこら編をよろしくお願いします。

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