↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王侯貴族に恋愛は必要ない  作者: 章槻雅希


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/5

終章 母から娘へ

 数日後の午後。


 セレスティアの私室には、穏やかな陽光が差し込んでいた。娘が学院から帰宅すると、母はいつものようにお茶を用意した。


「今日はどうだったの?」


「楽しかったですわ。ミレーヌと課題について話しましたし、殿下とも少しお話し出来ました」


「そう。それはよかったわね」


「はい。それから……」


 エレノアは少しだけ言いよどみ、頬を染めた。


「殿下が、来週の学院の催しで、わたくしと一緒に回りたいと仰ってくださいましたの」


 セレスティアは、カップを置いた。


「あら。それは楽しみね」


「ええ。とても」


 娘の笑顔は、以前よりもずっと自然だった。けれど、母には解っていた。その笑顔の裏には、まだ少しの不安もあるのだろう。


 これから先、二人の関係がどのように変わっていくのか。レオナルトがどのような王となり、エレノアがどのような王妃となるのか。誰にも、全てを予測することは出来ない。


 ただ、セレスティアは願っていた。娘が、どのような立場に立とうとも、自分自身の心を忘れずにいてほしいと。


「エレノア」


「はい、お母様」


「これからも、悩むことがあったら、いつでも話しにいらっしゃい」


 娘は目を丸くした。


「……よろしいのですか?」


「勿論よ。王太子妃になったからといって、母親がいなくなるわけではありませんもの」


 エレノアは、笑顔のまま目を潤ませた。


「ありがとうございます、お母様」


 セレスティアは、そっと娘の手を握った。


 王侯貴族に必要なのは、民への慈愛、主君への敬愛、配偶者への親愛、家臣への信愛、そして、命をつないでいくための愛情。それらを果たすために、理性は必要だ。感情を律する力も必要だ。


 けれど、誰かを大切に思う心まで、捨てる必要はない。自分の心を守ることは、責務を放棄することではないのだから。


 セレスティアは、娘の手をそっと握り直した。いつか、この子が母となる日が来るだろう。そのとき、今日の言葉を思い出してくれればいい。


 恋をすることと、恋に支配されることは違うのだと。誰かを愛することと、自分自身を失うことも違うのだと。


 そして、何より。誰かを大切に思うなら、その人を大切にするのと同じように、自分自身の心も大切にしてよいのだと。


 窓の外では、秋の風が庭園の花を揺らしていた。


 母と娘は、いつものようにお茶を飲みながら、他愛のない話を続けた。王宮のこと。学院のこと。新しく仕立てるドレスのこと。そして、ほんの少しだけ、婚約者のこと。


 その時間は、特別なものではない。けれど、きっと、何よりも大切なものだった。


 ――恋をしても、わたくしはわたくし。娘がそう思えるようになったことを、母は心から喜んでいた。


 いつか王太子妃となり、王妃となるその日まで。そして、その先もずっと。母と娘の間には、変わらない愛情が流れ続けるだろう。


 それは、誰かに命じられたものでも、義務として課されたものでもない。ただ、お互いを大切に思う心から生まれた、温かな愛だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。