PART6
傭兵であって“竜狩り”ではないとロックはいう。
疑うレアに彼は「俺が“竜狩り”ならとっくに君を捕まえてる」と告げる。面白くないとレアはそっぽを向いた。
「じゃあ最初の質問に戻るけど、どうして竜人がこんな人里も人里。クラリスなんて賑やかな場所にいるんだ?」
そっぽを向いたままレアは答えない。
ロックはまた頭を掻いて参ったなと一言。
「本当に“竜狩り”とは無関係なんだがな……」
言いながら手にしたグラスの底に残る無色透明な飲料を見下ろすロック。そんな彼をレアはちらと尻目に窺い見る。
「ガウスが言ってたもん。“竜狩り”じゃなくても“竜狩り”にわたしたちを売ってお金稼ぎするヤツがいるって」
「ガウス? 一人じゃないのか?」
「あっ……!」
口を滑らせたと自覚して慌てて口を塞ぐが後の祭り。
ほうと関心したように声を上げたロックをレアは忌々しげに睨む。彼女はこのままでは良くないと思い部屋へと戻ろうとして、その足が止まった。
もしロックが跡でもつけてきたら、ベイクのことが知られてしまう――そう考え直したレアは向かう先を二階への階段ではなく、外へと続く玄関へと変えて歩き出す。
「どこ行くんだ?」
「さっ、さんぽ! ってゆーか、おまえにはカンケーないし!」
「もう遅いぞ」
「子どもじゃないもん、ヘーキだもん!」
バーカっ――食堂から出て来て引き留めようとしたロックへと振り返り、べえっと舌を見せたレアはひょいと“たたき”へと降りて出ていってしまう。
ぴしゃりと威勢良く閉まる戸を見詰めるロックは手に持ったままでいたグラスの残りを飲んでしまい、玄関の物音に反応してのことであろう、奥から出てきたコウメへと声を掛けた。
「はい? “ロク”さま、なんでしょう?」
「うん、ちょっと出てくる」
「お出かけですか! わかりましたっ」
するとコウメは玄関にある棚にしまってあるロックのブーツを、魔力による施錠を解除して取り出すと“たたき”へと並べる。そしてすぐまた奥へと駆けてゆくのだった。
その間にもロックは自らのブーツへと足を入れ、解けないようにしっかりと結ぶ。そして立ち上がり爪先を叩いて指先まできっちりブーツへと足を収める。
そうしているとコウメが何かを抱えて戻ってきた。
「おまたせしました――あっ」
そして何も無い廊下で見事に転倒。腕からすっぽ抜けて飛んでくるそれをロックは片手で受け止めながら「ナイスピッチ」と赤くなった額をさすりながら飛び起きたコウメへと告げる。
ロックが何故か二本も巻いているベルトの左側へと差し込んだそれは剣。組糸が巻かれた柄の先には楕円をした金属の鍔があり、その先の刃があるであろう場所では漆黒で塗られた木製の鞘が照明に照れていた。
“刀”、“日本刀”とも呼ばれるそれは“異界”伝来の武装である。
1
旅館“伝々亭”を飛び出したレアであったが当然ゆく当てなどあるはずもなく。“伝々亭”の近くをうろうろした結果、ガウスと合流しようと思い立ち、今は神秘的で壮大な旋律に導かれるように彼女は中央街クラリス・セントラルへと向かっていた。
「でもなんでロックのヤツ、わたしのこと……」
てくてくと街灯型魔導器の照らす道を歩きながらレアは腕の魔導器に触れた。相変わらず宝玉は光り輝いていて不調は見られない。しかしロックは魔導器による偽装を見破った。
やはり考え得るははじめから竜人であると知っていたか。そんなことをらしくもなく考えながらレアはちらと周りを見た。
中央街に近づくにつれてまた露店や大道芸人たちが増え始め、都の人間の活動も活発になっていた。彼らの目が一人歩くレアに注がれることはなく、ともすれば周りには彼女が竜人であることは気付かれていないと言える。
「やっぱ、あんなこと言ってて“竜狩り”のなかまなんでしょ」
寝ているベイクが見付かったら大変だ。はやくガウスに教えないと――やがて駆け足になるレア。しかし件のガウスが何処にいるのかは不明だった。
「しんぱいごむよーっ! わたしの鼻はきくんだからっ」
すんすんとレアの鼻腔が膨れたり萎んだりする。人類の中でもエルフとオークに並ぶ身体能力を有する竜人である。その嗅覚も人間の比ではないのだ。しかし――
「むむっ、このニオイ……」
しかし花の都の誘惑は数知れず。ガウスの匂いの尻尾も掴めない内は他の様々な匂いがレアの嗅覚を刺激する。
その中でも甘辛く刺激的な香りが彼女の鼻を衝き、空き始めた腹部を疼かせた。自然と滲み出る唾液が半開きになった口の隙間より垂れ出てくる。
「こっちかーーっ」
きっとガウスもこのニオイのところにいる。そんななんの根拠も無い考えは無論、言い訳である。
レアの足は香しさに手繰り寄せられるように自然と方角を変えていた。大変なことは色々あるが、まずは空腹を満たすことが生物には大事なのである。
2
「……今の声」
「どうか、なさいましたか」
「ふぅん、悪くない」
大きな鞄を両手で提げた白い外套のエルフの女とともにあり、垂れ下がった前髪を弄る男がその時レアの上げた声に反応した。
エルフの女に問われるが男は応えず、口許に不敵な笑みをたたえると歩む方角を変える。エルフの女も男の無視や理由の不明な行き先の変更にしかし文句も言わず付き従う。
外灯の下に差し掛かり、夜闇に陰っていた男の顔が鮮明になった。彼はかつてベイクとレアの故郷、骸骨村を襲った“竜狩り”の戦士――ゴルドン。




