PART5
部屋はベイクとレアが相部屋、ガウスが一部屋となった。料金も安く、女将のレンは美人ときてガウスはとても喜んでいた。
「ガウスはもう知らないし、ベイクもぜんぜん起きないし……」
たいくつ~――寝入ってしまったベイクを起こすのは至難であり、負い目もあっていたずらも程々に暇を持て余すレア。
ガウスは外出していたが、ベイクのこともあってレアは居残りを命じられていた。
部屋にいるのも限界となり、彼女は部屋のある二階から何の気なしに一階へと降りてきて“伝々亭”を探検していた。
「“いかい”ってヘンなとこなんだろーな……」
アウトロス・ラリアットもそうであったがまるで見たことの無い様式。骸骨村から出たことがなく、人里の何を見ても彼女にとっては物珍しいだろうが、見るもの全てが“異界”由来となると興味の懐き方も変わるというもの。
「絵本も実は“いかい”のこと、描いてたんじゃなかろうか……」
たまに村の大人が持ってくる人里の品物の中に必ずあった絵本。レアはその絵本に描かれているきらびやかな世界が大好きであったが、“異界”建築の様式から感じる感覚は、まさに絵本の中のものに感じる感覚と同じなのだ
彼女なりの推理が冴え興が乗りついそんなことを口に出した。
「――鋭いな」
「へ?」
一階にある食堂。
出入り口のすぐ横にあるカウンター席にただ一人腰掛けていた男の言葉に、レアは思わず素っ頓狂な声を上げて目を丸くした。
誰だろう――レアが男性を注視する。
装いは上下ともに黒く上はロングコート、下は裾広の袴のようなズボンを穿いていて、腰には帯の代わりにいくつものポーチが付いたベルトが何故か二本も巻かれている。
頭髪もまた黒いが、左寄りの分け目から半分だけが銀色だった。
「確かに“こちら側”からすれば“異界”の景観は絵本みたいに映るんだろう。けど、“異界”からすれば“こちら側”こそ絵本の如き――」
ヘンなヤツがいる――何やら神妙な面持ちで語り出した男性。自分やベイクのことを棚に上げてレアは男性に対しそんな印象を懐き、もしや関わるべきではないのかもとしてそっとその場を離れようとした。
「――竜人がどうしてこんなところにいるんだ?」
「っ――」
去り際に告げられた言葉に、レアは咄嗟に身構えた。
そして右上腕に着けられた魔導器を見る。宝玉は光を放ち、魔導器が動作していることを示している。
男性はグラスを手にしたまま、自らを睨むレアを見るとしかし小首を傾げ言うのだった。
「なんだ、俺また何か変なこと言ったか?」
なんだコイツ――またもなにも初対面。人の歯に偽装された牙を噛み締め、やはり黒色に偽装された虹色の瞳でとぼけた顔の男性を睨み上げたレアが胸中、唸るように言った。
しばしレアに睨まれ続け困惑する男性は眉をひそめ、指先だけ露出したグローブを着けた左手で頭を掻く。
「そんな風に睨まれてると落ち着かないんだが……」
「おまえ、なにもんだ?」
「人に何者かを訊ねるときはまず自分から名乗るべきで、礼儀ってもんなんじゃないかな」
レアのこめかみに青筋が浮き立つ。
男性の意見は至極真っ当ではあるが、魔導器で偽装しているにも関わらず竜人であることを見抜かれたレアにしてみれば、男性は“竜狩り”の関係者である可能性もありおいそれと言いなりにはなれないのもむべなるかな。
さらに睨みを利かせるようになるレアと、彼女の文字通り刺すような視線に当てられますます困惑を強める男性。彼は堪らず「俺、また何かやらかしたか……?」と呟く。しかし彼から名乗るつもりはないようだった。
このまま千日手の根比べ、意地の張り合いになるかと思われたが、意外にも先に折れたのはレアだった。
「……レア」
「れあ? それって、名前なのか……?」
「わたしは名乗ったぞっ、おまえも名乗りなさいよ!」
名乗れば名前にケチをつけられ、レアが咆えるように次は男性の番だと言うと、男性は参ったなと一言漏らした後に告げた。
「俺はロック。傭兵だ」




