第20 物陰の耳
ここは校庭である。
男子の体育の授業が行われていた。
短距離走は一度に全員で走るわけにはいかないので
待ち時間が生じる。
「いやーーー やっぱ、るーこちゃんかわいいよなぁ」
「お前、何あだ名使ってんだよ。きもいぞ」
「そーそー、あの純粋さがいいよな、なんか目キラキラしとるし」
「俺は島崎派だなー。正統派JKって感じだし」
「そっちいく? あれは絶対アレでしょ、正統派じゃねーって
あの短さはヤバいって」
「絢陽さんも捨てがたい。あの低身長巨乳は軍縮条約違反だわ。」
「世界が終わる前に、一度揉んでおきたいよなぁ」
「おめーら、くだらねーこと言ってんじゃねーよ。」
「お? やっぱ、すでにデキたやつはいうことが違いますなーぁ」
「もうあれなの?津軽海峡渡ったの?」
「...るせーよ、なんだよ津軽って。」
まさに男子の会話というべき健全な会話が紡がれていた。
当然、話しているのはクラスの中心に陣取る連中である。
その中心から離れる程、アレな度合いが高まっていく。
学校カーストを決する要因は色々あるかもしれないが
ここでは大衆の精神面の健康のため、割愛する。
Yは、図らずも、クラスの中心のやつらの近くに佇んでいた。
「あははははっ んじゃ…Yだっけ?どう?一押しの女子は?」
「おまっ いきなり振るなよな。」
「...ん? 俺? 」
「いい反応ですねーー めちゃ属性濃いよな、Yって」
「ヴははっ、だよな」
クラスの中心ではなくとも流れ弾が飛んでくることがある。
大抵、周辺部のやつは、こういう話題に対応できない傾向がある。
それを見越しているかの如く、彼らは流れ弾を飛ばしてくるのだ。
果たして、周辺にすらいないYはどう対応するのか。
クラスメイトの中には、密かに注目している者もいた。
「どうです? Y先生のご見解は? 」
「っあーーぁ、あっち系の話題なん?」
「っえ、ま、…そうだけど...」
「……うーーん…」
Yは愛想笑いすらみせない。
この男の無表情さは、クラスの中心すら困惑させる。
空気が変わる。気まずさが流れる。
クラスの中心は、持ち前の機転の良さで、場面を転換させようと
したが、それよりもYが口を開く方が僅かに早かった。
「俺はあの一番デカい人だな、とりあえず」
Yは無駄にデカい声を出す。これだけで、中心は揺らぐ。
「…えっ…。 ...三宅さんのこと?」
「…へぇ、みやけっていうのか、あの人。」
「…玄人っぽい人選ですねーー ははっ」
クラスの中心は、平静を装う。
あくまで彼らは、周辺をイジる立場にいなければならないのだ。
が、しかし
「胸とか尻じゃないんだよ。もちろん局部でも。
いきなり主菜を食うやつはそんなにいない。」
「…?」
「太ももだよ。あの筋肉とも脂肪ともいえない存在だよ。」
「……はぁ...」
Yは、中心を、破壊しつつあった。
既に彼らの想定は破綻していた。
だが 誰もYを止めようとはしない。 いやできない。
「太ももで、はさんでもらうんだよ。制服でも良いし、運動した
後でも良い。着衣でも可だ。下から見上げるのも適切だろう。」
「…。」
「…ぁあ…っ…」
こいつは、なにを言っているんだ とYの周りは思っていた。
Yは続ける。
「体も柔そうだし、各種体位も実施可能だろう。」
「……。」
「…というわけで、今晩のおかずは、まずこやけさんだな。
少なくとも、一発は行う。」
「…ああ、そう…。」
「……なんか、すげーな。Yって」
「…。」
クラスの中心は、学習した。
周辺の果てには、とんでもないやつがいることを。
しかし、Yは、自分の発言を、物陰で本人が聞いているとは
思いもしなかった。
まぁ、この男は、本人の前でもぶちかましそうである。
物陰には、背の高い女子生徒がいた。
聞いてしまった。
単なるくだらない話であるはずなのに、どうして自分は
今こうなっているのだろう。
名前を思い出した。
Y君という男子。私より背の高いやつ。
そんなに顔も悪くない…かも。
あの独特の話し方、無駄にでかい声は、確かにその人に
違いない。
…太もも って言っていた。私の、ここを、見ているのだろうか。
はさむって…あれだよね…多分...
そういうこと、しているのだろうか…。誰かと
各種体位って、そこまで種類があるのか。
みんな、それぐらい知っているのかもしれない。
お、おかず…って……。
Y君が、私で、その、あれを、するってことだよね…
こんなことを聞いて、普通なら、不快に思うべきだ。
きっとそうだ。
でも、今の自分の気分はおそらく違う。
私はおかしいのだろうか。 どうしよう。
以後、彼女は、Yを見る目を変えざるを得なかった。
ちなみに本日のYの夕食は唐揚げ丼だった。
おそらく、鶏もも肉である。




