第19 高みの見物
身長は重要であると思う。
背の低いやつを見ると、それだけでおつかれさん という感じになる。
その点、自分は背が高くて良かった。
ついでに例の姉貴も女にしては、まぁ背が高い。
俺の両親が今何しているかは知らないが、身長については感謝したい。
クラスでも、俺が一番の長身だ。
チビの斜め後ろに立つことほど気分の良いものはない。
でも考えてみると、チビにとって周りは巨人となる。
俺の身長に合わせると、2メートル越えの人間に
囲まれるようなものだ。
想像がつかない。よく生きていられるな と思う。
最近気付いたのだが、俺のクラスで二番目に背が高いのは
男子ではなく女子であった。
180前後だろうか。名前は知らない。
顔はブスではないがサッパリした感じである。
それよりも、その彼女の肢体に注目せざるを得ない。
今日は体育がある。
わずかなチャンスだが、女子たちの体育着姿を目視することができる。
なぜ、体育は男女別なのか。フェミたちは何をやっているんだ。
昔は一緒にやっていたような気がする。
男女混合で、組体操か、あるいは乱取りでもやりたいものである。
「…ごめんね。のどか」
「気にしなくていいよ。気分どう?良くなってきた?」
「...うん 少し休めば大丈夫だと思う。」
「まったく、急に外でテニスだから困るよね。」
なかなか身長差のある女子二人が、保健室に向かっていた。
本日のこのクラスの体育は、男子はグラウンドで短距離走、女子は
体育館でマット運動だったのだが、体育館の照明が突然爆発したため
大事をとって、急遽、テニスコートを使用することとなった。
そして授業中にある女子生徒が気分を悪くしたため
背の高い女子生徒が、その彼女を保健室に連れていくこととなった。
「あはは、やっぱのどかってすごいよね。テニスもうまいし。
どんなスポーツでもできちゃうよね、ほんと」
「そんなこと、ないよ。」
「身長もすごく高いし...ほんと男子並みってか、男子以上だよね。」
「…ぁははぁ、...じゃあね。」
「ぅん、ありがと。」
保健室のドアが閉まる。テニスコートに戻る。
何気ない一言を気にしてしまっている自分を思うと
やっぱ私、弱いな と感じる。
絢陽に悪気がないのはわかっている。私が勝手に気にしているだけだ。
身長が、また伸びていた。
縮むよりはいいかもしれないが、少し怖くなってくる。
私はだいたいの男子よりも背が高い。クラスでも二番目だ。
私より高いのは一人だけだ。名前は何だったっけ...
とにかく、異様な雰囲気を醸し出している男子だ。 なんか怖い。
話し方も独特だし、はっきりいって訳わからない。
でも男子なんて、このデカ女としか思っていないだろう。
私は顔もかわいい感じではない。
こんなこと、考えなくてもいいのに、考えてしまう。
でも、自分の持っている武器で勝負するしかない。
はっきりいって、スポーツだけで食べていけるとは、到底思えない。
私よりすごい人はいくらでもいる。
でも私は人並み以上に運動ができるから、国公立の教育学部の
体育専攻に入れば、そんなにお金を掛けず、安定することができると思う。
私の祖母も喜んでくれるだろうし、何より妹の学費を確保できる。
考えなくてもいいことは、考えなくてもいいんだ。
テニスコートに戻る途中、クラスの男子たちがなんだかグラウンドの
ネットのあたりで話していた。
走り終わったのか、順番待ちか ま、どうでもいい。
私は普通に通り過ぎようとしたが、あの独特な話し方によって
私の名前が発声されたのを聞いて、不意に倉庫の物陰に隠れてしまった。