Prinz_Eugen_3.5
Prinz_Eugen_3.5
イシュトバーン王国。
かの国は1000年前に神に召喚された英雄、聖イシュトバーンが魔族を征伐した功績をたたえられて建国された。
そして、そこから1000年の長きにわたり、魔族、異教徒、蛮族からの侵入を阻み続けた強大な軍事国家。
そのイシュトバーン王国が崩壊した。
10年前の話だ。
一夜にして王族が全員惨殺されるという悲劇によって、1000年続いた大国はあっけなく消滅、王国が抱えていた強大な軍も姿を消した。
この事件によって、これまで息を潜めていた魔族が人類の領域へ再侵攻を開始。
統率を失った人類は次々にその版図を奪われていった。
だが、いつまでも蹂躙を許すほど人類は愚かではない。
10年の時を経て人類は団結した。
総勢5万の兵力の多国籍軍を編成、魔族への反撃を開始した。
3軍からなる多国籍軍による3方向からの同時攻撃によって魔族に奪われた東部丘陵地帯。その中央にある『塔』の奪還が目標となる。
『塔』
これがいつから存在し、なぜ存在しているのかは未だ解明されていない。
人類が分かっているのは『塔』からは莫大な恩恵を受けることが出来るということだけだ。
『塔』の内部には現世にはない文明の利器がある。
その最奥にあるコアを解放すれば膨大なマナを抽出することができる。
それによって人類の叡智、魔導機を動かすことが出来るのだ。だから、有史以来人類、魔族の歴史は『塔』の奪い合いの歴史であり、いつの時代も『塔』を制した者が勝者だった。
「全軍、突撃せよ!」
カール・フォン・グスタフ第一王子の号令一下、グスタフ公国率いる第1軍は速やかに前進を開始する。
ペーネミュンデ王国麾下の第3軍の陽動、シュマイザー王国麾下の第2軍の領域魔法による準備攻撃、その対応に追われている間に魔族の本陣に斬り込む。
ーダイニグン・ヨリ・ツウタツ・ドウシウチ・ノ・キケンアリ・テイシサレタシ
ーダイサングン・ヨリ・ツウタツ・カッコゲキハ・ノ・キケンアリ・テイシサレタシ
第2軍、第3軍から通信魔法が届いた。
知ったことか。
『塔』を制した者はいつの時代も勝者となる。
歴史はこの一戦で終わりではないのだ。
そして、これからの歴史において、次も、その次も公国が勝者は勝者であることがふさわしい。
小細工ばかりのペーネミュンデやインテリ気取りのシュマイザーごときは歴史の勝者にふさわしくない。
やつらにせいぜい露払いをさせて我々が最初に『塔』を制圧し、勝者となるのだ。
「召喚獣出現!敵の伏兵です!」
突撃中の前衛から悲鳴のような報告が上がってきた。
魔族の伏兵、戦力を秘匿していたというのか。
従兵から引ったくった遠眼鏡を覗くと、多数の大型、小型の魔物がこちらに突撃してくる。
・鉄鬼兵
・合成獣
強力な魔物と併せて
・マンティコア
・バンシー
のような小型との複合。
大型が前衛を一気に切り崩し、切り崩したところから小型が入り込み戦列を崩していく。
移動中の前衛はひとたまりもない。
「クソ!話が違う!」「陣形を組み直せ!」「平地じゃ不利だ!」「後退して体勢を立て直すぞ!」「第2軍に支援要請!領域魔法で吹き飛ばせ!」
支援要請のために通信兵が通信魔法を詠唱する。
その頭を大型の飛翔体が貫いた。
「命令に変更はない。突撃しろ」
グスタフは後退する前衛を馬上から見下ろし冷酷に言い放つ。
学のない兵卒はこれだから困る。
目の前の敵しか見えない低脳ばかりだ。
貴様らが目の前の戦で右往左往している間に余は100年先、1000年先を見据えているのだ。
「そんなん知るかボケェ!」「何が100年後だ!今死んじまうぜ!」「初歩的な待ち伏せに引っかかりやがって低脳はテメーだ!」「シーツのシミからやり直せ!」
「やれ」
グスタフが右手を上げると隣に控える従兵が大型の機械弩を設置した。
機械式の連射弩だ。
従兵がハンドルを回すと次々に飛翔体が発射され抗命の意思を見せた兵隊を黙らせていく。
「このオートムジークは臆病者の背中が大好物だ。餌になりたくなければ死ぬまで、否、死んでも戦え!」
勝利は全てを癒やす。
たとえどれほど犠牲が出て、どれほど兵隊の怨嗟を受けようと、勝ちさえすれば全てが許される。
歴史上の勝者は皆そうして勝ってきた。
無論、余もそうする。
伏兵によって従軍した兵は半分ほど失うことになるだろうが、勝利するには十分な戦力は集めてあるのだ。
何も問題はない。
グシャ
「え?」
突如現れた緑斑の鉄の塊が連射弩を操作していた従兵を連射弩諸共その鉄の帯で踏み潰し地面と混ぜた。
「な、なんだ?」
魔族の増援か?いやしかし、3万の兵の目を盗んでいきなり後方から現れるなど不可能だ。
それに、この鉄の化け物は一体何だ!?
こんな物はどこの国にも見たことがない。
鉄の化け物はグスタフの疑問に構わず前進、そして、答えの代わりに後方から次々に緑斑の鉄の化け物が現れた。
そいつらは後方で逃げ惑う兵と騎士を次々に踏み潰し前進する。
「ひっ!?」
馬は臆病だ。
グスタフの恐れを感じ取った馬は乗り手の制御を失い一目散に走り出す。
「ま、待て、そっちは!」
後方からは鉄の化け物、それから逃げる方向は、前方、魔族の陣だ。
狂乱状態の馬は普段は絶対に見せない速さで先ほど見送った鉄の化け物を追い抜き、逃げ帰ろうとする前衛を追い抜く。
そして眼前には大型の魔物:鉄鬼兵がその豪腕を振りかぶって待ち構えている。
前方の脅威に気づいた馬が慌てて方向を変えようとするが、鉄の化け物が後ろに迫っているのを見て急停止。
その眼前を緑の鎧を纏った騎士が走り抜けていく。
誰だ?どこの所属だ?
ー溶断刀
緑の騎士は立ち往生するグスタフに突っ込んでくる鉄鬼兵をその手に持った斧と槍を組み合わせた大型武器で叩き斬った。
緑の騎士はそのまま魔族の陣に突入していく。
何物か知らないが緑の騎士は敵ではないらしい。
冷静になって見ると鉄の化け物はただまっすぐ進んでいるだけだ。
グスタフをどうこうしようという考えはないらしい。
これが正解かは知らんが、グスタフは鉄の化け物と併走する。緑の騎士は相当な手練れだ。
緑の騎士がいる限り魔族は脅威ではない。
だから、鉄の化け物に踏まれないように距離を維持しながら前進すれば助かる、と思う。
その考えは即座に打ち砕かれた。
緑の騎士の目を盗んで後ろに抜けたバンシーの群れ、その群れ目がけて緑の騎士が火を噴く矢を多数放った。
射線上のグスタフもお構いなしだ。
緑の騎士は敵ではない。
それは決して味方であることの担保にはなりはしないのだ。
飛来した火を吹く矢がグスタフの馬の頭に命中、同時に火を吹く矢がはじけて馬の頭が木っ端微塵にはじけ飛んだ。
とっさに馬の手綱を引いて盾にしなかったらグスタフがこうなっていた。
この化け物どもには人間の理屈は通じない。
地面を転がりながら、前方で巻き起こる竜巻と爆煙と、後方で鉄の化け物に踏み潰される兵を目に焼き付けながらグスタフはそう結論した。
奴らには人間も魔族もない。
功利も名誉も騎士道も存在しない。
一方的に現れて周囲の全てを蹂躙する。
破壊のための破壊、殺戮のための殺戮がそこにあった。
通信魔法機動。
早く本国に伝えなければ、この化け物を野放しにするわけにはいかない。
必要な情報を整理、報復のための戦力を準備させなければ。
焦りながら構築した魔法が発動した瞬間、新たに現れた鉄の化け物がその嘴から放った無数の火花によって、グスタフは前進に穴を穿たれ絶命した。
「転移完了。我々で最後です」
緋本原旅団、竜崎中尉は前方を走る指揮車輌と上官の楠大尉に異世界への転移が滞りなく完了したことを報告する。
ペリスコープの端で原住民が何か奇跡のようなものを使っていたようだが、機動装甲車の機銃で容易に処理できた。
これはわざわざ報告するまでもないだろう。
それより前方で戦っている『姫』に加勢してやろう。
早くしないと獲物がなくなってしまう。
全ては滞りなく、幸先のいい滑り出しだ。
to_be_continued




