-the_Sentinel- 帰投
the_sentinel これにて終了になります。
「僕」のミッションはこれからも続き、智少年の冒険はひとつの決着を迎えました。
予想外に話のスケールがおおきくなり連載も長期化しましたが、お付き合いくださった皆様のおかげで描き切ることができました。
ありがとうございます。
次の話は現状未定ですが、
東城少佐視点の話か、サージの若いころの話、また漁船の話などを考えています。
-the_Sentinel- 帰投
「軍隊手帳?随分古いのう。森林・・・おお、おるわおるわ、名護屋か、随分遠くから来たんじゃのう」
外人部隊の助言で役所に足を運んでみたら、あっさりと本土への帰還と戸籍の更新は終了した。
「本籍は、名護屋の森林居住区、あそこは70年以上前に取り壊しになっとるで。現住所は本籍と同じにしとくがあそこには入れんで。まあそのボロい軍隊手帳は取り替えちゃるわ。住所決まったらまた来んさい」
新しい軍隊手帳を受領した森林智は暮の役所を後にした。
「サトー、終わったと?」
役所の外では詩緒と『中隊』の仲間が待っていた。
現在、緋ノ本での戸籍があるのは智と詩緒の二人だけだ。
ここからが大変だ。速やかに『中隊』の住む場所と働き口を
見つける必要がある。
零和元年、智が離れている間に、本土は随分様変わりしていた。
コンクリートで出来た高い建造物、網のように張り巡らされた電線、地平線の果てまで伸びる舗装された道路、そこを走る自動車の群れ。
上を見上げれば翅がない飛行機が甲高い鳴き声を響かせて空を渡る。
「これが、本土・・・」
想像を超える光景に詩緒は言葉を失っている。
詩緒は本土を出たときまだ赤子だったから当然か。
「これほどとは・・・」
言葉がないのは本土を知る森林智も同じだった。
智が本土にいたときは道路はほとんど舗装されておらず『外来種』と呼ばれる魔物が跋扈していた。
森林智が知る本土はもうどこにもなくなってしまった。
「軍曹、頑張ったね」
目の前にあるのは、豊島少佐が夢見て、軍曹と語り合った未来の本土だ。
言葉を失うほどのこの光景は智がいない間も、彼らが戦って、勝ち続けたことの証明に他ならない。
出来ることなら、彼らが進んだ道を一緒にに戦いたかった。
それはもはや叶わない。
ー軍曹、外人部隊の創設者らしいね。自分が来たときにはもう死んでたらしいけどね。
『赫腕』という軍曹の後継者が教えてくれた。
『耳なし』に与えられた時間は短い。
彼は聖和が零和になるより前に、与えられた時間を走り抜けたのだと。
そして、同様に豊島少佐ももう生きてはいないだろうと。
消沈した智に『赫腕』が渡した紙片、そこに書かれた場所は外人部隊の集合墓地、有戸墓地だった。
ー自分ら転生者にも墓があるんだ。探せば軍曹がいるかもな。もっとも、外人部隊じゃ死体が残ることもあんまりないから石に名前書いてそれで終わりになることがほとんどだけどね。
大小の石が立ち並ぶ。
小さい石は『赫腕』が言うように死体も残らなかったものたちだろう。
小さい石からは魂の残滓を感じることができない。
ー自分らは身一つで緋ノ本に来るから、あそこにいるやつらは家族がいないんだ。ここで新しい家族を作ることも出来ずに死んだやつらだ。だから、名前書いたらそこで終わりなんだよ。だから、もしそこに軍曹がいるならきっと救われると思うよ。
チリチリと日差しが肌を焼く。
智と詩緒は一面に並ぶ石を調べる。
軍曹がいつ、どのような死に方をしたのかは分からない。そもそも本当にここにいるのかも、でも探す。
日差しが西に傾いた時、詩緒が自分の背丈ほどの墓石を見つけた。
「サトー、これ」
ー軍曹:東城 栄 大正14年ー平盛12年
直方体の墓に書かれた名前、間違うはずがない、智と詩緒が一番最初に覚えた日本語:軍曹。
「軍曹、帰ったよ」
詩緒を墓の前に立たせる。
「詩緒もちゃんといるよ。もう一人で歩けるんだ」
分かっている。
目の前にあるのはただの石だ。
ここに軍曹の魂の残滓はもはや、ない。
彼は本当の意味で、ここでの役割を終えたのだ。
それが嬉しく、とても寂しかった。
「軍曹、さようなら」
目頭を押さえ、墓を後にしようとしたところで、もう一組の参拝者が現れた。
一人は、紫髪緑眼の渡来人の娘、もう一人は緋ノ本の男だ。黒髪黒目、上背は高くないが肩幅が広く見た目より大柄に見える。
隣の紫髪が細身だから余計にそれが際立つ。
「あ、あ・・・」
間違うはずがない、軍曹がいた。
軍曹の魂の残滓、それが目の前に。
気づけば、男の前に跪いていた。
「森林智、上等兵であります」
男は驚いたように目を見開き、紫髪は警戒して腰の刀に手を伸ばし、それを詩緒が銃剣で牽制する。
一瞬の膠着を男が破る。
「東城 護、緋本原旅団少佐です。生前は祖父がお世話になりました」
男は深々と智に頭を下げた。
「あなたが森林上等兵ですか子供の頃祖父様からあなたの話を伺いました名護屋で仕事していたころ一緒に仕事した土人で山歩きと射撃がうまいやつがいると転戦前に行方不明になって随分心配してましたよまああいつなら心配ないとも言ってましたけどねああそうそう来る前に買ったんですが氷砂糖いります?祖父様から好物だと聞いています」
東城 護は上機嫌にビニールの袋から氷砂糖を渡す。
目が熱い。
涙が止まらない。
もう叶わないと思っていた願いがこのような形で叶うなんて。
「森林上等兵!恥ずかしながら、戻って参りました!」
-Mission_Complete




