-the_Sentinel- 第一九.五話
-the_sentinel サトー少年編、島に漂着するまでの話はこれで終わりになります。
最後にエピローグを一話考えています。
いましばらくお付き合いいただけると幸いです。
-the_Sentinel- 第一九.五話
ー腕なし
あいつが全ての元凶だ。
俺たちはいつものようによそ者に集落のルールを教えていたのをあの『腕なし』は逆恨みして破壊の限りを尽くし集落は壊滅した。
俺は勇敢に立ち向かい撃退に追い込むことは出来たが代償は大きく集落の住民は俺一人になった。
生き延びた俺は周りの集落に危機を知らせに走った。
しかし周りの集落の連中は誰一人聞く耳を持たなかった。
ー下等な『耳なし』にそんな芸当が出来るわけがない
ーまして森の中で『耳なし』に遅れを取るなどあり得ない
ーお前じゃ話にならん、オヤジを呼べ
ー所詮七光りのバカ息子よ
俺を鼻で笑ったやつらはすぐにその報いを受けた。
ある集落は鉄の鳥が落とした火の玉で炭になり、ある集落は鉄の牛が吐いた炎で焼き払われた。
そうしていくつもの集落が灰になっても連中はかなくなだった。
しかし、ある集落で全員の片腕が切り飛ばされる事態が発生するにいたり、ようやく全ての同胞は俺の言葉を信じ、俺は生き残りをまとめる立場に返り咲いた。
『長』になってはじめにやったことは俺を鼻で笑い、いたずらに犠牲者を増やしたクズを一族郎党まで粛清することだった。
一度でも反抗したやつは信用できない。
片腕をなくしたやつらは全員殺して皮を剥いだ。
腕を切り落とすのは『腕なし』が集落に紛れ込むための手段だからだ。
そうして生き残りをまとめ上げたところで、『耳なし』どもが接近してきた。
聞けば、『耳なし』は現在、俺たちの集落を焼いて版図を拡大しているが、それは一部の過激派がやっていることで、それを止めたい『耳なし』がいること。
そして、それが自分たちであり、過激派の横暴を止めるために協力を求めてきたことを明かした。
仲間はみんな疑っていたが俺はこの話が真実だとすぐに分かった。
なぜなら『腕なし』は交渉しないからだ。
交渉に来た『耳なし』の中に『腕なし』がいるならばとっくにこの場の全員が片腕を落とされているし、片腕になった誰かに成り代わっているだろう。
そして、それが出来る『腕なし』がわざわざよそ者だと分かる『耳なし』の姿で乗り込んでくる意味はない。
『耳なし』どもが言うには、同胞の中には『耳なし』に下り『耳なし』の集落で暮らしている連中がいるらしい。
唾棄すべき裏切り者だがそいつらの中にも反抗心をもってるやつらがいるらしい。
作戦はこうだ。
近日、『腕なし』を含めた『耳なし』の主力が拠点を開ける。そのタイミングで反抗心を持った裏切り者が手引きして俺たちを引き入れる。
内部に突入した俺たちは同胞を救出したあと『耳なし』の集落を可能な限り破壊し、撤退。
撤退後のルートは目の前の『耳なし』が用意すると言うことだ。
「あそこには『姫』がいるとの噂もある」
「うまくいけば救出できるかもしれん」
集落の年寄りが何かブツブツ言っていたが、この作戦に反対する声ではないようだ。
作戦は速やかに実行に移した。
作戦は概ね成功だった。
同胞の手引きによって『耳なし』の集落にあっさり侵入。
そこから石と金属の森を突き進んで破壊活動を行う。
俺たちが来たことで同胞達は忘れかけていた反抗心を取り戻し、戦列に加わった。
協力を拒んだ腰抜けは血祭りに上げた。
『耳なし』の抵抗に遭い3名ほど仲間を失ったものの年寄り連中がいう『姫』の救出は成功した。
あとは協力者の『耳なし』と合流し脱出するだけだ。
「な、なんだこいつ!?」「こいつ腕が、」
「ぎゃああああああ!?手が、俺の腕がアアアアアア!」
「姿が変わった?」「まて、おれは本物うぎゃああああ!?」
「来るな、くるなあああああ!?」
『耳なし』からもらった『マイク』と呼ばれる機械から音が漏れてきたが俺はもう集落の外だ、問題はない。
あとは当初の予定通り、鉄の牛に乗って合流地点に向かえばいい。
脱出した俺たちを追撃するために鉄の鳥が飛び始めたが、向かう先は山、俺たちが向かうのは海、問題はない。
「軍曹!状況を報告せえ!」
名護屋基地『森林居住区』に豊島少佐の怒号が響く。
「叛乱でありますどうやら少佐の予想通り叛乱分子が外部の蛮族を手引きしたようです既に制圧は完了しつつあります」
『軍曹』が別の戦場に移動する。
この情報は半分本当で半分は偽だった。
移動するのは本当だが、本来の期日はもう少し後の予定だ。
このようなことをした理由は一つ。
ー同化した『長耳』の中に叛乱を企てているものがいる
この情報の真偽を確かめるためだ。
豊島少佐の指揮により、名護屋の版図は急速に拡大したが、それにより大量の異種族を取り込むことになった。
異種族の大半は共存に協力的だったが、叛乱の芽はあると言うのが豊島少佐、軍曹の見解だった。
そこで、叛乱分子をあぶり出すため偽情報を流したわけだが、結果はこの通りだった。
「逃げたやつはどうする」
「連中は山に向かって逃走した戸の情報あり、既に追撃の部隊を出しております」
「ほうか、一人も逃がすなや」
「はっ」
豊島少佐は考えていた。今は恨みや不安があろうと、仕事と住処を与え、それを絶やさなければ異種族との共存は可能であると。
政府のお偉方の反対を押し切り、異種族を懐柔して急速に版図を拡大出来たわけだが、今回の事件で、政府のお偉方はこれを口実にして豊島少佐の任を解くことが予想される。
豊島少佐は軍曹が一瞬、山がある北ではなく南に目を向けたことに気づく。
一瞬南を見た軍曹が気にしたのは、最初に保護した智という子供だろう。
随分情をかけていたようだが、豊島少佐の立場で軍曹の気持ちを斟酌は出来ない。
出来ることは気づかなかったフリをするくらいだ。
「智、達者でな」
闇と炎に消えていった軍曹のつぶやきも豊島少佐は聞こえないふりをした。
作戦は成功だった。
名護屋基地は豊島少佐が『政府の命令に背いて』『独断で』引き入れた『長耳』の蛮族によって甚大な被害を受けた。
豊島少佐の存在は政府にとって非常に不愉快だった。
しかし、予想の倍以上の速度で辺境を平定するという結果と実績を前に専横を止めることが出来ずにいたのだ。
一度政府から物資の補給を差し止めたこともあったが、辺境で鉱山を発見したことで、周辺の企業を呼び込み手弁当で部隊運営まで始めてしまった。
だから、政府は豊島が完全に制御を逸脱する前にその力を奪う必要があったのだ。
そこで、『長耳』を利用した。
やつらは原始人の分際で自分たちを高等生物と思い込んでいたから、その無意味に高い気位をつつけば思い通りに動いた。
結果は予想通り、名護屋の機能はほぼそのままに、豊島少佐を叩く口実になる最低限の損害を出してくれた。
これで、豊島が撞いて外人部隊がこねた名護屋を座ったまま政府が食らうことが出来るというわけだ。
原始人は扱いやすくて助かる。
「おい!話が違うぞ!」
首都『鏡都』に凱旋する輸送艦の格納庫で原始人が不満をぶち上げた。
作戦に使った原始人は原始人が御神体とかいってあがめていたガラクタの中にあった本物の神器のついでにそのまま輸送艦に乗せて鏡都への献上品にする。
それが気に入らないらしい。
ほとんどの原始人は訳の分からない現地語を喋っているが、一部は豊島少佐の政策で日本語が分かるらしい。
やれやれ。
「やれ」
艦の保安部隊の機関拳銃が文句を言った原始人を射殺した。「ひ、ひいいいいいいいい!?」
頭目とされる原始人が戦意を失ったことで艦内に反目するものはいなくなった。
その直後に艦に振動が発生した。
サトー、森林智は四起を駆り海を目指す。
早く一直線に港に入ろうとしたところで機関銃の迎撃を受けた。
正面は無理だ。
叛乱を企てた『長耳』は既に軍艦に詰め込まれている。
他のルートを探そう。
ーアクティブスキル:森語り(フォレスト・ガンプ)
港の周辺の森の声を聞く。
智が持つ奇跡だ。
森の中は自分の空間と同じ、全ての情報が入ってくる。
森を通り港に入り込める最短の道順。
四起は悪路を撥ね除け森を進む。
見えた。
森を抜けた先は崖。
軍艦が、真下を走っている。
アクセルを全開、勢いのまま智と四起は崖から飛び出した。
「空中より車両が飛来!」
「被害状況確認!」
「おい!水密扉が開いてるぞ!」
「侵入者か!?探せ!」
輸送艦はにわかに慌ただしくなった。
保安部隊が機関拳銃を手に艦内を捜索する。
侵入者か、誰かは知らないがご苦労なことだ。
四起の乗員は4名までだ。
驚きはしたがその人数では出来ることもあるまい。
軍艦に乗り込んだ森林智は艦内を進む。乗員は艦首に落下した囮の四起に集まったが、智は衝突前に飛び出して落下傘で艦尾に降下していた。
そこから通気用のダクトを進んでいる。
大人が通れないダクトは盲点になっているらしく発見はされなかった。
目指す場所は、通信施設。
通気ダクトから侵入し、シマから預かったサーベルで通信員を始末。
そこから艦内通信を行う。
「私は!名護屋旅団所属!森林上等兵である!祖国と皇帝と豊島少佐の命により、これより奸賊を成敗する!」
奸賊?成敗?何を言っているのだ?
我々は政府の命で動いているのだ。
豊島め、この期に及んで政府に盾突くというのか。
何が奸賊だ!地方の蛮族めが!政府に盾突く貴様こそ成敗してくれる!
「お、おい・・・」「今皇帝って・・・」
だが気が弱い兵の間では動揺が走っていた。
腰抜けどもが、この神器と手土産を持って帰れば皇帝であろうと文句は言えない。
成功は約束されたとあれほど言っているのに。
その動揺に気づいたものは他にもいた。
「智だ!あいつ生きてたのか!」
「智に続け!」
気づいた原始人が保安部隊を奇襲した。
原始人の中に日本語が聞こえる。
豊島の下で訓練を受けたのか。
訓練を受けた原始人は銃を恐れず連携して保安部隊に襲いかかる。
対処出来ず倒された者から機関拳銃を奪う者が現れると、それを皮切りに原始人どもが氾濫した。
「銃を奪え!」
「あいつが指揮官だ!逃がすな!」
侵入者の捜索に人員を割いた隙を突かれた。
保安部隊を呼び戻すか?
侵入者は少数だ。
保安部隊をかき集めれば鎮圧は可能だ。
「こちら操舵室!侵入者!」
操舵手からの通信が流れて、消えた。
そこから30秒ほどして艦に横の重力が浮かぶ。
艦が転舵している。
侵入者が予想外に厄介だ。
操舵室の侵入者を排除しないと。
いや、その前に早く格納庫から脱出しないとまずい。
原始人が格納庫を制圧しつつある。
「ワレ、ワカバ、貴艦進路異常」
護衛の駆逐艦から入電。
予定にない転舵を行ったことで艦の状況を確認しているのか。「捕まえろ!」
注意が逸れた瞬間、飛びかかってきた原始人に取り押さえられた。
「指揮艦を押さえた!」
「でかした!」
「動ける者は智の支援に向かえ!」
「操舵室、艦橋、通信室を押さえろ!」
原始人が艦内に溢れていく。
もはやここまでか・・・。
「本艦は奸賊により奪取された!鹵獲前に速やかに雷撃処分せよ!」
僚艦に通信。
こうなれば死なば諸共だ。
艦は制圧できたらしい。
助けに来た『長耳』から知らせを受け、格納庫へ向かう。
格納庫には拘束された政府の軍人と、老若男女の『長耳』達だ。
「詩緒・・・」
探していた赤ん坊を見つけて胸をなで下ろす。
詩緒は智を見つけて安心したのか堰を切ったように泣き出した。
これで一安心、とは行かない。
船体に衝撃と爆発。
「周りの軍艦から攻撃されてる!」
さっきの通信で、この艦を撃沈することにしたらしい。「何とか振り切れない?」
伝声管で操舵室に連絡する。
「今全速だが、あっちの方が速い!」
護衛の軍艦はいま乗ってる艦より小型だが、その分動きが速い。
「前方に出ようとしてるぞ!」
「魚雷を使う気だ!」
魚雷は砲弾より進みが遅いが威力が高い。前側に回り込まれたら撃沈されてしまう。
「原始人どもが、政府をコケにするとどうなるかあの世で教えてやるぞ!」
拘束した指揮官が勝ち誇る。
ここまで来て海の藻屑になるのか。
「おい、あれ使えないか?」
『長耳』の一人が指さしていたのは、献上品として積まれていた御神体だ。
神器、これを起動すれば状況が変わるかもしれない。
「ふん、起動できるものならやってみろ」
「やかましい!」
勝ち誇った耳なしの顔面を気の短い一人が機関拳銃の銃床で殴り付けた。
殴られて転がった『耳なし』はなおも威勢を張る。
「ぶっ!」
挑発するように血の混じった唾を御神体に吹き付けて優位を示す。
それが鍵だった。
血を受けた御神体が起動すると、外装が開き中から金属の紐が耳なしを捕まえると御神体の内部に取り込んだ。
駆逐艦『若葉』『紅葉』『銀杏』『椿』
速度の優位によって輸送艦の艦首方向に回り込んだ。
制御を奪われた旗艦の処分のため距離を維持、目標は未だ直進している。いや、今となっては関係あるまい。
4隻2基4連、計32本の魚雷網はどう動いても回避は不可能だ。「打ち方はじめ」
32本の魚雷が一斉に発射され狙い違わず輸送艦に吸い込まれていく。
ーパッシブスキル:絶対防御
一面に上がった水柱が上がった後、そこには無傷の輸送艦が直進していた。
魚雷をしのいだ後、御神体はまた機能を停止した。
どうやら、生け贄を捧げないとこの御神体は動かないということか。
諦めが悪い駆逐艦は砲撃を続けながら追いすがる。
魚雷が切れたら砲撃で、さらには防御用の機銃まで動員して。
「タマはまだあるぞ!もっと燃料をくべろ!」
号令一下、拘束した輸送艦の乗組員を御神体に投げ込む。
御神体は悲鳴にも命乞いにも耳を貸さず命を貪りその活動を維持する。
根比べの果て、『耳なし』が尽きるより僅かに早く、弾薬が欠乏した駆逐艦が後退していった。
日が昇る。
追撃を振り切った後、輸送艦はどこかの島に漂着したようだ。「こうなったのは軍曹だ!あの『腕なし』が悪い!」
「やめよう。まずは生き延びることを考えないと」
叛乱の首謀者がリンチにかけられてるところに割り込む。
この島は海図にない未知の場所だ。
生き延びるために無駄な内輪もめは出来ない。
「智。この男の甘言に乗った我々の責任だ」
名護屋の古参メンバーだった『長耳』の中にも叛乱に加わったものはいた。
彼らは責任を感じつつも後悔はない。
叛乱に加わらなければ自分たちは名護屋で死んでいた。
死んでいたら今ここで、同胞のために動けない。
「智、生きて戻れよ」
だから、後悔はない。
若い同胞のために、拾った命を使おう。
少年だった智はこの後、彼らの助けを得て、後に北千練島と呼ばれるこの島を脱出することになるが、彼らの骨が本土に戻ることは叶わなかった。
-to_be_continued




