-the_Sentinel- エピローグ
the_sentinel 本編はこれにて終了になります。
サトーの少年時代の話、北千練島に漂着するまでををあと1-2話予定しているので今しばらくお付き合いいただけると幸いです。
-the_Sentinel- エピローグ
北千練島を脱出後、海に放り出された僕と『鉄乙女』は救援に駆けつけた地元の漁師に救助された。
「あーうまい!」
過労で失ってた意識が戻って食うまともな飯。
魚の出汁が効いた魚のアラ汁が体に染み渡り失った塩分が全身を駆け巡る。
分厚い刺身に貝かなんかの出汁がしみこんだ醤油をかける。
たっぷり乗った脂が醤油を弾きつつも細かく刻まれた溝にしみこんでいく。
すごい噛み応えだ。取れたての魚だからか身が凄い締まってる。
「Good.」
現在、ここ、蔵戸丸の食堂にいるのは僕と『鉄乙女』の二人だ。
『鉄乙女』は刺身と海藻に醤油をぶっかけて白米と一緒に掻き込む。
乙女とはなんだったのかという食いっぷりでこの筋肉女は皿と椀の塔を作っていく。
「よーお前ら飯はどうや?気に入ったか?」
食堂に乗り込んだのは浅黒く日焼けした眼鏡のおっさんだ。
周りの漁師の汚い方言とは違う訛りのこの男は蔵戸丸の船長だと『鉄乙女』が食いながら説明する。
船長は僕らの食ってる飯を眺めると満足そうに顔を緩める。
「おお!さっき捕まえた新種全部食っとるやんけ!毒はなさそうやな、これは売りモンになるで!」
え?
こいつ僕によく分からない魚の毒味をさせてたのか?
「No_Probrem.」
疑念を抱く僕とは裏腹に『鉄乙女』は委細構わず魚を米で掻き込んでいく。
なんて食い意地だ。
「そうそう、『帳簿係』から連絡があったんや。空母は暮に入港したらしいで。ワシらは経石に帰港するさかいそこからアルバトロスで暮に送ったるわ」
それはどうも。
経石港湾労働者組合に送られて暮に戻った僕は『帳簿係』から任務の結果を聞く。
北千練島攻略:成功
島を取り囲む結界は解除され、暴れ回っていた海洋性外来種は沈静化された。
これによって紫国と本土の輸送路の安全は確保された。
また、島にいた勢力が同時に島を脱出したことで、島の所有者は現在不在となっている。
島の所有者がいないとなれば、島を確保したい勢力はまた現れると言うことだ。
「暮旅団はここに補給基地を作りたいみたいだな。それも政府や他の旅団が目を付ける前に。また仕事が来れば行ってもらうことになるかな。自分はもう行かないからさ」
僕だって行かないよ。
ここで、島にいた各陣営がどうなったのかを追っていこう。
・空挺部隊:45名(生存7名)
指揮官の大塚大尉はこの任務の成功によって少佐に昇格したらしい。
途中でいなくなった井上大佐から祝いが届いたという話が流れてきた。
てゆーかあのおっかねーオバハンまだ生きてんのか。
怖いな、任務中には会いたくない。
ついで、今回銃火器やメカゴジラの操縦で活躍した『鉄乙女』は暮に帰投後メーカーである緋本火砲技研でメンテを受けるということだ。
「See_you_again.また共に戦えることを」
「え、うん」
正直、僕は遠慮したい。
・空母搭乗員:1232名(生存52名)
空母の搭乗員は暮に投降した後、その大半が漁船送りとなった。
僕らにとって任務は成功だけど、彼らにとっては大失敗、どのみち生きて中央に戻れないなら少しでも生き延びる可能性がある方を選んだということだ。
ただし、空母の機関員はそのまま暮の所属になった。
空母は装備を引っぺがしたら紫国に持っていって発電所にするということで、核動力を扱える人間は貴重だからということだ。
・チビマッチョ:242名(生存225名)
生き残ったチビマッチョ達は各地に散って引き続き採鉱に従事するらしい。
「また会おーや」
金剛の派閥は本土に移るが、一部は物資の補給を受けた後暮旅団に付いて北千練島の資源調査を継続するらしい。
・『長耳』:600名くらい(生存47名)
『長耳』はサトー率いる『中隊』を除いてほぼ壊滅。
それと引き換えに念願だった島からの脱出に成功したというわけだ。
「森林智の戸籍が生きてたらしいな。本土への帰属は思ったよりスムーズに行ってるらしい」
『帳簿係』はサトーが本土で暮らせるようにあちこち声をかけたらしいけど、暮の役所で戸籍見せたらあっという間に手続きしてくれたから無駄骨だったな。
「あいつら、本土でまた仕事探すってさ」
サトーは今半世紀以上ぶりの本土を満喫してるらしい。
シオを伴って軍曹の墓参りをすると言って暮を去って行った。
・マジアカ学園組:422名(生存1名)
神器の燃料にされてた学生達は、ヨシュアという小デブを除いて全員死亡。
「なあヨシュア、ホントにいいのか?」
チビのイワンの不安そうな声に小デブは答える。
「大丈夫だ、何とかなるだろ」
生き残った小デブは外人部隊の編入となるらしい。
『帳簿係』が規格品の手帳に手書きで外人部隊の文字を書いて小デブに渡す。
「正式なものは後日渡す。しばらくは緋本原で訓練してそこからたっぷり働いてもらうぞ」
こいつが同僚になるのか。
「まあ、よろしく頼むわ」
小デブのやる気があるのかないのか分からない様子だったが、同じ任務になったら弾よけに使ってやろう。
・外人部隊
任務参加:72名(生存60名)
結構残ったな。
「海の上でこの生還率は上出来だな」
『帳簿係』は我ながらよくやったと自画自賛。
「『大先生』は暮旅団から感謝状が届いてるぞ」
ジークフリートのおっさんは今回の任務での活躍が讃えられて晴れて昇格になるらしい。
第8位(鋼鉄級)→第6位(翠玉)
マジかよ、二階級やん。
「恐縮です」
おっさんへの報奨金も昇格によって大幅に増えるらしい。
「これでメルセデスを直せる」
もともと任務受けた経緯が車の修理代が目的だったけど、車直しても大分おつりが来るぞ。
僕とチビの報酬はまあ、妥当か、しばらくはゆっくり暮らせるくらいの額だ。
「そしてこの任務の成功によって、捕らえられていた妖鳥の身代金が捻出出来るようになったわけだ!」
緋本原支部の中心で『帳簿係』が高らかに叫ぶ。
浄眼鬼のやらかしの巻き添えで緋本原で人質になっている転生者、妖鳥を救う準備が整った。
「いええええええええええええええ!」
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
外人部隊の戦士も雄叫びを上げる。
叫んだのは身代金の捻出のため危険を顧みず今回の任務に従事した転生者達。
彼らの悲願はここに達成される。
麻袋にぎっしり詰まった札束によって。
「おーっす!『赫腕』!遊びにきたで!」
そこに現れたのは、誰だ?このイケメン。
短く狩られた髪にはっきりした目鼻立ち、面長な顔に広い肩幅、そこにスーツがビシッと決まってる。
「東城少佐ですよ」
ジークフリートのおっさんが耳打ちする。
え?あの緋本原のハグリッド?このイケメンが?
ご冗談を。
ボーボーだった髭を剃ったくらいでイケメンになるなら誰も苦労はしないぞ。
でもなんか声と汚い方言には聞き覚えがある。
まあいい、とりあえず話を続けよう。
「マモちゃんか。ちょうど緋本原に行こうと思ってたとこだよ」
「そりゃ奇遇じゃのう、わしもここに用事があって来たんじゃ」
そう言うと東城少佐は入り口側を手招きする。
「セシリア、来んさい」
東城少佐に促されて入ってきたのは、今話題にしていた妖鳥さんだ。
ウェーブがかった紫の髪とぱっちりした目に輝く緑の瞳、小作りな口と鼻、黒いスーツから除く雪のように白い肌が凄く綺麗だ。
いやーいつ見ても綺麗だなあ。
「やあセシリアちゃん。久しぶり。ちょうどセシリアちゃんのことを話してたんだよ」
『帳簿係』がニコニコと妖鳥さんに歩み寄る。
身代金の準備が出来てご満悦、親指で現金の入った麻袋を指さして見せる。
妖鳥さんはそこで少し困った顔になると、誰もが予想できない答えを返してきた。
「レッドさん。私、結婚することになりましたの」
え?
ちょっと何言ってるか分からない。
え、妖鳥さんが結婚?
「誰と?」
戸惑っている僕より先に『帳簿係』が訊いた。
「相手はわしじゃ」
え、こいつ?なんで?
こいつは不当に妖鳥さんを拘束してただけの関係だし愛人もいるじゃないか。
「・・・そうか、おめでとう」
リアクションが追いつかない僕を置いて『帳簿係』は太い腕で妖鳥さんの体を抱きしめた。
「いやーよかった。セシリアちゃんが白銀姫のバアサンみたいに行き遅れたらどうしようかみんな心配だったんだよ。安心した。肩の荷が下りたよ」
『帳簿係』は涙混じりに感慨にふける。
「これをもってセシリアは緋本原の所属になるが、そのことに関して話がある」
「わかった。奥で話そうか。セシリアちゃん、後で狂に報告してあげなよ」
東城少佐に促されて『帳簿係』は奥に引っ込んでいった。
「「「「「おめでとうセシリアちゃん!!!!」」」」」
僕が固まってる中、古参の転生者が群がってきた。
命がけで稼いだ報奨金の札束を貢いでいく。
「あの、みなさん・・・」
困り顔の妖鳥さんに『いいから』と転生者たちが金を貢ぐ。
「この国では祝儀というらしいですね」
「なんだよ、ちやほやされていい気になってるだけだろ」
興味深そうなおっさんと面白くなさそうなチビ。
妖鳥さんが古参の転生者に挨拶回りして、『帳簿係』が戻ってきて、妖鳥さんは装甲車で緋本原基地に引き上げていった。
「よーしお前ら、話は終わりだ!金が浮いたし飲みに行くか!祝いだ祝い!本日は閉店!」
『帳簿係』の号令で集まっていた転生者達はぞろぞろと夜の街に繰り出していった。
「我々も行きますか?」
「行く」
この世界に来てから蛮族から命を救ってくれた妖鳥さんがいなくなった。
この悲しみは酒でしか癒やせない。
僕も他の転生者に付いてぞろぞろと街にでることにした。
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