表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
696/714

31、墓守は死体を始末する

 何をしていたのか、どういう状況で出会ったのか、わたしの話をしたからわたしの父親だと判ったのか。閃いた疑問をすべて口に出さなくて済んだのは、チッタさんがすぐさま「お父さまの方が、黒曜石の煌めきがあって凄味がありますけど、お嬢様の魔力の輝きは太陽神様の御加護だけではなくお母さまの影響も強いのでしょうね。やはりすごい方にはすごい方が(めあわ)せられるものなのですねえ、」と続けたからだった。チッタさんは、ブワイヨさんが現れるまでのつかの間の時間を利用してわたしに確認している自覚があっての行動なのだと気が付く。

「ブワイヨさんには、話していないのですね?」

「旦那の知らない存在の話をしたって、仕方ないと思いませんか? それに、確信がなかったんで。」

 直接接触した訳ではなくて、魔力の色で親子だと判断したのだと推測する。

 父さんと口にすれば意図せずわたしの影から父さんが出てきてしまいそうで、父さんに纏わる言葉を口には出せない。うまく誘導してみたい。

「確信したんですか?」

「お嬢様はいざとなれば近くにお父さまがいると知っていたから、躊躇わず飛べたんですよね?」

「違います。頼ったりはしません。」

「やっぱり、知っていたんですよね?」

 父さんはわたしの影から行き来できるからアンシ・シにいようと関係ないと言っても意味がないと思えた。これ以上否定するのはむしろ肯定しているように受け取られてしまう。この話をしたくない。かといって、父さんはアンシ・シで何をしていたのかも知りたい。

「チッタさんは、アンシ・シの、どこで、何をしている姿を見たのですか?」

 化かし鳥の姿のままのチッタさんは、わたしをじっと見つめて首を傾げた。

「おや、ご家族なのに聞いていらっしゃらないのですか?」

 相手は精霊なのだから正直に白状してくれるとは限らない。かといって、聞いていないと告げたくもない。何より、父さんがしていることを知りたがっていると父さんに知られるのはなんだか癪だ。

「いつですか?」

 父さんがアンシ・シにいたのは、わたしがホバッサにいた頃の話なのか、公国(ヴィエルテ)にいた頃のことなのかぐらいは知っておきたい。

「ガルースでお嬢様にお会いする前でしたよ。」

 チッタさんがうっとりとした眼つきで空を仰いだ。その後方で、地面にブワイヨさんが倒れながら現れる。この瞬間で、塔から転送されてきたようだ。

「ホバッサで初めてお会いした時、この世でひとりだと思った輝きを分けてもらった存在と知り合えてどんなに興奮したか、お嬢様は想像できないでしょうね、」

 頭を振り振り起き上がって、ブワイヨさんはわたしと目が合った。チッタさんの声が言葉として理解できはじめたようで、次第に顔色が変わる。

「おい、何を興奮したのか言ってみろ、ド変態め、」

 チッタさんが言い終わるや否や、襲い掛かるような勢いでブワイヨさんがチッタさんの嘴を掴んだ。

「フガフガフガ!」

「ビア様、変な真似をされてませんか、耳が汚染されてませんか、こんな奴は今すぐ焼却処分してお見せします。」

「い、いえ、何もないですから大丈夫ですよ、放してあげてください。ブワイヨさんこそ、大丈夫ですか、」

「見ての通りどこも異常はありません。そんなことより、ビア様、怖気づいてしまってすみませんでした。俺の方が先に飛ばなくちゃいけなかったのに、情けないったらありません。」

「気にしないでください。冒険者が体を張るのは当然です。ブワイヨさんがご無事でよかったです。」

「ビア様が無事ならすぐさま移動しましょう。昼間は長いようで短いです。歩けますか? 立てます? 俺はこの通り、どこまでも頑丈なので無事です。」


 立ち上がって埃を払って、自分の体の異変を調べて「何もないです」と言いながら、わたしはその場で一周回ってみた。

 丘の下へと目を向ければ、一本の枝のような道に沿ってポツンポツンと家があり、葉のような林が見える。道の続く先は畑や集落が広がっている。木々に隠れたひとつの枝道のから馬車が出てくるのが見えて、人が住んでいる場所なのだと気が付く。見上げた時刻は午後を越えていそうな高く強い太陽の位置からすると、山は王都(ヴァニス)側、人が住む地区は皇国(セリオ・トゥエル)側に村があるのがわかる。1周目の世界で見たことのない場所だということだけは判った。


「ここは…、」

 アンシ・シではなさそう。


 背筋を伸ばして胸を張って、様子を窺っていたチッタさんの化かし鳥が「キャーッ」と声高く鳴いた。

「うるさいな、お前、」

「早く逃げましょう。ここはクラドス村の山奥です。向こうに見えるのが、アンシ・シへの街道です。」

 ブワイヨさんが地形を把握しようと見まわしている間に、チッタさんがあっさり答えてくれた。

「となると、お前のお姉さんの暮らしている村か、」

「とんでもない場所に出ちゃいましたね、旦那、恐ろしい限りです。」

 ヘヘッと笑うチッタさんは何かを察知して震え、すぐさま身を伏せた。

「チッタ?」

「旦那、嫌な気配がします。」


 ガタゴトと軋む音を響かせながら、丘の下から山盛りに藁を積んだ作業用の馬車が一本道を上って近付いてきた。大きな藁帽子をかぶった農夫がひとりで乗っている。こんな時間から山にでも入るのかな。


「ちょうどいい。おーい、報酬は払うから乗せてくれないかー、」

 ブワイヨさんが大きな声で呼びかける。

「大人が3人、アンシ・シまで。どうだい?」

 手招きして呼び寄せているあたり、相手に用事があろうとなかろうとお構いないだ。


「ダメですよ、旦那、ダメですって、危険ですって、」

 チッタさんは必死になって、駆けて行こうと身を乗り出すブワイヨさんに縋って引き留めている。

「呼んじゃダメです、ダメですって、」

「すまんなー、こっちだこっち、アンシ・シまでどうだい、」

 大声で呼ぶ声に馬車は引き返しもせず止まることなく近付いてくる。

 どうやら交渉成立みたいだ。

「ほら、報酬をはずむと言えばだいたい何とかなるもんだ。」

「チッタさん、大丈夫みたいですよ?」

 何気なくチッタさんに話しかけると、チッタさんは震えていて「今からでも間に合います、逃げましょう、お嬢様、」と言われてしまった。

「どうかしたんですか?」

 ガクガクと嘴を鳴らすチッタさんは身を屈めてもいる。

「ブワイヨさん、チッタさんは、」

 わたしの問いかけにブワイヨさんが答えてくれる前に、馬車はわたし達の前に止まった。

 農夫は、黙ったままだ。こちらの品定めをしているの?


「ありがたい、アンシ・シまででいいんだ、急いで馬車を出してくれないか、」

「ダメですって、旦那、」

「お代はいらないよ。さ、さっさと乗ってよ。条件は村を出るまでは死んだふりね? 村を抜けたら自由にしていいからさ。さ、絶対にバレないように、藁もお互いに被せ合って、いいわね?」

「え、女?」

「旦那、ダメですって、そんな恐れ多い、」

 ブワイヨさんが失言に手で口を隠した。チッタさんはさっきよりも激しくガタガタと震えている。

 男性だと思っていた農夫の凛とした女性の声に驚くわたしに、帽子を取り顔を上げた声の主は「チッタ、何がダメなのよ? 言ってごらん?」と言って笑った。細身なのも切れ長の美しい二重の目元も日に良く焼けた肌も年齢不詳な童顔もチッタさんと似ているようで似ていないけど、どこか似ている印象がする。

「おい、チッタ、お前のお姉さんか?」

 クラドス村にいるというチッタさんのお姉さん本人の降臨…?

「呼んだんですか?」

「違います違います、お嬢様、そんなことしませんよ、」

 チッタさんは即否定する。

「ね、なんか私を仲間外れにして話さないのー、」

 口を尖らせたお姉さんの声に羽ばたいて飛び上がる勢いで、「そうです、その通りです、」と混乱して返事をしているチッタさんの怯えっぷりがぎこちなくて生々しくて、ちょっと哀れな気もして笑えない。

「ふうん、あとで聞こっかー? じゃ、アンシ・シまで送るわね、」

 お姉さんのにっこり笑った顔は、どことなくコルに似ていた。


 ※ ※ ※


 走り出した藁を積む荷馬車にわたしとブワイヨさんは死体のふりをして寝転がっていた。拒もうにも、チッタさんが真っ先に文句も言わずに乗り込んでちんまりと藁の中に座ったので、従うほかなかったからだ。馭者台にはチッタさんのお姉さんが単身で座っていて、ブワイヨさんと律儀にふたりして藁を被せ合っているのを見てくれて、「上出来。死体に見えなくないよ」と褒めてもらう。

「こうやってとりあえず近くの街まで運んで行って、そこいらに捨ててくるのが私の役目なのよー?」

「塔から死体が転送されてくるのですか?」

「ん-、塔から落ちた衝撃で身も心も止まってしまったっていうべきかなー?」

 お姉さんがカラカラと楽しそうに笑う。笑える神経がすごい。つい言葉に詰まる。


 チッタさんは化かし鳥のまま藁に乗っていて、時々「キャーッ」と鳴いた。人が通りかかると鳴くようですよ、とわたしよりも顔に藁が少なめなブワイヨさんがそっと教えてくれた。

 枝葉のような道と木々の続く道を抜けていくのをしっかりと乗った藁の隙間から薄目を開けて空を覗き見たまま村を通過するのを待った。時々鳥の鳴き声がして、チッタさんが鳥の鳴き声で反応しているのが聞こえてきていた。風が藁を揺らすのも慣れてくると気にならなくなってきて、ウラガシ旅団での旅を思えば、死体のふりなので体を伸ばせられるし体の下に藁があるだけ案外快適な移動で、このまま眠ってしまいそうになる。

「空腹のまま寝たら本当に死体になりますよ、」

 ブワイヨさんが呟いた声が聞こえてきたので、気持ちを切り替え、小指を噛んでラボア様への通信の時間に切り替える。わたしは王都にいることになっている情報を更新しておいた方がよさそうだ。


 ようやく「アンシ・シへの道へと入ったから自由にしていいよ、」という声が聞こえてきた。

 起き上がって藁を払い除けて、ブワイヨさんともくもくと藁をかき分けて馭者台近くまで移動する。チッタさんも座れるよう藁を均して整える。

 わたし達が落ち着くのを待って、手綱を握るお姉さんが振り向いた。

「すまなかったわね。村を抜けていかないと来れないような場所にアンタたちみたいなしっかりと人の姿がいきなり見えると、不自然だと思わない? せめて山を彷徨った結果の死体なら納得できるってもんでしょ?」

 彼女なりの筋道が立っているようで、「そうですね」としか言いようがない。わたしとしては、山に入っていく前の段階を見られていないとどっちにしたっていきなり死体が現れるのって不気味だろうに、と思ってしまうけど心の中で思うだけにしておく。

「これって、墓守のお仕事ですか?」

 行動の根底にある立ち位置について尋ねてみると、化かし鳥に化けたままのチッタさんが「そんなもんです、」と速攻で返事してくれた。

 石やタイルで舗装されていない土がむき出しの田舎道には小石と呼ぶには大きい石なんかも転がっていて、ガタンッと馬車は大きく揺れる。

「気をつけてね。まだ揺れるから。舌、噛まないように。」

「改めて、この度の御面倒をかけたお代はいかがしましょうか、」

 我に返ったらしいブワイヨさんは、丁寧に座り直して姿勢を伸ばし、揺れに気にせず提案する。

「相場以上で結構です。チッタのお姉さんなら、さらに割増でも構いません。」

「ダンナー、まずは私に払ってくださいよー、姉ちゃんより私、チッタに。」

「お前は減給だ。よくもビア様を危険な目に合わせたな?」

「あーあー、そうでしたっけねー、」

 コルテさんはくすくすと笑った。

「お代なんていいって。実に真面目な人なんだね。いいよいいよ。弟がお世話になっているからさー、こんなのお礼だし。いつもありがとねー、」

「こちらこそ、」

「チッタにあげておくれよ、この子、不自由させたくないからさー、」

 記憶の中のチッタさんを思い出し、目の前の農夫姿のお姉さんと比較する。どちらかというとお金のかかった身なりをしているのはチッタさんだと思う。

「オオオオオネエエエエサマニハアアアアイツモオオセワニイイイナッテオリマスウウウ、コルテサマサマアリガトウゴザイマスウウ」

「何、その変な言い方。やめてよね。ねー、こんな奴でごめんねー、あー、私がコルテね。お姉さんって呼ばなくていいから。」

 凛とした佇まいのチッタさんのお姉さんは名前までコルと近いようだ。聖堂の軍人であるコルを彷彿とさせる雰囲気ってことは、軍務経験もあったりするのかな。

「馬車って言ってもお代をとるには申し訳ないような馬車だし、アンシ・シには買い出しに行くついでがあるから全然気にしないで?」

「恐れ入ります。お言葉に甘えます。チッタに小遣いでもやります。」

 ブワイヨさんはそっとチッタさんに囁きかけた。「と言っても、差し引きゼロだからな?」

「ダンナー。ソリャナイヨー、」

「ところで、こんな時間に買い出しなんて、村に帰る頃には目立つのではないのか、お前、理由を知っているか?」

 化かし鳥なチッタさんは首というより上半身を傾げた。

「本人がそう言っているんですから大丈夫なんじゃないですかー? 旦那、気にしすぎです。だいたい姉ちゃんは普段、薬草、薬種、香料、染料などの原料となる野草摘みをして暮らしているんですから。勤め人でもないですし、定刻通りに働いてないと思いますよー?」

「そうか。同業者か、」

 ブワイヨさんはほっと胸を撫でている。

「んー、この子の説明じゃ足りないわね。」

 ケラケラと笑って、コルテさんは軽く振り返って「夜は市場の端っこで占い師をやってるのよ、チッタよりは儲かっていると思うわよ?」と教えてくれる。

「あの、」

 わたしは小さく手を上げた。ちょっと思いついたことがあって、確かめたいと思ってしまった。

「野草は、特定の取引相手にしか卸していないのですか?」

「そんなこともないわよ? 私の家を知っている薬売りなら直接交渉に来ることもあるわ? 泊っていったりもするしね。」

「薬売りの、シクストって男性がコルテさんのところに来たことはありませんか? おじいさんってほどではないですが若くはないです。」

 ブワイヨさんとチッタさんと目が合った。頷きあって、言葉を待つ。

「ないわねえ。いつ頃の話?」

 首を傾げているコルテさんの揺れる帽子を見やる。

「最近のことなんです。見たりしてませんか?」

 ブワイヨさんがガルースで姿を見たという日から幾日か過ぎた頃にこの村にも来ているかもしれない。ちょっとだけ期待しながら聞いてみる。

「薬売りを探しているの? その人、親の仇か何か?」

「違います。どっちかというと親代わりみたいな一面がある人です。その人はずっと旅をして誰かを探していると思うんです。そういう目撃情報を尋ねたりする薬売りの男性がいませんでしたか?」

 探索虫(サーチ・ライト)の魔法はこの辺では使っていないのかな。

「なんでもいいんです。教えてください。」

「そうねえ…、」

 少し先の十字路ではアンシ・シへという看板が見える。三叉路じゃないんだ。ちょっとだけ、残念に思う。

「聞いたことないわね。ところでその人、本当に薬売りなの? 大きな荷物を背負っている旅の誰かと混同していない?」

「薬売りです。出会ったのも、薬草がきっかけです。冒険者になりたてのわたしに親身にしてくれた恩人なんです。騙されていないと思います。」

 振り向いたコルテさんの目が光る。

「ふーん。子供を連れて歩くのって隠れ蓑にはちょうどいいってわけね? でも隠れ蓑じゃないのなら…、そういう奴はいなかったわ。誓ってもいい。」

「姉ちゃん、他にはいたんだよね?」

「最近だと、王国から来たのと、皇国(セリオ・トゥエル)から帰ってきたのが、同じ日に泊まっていたっけ。それぐらいよ?」

「街道から少し離れた山の中の家で落ち合うなんて、まるでならぬ恋の逢瀬みたいですね。」

 ハハハと笑ったブワイヨさんは冗談のつもりで言ったのだと思う。途端にチッタさんは気まずそうな顔になり、コルテさんは振り返りチッタさんをじっと見つめてから「よくわかったね!」と大きく言った。

「ま、付き合いが長いのもあってそんなに甘いもんじゃないから、本当はもっと殺伐としているけどね?」

「え?」

 ブワイヨさんも察しがついたようだ。

 チッタさんは汗をダラダラかいているし、ブワイヨさんは絶句している。コルテさんが背を向けているのもあって顔色が読めなくて、わたしも、何も言えないでいる。気まずい。恐ろしく気まずい。

 コホン、とわざとらしくブワイヨさんが咳払いをした。

「チッタ、だからクラドス村には寄り付かなかったんだな?」

「ご明察ですー、一応気を使っているんですー、」

 チッタさんもわざとらしく明るい声色だ。

「出くわして気まずい思いをするのがお前だろうに。なんだかお前らしくないな。」

「らしくなくていいですー、怖いのはこりごりですー、ハッハッハ」

 チッタさんの嘘笑いにコルテさんはちらりと振り向いて「私の弟はいい子でしょ、ほんと、最高にかわいいのよ、」と自然に言った。言い慣れている口調に驚いてしまったのは内緒だ。

「でも、ま、もう気を遣わなくていいのよ、ありがとね。もう私達、終わりそうだから。」

「姉ちゃん?」

「あの日はいつになく丁寧にお別れを言ってくれて、これまでのお礼って言って当面の生活費を弾んでくれたのよ。私にはもったいないいい男だったわ。もうああいう人に会えなくなるのは残念よね。」

 恋の終わりまで告げられて、慰めるべきか励ますべきか言葉に迷う。

「会えなくなる?」

「どうしてですか?」

 チッタさんとブワイヨさんは真剣な形相で大きな声を出し尋ねている。

「王都に今度帰ったらもうどこにも行けなくなるだろうから、って言っていたからだけど?」

 結婚して一緒に暮らすわけじゃないんだ、と思った言葉は呑みこむ。

「…そうか、寂しくなるな。」

 チッタさんまで沈んだ表情になった。コルテさんの心の声を代弁しているみたいだ。

「そうね、本当にそうね、今生の別れなんて、来世で会おうなんて言っていたっけね。」

「大袈裟な奴だ。姉ちゃん、気にするなって。どうせ、気まぐれだよ、ひょっこり帰ってくるって。」

「そうだといいねー、望みは薄いけど。」

 続けようのない話をぶった切るように、ブワイヨさんが軽く手を上げて話し始めた。

「話を変えて申し訳ないのですが、いつもこんな風にあの塔から転送されてきた者を回収して、親切にアンシ・シまで送っているのですか?」

 消えたネクロマンサーについて話を振りたいらしい。

「そんなことはないわ、今日はたまたまね。窓から珍しくこの子もいたのが見えたから、ついでよ?」

 いったいどんな視力しているのですかって尋ねかけて口を噤む。

 この姉弟は異能の末裔だ。

「最近転送されて丘の上に出た人は、わたし達以外にはいなかったですか?」

 見えていたと期待して聞いてみる。

 指を折りながらコルテさんは「3人かしら、」と教えてくれる。

 本当に見えていたんだ!

「何かを持っていませんでしたか?」

 ミイラとか、本とか。

「大きな大木のようなものを抱えた『人ではないもの』を入れると4人だったかしら、確か。」

「人ではないものって、」

「魂の器が人とは違ったからそう思ったんだけど?」

 人ではない形をしている…?

 誰かが何かを使役してミイラを包んで運ばせた?

 ネクロマンサーと人形…。

 ブワイヨさんと目が合うと頷いてくれた。ついでにチッタさんを見ると汗だくだくだ。

 大丈夫ですか、と言いかけてチッタさんに先を越される。

「姉ちゃん、塔の本が無くなった。どうしよう、」

「知っている。」

「え?」

「2冊あった1冊だよね、ずいぶん昔の話じゃない?」

 コルテさんはあっけらかんとしている。

「違う、違うんだ。あれとは別のもう一冊の方だよ、姉ちゃん。」

 首を傾げ唇を撫でて、動じないコルテさんは振り向く。

「もしかして、さっき聞いていた3人っていうのは、もう一冊の本を持ち出した犯人かもしれない人数の確認かしらね?」

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ