表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の双翼  作者: 万卜人
第八章 飛行船
46/57

 数台の車に分乗して、一同は飛行船へと向かう。歩いても距離はないのだが、ヒンデンブルク御大の年齢を考慮してである。

 近づくにつれ、いよいよ飛行船の巨大さが、好敏の眼前に迫ってくる。こんな巨大な物体が易々と空中に浮かぶのは、驚異である。

 もちろん、飛行船は内部の気嚢に空気より軽いガスを封入しているから、浮力がつくのだ。ヒンデンブルクは、車中で「浮力を得るため、水素ガスを使っている」と説明する。

 熊蔵は眉を顰めた。

「それでは爆発する危険があるのでは? 水素ガスは、極めて引火性の強い気体ですぞ。なぜ、安全なヘリウムを使わないのです」

 するとハンドルを握るゲオルクが、軽く笑って一蹴した。

「水素ガスが危険なのは、漏出がある場合だ。あの飛行船に採用している気嚢は、極めて密閉性があって、漏出は一切、ありえない。それにヘリウムは、現在アメリカ一国からしか、供給できていない。そんなものに頼ると、いざというとき、開発計画がストップするからね」

 そんなものか、と好敏は一応、納得した。

 好敏は、あまり飛行船については知識がない。フランスで、飛行術修得のために無我夢中だったので、他の飛行機械について興味を持つ暇が全然なかったのだ。

 飛行船のゴンドラには、すでに地上作業員によって、タラップが設置されていた。タラップを登り、船内へと案内される。

 船内は、驚くほど広々としている。いや、がらんとして、何もないと表現してもいいほどだ。

 船首方向に、操舵のための機器が設置されていて、船長らしき男が敬礼した。船長の服装は、海軍のものだ。

 好敏の、乏しい飛行船の知識によると、飛行船は飛行機というより、空中を飛ぶ船なのだ。

 巨大な船体は、風の影響を受け、帆船と同じような感覚で操船する必要がある。だから操縦するのも、海軍の人間が必要なのだろう。

 船内後部に、筒状の、何かを装着する装置がずらりと並んでいた。

 ヒンデンブルクは計器類の前に立ち、さっと腕を振ると、宣言した。

「これが、最新兵器だ! 何か判るかな?」

 大公、セーラ、グレタの三人以外は説明されているらしく、もっともらしく頷いたが、好敏にとっては初めて見る機構である。

 ヘルマンと、熊蔵は、熱心に観察していた。二人は顔を近づけ、何やら早口で話し込んでいる。

 やがて結論が出たのか、熊蔵が立ち上がり、口を開いた。

「もしかして、爆弾の投下口ではないでしょうか?」

 ヒンデンブルクは感心したように、目を大きく見開いた。

「うむ! 君の推測は正しい。まさしく、君らが見ているのは、爆弾投下のための機構だよ。これ一つで、百キロ級の爆弾を装着できる」

 投下口を見る熊蔵の額に、ふつふつと汗が噴き出してきた。

「まさに、新兵器! 仰るとおり、この飛行船が戦争に投入されれば、恐るべき威力を呈するでしょうな……」

 好敏は熊蔵に話し掛けた。

「説明してくれ! なぜ、飛行船が新兵器となるんだ?」

 熊蔵は好敏に顔を向け、説明を開始した。

「俺たちは、日本政府から、飛行機の操縦法、及び、機体の買い付けを任されているな? 飛行機の利用法として、何が考えられる?」

 好敏は一瞬、黙り込んだ。しかし、すぐに反論する。

「そりゃあ、敵陣の偵察に決まってる! 飛行機なら、上空から敵陣を偵察できるし、あるいは飛行機の速度を生かして、連絡任務にあたるなど、色々考えられる」

 熊蔵は、何度も頷いた。

「そうだ。俺たちは、あくまで飛行機は偵察任務などの、情報収集だと思い込んでいた。飛行機械が攻撃兵器だなどと、一度だって頭には浮かばなかった! しかし、飛行船なら攻撃兵器として使えるんだ」

 好敏は、熊蔵の言葉を、じっくりと検討してみた。そのうち、熊蔵の言葉の裏に潜む、意味に思い当たる。

「そうか……。ファルマン機も、グラーデ機も、上昇限界はせいぜい、百メートルくらい……。飛行船は、千メートル上空に、楽々と到達できる!」

 熊蔵も同意した。

「もし、飛行船が町の上空に来襲して、爆弾を投下しても、迎え撃つ飛行機は届かない。地上から迎撃しても、砲弾も届かない。まさに、無敵だ! 地上からは、何一つ為す術がないのだ……」

 好敏はヒンデンブルクに向き直った。

「閣下! なぜ我々にこのような秘密を暴露するのです? この新兵器は、秘密裏に開発したのでは?」

「その質問には、余が答えよう」

 出し抜けに、フランツ大公が歩み寄った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ