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好敏たちは、留置所らしき場所へ押し込められた。
これで二度目だな、と好敏は苦々しく思う。
あの時はセーラが一緒だが、今は熊蔵、アドルフ、カシム、ヘルマンという、あんまり一緒にいても嬉しくない相手である。
城跡の近くに建てられた、司令所らしき建物の一角に、留置所はあった。営倉かも知れない。
部屋には、がっちりとした鉄格子が嵌まっているし、窓は手が届かない、高所に空けられている。
部屋に入れられると、すぐに熊蔵は、ごろりと床に寝転んだ。
アドルフは蒼白な顔色で、ウロウロと四角い部屋の中を彷徨っている。
ヘルマンは、監視の兵が所定の場所に引っ込み、退屈しのぎに新聞を読み始めると、早速、鉄格子に近寄り、鍵をしげしげと観察し始めた。
好敏はヘルマンに近寄って、耳元に囁いた。
「君の腕で、何とかなりそうか?」
ヘルマンは分別臭い顔つきになると、ゆっくりと顔を左右にした。
「駄目ですね。こいつは最新式で、僕の技術で、どうにかなる代物じゃない」
二人の会話に聞き耳を立てていたカシムも、がっかりしたようだった。
「くそっ!」と呟くと、ぱしっ! と掌に拳を打ち付ける。
好敏は肩を落とし、熊蔵の隣に座り込んだ。
熊蔵は腕を枕に、天井を黙って見上げている。好敏は、聞くともなしに呟いた。
「これから、どうなるんだろう?」
すると、熊蔵が、落ち着いた声で返答する。
「落ち着け。いずれ、なるようになる」
好敏は、熊蔵の言葉に不審を感じた。
「日野さん。あんた、色々と知っているようだが、そろそろ俺にも教えてくれないか? この場所は何だ? 俺たちを捕えたのは、正規のドイツ軍なのか?」
熊蔵は天井を見上げたまま、ぶっきら棒に答える。
「ああ。正規な軍隊には、間違いない。俺がこうして、色々と知っているのは、グラーデ機を購入するため、ドイツ国内で様々な相手と交渉中に、噂を聞き込んだためだ。大公と出会ったのも、その縁だ」
「そうか!」
好敏の疑問が、一つ氷解した。熊蔵が、なぜ大公と関わったのか、謎だったのだ。熊蔵は話を続けた。
「この施設は確かにドイツ軍のものだが、資金は個人が出している。ドイツ軍の装備や人員は、施設を設立した個人が密かに徴用しているのだ。恐らく、ドイツの参謀本部では、知られていないな」
「そんな真似して、よくばれないな! こんな本格的な秘密施設なのに」
好敏は驚いて、熊蔵を見た。熊蔵は皮肉な笑みを浮かべている。
「日野さん、もしかして、施設を作った人間を知っているのか?」
「まあ、な。優秀な軍人だが、あんたは名前も知らないだろう。ヒンデンブルクという、爺さんだ。普仏戦争の英雄で、鉄十字勲章を受けている。今年で六十幾つかの、いい年をしているが、中々の野心満々で、こんな計画をぶち上げたのさ! ヴィルヘルム皇帝のお気に入りで、この施設も、皇帝の黙認を受けている」
ヒンデンブルクという名前を耳にして、アドルフが反応した。
二人の会話は日本語だが、ヒンデンブルクという名前だけは、アドルフに聞き取れたのだろう。
「あのう、僕の聞き間違いでなければ、ヒンデンブルクという名前を耳にしたような気がしたんですが?」
熊蔵は、ちらっとアドルフに眼をやり、頷いて答えた。
「ああ、ここの責任者は、ヒンデンブルク元帥だ」
好敏はアドルフを見上げた。アドルフの顔は、興奮で赤らんでいる。
「君は知っているのか?」
「ええ」とアドルフは小刻みに頷くと、口早に続けた。
「普仏戦争では、〝セダンの戦い〟で勇敢な行動をしたと評判です! 僕、戦史にも興味があるんです」
好敏は、アドルフが珍しく活気を顕わにした表情を見上げ、とことん、呆れ果てた。
こいつは、〝知識の食い散らかし屋〟だ!
好奇心の赴くまま、あちらこちらと知識を渉猟しているが、結局のところ、学問に必要な、一つの知識を辛抱強く学ぶ、という根気に欠けている。
なるほど、確かに書物は沢山、読んでいるだろう。が、それがきちんと身になっているとは、どうしても思えない。
建築学、美術、音楽、それに戦史。他に、色々な知識を吸収しても、結局、単なる雑学屋でしかないのだ。
セーラはどうしているだろう? ふと、好敏は、大公とセーラに思いを馳せた。
多分、ゴロス少佐の態度から推測すれば、下にも置かない、お姫様扱いをされているのだろう。なにしろ、セーラは、正真正銘のお姫様なのだから!
俺に爵位がないという事実に、あんなに驚くとは思わなかったな……。
好敏は、自分のセーラへの想いが、徐々に冷静になるのを、感じていた。
そのまま、時間が過ぎてゆく。
高所に空けられた窓の日差しがゆっくりと垂直に近くなった頃、どかどかという数人の足音に好敏は顔を上げた。
鉄格子ごしに、一人の軍人がじっと、牢屋を見詰めている。背後には、数人の部下と思しき、兵隊が整列していた。
りゅうとした着こなし、肩章を見ると、好敏と同じ、大尉である。しかし、ただの大尉にしては、胸に一杯に飾られている略綬の数が多すぎる。
顔を見ると、ゲオルクであった。
「やあ! お元気なようですな!」
ゲオルクは、にかっと白い歯を見せ、笑った。




