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暁の双翼  作者: 万卜人
第七章 ヘール村
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 ゲオルクの表情は、一変していた。

 それまでの、いかにも農民然とした素朴な態度は拭い去ったように消え去り、今はよく訓練された、軍人らしい顔つきになっている。

 気がつくと、ゲオルクの手には、拳銃が握られていた。

 好敏がぐるりと、周囲を取り囲む村人たちを見ると、これまた全員が拳銃を持ち出している。男だけでなく、女も同様だ。

 ゲオルクは立ったまま、全員に叫んだ。

「ゴロス少佐がお見えになる! 君らは、我々の捕虜だ! おっと! 手向かいは無駄だぞ。お互い、利口にいこうや……」

 一人の村人──ではない。今は、敵の一人が、するすると好敏に近づき、拳銃を構えたまま、空いた左手で、素早く好敏の全身を探った。

 胸のポケットの辺りで、手が止まる。

 一歩さっと下がり「銃を持っているな。出して貰おう。待て! 左手でだ! 鉤金には手を触れるな」と早口に命令した。

 好敏は命令どおり、左手で、ゆっくりと銃を取り出した。相手の疑いを晴らすために、銃把ではなく、銃口の先を指先で摘み、相手に渡した。相手は好敏の銃を見て、相好を崩した。

「ルガーか! いい銃だ。使う機会がなくて、残念だったな!」

 次々と、熊蔵、カシムたちが、武装解除されていく。

 熊蔵は、自身が開発した、日野式拳銃を所持していた。熊蔵の銃を奪った相手は、今まで目にした機会がなかったらしく、珍しい銃に、しきりに捻くり回している。

 ヘルマンを見て、好敏は驚いた。

 何と、少年は銃を所持していたのである。ヘルマンの所持していた銃は、コルト社製の三十八口径リボルバーである。

 銃を取り上げられ、ヘルマンは悔しそうだ。

 大公を前に、村人に扮した軍人は躊躇った様子を見せた。相手の態度を見て、大公は鷹揚に頷くと、自分から銃を出した。

 とても実用的とは言い難い、金と七宝で装飾された、フリント・ロック……つまり火打石式、単発中だ。

「決闘用でね。後で返却してくれるのだろうな?」

 大公の言葉に、相手は気圧されたように、直立不動になって敬礼する。

 そうこうしているうち、車が接近してくる。もう、車内の人間も、見分けられる。

 案の定、ゴロス少佐だ。

 車が停車し、ゴロスは悠然と姿を現す。相変わらず、灰色のスーツに、黒眼鏡という出で立ちだ。

 ずしりと、重々しくゴロスは地面を踏み締め、勝ち誇ったように両手を腰に当てた。

「さてさて! 大公殿下御一行をお迎えでき、このゴロス、欣快至極に御座いますぞ! ようやく、お出でになられましたな!」

 大公は口髭を、そっと触った。

「我々を、待っていたと申すのか?」

「左様で……」

 ゴロスは、巨体を折り曲げるように、会釈する。さっと、宮廷の仕草のように、大公に向けて城跡を示した。

「あちらで、大公殿下をお待ちのお方がいらっしゃいます!」

「ふうむ……?」

 大公は、好敏たち全員を、振り返る。

「この者たちは?」

 ゴロスは、ほくほく顔を保ったままだ。

「無論、同道なされませ!」

 城を振り返ると、ゴロスは指を口に突っ込み「ぴいーっ!」と、指笛を鳴らす。

 指笛が合図だったのか、城からは、もう一台の車が飛び出してくる。こちらは、ゴロスの車と違い、軍用車だ。後部が幌になっていて、兵員輸送車である。

「大公殿下と、エリーザベト様、それに、お付きの……」

 そこまで言い掛け、ゴロスは絶句する。ゴロスは、疑い深そうに、セーラの側に控えている、グレタの巨体を見ている。

 ゴロスは、大公に囁いた。

「あのう、エリーザベト嬢の側にいる、あれは……男ですか? それとも……?」

「失礼な! あたしは歴とした、女で御座います!」

 ゴロスの囁きを耳にしたのか、グレタは野太い声で、咆哮した。ゴロスはごくりっ、と音を立て、唾を呑み込む。大急ぎで、言葉を重ねた。

「と、とにかく、お付きの方は私の車で……。他の人間は、あちらに乗り込んで頂きます」

 ゴロスの言葉に、大公は頷く。

 やれやれ、輸送車に押し込められるのか、と好敏は肩を竦めた。

 軍人たちに合図され、好敏たちは、黙然と輸送車に乗り込んだ。

 好敏の後ろから、カシムが、それにヘルマン、アドルフも乗り込んだ。カシムは怒りを押し殺し、ヘルマンは車に興味津々といった様子を見せる。アドルフだけ、血の気が引いて、顔面蒼白となっている。

 輸送車には、すでに見張りの兵隊が待ち構えている。兵隊の服装は、ドイツ軍のものだ。

 では、ここはドイツ軍の敷地なのか?

 大公たちを乗せたゴロスの車が出発すると、輸送車も動き出した。

 好敏と熊蔵は、肩を並べて座り込む。幌の向こうに、飛行船が巨体を横たえている光景が見える。

「あの飛行船が、秘密兵器かな?」

 好敏が熊蔵に囁くと、熊蔵は深く頷いた。

「そうかも、知れない。俺は飛行船についても、少し興味があって、公表された写真や、設計図を見たが、あの飛行船は、ちょっと変わっているな」

 熊蔵の指摘に、好敏はじーっと、目の前の飛行船を観察した。

 変わっている? どこが?

「教えてくれないか?」

 遂に降参して、熊蔵に尋ねる。熊蔵は、指先を挙げ、飛行船の下部に吊り下げられているゴンドラを示した。

「あのゴンドラ……、妙に膨らんでいないか? 横幅が大きく、下にハッチのようなものが見える」

「それが、どう秘密兵器と関わってくるんだ?」

 熊蔵は、ちょっと首を傾げる。

「まだ判らん。が、俺の考えじゃ、いずれゴロス少佐が、説明してくれるんじゃないかと思っているよ」

「ふうん……」

 好敏は不機嫌に同意した。熊蔵の奴、またしても謎のような返答である。何か、まだ、隠しているんじゃないのか?

 全員を乗せた車は、城跡へ向かっている。

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