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暁の双翼  作者: 万卜人
第七章 ヘール村
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 てっきり、ゲオルクとマリアの二人だけが、従いてくるものと思っていた。ところが、好敏たち一行には、村人全員が付き従っていた。

 ぞろぞろと早朝の村を、好敏たち一行を囲むように、大勢の村人が愛想良く、従いてくる。

 これでは体の良い、捕虜である!

「おい、妙な按配だ……」

 熊蔵が、好敏に囁いた。好敏は熊蔵の言葉に、軽く頷いていた。全くもって妙である。

 二人は、一行の殿軍を守るように、一番後ろに位置している。目の前に、アドルフ、カシム、ヘルマン少年。列の中間に、セーラとグレタの二人、大公は先頭を、護衛の部下と肩を並べていた。

 一歩、一歩、足下を見詰めるように、熊蔵は歩を進めながら呟く。

「どうも、うまうまと、こっちが乗せられた感じだぜ」

 好敏は、きっ! と熊蔵を見た。

「どういう意味だ?」

 熊蔵は前方を見詰め、答える。

「お前が、幽霊話を使って、言い訳したとき、上手い説明だと思ったが、あれは、こっちに言わせる手じゃなかったのか?」

「むむむ……!」

 好敏には、一言もない。こっちを守るためという口実で、大っぴらに取り囲むための手かもしれない、と熊蔵は考えている。

 元々、城跡には、好敏と熊蔵、二人だけで向かう計画だった。大公たちは、村に残り(村の存在は予想外だが)好敏たちが無事に任務を成功させるのを待つ手筈である。

 全員、ぞろぞろと向かうのは、完全に計画外である。

 好敏たちは、なだらかな丘を、登っている。

 左右に山塊が迫り、左側から遅い朝日が辺りを白々と染め上げている。朝日に、ぱっと右側の山肌が、オリーブ色に輝いた。

 村を出た頃は、僅かに朝霧が懸かっていたが、今はすっかり消えて、気温がぐんぐん、上昇している。

 丘には、所々に巨石が顔を出している。

 イギリスではドルメン、欧州各地ではメンヒルと呼ばれている、古代巨石遺跡かもしれない。

 微かな踏み分け道が、陸の頂上に向かって続いている。

 好敏は足元の地面を見詰め、緊張した。

「おい、日野さん」

「なんだ?」

「車輪の跡だ」

「何っ!」

 好敏の視線を、熊蔵も追った。

 足元の地面に、深々と轍が刻まれている。明らかに、自動車などの車輪の跡である。

「判らん!」

 熊蔵は唸った。

「いいか、ヘール村に俺たちが辿り着いたとき、車を乗り捨てている。橋もそうだが、村に続く道は、どう考えても、車は通れないはずだ。それなのに、どうして、車がつけたとしか思えない轍が、ここにあるんだ?」

 熊蔵の指摘は、好敏を混乱させた。

「この先に、車で通れる道があるのだろうか」

 熊蔵は、僅かに首を左右にした。

「そうかもしれない。が、そうでないかもしれない……」

 謎のような言葉を呟く。

 その時、先頭を行く大公が、大声で叫んでいた。

「おおっ! これは……?」

 大公の叫びに、好敏と熊蔵は、はっと顔を見合わせ、歩を急がせる。

 丘の頂上に、大公が立ち尽くしていた。セーラとグレタも、息を呑んで前方を見渡している。

 アドルフ、カシム、ヘルマンの三人が、急ぎ足になった。

 好敏と熊蔵は、三人を追い越し、飛ぶように坂道を駈けていた。

 ようやく、二人は大公の立っている辺りに辿り着き、同じ光景を目にする。

「わあっ!」「信じられん……!」

 好敏と熊蔵は、思わず叫び、ついで絶句する。

 まさに信じられない光景であった。

 丘の向こうに、城跡が見える。城跡の背後には山肌が迫り、前方には針葉樹が森を作っていた。

 が、城跡を取り囲むように、周囲は平坦な場所が開削されていて、そこに──巨大な、銀色に輝く──飛行船が停泊していたのである!

 ツェッペリン飛行船。全長は百メートルに近く、ずんぐりとした紡錘形をしている。

 飛行船の船首には、繋留塔がある。飛行船は繋留塔に鼻先をくっつけ、巨体を横たえている。

 飛行船の周囲には、乗組員だろうか、作業員だろうか、数人の人影があり、何やら忙しげに、作業を続けている。

 城跡近くには、二階建ての建物があった。

 こちらはつい、今しがた、建てられたかのように、壁は日差しに白く輝き、屋根の瓦は、燦然と朝日を反射させている。

 建物から、一台の車が、こちらに向かって来る。車の窓ガラスが、日差しを反射していた。

 車は坂道を下り、飛行船の脇を通り過ぎ、速度を上げた。

 どうやら、真っ直ぐ、丘を目指している。

 セーラが声を震わせ、口を開いた。

「こっちへ来るみたい……」

「ああ」と好敏は返事する。

 ちらっと、セーラが好敏を見上げる。

 好敏は頷いた。

「誰が乗っているか、当てて見せようか?」

 二人の会話に、アドルフが割り込んだ。

「僕、判りますよ!」

 こいつめ……と、好敏は苦々しい思いを抑えた。まあいい、アドルフに言わせよう。

「言えよ」

 アドルフはごくりと唾を呑み込んだ。

「ゴロス少佐に決まってます!」

「その通り!」

 叫んだのは、好敏ではない。熊蔵でもない。それどころか、他の誰でもなかった。

 ゲオルクだった。

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