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暁の双翼  作者: 万卜人
第六章 敵地潜入!
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 そのまま何事もなく、一行は予定通り街道に出て、針路を東に向ける。

 辺りの風景は、耕作地から、高度が上がって牧草地へと変わった。放牧しているのは羊が主で、時折、移動する羊の群れに進路を塞がれる。

 道は舗装路が跡絶え、剥き出しの地面となった。

 本来、ドイツは、ローマ帝国の版図にあって、舗装路は二千年前から完備しているが、一行の目指すのはそれから離れ、滅多に車が通らない田舎道である。

 ヘルマン少年が整備した車は、ごつごつとした難路でも支障なく進むが、さすがに悪路の影響は、身体に応える。

 道はどんどん傾斜がきつくなり、高度が上がるに連れて、発動機は喘ぐような音を立て始めた。

 標高はせいぜい、五百メートルから千メートルだろうが、それでも空気は徐々に薄くなってくる。もし、スイス国境を目指したら、車でスイス・アルプス登山など、完全に不可能かもしれない。

 周囲には、針葉樹が目立ち始めた。

 どっしりとした針葉樹の森には、下生えの植物群落が、ほとんど見当たらない。地面には一様に苔が密生していて、照葉樹林にある、みっしりと生えた下草など、見掛けなくなってきている。

 意外とドイツの森は、痩せているのだ。

 グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』という話がある。あの話で、幼い二人は、パンをちぎって、帰り道を確保する場面がある。

 ドイツの森には、丈の高い草が生えていないので、地面に白いパンが目立つという描写は、ドイツの森の様子を伝えているのだ。

 車は、深い森を突っ切る細い道を進んでいる。道の両側は傾斜地になっていて、針葉樹が迫っていた。

 道路はうねうねと九十九折りとなっていて、前方はほとんど見えない。

 時折、ぽかりと森が跡絶え、不意に視界が広がった。山肌が近々と襞を見せ、山深い地域に来たのを実感させる。

 峠を越えた所で、谷に出る。

 熊蔵は車を停めた。

「ここからは歩きだ!」と宣言する。

 熊蔵の宣言どおり、前方には車が通れるような道は見当たらない。突然、道路は渓谷に断ち切られ、目の前を清流が流れ、小さな橋が架かっていた。橋の幅は、人一人がようやく通れるほどで、車を通行させる役には立たない。

 向こう岸は、ぐっと立ち上がった崖面になっており、細い道が岩を縫うように見えていた。両側に岩肌が迫り、まるで通廊のようだ。

 時刻は、熊蔵の予測が当たって、夕刻近くになっている。西日が前方の崖面をまともに照らし、真っ赤に染め上げていた。

 様子を窺っていると、次々と後続の車が停車し、中からセーラ、アドルフ、ヘルマン、グレタ、大公が姿を現した。

「こんなに辺鄙な場所だとは……」

 大公が口を開き、絶句した。

 好敏は疑問が湧いた。

「しかし大公殿下が、あの写真を撮影なされたのでは?」

 大公は「いいや」と顔を左右にした。

「余がわざわざ、このような場所へ足を運ぶと思うかね? 部下に命じて、探索させたのだ。あの写真は、部下の一人が撮影した写真だよ。今回は、いよいよ、探索の結果が判明するので、自らやって来たのだ」

 言われてみれば、その通りである。

 大公は背後を振り返り、数人の部下を選んで、車の番をするように命じた。大公に選ばれた部下たちは神妙に頷き、各々、油断なく周囲に視線をやる。

「行くぞ!」

 熊蔵が先に立つ。完全に、作戦の頭目として振舞っている。好敏の後ろにカシム、アドルフ、ヘルマン、セーラ、グレタ、大公の順で続き、大公の背後を、護衛役の部下が殿軍を勤めた。

 橋を渡り、狭い通路のようになっている道を辿って、一行は前へと進んだ。

 こんな所に、人が棲むのか……と、好敏は疑っていたが、確かに橋は架かっているし、目の前の道は、何人もの人が踏み固めた、しっかりとした道筋である。

 両側の岩は圧し掛かるようで、まるで薄暗い洞窟を歩くようだった。足元の感触は、じっとりと湿り、ふと手で触れた岩面には、ひやりとした感触が伝わった。

 黙々と歩き、不意に視界が開けた!

「おお……!」

 目の前の光景に、好敏は思わず、小さく感嘆の声を上げていた。

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