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33 王宮の学校


 ある日、リクイはアカイ村の役場に呼び出された。

ジェットからの手紙が届いたのか。それとも、もっと悪い知らせかと思って、どきどきしながらサララと出かけていったら、リクイに宮廷で働く気はないかという打診だった。


「ありがとうございます。でも、宮廷で働く気はありません」

 とリクイは即答した。

 

 宮廷の仕事といっても、何かの見習いか小間使いかと思ったし、今は村での仕事が軌道に乗ってきたところなのだった。


「なぁんだ。ジェットからの手紙じゃなかった」

 サララがものすごくがっかりしていた。


「でも、怪我をしたとかいう悪い知らせではなかったから、それはよかったです」


「リクイはどうして、いつも、そんなに前向きでいられるんだい。わたしは食欲がない」

 と言いながら、ふところから菓子を出した。


*


 それから二ヵ月くらいした時、今度は村長がリクイの家まで手紙を持ってわざわざやって来た。何事かと驚いたら、宮廷に新しく学校が開設されることになったので、その生徒の候補に選ばれたというのだ。


「どうしてぼくが」


「リクイの頭のよい評判が都まで伝わったのだろう。なんでも、王宮に王子のための特別学校ができるようだ。その学友候補が、この村から選ばれるということは名誉なことだ」

 と市長は喜んでいた。

 

 リクイは王宮の学校で勉強ができるのはうれしいけれど、今、村を離れることは考えられなかった。


 伝書鳩の訓練は順調だったし、野菜もうまく育っていた。鳩の糞が効いたようで、ナツメヤシも少しではあるが、実をつけるようになっていた。


 前のようにたくさん実るようになったら、生で売るだけではなく、蜂蜜漬はちみつづけにしてはどうかと考えて、そのために蜂を飼ってみようかと計画していた。また市場では自家製の軟膏がよく売れていた。


 それに、キャラバンサライから飛んでくる鳩の連絡係の仕事もあったし、サララのそばにいて役に立ちたかった。


「学校に行くのは悪い話ではない」

 とサララが言った。


「でも、ぼくはこの村を離れたくはないです」


「こんないい話、めったにない。授業料はいらない上に、給料が出ると書いてある」


 手紙にはリクイが一ヵ月に稼ぐ十倍の給料がでて、三年勤めれば兵役は免除してくれると書いてあるのだった。


「ヤシの木と畑は、その給料で人を雇ってやらせたらいい。わたしが面倒をみてやるから」


「それはうれしいですけど、でも、勉強についていけるでしょうか。王宮の学校なんかに行ったら、ぼくは落ちこぼれになると思います。落第点を取ったら、追い出されると書いてあるじゃないですか」


「村長は王子のための学校と言っていたけど、王子って、ニニンドのことじゃないのかい。あそこには、ほかに、王子と呼ばれるような人がいないだろ。あいつがいるのなら、大丈夫だ。利口そうには見えなかった」


「利口そうでしたよ。運動もできるし」


「そうかい。あいつは、いやかい」


「いやではないけど、ぼくが授業についていけるとは思えないんです」


「ついていけるように、頑張ればいいさ。リクイはたくさん本を読んでいるから、大丈夫だ」


「でも、爺さまが残した本は限られているから、知らないことも多いです」


「リクイなら、できるって」


 リクイはなかなか決心がつかなかった。クラスのみんなについていけるかどうかも心配だけれど、それより、三年間もこの村を離れて暮らさなければならないことを考えると、ためらってしまうのだ。


 その夜、リクイはロバのスマンに話しかけた。


「ねえ、どうしたらよいと思う?」

「ぼっちゃん、今、とてもうまくいっているから、離れたくないのはわかります。でも、目先のことにとらわれてはだめですよ。坊ちゃんが十八歳になって兵役に行ったら、五年もこの村を離れることになるんですよ。それが三年で済むという話ですよ。ジェット兄さんが帰ってきたら、すぐに一緒に住めるというものじゃないですか」


「それは、そうなのだけれど」


 このままでいたい。この日常が変わってほしくない。

 でも、うまくいっている時にかぎって、変化が降りかかってくるのだ。


 リクイは期限ぎりぎりのところで都に行く決心をして、サララのところに報告に行った。


「サララ姉さんは、ひとりで大丈夫ですか」


「何言ってんの? わたしは子供の時からひとりでやってきたんだ。時々、会いに行ってやるから」


「会いに来てくれるんですか。絶対ですよ」


「うん、リクイのことは心配していないんだ。頭もいいし、勉強は好きだし、クラスで一番になるだろう。でも、あいつの頭の程度はどうなのだろう。あいつは、格も悪いし、変人だし、礼儀を知らない」


「あいつって、ニニンドのことですか」


「ほかに誰がいる」


「ニニンドは親切な人じゃないですか。この間、姉さんがラクダパンツを届けた時、会えなかったんですよね」


「あいつは国王のお供で、狩りに出かけていた。そういうのは、得意らしい。わたしはキャラバンの途中で寄っただけだから、別に会えなくても、それはいいんだ。気になんかしてない。あいつはいなくても、ナガノという乳母がいて、高級菓子までもらった。あのおばさんはよくしゃべって、おもしろい。あいつの話をいろいろと聞かせてもらった。あいつは、ほんと、馬鹿だ」


「サララ姉さん、これからは言葉を慎んだほうがいいですよ。ニニンドは王子なんですからね」


「あいつ、王子じゃないと言っていたのに。すぐにジロヴィア国に帰るようなことを言っていたのに、気が変わったのか」


「王子って、いつかは国王になるんでしょうか。ニニンドって、国王になるタイプではないですよね」


「ない。あいつが国王なら、リクイのほうが向いている」


「姉さん、急に変なことを言わないでください」


「キャラバンの仲間が言っていたけど、なんでも、近く、国王が新しい妃を迎えるようだ。そこに生まれる男子が、次の王になるらしい。だから、ニニンドがここにいても、王になることはない」


「グレトタリム王って、もうお爺さんじゃないんですか」


「歳をとっても子供は生まれるんだよ。爺さんの本に書いてなかったのかい」


「うちには、そういう本はないですから」


「まっ、ないだろうな」


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