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三話-1 山奥の街「オーシゥ」

「腹が減っては天下も獲れぬ!」

稀代の悪女・富子と、奥州の覇者・政宗。決して交わるはずのなかった二人の野心家が目を覚ましたのは、剣と魔法の異世界だった!?

豪華な着物と武将の装束という、どう見ても浮きまくりの二人が足を踏み入れたのは、活気に満ちた平和な町。右も左も分からない未知の世界でも、彼らの辞書に「遠慮」の二文字はない。

とりあえずの資金稼ぎにと情報収集を始める二人だったが、そこで耳にした町の名前に、政宗は驚愕することになり——。

朝露の冷たさと、それを相殺するような背中の温もり。

小鳥のさえずりで目を覚ました富子は、自分がまたしても「温かい何か」にすっぽりと包まれていることに気づいた。

見上げると、そこには無防備な寝顔を晒す政宗の顔。そして、彼のたくましい腕が、富子の肩から腰にかけてしっかりと回されている。夜の冷え込みを凌ぐためとはいえ、無意識のうちに互いを湯たんぽ代わりにして抱き合ってしまっていたのだ。

状況を把握した富子の顔が、カッと朱に染まった。

「……っ、この……馬鹿者ぉぉぉっ!!!」

パァァァンッ!!

朝の清々しい空気を切り裂き、必殺の鉄扇が政宗の顔面にクリーンヒットした。

「痛えぇっ!?」

昨日の平手打ちとは次元の違う、容赦のない一撃。政宗の身体は文字通り宙を舞い、ゴロゴロと無様に草むらを転がって数メートル先まで吹っ飛んでいった。

「な、何すんだ朝っぱらから! 寝起きに鉄扇は死ぬだろうが!」

「死ねばよい! なぜ妾たちはまた抱き合っておるのじゃ! 貴様、妾の寝込みを襲おうとしたな!」

「違うわ! そっちが『寒い、寒い』って擦り寄ってきたから抱え込んでやったんじゃねえか! 恩を仇で返しやがって!」

涙目で抗議する独眼竜と、顔を真っ赤にして鉄扇を構える元・幕府の御台所。

殺伐とした戦国や室町の空気を知る者からすれば信じられない光景だが、傍から見ればそれは、血気盛んな若い男女が繰り広げる、ただの騒がしい**「夫婦喧嘩」**にしか見えなかった。

「だいたいお主はデリカシーというものが欠けておる! 少しは妾を敬え!」

「デリカシーってなんだよ! そっちこそ少しは素直に礼を言えねえのか!」

太陽が高く昇り、鬱蒼とした森を抜ける道中も、二人の口論は絶えなかった。

しかし、どれだけ言い争っても不思議と殺し合いには発展しない。互いに口が減らない似た者同士ゆえか、その歩調はしっかりと合っていた。

やがて、木々が開け、視界が一気にひらけた。

「……おい、富子。あれを見ろ」

「む……?」

政宗が指さした先。険しい山々にぐるりと囲まれた盆地の底に、巨大な建造物群が姿を現した。

それは、二人が知る「日の本」の景色とはあまりにもかけ離れていた。

木と土、漆喰で造られた日本の城郭とは違う。天守閣もない。そこにあるのは、切り出した巨大な石を天高く積み上げた、堅牢で武骨なファンタジー世界の城壁だった。

二人は顔を見合わせ、警戒しながらもその城壁の門へと近づいていった。

開け放たれた門をくぐり抜けると、そこには活気あふれる町並みが広がっていた。

石畳の街道と、レンガや石で造られた洋風の家屋。

行き交う人々は、着物やまげではなく、革の鎧や布のマント、見慣れない装束を身に纏っている。

さらには、耳の尖った者や、動物の特徴を持つ亜人たちの姿までが、日常の風景として完全に溶け込んでいた。

市場からは、嗅いだことのない香辛料の匂いと、聞いたことのない異国の言葉(なぜか意味は自然と頭に入ってくる)が飛び交っている。

「……どうやら、夢でも幻でもないようじゃな」

富子は鉄扇を口元に当て、町の喧騒を見渡しながら静かに呟いた。

「ああ、間違いねえ」

政宗もまた、隻眼を細めて異世界の町並みを睨みつけるように見据えた。

「ここは日の本ではない。俺たちが生きて、死んだ世界とはまったく違う場所だ」

確信に変わった異世界への転生。

帰る場所もない、見知らぬ土地。しかし、二人の歩みには微塵の躊躇いもなかった。新たな野望の舞台は、ついにその全貌を現したのである。


(街に入る)


行き交う人々の珍しそうな視線に晒されながらも、二人は堂々と石畳の大通りを歩いていた。とはいえ、いつまでも無計画に彷徨うわけにもいかない。富子は道端で色鮮やかな果物を並べていた、人の良さそうな中年の町人に声をかけた。

「これ、そこの者。少し尋ねたいのじゃが、この町はなんと申す場所じゃ?」

「ん? あんたたち、見ない顔だな。その変わった服……ははぁ、さては田舎から出てきた駆け出しの冒険者かい?」

町人は、二人の若々しい姿と異世界では珍しい和装(豪華な着物と武将の軽装)を見て、勝手にそう合点したようだった。

「駆け出しの冒険者……? まあ、そのようなものじゃ。して、ここは?」

富子が悪びれもせず話を合わせると、町人は胸を張って答えた。

「ここは平和の町、**『オーシゥ』**さ。周りを山に囲まれてて魔物の脅威も少なくてね。あんたたちみたいな初心者にはうってつけの場所だよ」

「……は?」

その名前を聞いた瞬間、隣で腕を組んでいた政宗が素頓狂な声を上げた。

「おい、おっさん。今、なんつった? オーシュウ……?」

「だから、『オーシゥ』だよ。のどかでいい町だろ?」

政宗は顔を引きつらせ、思わず富子と顔を見合わせた。

(オーシゥ……奥州だと!?)

ただの偶然か、それとも自分たちをこの世界に放り込んだ存在の悪趣味な遊び心か。かつて自分が覇を唱え、血の滲むような思いで切り従えた故郷と酷似した響きを持つ名前に、政宗は得体の知れない疑念を抱かずにはいられなかった。

「……どうした、政宗。変な顔をしておるぞ」

「いや……なんでもねえ。ちょっとばかし、タチの悪い冗談を聞かされた気分になっただけだ」

忌々しげに鼻を鳴らす政宗をよそに、町人は親切に言葉を続けた。

「右も左も分からないなら、まずは冒険者ギルドに行きな。この大通りをまっすぐ進んで、噴水広場を右に曲がったところにある大きな建物さ。あそこで登録すれば、今日の宿代や飯代を稼ぐ仕事を紹介してもらえるぜ」

冒険者ギルド: 未知の魔物討伐から町の手伝いまで、様々な仕事を斡旋する機関。

頭の中にすっと入り込んでくる異世界の常識に、富子は納得したように頷いた。

「なるほど、仕事を斡旋する口入屋くにゅうやのようなものじゃな。世話になったぞ」

富子は優雅に微笑み、町人に礼を言うと、固まっている政宗の背中を鉄扇でポンと叩いた。

「行くぞ、独眼竜。お主の故郷に似た名の町で、まずは日銭を稼ぐとしようではないか。腹が減っては天下も獲れぬからの」

「……ケッ、誰が駆け出しの初心者だ。俺は奥州の……いや、天下の覇者になる男だぜ」

悪態をつきながらも、政宗の隻眼にはギラギラとした闘志が戻っていた。

「オーシゥ」という名の平和な町。その中心にそびえる冒険者ギルドへ向かって、天下の悪女と独眼竜は、新たな下剋上の第一歩を力強く踏み出した。

こんにちは、あおさです。

怪我も治ったので、再び筋トレ生活を始めました!

さぁ、今日も追い込むぞ!!

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